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僕、妖狐になっちゃいました 弐  作者: yukke
第陸章 泰山圧卵 ~激戦の中の勝敗~
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第肆話 【2】

 空を飛ばれるとは思わなかったけれど、僕も空を飛べるから問題ないです。ただ、楓ちゃんが下にいられると、妖魔に襲われたりしそうなんだよね。


「あいつを何とか出来そうなのか?」


 すると、空を飛ぶ夜行さんをジッと見ている僕に向かって、スイトンさんがそう言ってきます。


「んっ、そうですね……僕も空は飛べるけれど、楓ちゃんが……」


「大丈夫っす! 自分の身くらい自分で――」


「いや、さっき妖魔は無理って言ってたじゃん」


「姉さん、自分を抱えて空まで……」


「戦いづらいから嫌」


「酷いっす!!」


 こんな感じで楓ちゃんが心配だし、一緒に連れて行ったら余計な事されそうだしで、どうしたら良いのか考えているんです。

 その間にも妖魔は襲ってくるし、夜行さんも、上から風の塊みたいなものを放ってくるし。あれは絶対に夜行さんの能力じゃないです。それを対処しながら、僕はどうしようかと考えています。


「ふん、大丈夫だ。行って来い。この狸くらい面倒見れるわい」


 するとそんな僕に、スイトンさんが素晴らしい提案をしてきました。僕としても、それくらいしか手はないと思っていたので、この提案はありがたいです。


 僕からじゃなく、スイトンさんから提案してくれたら……例え楓ちゃんが足を引っ張っても、僕は安心して任せられるよ。だって、スイトンさん自身がそう言ったんだから。提案した責任は、スイトンさんにあるよね。


「ほら、早く行け。あの状態の奴に対処出来るのは、この場ではお前くらいだ」


「えっ? あっ、はい! それじゃあ宜しくお願いします!」


 しかも急かされましたよ。それなら、もう遠慮なく任せちゃっても良いよね。

 そして、僕は地面を強く蹴って飛び上がり、夜行さんが飛んでいる高さまで浮遊します。


「よ~し! 行くっすよ~!!」


「おぉい! 待たんか! 妖魔は無理と言ってなかったか?!」


「無理っすけれど、ここは格好いい所を見せて、姉さんを驚かせたいんっすよ!!」


「そう言いつつ呆気なく捕まるな~!!」


「うわぁぁぁあ!! 助けて下さいっす!」


 下から既に叫び声が聞こえているし、何だか地獄みたいなことになっているけれど、スイトンさんなら大丈夫だよね。結構強いし。


 さて……僕は僕で、目の前の夜行さんを何とかしないとね。


「ほぉ、ここまで来るか」


「まぁね。それよりも、その馬、本当にあなたのですか?」


「おかしな事を……これは私の馬だ」


「あなたの馬は、首がないんじゃなかったんでしたっけ?」


 そう、夜行さんの乗る馬は、首がありません。だけど、この馬は首があります。それと、ちょっとずつ小さくなっていってる気もするんです。


「……何? 首が……いや、確かに無いような……あったような……んん?」


「記憶が混在しているんですか?」


「お、おかしい……そもそも私はどこに……」


 夜行さんが頭を抑え、必死に何かを思い出そうとしています。そこで僕は、あるものを目にしました。

 夜行さんの首元に、何かネックレスのようなものがあったんです。そこから僅かだけれど、異様な妖気を感じました。


 そしてそれは、夜行さんの乗っている馬にもありました。


「夜行さん。その首元のネックレスは何ですか?」


「ネックレス……? 何だこれは……知らん、こんな物は」


 どうやら見覚えがないようです。となると、誰かに付けられた?

