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僕、妖狐になっちゃいました 弐  作者: yukke
第壱章 意気自如 ~変わらない椿の意志~
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第弐話

 翌日、僕達は人間界の方の電車に乗って、大阪に向かっています。尻尾や耳は隠さなくても良くなってきているけれど、やっぱりまだそこまで受け入れられてはいないから、隠す必要はあります。驚かれるからね。


「大阪大阪~♪」


 そして香奈恵ちゃんは楽しそうです。


「香奈恵ちゃんってば、生まれ変わる前も大阪に行った事ないんだね」


「そうだよ~それどころじゃ無かったし。お母さんもでしょ?」


「まぁね」


 確かに、僕も大阪に行くのは初めてです。因みに白狐さん黒狐さん、妲己さんは……。


「道頓堀って、あの汚い川に行くなんて……」


「妲己、いつの事を言ってる。今は整備され、綺麗になってきているんだぞ」


 行った事があるようです。妲己さんがブツブツ文句言ってるけれど、確かに道頓堀は綺麗になっていると聞いた事があります。それなら、少し観光がてら楽しんでも良いよね。


「しかしのぉ……人間とはこのように、窮屈な事をしないといけないのか?」


 そして、今僕達が乗ってる電車は満員です。

 つ、潰れる、僕も香奈恵ちゃんも潰れちゃう! 人が押してくる! ちょっと、僕達が見えないの?!


「椿、こっちに引っ付いてろ」


「いや、我に引っ付いてろ椿」


「むきゅぅ……今ここで言い争ってる場合じゃ……香奈恵ちゃんを先に……」


「はぁ……ありがとう、妲己お姉ちゃん」


 香奈恵ちゃんの裏切り者。いつの間にかちゃっかり妲己さんの元に行って、妲己さんが作った人の隙間に入り込んでる!


