第捌話 【2】
僕が壊した球体から、炎に身を包んだ女性が出てきます。
この人が太陽神なんでしょうけど、身に付けているのは踊り子の衣装みたいな、布の面積の少ないものでした。男性なら目のやり場に困りますよ、これ……。
胸は小さいながらもスタイルは良いし、ちょっとでも動いたら色々と見えそうなんですよ。
それでいて、髪の毛は燃える炎みたいに逆立っているから、凄く威圧感があります。
「ありがとう、助けてくれて」
それでも表情は柔やかで、優しそうな雰囲気です。
「いえ、偶然見つけられて――」
「それにしても空亡~! やってくれたわね~!」
前言撤回、めちゃくちゃ怖いです。顔が一気に鬼のような形相になって、僕の話も聞かずに辺りを伺い始めましたよ。
「失礼。太陽神、あなたなら空亡を押さえる事が……」
「押さえるどころか、コテンパンに出来るわよ。少しお仕置きしてやらないとね~でもその為には、新たに得た力、リョウメンスクナだけは引き剥がさないと」
そう言うと、太陽神は僕の方を見てきます。
「えっと……太陽神様?」
「私はソルよ。あなたちょっと来なさい。そこの五次元生命体は、他にやることがあるんでしょう?」
「えぇ、そうですね。惑星ニビルがこちらにやって来ていますからね。仲間に迎撃態勢をとらせています。少し、そちらの指揮に」
「はいはい、行ってらっしゃい。それじゃ、行くわよ」
「待って、待って下さい! ちょっと、僕が置いてけぼりなんですけど!」
色々とんとん拍子で話が進んでいるけれど、僕なにも分かってないからね?! 完全に蚊帳の外だよ!
そもそも、太陽神様がここに封じ込められていたのは、リョウメンスクナの力を手にした、あの空亡にやられたからなのは分かるけれど、球体から脱出できたからって、そんな簡単に倒せるなんて限らないよね。
「ちょっと! 尻尾は掴まないで! あと、その自信はどこから来るんですか!」
「なによ、自信持たなきゃ何も成功しないわよ!」
「それじゃあプランはないんですね?!」
「当然よ!! そ~れ、行くわよ~!!」
すると、太陽神様は僕の尻尾を掴んだまま、足から炎を噴射させ、上空へと飛び上がりました。
そもそも、空亡に似た妖気がいたるところから出ていて、どこに空亡がいるかもハッキリと分からないのに、行き当たりばったりにもほどがありますよ。
それを見て、アクトゥリアンさんは手を振ってるし、安堵の表情浮かべてるし……このままさよならはないよね? ちょっと後でお説教したいので、逃げないで下さいね。
そんな風に僕が見ると、アクトゥリアンさんは更に嬉しそうな表情を浮かべてきました。あっ、これ、このままさよならする気だ。
「アクトゥリアンさん~!!!!」
だけど、そんな僕の叫び声は虚しく周囲に響いただけで、そのまま凄い重力で引っ張られていきました。尻尾が千切れるってば……。
「むむむ! 空間が捻れまくってるね~」
「だから、むやみに飛び回っても――」
「そこだ~!!」
太陽神様が閉じ込められていたのは、このお城の地下だったらしく、僕達は床から飛び出たけれど、結局至る所に扉があったり、廊下が続いていたりしていて、無闇に歩くと迷っちゃいます。
それに、この場所自体が球体の中にいるような状態で、平衡感覚がめちゃくちゃになっちゃいそう。
そう思っていたら、太陽神様がある場所に向かって、思いきり炎の柱を噴き出したから、僕はビックリしちゃいました。いきなりなにをするんですか……。
でもその瞬間、この空間全体にヒビが入り、ガラスの割れる音と同時に僕達のいる場所が掻き消えます。
「なに? 何が起こってるんですか?!」
「ふぅ……この場所の空間をねじ曲げていた張本人、やっといたわ」
「へっ?」
見ると、さっき太陽神様が放った炎の柱の先に部屋が現れ、そこが激しく燃えていました。しかも中でなにか燃えてるけれど……見ない方がいいですね。妖魔みたいな奴が燃えてました。さっきのでついでに倒すなんて、僕の居る意味ある?
