第壱話
空亡が完全に力を取り戻し、太陽を黒く禍々しい巨城に変えてから、数日が経ちました。
地震は頻繁に起こり、巨大な台風も軒並みやって来ています。それが日本だけじゃなく、世界中にです。
日本の終わりだけじゃなく、世界の終わりまで近付いています。たった数日で、世界の人口の3分の1が亡くなりましたから。
「…………事態は最悪の状況じゃ」
そして今僕達は、気温の格段に下がった日本で、いつもの鞍馬天狗のおじいちゃんの家で、空亡の討伐の話し合いをしています。それにしても寒いです。
一気に気温が下がっているし、発電所も軒並み壊れていって、電気も使えないんです。
それと最悪な事に、日本には沢山の原子力発電所があるんだけれど、それが全て崩壊して放射能が漏れ出しまくっているんです。日本は完全に、死んだ土地になってしまいました。
僕達妖怪や半妖達は、人間とは違って妖気である程度は防げるけれど、それでも限界はあります。浄化はしないといけません。
それの目処は立っているけれど、何より空亡が居る以上、現地時点で浄化は不可能なんです。
と、ここまではこの数日で話し合った事なんです。
「おじいちゃん、結局空亡を倒さないといけないなら、今すぐにでも……」
「宇宙へどうやって行くんじゃ」
「あぅ……」
そしてここに来てまさかの、SF展開です。おかしいな……宇宙とか僕達考えていなかったのに。何でこんな事に?
「そもそもじゃ、椿よ。太陽へ行くなど、我々妖怪でも不可能じゃ」
「太陽に住む妖怪って、中国にいませんでしたっけ?」
『…………』
全員一斉に黙らないで下さい。
どっちにしてもその妖怪も、空亡に飲み込まれていると思います。手先になっちゃってるだろうね。
「椿ちゃん……神通力でどうにか出来ないの?」
「里子ちゃん。例え万能とはいえ、使う側の体に限界があれば、出来ることは限られてくるんだよ。そもそも太陽までどれだけの距離があるの? そこまで僕の体力と妖気が持ちません」
「うむむむ……手詰まりか……」
宇宙船なんて出来っこない。僕の神通力でも駄目なら、陰陽術なんてもっての外。咲妃ちゃん達は部屋の端っこで小さくなっています。
自分達が油断せずに守っていれば、こんな事にはならなかったのに……なんて言いたそうな顔をしていますね。
結局、あの最強陰陽師と呼ばれた4人も、空亡が力を取り戻し、あんな城を作って立ち去った瞬間、土塊になって崩れてしまいました。
体はとっくに空亡に弄られていたようです。そして用済みになって捨てられた。1番哀れです。
それにしても、どうしたらいいのでしょう。
「伸びてる雷獣を叩き起こして、昔持っていたあの最強兵器のお城でも作らせる?」
「美亜ちゃん。それで大気圏が突破出来ますか?」
「精度によっては……って、難しいかしらね……」
「ここは自分が忍術でびゅーんと!」
「楓ちゃんは黙ってて」
「ぶぎゅる……!」
皆各々意見は出しているけれど、あまり良い案が出て来ません。
楓ちゃんは論外なので、僕の尻尾で押さえつけておきます。その後モフモフされそうだけど、そうなったら影の妖術で押さえておきます。
「より暗くなる一方ね……」
作戦会議をする僕達を見ながら、雪ちゃんがそう言います。
確かに、話し合えば話し合うほど暗くなっていきますよ。どうしようもないってやつです。
だけどその時、暗くなっている僕達にとっては耳障りな音が聞こえてきます。ギターをかき鳴らす音、これはまさか……!