「ほれ椿、我と黒狐、どっちにす……ん?」


「ぷはっ……はぁ、はぁ、良かった、丁度白狐さんと黒狐さんの間に隙間が出来てた……」


 残念だけど、もう今更どっちを選ぶなんてしませんよ。両方選んじゃったんだから。


「まぁ、しょうがないかの」


「そうだな」


 そう言って、2人で僕の頭を撫でないで下さい。僕はもう子供じゃないですよ。一児の母ですよ、もう。


 それにしても、人間のサラリーマンは大変ですね。毎朝、毎日こんな満員電車に……。


「ぐぉぉ!! ぐがぁあ!!」


 と思ったら、何か凄いイビキが聞こえてきます。何でしょう……もの凄い迷惑です。


「くそっ、何なんだあいつ……」


「最近話題の妖怪って奴か? 迷惑な……」


 えっ、妖怪? あっ、妖気を感じる。嘘でしょう……。


「椿よ……」


「ごめんなさい、今気付きました。ちょっと行ってくる……!」


 これって満員になってる原因は、その妖怪なんじゃ……とにかく、僕は人の隙間を縫って、いびきのする方に向かいます。すると……。


「ぐぉぉおおお!! ぐごがぁあああ!!」


「いぎぎぎ!! ぐがぁぁあ!!」


「うっわぁ……」


 もう、ごめんなさい皆さんとしか言いようがない光景が広がっていました。

 中央付近でいびきをかきながら寝転んでいる、めちゃくちゃ太った女性が数人いたのです。しかもその数人から妖気を感じます。


「あら、寝肥(ねぶとり)じゃない」


 すると、僕と同じようにして隙間を縫ってきた妲己さんと、香奈恵ちゃんが横から顔を出してきました。

 それよりも寝肥って……みたまんまの名称ですね。とにかくこれのせいで、この車両の半分が制圧されちゃってるんです。

 しかも他の車両も満員だったみたいだし、これ一両ずつ寝肥が陣取ってるんじゃ……。


「ちょっと、起きて下さい!」


「ぐぉぉおお!!」


「起き……」


「無駄よ椿。ただの寝ている女性だもの。何やっても起き上がらないわよ」


「へっ?」


 えっ、でも……なんだか妖怪のような名前で。


「これ、ただ寝まくって太り過ぎてる女性が、そう言われ始めて生まれた妖怪なの。危害は加えないわ。強いて言うなら邪魔なだけ」


「……」


「動いてる時は痩せていて見た目が良いけれど、寝ると……ね。ふふ、恐ろしい……って、あっ」


 それなら存分に歩いて下さいよ。


「影の(みさお)、ていっ!!」


 僕はそのまま影の妖術でその女性達を持ち上げると、電車の窓を開けて、そこから外に放り投げました。

 一応妖怪だから死なないし、さっき確認した手配書にも、低級扱いとして載ってましたね。捕まえるも捕まえないも自由ってレベルでね。

 ただ、こうやって人間達の生活の邪魔をするから、手配書に載っているんでしょうね。


「全く、手荒いわね~」


「邪魔になってるんでしたら降りて貰わないと、僕達も大変ですからね!」


「まぁ、それもそうね。手伝うわ」


「お願いします、妲己さん」


 そしてその後、僕達は他の車両の寝肥も電車から降ろして、大阪まで快適に移動する事が出来ました。

 その後人間達に驚かれたり、揉みくちゃにされたりしたけどね……やっぱりまだまだ正体を隠さないといけないみたいです。


 ―― ―― ――


 電車を降りてからは地下鉄に乗り換え、ある駅で降りてから少し歩き、僕達は無事に道頓堀へと到着しました。


「わぁ……人がいっぱい……で、酔いそう」


 人酔いですか? 香奈恵ちゃん。

 確かに多いですね。休日だけあって結構な数の人がいます。それと、外国人の人とかもね。


 ここ道頓堀は、ご存じの通り真ん中に川が流れていて、入り組んだ街並みが広がっています。

 飲み屋もあるし、ショッピングも出来る。因みに風俗もあるから、昼と夜では全然違った顔を見せる街なんです。


 そんな場所に祟りや罪が蔓延するなんて、どんな妖怪の仕業なんでしょうか。


「相変わらず、欲望に塗れた街ね~こういうのは好きだけど、ちょっと濃すぎるから気持ち悪くなるのよね~」


「我にはちょっとキツいぞ、これは……」


「情けないな、白狐よ」


 そういう黒狐さんもちょっとフラついてますよ?

 2人は守り神だし、人の欲とか濁った感情が堪えたりするらしいです。ここはそれが濃い。


「それにしても、昔と比べて濃いわねぇ。これが妖怪の仕業なら、何とかしないといけないわね」


「昔に比べて濃い?」


「そうよ、昔よりもずっとね……」


 それは、時代の移り変わりで濃くなったのでしょうか……それとも他に……確かに道行く人達の顔色が悪いです。

 僕達は道頓堀に架かる橋を渡りながら、辺りの雰囲気を伺います。


「お~お母さん、アレが有名な……」


「あぁ、お菓子会社の看板……なんだけど、何あれ?」


 ちょっと待って下さい、あの有名な、ランニングシャツの男性が万歳している看板なんだけど、その男性の顔から今正に血の涙が?!


 流石に他の人達も気付いたらしく、ざわつき始めてます。


「いかんな……椿よ、あの看板に何かいるか?」


 白狐さんはもう今すぐにでも倒れそう。それってやっぱり、祟りとかそういうやつのせいで、弱っちゃってるんじゃ……。


「白狐さん……ううん、居ません。誰もいないよ」


「それなら、どこかに隠れているんだ。探すんだ……これはかなり濃い祟りだ!」


 そして、白狐さんがかなり強い口調でそう言います。

 やっぱり祟り……それなら、呪いに強い美亜ちゃんを連れて来た方が良かったような。いや、まだ間に合うかな。


「今からでも美亜ちゃんを……」


「いや、美亜では無理だな。これは呪いよりも更に強力だ……」


 だけど、黒狐さんがそう言って止めてきます。

 呪いより強力なのは分かるけれど、呪いみたいなものだから、美亜ちゃんでも何とかなりそうなんだけど……。


「更には祓い返しまで付いている……この祟りを解除しようとすると、その力ごと跳ね返される」


「それって詰んでるんじゃないですか……」


 黒狐さんが更にトドメになるような言葉を言ってきます。

 それじゃあ、この祟りを何とかしようとするなら、その祟っている本人を、その原因である妖怪とかを何とかしないとダメじゃ無いですか!


「しかもじゃ……我等が来るのを待っておったようじゃの!!」


「あ~ら、これはこれは……私達は完全に嵌められたのかしら? センターに依頼がいくことや、このレベルなら私達が来ること、全て計算尽くでやっているとしたら……相当手強いわねぇ」


「えっ……えっ?」


 そう言えば、僕達が祟りの事を考えている間、周りの人達が立ち止まっていて、ずっとぼうっとしていました。

 看板の事や、この淀んだ気持ち悪い空気で、皆具合が悪くなったのかと思ったら、良く見ると目線がおかしな方を見ていました。


 そして、ゆっくりと僕達の方に近付いてきます。まるで誰かに操られているかのようにして……。

 これは罠ですか……? 僕達が来ることを予見して、こんな事を?!


 それからこの周りの人達から黒い妖気が溢れ出してきて、鋭い目つきになると、突然僕達に襲いかかって来ました。

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