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僕、妖狐になっちゃいました 弐  作者: yukke
最終章 永遠無窮 ~いつまでも変わらない妖怪達の存在~
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第肆話

 富士山にある呪いの拡散器を壊し、僕達は数日かけて、京都京北町のおじいちゃんの家に戻ってきました。その間にも色々と復興作業してきて、疲れました。


 だけど、疲れたなんて言ってられません。


「おじいちゃん、ただいま! アクトゥリアンさんは?!」


 先ずはアクトゥリアンさんから状況を聞いて、そこから空亡のいる場所に突入する作戦を――


「いや~中々美味しいお茶ですね~」


「そうじゃろう、そうじゃろう~」


 ――と思っていたら、おじいちゃんと一緒にお茶飲んでました!!

 帰ってきて直ぐにでも、宇宙にいる空亡を倒しに行こうと意気込んでいたけれど、勢い余ってスッ転んじゃいましたよ。地球の危機に何してるんですか?


「ちょっとおじいちゃん、アクトゥリアンさん!」


「おや、早いお帰りですね。私の予想よりも数日早い。当日で呪いの拡散器を潰すとは」


「ふふ~ん、それは私のお陰よ!」


 アクトゥリアンさんの言葉に、咲妃ちゃんが凄く自慢気にしています。いやそれよりも、早く空亡を何とかしないとでしょう。


「2人してなにのんびりしているんですか? 地球の危機でしょう! 妖魔達も凶暴化していて、人々への危険が増しているんでしょう! 早く……」


「落ち着いて下さい。空亡の元まで行く道を、今異空間に作っているんですよ。あと1日~2日かかります。その間に、地球にある呪いの拡散器を壊して貰う予定でしたのに、早すぎですよ。焦りは禁物なんです」


「うぅ……そんなに時間かかるの? それじゃあ、とりあえず呪いを潰せば良いんですよね?」


「そういうことです」


 それならそうと言ってくれたら良いのに。

 何も他の皆に手伝って貰って分散しなくても、僕のこの妖術があれば――


妖狐千分身(ようこせんぶんしん)!」


「ぬっ、お前さん、もうそんな事が出来るようになったのか」


 そうです。僕の尻尾を9本に増やして、その大量の毛を全て僕の分身体にするこの妖術、上手く使えば千人どころか、一万人は増やせます。だけど、とりあえず千人で十分ですね。


 そして、それを見たアクトゥリアンさんが口からお茶を溢しています。あんぐりしちゃっているけれど、無視です無視。


「ちょっ……流石にそれは……」


『行ってきます!!』


 そして、千人になった僕の分身体を世界中に飛ばします。それぞれの呪いの拡散器の所までね。

 美亜ちゃんとか妲己さんとか、白狐さん黒狐さんも、他の皆は世界中に散らばっているんです。でも、最初からこうしておけば良かったよ。


 アクトゥリアンさんに何か策があるのかと思って、この方法に従ったけれど、彼が僕の事を過小評価していたのなら、おあいにく様って所ですね。


「……いや、私は言いましたよね。あなたが主力なのです。あなたにそこまで力を浪費させるわけには――」


 アクトゥリアンさんが何か言っているけれど、別にこれくらいで妖気が劇的に減ることはないよ。

 それよりも、今は僕も体力とか妖気を回復しないとね。なにか食べましょう。


「おじいちゃん、お茶。あと、何かお菓子ある?」


「弾ける饅頭があるぞ」


 そう言って、おじいちゃんがお饅頭を出してきます。これ弾けるから、よく喉に詰まりそうになるよ。


「むむ……また難易度の高いものだね」


「聞いてますか?!」


 それを見ていたアクトゥリアンさんがちょっと慌ていて、見ていて面白いですね。

 確かにあなたの言っていることも一理あるよ。だからこうして本体の僕が休んでいるんですよ。


「本体の僕がこうして休んで、妖気補充しているんです。ちゃんと力の温存は出来てますよ」


「ほ、本当ですか?」


 すると、続いて僕の横に座った玉藻さんが、アクトゥリアンさんに話しかけます。


「妖狐千分身はの、妖狐の分身の中でも究極の分身術じゃ。全てが本体であり、自立し、妖気も切り分けた分以上にそれぞれ補充が可能。更には補充して余った分、術を解除した瞬間にそれが変換される。つまりじゃ、上手く使えば更に力の回復や能力向上が可能なんじゃよ」