「ヘーイ!! アウトロー!!!! 辛気くさい顔して、どうしたらばっ!!」
今そんな気分じゃないんですよね、飯綱さん。
演奏しながら僕達のいる部屋に侵入してこようとしたから、思い切り扉を閉めて上げました。外で思い切りぶつかった音と、情けない声が聞こえたけど、気にしない気にしない。
「いたたた……分かった分かった。騒がない騒がない。それより良いのか? あんた達にとっては朗報でもあるんだぞ? 空亡と対峙する方法があるかも知れないんだ」
『何だって!!!!』
だけど、真っ赤になった鼻を手で押さえながら、閉められた扉を開け、飯綱さんがそう言ってきました。
もちろん、飯綱さんの言葉に皆は驚き、一斉にそっちに顔を向けて食いついています。僕だって同じだけどね。
飯綱さんは、たまにとんでもない情報を持ってくるけれど、いったいそれはどこから持ってきているんでしょう。
気になる……けれど、今は空亡を倒せる方法を探さないといけないから、飯綱さんの事は後です。
「続く震災で、世界中が、人類が疲弊していき、滅びるかも知れない。そんな中、ある存在が動き出したんだぜ」
「何ですか……それは。神様、とかですか?」
「ある意味それに近いかもな~そもそも、空亡が戦おうとしている存在も、人類を助けようとしている存在も、人間やら私達からしたら、同じような分類かも知れないね」
焦れったいですね。いったいそれは何なんですか? いや、何だか嫌な予感はします。
空亡は確かに、何かと戦おうとしていました。それは、僕達の住む星を犠牲にしてまでしないと、勝てない相手なのかも知れない。
そう考えると、答えは1つしか出て来ないんだってば。
「飯綱さん。まさか、宇宙人なんて言わないで下さいね?」
「ん~惜しい! 五次元生命体だ!」
「もっと分からない!!」
ファンタジー吹っ飛んでSFだよ、これ! いったい何を考えているんですか、飯綱さんは。
「飯綱さん、ちょっと真面目に……」
「良いや、大真面目さ。地球を悪い奴等から守っている存在がいるのさ」
『…………』
飯綱さんが本当に真剣な顔をしています。嘘でしょう……本当にそんなのが居て……。
皆も言葉を失って呆然としちゃってます。無理ないですよ。僕だって、思考が付いてこないですから。
「飯綱さん飯綱さん……とりあえず頭大丈夫ですか?」
「アウトロー!! 大丈夫に決まっているだろう! 私は常に、非常識を突き詰めるのさ! そして見つけた究極のアウトロー!! それこそこの星以外の生命体との接触!」
どうしよう……飯綱さんが危ない妖怪さんになってきました。どこか変な宗教か、オカルト集団にでも毒されたんでしょうか?
「え~い! 説明するよりも見て納得するんだ! カモン! アクトゥリアン!!」
「はい、こんにちは」
『何かいる~!!!!!!』
僕達の背後に、青くて細いグレイ型宇宙人に似た人が居たぁぁあ!! 本当に宇宙人ですか?! 居たんだ! 本当に!
もう皆ビックリして、一斉に叫び声を上げてしまったよ。
そして、突然のその存在の登場で、皆部屋の端まで飛び退いてしまいました。
「あぁ、すいません。驚かせるつもりはなかったのですが。多分どんな登場をしても驚くと思いまして」
そりゃね、細長い有名な宇宙人の姿だし、真っ青だし。だけど、目は人の目に近いような、グレイ型宇宙人の大きな目に似ているから、そうでもないような……そんな微妙な所なんですよね。
それと額には、良く分からないおかしな輝き方をするサークレットを付けていて、指は3本だけ。
服装も、僕達では分からない素材で作られているのか、変に鮮やかな色を……していると思ったらいきなりくすんだ色になっているし、なんですかその服は……。
「どうだ? 信じただろ?」
「いや、というか飯綱よ、お主はなんてものを招待しとるんじゃ! それとこれと、どう空亡と関係して……!」
「それですが、あの太陽を変貌させた妖怪……ですか? あの生命体は、どうやら我々が厄介視している、ある敵対勢力の五次元生命体に、戦いを挑もうとしているようです」
『敵対勢力?!』
その宇宙人の言葉に、皆が口を揃えてそう言います。
そもそもこの展開は僕も予想外だったから、思考が追い着いていません。
いったいこれからどうなるんでしょう……。




