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僕、妖狐になっちゃいました 弐  作者: yukke
第陸章 泰山圧卵 ~激戦の中の勝敗~
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第拾弐話 【1】

 空亡は僕のお父さんとお母さんが止めてくれているけれど、いつまで持つかはわからない。

 だから、物部天獄の方を早く何とかしないといけない……んだけれど……。


「あかかか……!! あ……かかか!! 滅ぼす滅ぼす。日本滅ぼべし!!」


 言葉遣いがおかしくなってきているの。「滅ぼべし」ってなに? また力に飲まれてしまったみたいだね。

 完璧に扱えるようになっていないのに、空亡にジワジワ追い詰められていたのか、僕の前に……いや、僕の領域を壊そうとした。


 焦っていたんだとしたら、これは完全に失策だよ。当の雷獣さんはずっと気絶していて、センターの妖怪さん達の手で捕まっているしね。


 そして気が付いたら、この辺り一帯に沢山の妖怪達も集まっている。妖狐も沢山います。


 それなら、人間達を守るのも出来そうだし、香奈恵ちゃんや飛君も守れそうですね。


「さて……物部天獄。聞こえてますか?」


「あかかか……!!」


「おっと!」


 そして僕は、目の前の怪獣となった物部天獄に、御剱を突き付けて言ってみたけれど、完全に僕の言葉は耳に入っていない。大きな手と太い腕を使って、僕を地面に叩きつけようとしてきます。

 それは避けたけれど、今度は妖気を使った衝撃破のようなものを放ってきました。


「術式吸収!」


 ただ、そういうのは僕には効かないんです。


「強化解放!」


 そしてさっきの相手の攻撃を、倍にして返します。


「あかっ……!!!!」


 当然相手よりも威力を上げて返しているんだから、防ぎようがありません。というか、大きいから避ける事も出来ないよね。跳ね返された自分の攻撃に吹き飛ばされて、後ろに倒れています。

 もちろんグラウンドにです。そうじゃないと建物が潰れちゃいますからね。


 ただ学校のグラウンドでもギリギリだったから……場所、変えた方が良いかな……。


 僕がそう思っていたら、なんと突然地面から樹木が沢山生えてきちゃいました。禍々しい形をしているから、これはきっと美亜ちゃんの呪術ですね。


 他に被害がいかないようにしてくれて、尚かつ物部天獄の動きまで封じようとしてくれているよ。


「椿! とっととやっちゃいなさい! 正直、これでも抑えられるかどうか微妙なんだから!」


「ありがとう! 美亜ちゃん!」


 物部天獄は今丁度倒れていて、そこに美亜ちゃんの呪術で動きを封じているから、このまま空亡の力を消してしまえば……。


「あかかかか!! させん……日本、滅ぉべし!!」


 だけど、倒れた物部天獄は思い切り両腕に力を入れ始め、更にもう一つの頭から妖気の波動を放ってきます。


「うわっ! ちょっ……近付けない!」


 もう一つの顔も封じるべきでした。


「かぁぁぁあああ!!」


 そして物部天獄は、咆哮と共に体に巻き付いた樹木を引きちぎり、上体を起こす……と同時に僕を殴ってきます。


「ぐっ……!!!!」


 咄嗟の事で避けられなかったけれど、防ぐことは出来ました。ただ、僕はどこまで飛ぶんでしょう? 学校の敷地を越えちゃったよ。


「……もう、飛びすぎ!」


 体勢を立て直して何とか停止したけれど、あの一撃でここまで飛んじゃうなんて……。

 それに、そろそろ決着を着けないと……この暴風雨の中で戦うのはキツすぎます。それと、住民の人達にまで甚大な被害が出るよ。


 天照大神様とか、他の神様達が止めてくれたら良いのにと思ったけれど、そもそも強力な呪いだから、神様でも止めるのが難しいのかも知れないね。


「早くしないと……皆もこれ以上、この状態で戦うのはキツいはず」


 そして僕は、学校まで戻ろうとそっちに向かって飛ぼうとするけれど、目の前からの突風に体を煽られて、中々前に進みません。神通力を使って全力で飛んでるのに……自然の驚異は恐るべきです。