「なぁ……そ、そんな力が……流石にそれは計算外です」


 そうでしょうね、そうじゃなければこんな作戦立てずに、僕に全てを任せるでしょう。


「……そうなると、少し作戦を変えましょうか。椿さん、やはりあなたがいれば、作戦の成功率は上がりますね」


 そして、アクトゥリアンさんは僕を見ながら言います。

 ただ、それでも相手は計り知れない程の強敵なんだよ。油断は禁物です。


 僕のお父さんお母さんがいても、勝率はさほど高くないでしょう。


「ほむ……むむぐ、むむぅぐ」


「これ、食べる時に喋るな」


「椿ちゃん、そのお饅頭って食べるの難しいよね?」


 そうそう、忘れていたよ。アクトゥリアンさんが何か考え事をし始めたから、何を考えているのか聞こうと思って声を出したけれど、同時にお饅頭も口に放り込んじゃいました。

 これ弾けるお饅頭だから、口の中に入れた瞬間、唾液の水分を取り込み膨らんで弾けちゃうんです。だからこの場合、少量ずつ食べないと……。


「むむぐ……! ふむぐ! むぅ~!!」


 破裂してとんでもないことになるんです。一度に全部放り込んだから、弾けて僕の口の中が大変なことに。


「椿ちゃん椿ちゃん! ゆっくりゆっくり、ちょっとずつ!」


 頬がパンパンに膨らんで、まるでリスみたいになっちゃった僕を見て、咲妃ちゃんが笑いながらそう指示してきます。

 失敗したときの対策は分かっているけれど、このお饅頭粒あんでした。小豆も破裂して、口の中がヒリヒリするよ。


「むぅ~んぐんぐっ……はっ……はぁ、はぁ……死ぬところだった」


 このままだと大変な事になるので、お茶で一気に流し込みました。お饅頭で窒息するところだったよ……お饅頭怖い。


「ただいま!!」


 するとその時、世界中に飛ばした僕の分身体の一体が帰ってきました。これは予定より早いかな。


「ちょっと! いきなり分身体来てビックリしたんだけど?! しかも拡散器を一瞬で壊さないでくれる?! 私の苦労が台無しじゃないの、椿!」


 その僕の分身体に抱えられて、美亜ちゃんがジタバタしています。

 確か美亜ちゃんは、中国に行ってましたっけ? 日本に近いから呪いの拡散器も強力で、呪術を使う美亜ちゃんに行ってもらってたけれど……その頭に乗ってる鳥はなんでしょう。


「美亜ちゃん、その鳥は?」


「あぁ、太陽に住むと言われている、中国の方の妖怪よ。太陽から追い出されて、母国の中国に帰っていたらしいの。三足烏(さんそくう)火烏(かう)。色んな呼び方があるけれご、こっちでは八咫烏で有名かも知れないわね」


 確かに、足が3本ある烏みたいな妖怪ですね。八咫烏とはまたちょっと違った言い伝えがありそうです。


「ただいま!」


「ただいま!」


「ただいま!」


 すると、その直後から次々と僕の分身体が、世界中に散らばっていた仲間を連れて帰ってきました。


『おぉい! 椿!!』


「椿よ! お主、本体かと思ったらこれは分身体か?!」


「同等の力を持っててビックリしたぞ! まさか、あの分身術を使ったのか!」


 そして、帰ってきた皆はそれぞれ僕に文句を言ってきますね。白狐さんと黒狐さんに至っては、驚き過ぎて呆然としちゃってます。ただ……。


「ちょっと! 離して下さい!」


「僕が連れて帰るって言ったのに!!」


 分身体の僕をお姫様だっこしないでくれませんか?

 勿論、分身体の僕は恥ずかしがって必死に降りようとしているけれど、白狐さんと黒狐さんが離しません。

 分身解除した方が良いかな……分身体の僕とはいえ、何故か見ていてイラッとします。


「とりあえず白狐さん、黒狐さん。僕から離れてくれませんか?」


「んん? 何故だ? 同じ椿であろう? しかも、普通の分身ではないとなると……のぉ」


「そうだな。これなら取り合う必要もない。万事解決、良いじゃないか」


 目を細めて2人を見ても駄目でしたね。僕への好意は嬉しいけれど、それ僕じゃないから。本体こっちだから。それに、そんな事で解決出来ません。何故なら……。


「僕が良くありません。本体の僕に……いや、何でもないです。とにかく分身体は解除して――」


「んっ? なにか言ったの? 僕」


「あっ、そっか。本体の方がいちゃつけないと意味ないですよね~」


「ぬぅっ!! 僕のくせに僕に口答えするんですか?!」


「僕は僕でしょう!」


「同じように僕達だって嫉妬してるんだからね! たまにはこっちでイチャイチャしても良いでしょう!」


「あ~!! 本体の僕を出し抜いて! もう!! 解除!!」


『あっ!!!!』


 分身体の僕がとんでもないことを言いだしたし、何なら白狐さん黒狐さんに付いていた分身体以外までも口出ししてくる始末。収拾がつかなくなりそうだったから、慌てて今家にいる分身体だけ解除して消しました。


 だけど、この分身術ってなんでこんなに感情的になるんだろう。完璧に同じはずなのに。普段の僕はあんなこと言わないです。


「椿。因みにじゃが、あの分身の欠点は、心のタガが外れやすいという事じゃ」


「……えっ?」


「つまりじゃ、本来の椿はあんな感じという事じゃ。可愛いの」


 僕の横で玉藻さんがそう言ってきました。あの妖術に、そんな欠点があるなんて。というか、良く考えたら僕ってば、自分自身に嫉妬しちゃってた。何やってるんでしょう……。


「ふっ、相変わらずういやつじゃ」


「これが終わったらタップリと抱いてやらないとな」


「くっ……し、知りません!!」


 何だか無性に恥ずかしくなったから、僕は一旦空いてる部屋に行って、頭を冷やしてきます。そうじゃないと、しばらく白狐さん黒狐さんと顔を合わせられないです。


 そしてもう一つ気が付いたのが。


「あらあら、まだまだ新婚みたいね~」


「俺達も負けてないだろう?」


 僕のお父さんとお母さんも戻っていたんでした。恥ずかしいところを全部見られていたよ……。

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