相手がダルマみたいな丸い形は分かるけれど、あとはもう燃えちゃってて分からないや。凄い高火力だったよ。
「さて、空亡はこっちね」
そして太陽神様は、廊下みたいな所に出た後着地し、そのまま先へと進んでいきます。するとその先から、良く知った妖気を感じました。
もちろんソル様はそっちへと歩いて進んでいくんだけれど……そろそろ僕の尻尾を離して欲しいです。
「あの、もう僕の尻尾を掴む必要は……」
「ないけれど、ずっと握っていたいほど触り心地が良いのよね~」
太陽神様は、明るくてももっとお淑やかなイメージかと思ったら、太陽に相応しい快活な神様でした。
結局、僕はそのまま尻尾を前に差し出して、太陽神様に握られながら歩いて行きます。
「戦闘音が聞こえるわね。誰か戦っているのかしら?」
「この妖気は、多分白狐さんと黒狐さんです」
2人も昔に比べたら強くなっているけれど、それでも空亡が生み出した特別な妖魔が相手なら、苦戦していそうです。
「ちょっと急がないと」
「その2人が心配?」
「そりゃ……」
「でも、私達の身も心配した方が良いかもね~」
「えっ?」
太陽神様が訳の分からないことを……と思ったら、僕達の後ろから熱気が……ま、まさか。
「さっき燃やしたハズなんだけれど、力尽きなかったなんて……頑丈ね」
「グォオオオオ!!」
「さっきの妖魔!?」
燃えながら丸い球体の妖魔が、僕達の後ろから突進してきていました。このままだと潰される!
「い、急がないと!!」
「やれやれ……しょうがないわね」
「……って、ぎゃあ!!」
飛ぶのは良いけれど、僕の尻尾を掴んだままなんだよ?! 尻尾が……いや、お尻が宙に! 下着見えちゃうってば!
「あ~もう、面倒くさいわね~サクッと空亡を処理したいのに~」
「そんな簡単にはいかないから、作戦がいると思います!」
「作戦なんて……突撃あるのみよ!!」
「特攻は勘弁です! というか、まさか真正面で起こってる戦闘の所まで……」
「突っ込む!!」
この太陽神様、むちゃくちゃすぎます!!
「ぁぁあああ!! ちょっとストップです! 太陽神様!」
「だから、ソルで良いわよ! いっくわよ~!!」
今更それですか?! というか、そんな事を言っている間に、太陽神様は僕の制しも聞かず、真正面のアーチ状の出入口に突っ込んでしまいました。
後ろからは、燃える岩のようになってしまった妖魔が迫っていたし、仕方ないのは仕方ないけれど……。
「な、なんじゃ?!」
「上からなにが?!」
ここもここで緊急事態になっていると思いますよ! 妖魔の妖気をいくつか感じていたから、白狐さんと黒狐さんがピンチになっているのは気付いていました。
だから太陽神様に急ぐようには言ったけれど……後ろから更に妖魔が来るとは思わなかったんです。
「あれは……椿か?!」
「白狐さん、黒狐さん! 大丈夫ですか?!」
だから、一度簡単に作戦を立ててから行こうと思ったの……だって――
「うむ……あまり大丈夫ではない!」
「なにかおかしな奴もいるようだし、更に妖魔が追加されているが、とにかく手を貸してくれ!」
「はい!!」
ここには更に5体の妖魔がいたんです!
しかも、妖気からして空亡が作った特別な妖魔です。白狐さんと黒狐さんはそれに囲まれていて、今まさに襲われようとしていたところでした。
間に合ったけれど、更に一体追加の6体もの妖魔がここに集まってしまいました。
「というか、その炎のような女性は誰だ?!」
「白狐さん黒狐さん! 後で説明するから、まずは妖魔を倒しましょう!」
確かに太陽神様の説明はいるけれど、今はそれよりも妖魔だよね。
ただ、2人ともこっちをジッと見ているんです。彼女が僕の尻尾を掴んでいるからそのせいかもしれないけれど、今は気にしないで欲しいです。
「うはぁ……沢山いるわねぇ。ちょっと君、半分ほど何とかできる?」
「椿です。半分で良いんですか?」
「えぇ、半分で良いわ」
そう言うと、太陽神様は僕の尻尾を離し、黒狐さんに近付いている3体の方に向かっていきます。
ということは、僕は白狐さんの方と……後ろから迫ってきているやつですか? あっ、もしかして……。
「ソルさん逃げたね!」