 しかも、この暴風雨だけじゃない天災まで発生しました。


「この地鳴り……まさか……!!」


 僕は耳が良いので、地面の下からくるソレにいち早く気付いたんです。気付いたけれど、どうしようもない……。


 そして絶望する僕を余所に、それは人々に牙を向きました。


 地面が縦に跳ね上がり、そして大きな横揺れが発生します。そう、大地震です。


 激しい揺れは続き、建物を次々と破壊していく。たった一瞬で、僕の目の前は地獄絵図へと変わっていく。


 空を飛んでいる僕は揺れの影響は受けないけれど、下にいる人達が、妖怪さん達も、更には香奈恵ちゃんと飛君も危ない。何とかしないと……。


「……くっ! お父さん、お母さん!」


 ようやく元の場所に戻れた僕は、皆の状態を確認して、危ないことを悟りました。

 そして、空亡を押さえているお父さんお母さんに向かって叫ぶけれど、そもそも2人とも空亡を押さえるのに必死でした。ちょっと慌ててしまっています。


「大丈夫よ! 椿ちゃん!」


 そんな時、下から誰かの叫び声が聞こえてきます。


「わら子ちゃん?!」


 地震で揺れて、バランスが取りにくくなっている中で、わら子ちゃんは扇子を広げて舞いを舞っていました。

 幸運の気をこの辺り一帯に撒いて、少なくともここに集まっている妖怪さんと、その近くで逃げている半妖さん達の幸運を上げてくれていました。


 それで何とか助かるかも知れないけれど、でも……人間達は……。


「でもごめんなさい、椿ちゃん。この地震範囲が広すぎて、全部はカバー出来ないよ!」


「わら子ちゃん、無理はしないで!」


 息が上がっているし、相当妖気を込めているみたいです。それ以上やると、今度はわら子ちゃんが消滅しちゃうよ。


 それにしてもこの地震、止まる気配がないよ! いつまで続くの?!


「あかかか!! 来た……来た! 我が呪い! これで日本は滅ぶ!!」


「くっ……! 物部天獄! いったいどうやったら、こんなに地震が続くんですか!」


 もう建物はあらかた倒壊していて、ビルも次々と倒れ……人々が巻き込まれて、もう何人も……お願い、もう止まって。なんで止まらないんですか!


「あかかかか!! 日本にあるエネルギーが溜まっている断層、その全てが一気に暴発したのさ! かかかか!!」


 そんな……とういう事は、南海トラフに、京都を縦に走っている花折断層まで同時に……そんなことをしたら、日本にある危険な断層にまで全部誘発して、日本全体が……。


「ほほふ……中々やりおるの」


「くっ……最悪の展開か!」


「流石に倒すのに時間がかかりすぎたわ……こっちもね。だから、空亡! あなただけは今ここで……!!」


「ほほふ、無駄じゃ。妾はこの時を待っておったのじゃ。さぁ……て」


 更にお父さんお母さんの声と、空亡の興奮を抑えきれない声が聞こえてきます。これ以上、何をするというんですか……空亡。


 もう日本は……いや、まだです。僕達が諦めたら駄目です。残った戦力で、物部天獄と空亡を倒さないと! 僕1人だけでも……!


 そして僕は、日本の惨状を嬉しそうな表情で見ている物部天獄を睨みつけ、御剱を握り締めます。


 今なら、やれる。


「椿!」


「椿よ!」


 すると、そんな僕の横に、白狐さんと黒狐さんがやって来ました。やっと意識を取り戻したみたいです。

 というか、こんな地震が発生して起きない方がおかしいですよ。空亡にやられ、お父さんお母さんに助けられたあとも、ずっと意識を失っていたから仕方ないけれどね。


「すまん。不甲斐なかった……」


「丁度妲己の奴も来たようだから、ここから反撃といくか!」


「……はい!!」


 確かに、直ぐ近くまで妲己さんの妖気がやって来ています。妲己さんも今まで何やっていたかは分からないけれど、これだけ戦力があれば、物部天獄くらいは……。


 あっ、もう一つ巨大な妖気が……これは、玉藻さんだ!


「椿! 悪かったわ、時間がかかっちゃって」


「妲己さん! 玉藻さん!」


「すまんの、暴風雨が発生してから、人々の避難を優先しておったのじゃ」


 申し訳なさそうにそう言ってくる玉藻さんだけど、そう言えば玉藻さんって、空亡の話し方と似ています。ややこしいですね……。


 でも、人々の避難をしていてくれて助かりました。


「しかしじゃ、こんな地震まで発生しては、どうにも出来ん。海からの巨大な津波も来とるからの。それは他の妖怪達に任せたから、私達は呪いの元を断たんとな!」


 海から津波まで……そうでした、こんな大きな地震が起きていたら、巨大な津波も……。


「な~んか、さっき見てきたけれど、活火山もヤバそうなのよね~本当、日本の終わりって感じよ」


 そして、玉藻さんに続いて妲己さんもそう言ってきます。

 地震の震動で、活火山にまで影響を与えるなんて……でも、確かに今も地震は続いています。正確には、地震が発生して止まり、また発生して止まりって感じなんです。


 このままじゃあ、本当に日本が崩壊します。


「そうならないように、僕達が止めますよ!」


「分かってるわよ~日本が滅んじゃ、私も困るからね」


「流石に生活出来ないのはマズいのじゃ」


「よし、止めるぞ、椿よ!」


「他の妖狐達もいる。俺達なら止められるぞ!」


 僕の言葉に皆が続きます。そして全員が、物部天獄を目の前に捉え、各々構えを取っていきます。


 だけど、僕はその物部天獄を見て、あることに気付きました。

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