 するとその瞬間、夜行さんの乗っている馬の目が真っ赤に光り出し、そして僕に向かって来ました。


「うわっと!!」


 咄嗟に横に避けたけれど、僕を転ばそうとしてきたね。


「くっ……あぁ、そうだ。そうか、私はただ……道行く奴等を転ばせておけば……!!」


「ヒヒ~ン!!」


 そして同時に、夜行さんの目が正気じゃなくなりました。もう僕の言葉なんて届かないかも……。


「夜行さん、僕の言葉は――」


「蹴り飛ばせ!」


「――聞こえてませんね。影の操!」


 僕の言葉を無視して、思い切り突撃してきました。仕方ないから、影の妖術で馬を固定して――


「ヒヒ~ン!!」


 ――と思ったら、僕の影の妖術が弾かれた?! どういう事? 何か結界みたいなもので弾かれた感じがしたよ。


「くっ、御剱!」


 そこで僕は、急いで巾着袋から御剱を取り出し、夜行さんの馬の蹴りを防ぐけれど、もの凄い衝撃で腕が折れそうになっちゃいました。

 でも、直ぐに相手の横に回り込みます。とにかく、何とか動きを止めないと……。


神風の鉄槌(しんぷうのてっつい)!」


 そして、僕は夜行さんの乗っている馬に向かって、神通力を混ぜた風の塊をぶつけてみます。


「ヒヒ~ン!!」


 だけど、この馬はその風を逆に操り、更に高く舞い上がっちゃいました。やっぱりこれは、風を操る馬……ですか。確か、そんな馬の妖怪がいたような……。


「くたばれぇぇえ!!」


「ちょっと、夜行さんは静かにしていて下さい」


「ふむぐっ!!」


 そのまま、夜行さんが上から叫び声を上げて向かって来たから、咄嗟に影の妖術で夜行さんの口を抑え、そして僕は、突撃してくる馬から身を交わして距離を取ります。


「馬さん、あなたは喋れますか?」


「ぶるるる……!!」


 喋れないのは分かっていたけれど、一応確認はしてみました。気が立っているのか、鼻息を荒くして、僕を睨みつけています。やっぱり、何だか操られていますね……夜行さんもだけど。


 とりあえず、馬と夜行さんを離さないと。それで何とか出来るかも知れない。


「私の馬……返して」


 すると突然、僕の後ろから女の子の声が聞こえてきました。


「誰?!」


 慌てて後ろを向くと、そこには小さな女の子が、ある馬の背中の上に立っていました。


 首がない馬……まさかこれ、夜行さんの馬?!


「君は……誰?」


「私は馬魔(ぎば)。私の馬返して! 盗人!」


「ぶわっ! ぼ、僕?! 僕じゃないよ!」


 そう叫ぶと、その女の子は僕に向かって、逆巻く風をぶつけてきました。思い出しました。この緋色の着物に、金の頭飾りを付けた女の子も、れっきとした妖怪です。


 馬魔は小さな女の子と子馬の妖怪で、馬を怖がらせ、脚を絡ませて転ばせる。結構恐ろしい妖怪です。頽馬(たいば)という風の妖怪と同一視されている妖怪ですね。


「それじゃあ、何であいつに乗せてるの! 操ってるの! あいつの馬とすり替わってるのよ! あんたでしょう!」


「僕じゃないってば! 僕はあの妖怪を倒そうとして……」


「倒す? 倒すの……?」


 あっ、しまった……怒っちゃってるかも……。


「ここらで悪さをしていたから……さ」


「それは私の指示じゃないわよ。操ってるあんたの仕業でしょう!」


「僕じゃないってば!」


 このままだと埒があかないよ。それに、夜行さんだってジッとは……。


「危ない!!」


「きゃっ!! ちょっと……! 私が分からないの?!」


 すると、言い争う僕達に向かって、夜行さんを乗せたその馬が突撃してきて、その女の子と一緒に、僕を蹴り飛ばそうとしてきました。

 女の子を馬ごと突き飛ばして何とかなったけれど、僕の方は、避ける時にちょっと背中を掠めちゃったよ。


「あぁ……子馬じゃなくなってる。性質が変わってる……何したのよ、あんた!」


「だから僕じゃないってば!」


 説得しているのに、さっきからずっと僕のせいにしちゃってるよ。とにかく、何者かがこの子の馬と、夜行さんの馬を取り替えたんだ。だとしたら、その何者かを探し当てないと。


「信じられないわ」


「信じてよ! というか、操っておいて襲われているの、おかしくない?!」


「……た、確かに」


 やっと落ち着いてくれたかな? どうやら頭に血が上っていて、冷静さを欠いていたみたいですね。

 その女の子は僕の言葉にハッとなり、俯いて考え込みました。


「それじゃあ……いったい誰が取り替えて……」


「うん、だから、その相手を見つけないと」


 その前に、夜行さんと君の馬を抑えないと、暴れたままでは犯人捜しは出来ないよ。


「分かった。指示、止まりなさい」


 すると、女の子は突然指を鳴らし、夜行さんを乗せた馬にそう指示をします。


「嘘……」


 その瞬間、その馬は大人しくなりました。それなら最初から止めてよ。


「あなたが犯人じゃないなら、このまま暴れさせても意味ないわね」


「ついでに僕を退治する気だったの?」


「その通り」


 この子、結構危険な妖怪でした。

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