足音を立てる夢幻
高校二年の夏。俺は一人の少女と恋人になった。
色々なところへ二人で遊びに行った。
デートというやつだ。
それなりに楽しい時間を過ごしていた。
彼女の家に遊びに行った。
彼女の両親は、彼女の家柄もあって厳しそうな人物かと思っていたが、そんなことはなくとても優しい両親だった。
彼女は頭が良かった。特別頭が良いというわけではなかった俺は、彼女から勉強を教わることにした。
彼女のおかげで俺の成績はみるみるうちの伸びていき、学年でも上位に入れるようになっていった。
彼女と話した。進路のことだ。二人とも進学を希望していた。
しかし、彼女と俺とではレベルが違う。
ならば同じ大学に入れるように努力をしよう。高校三年生の一年間は今よりもっと努力をしよう。彼女とずっと一緒に居ることができるように。
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高校二年の秋。俺は一人の少女と恋人になった。
所謂、幼馴染というやつだ。
彼女とは小学生の時からの付き合いだ。
まるで本物の家族のように仲が良かった。
俺が彼女の兄であり弟でもある。逆に彼女は俺の姉であり妹でもあるような
そんな兄妹(姉弟)のような関係だった。
彼女から好きだと言われた時は正直驚いた。
それもそうだ。今まで家族のように接していた人物からいきなり好きだと言われたら驚いてしまう。
俺はその時一度逃げ出した。どう返事すれば良いのか分からなかったからだ。
そのせいで彼女を泣かせてしまった。
後日、俺は彼女の家を訪ねた。彼女の目は赤く腫れていた。
家の扉を閉めようとする彼女の手を取り、無理やり彼女を抱きしめた。
そして自分の気持ちを伝えた。
彼女はまた泣きながら。ありがとうと言ってくれた。
ただその光景を見られていて、近所で噂になってしまったのは痛恨のミスだったと反省しているが後悔はしていない。
彼女も俺も勉強は普通にできる程度の成績だった。
高校卒業後の進学なんてまだ決めていない。恐らく、二人で適当に入れそうな大学を見繕ってそこを受験することになるだろう。なあに、死ぬ気で頑張れば何とかなるさ。
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高校二年の夏。おかしな少女と出会った。
確か一年の時は別のクラスだったはずだ。
眼鏡をかけていてツインテールと、ちょこんと飛び跳ねた髪の毛が特徴的な少女だった。
普段は大人しく二、三人のグループで行動していることが多い。
それまで特に話したことはないが、彼女らの会話を一度だけ聞いたことがある。
とても上品な言葉遣いが印象的だった。
だった。あれは猫を被っていたと言うべきか。
恐らく、ファーストコンタクトは最悪だっただろう。
七月の半ば、もうすぐ夏休みという時に彼女と初めて会話をした。
・・・あれは会話というか罵倒されたに近いかもしれない。
放課後、教室に忘れ物を取りに来た時だった。彼女も何か忘れ物をしたのだろう。教室で何かを探していた。
特に彼女と関わりが無かったのもあり、自分の忘れ物を確保し教室を後にする・・・はずだった。
ふわりと、足元に一枚の紙が落ちてきた。彼女がいた方向からだ。
落し物を持ち主に返す。これは当たり前のことだ。
その紙を手に取り彼女に渡すそうと思ったが、俺はその紙に描かれていたものを見てしまった。
言葉では表現しづらいが・・・まあ、男と男がイチャイチャしていた漫画だった。
俺が固まっていると、彼女がこちらを振り向いた。
目があった。そして彼女は俺が手にしているものがなんなのか即座に気付いたのだろう。そこから先は彼女の照れ隠しなのか、色々と暴言を吐かれた気がする。
その出来事の後から、時折彼女のその漫画を手伝うことになった。曰く「誰かに協力してほしいけど学校の友達にはこの趣味を内緒にしていたい。」だそうだ。
来年もまた、彼女の趣味に付き合わされることになるのだろう。
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高校二年の春だった。
生徒会長様に目をつけられてしまった。俺自身、学外でなにか問題を起こしたとか、遅刻が多いとか、そんな問題は一切なかった筈である。なのに目をつけられてしまった。目とつけられたというか、目の敵ににされてしまったという方がしっくりくる。
会長が俺に言った言葉はただ一つ。
「これ以上私たちの一年間を壊さないでくれ」
ぶっちゃけ意味がわからなかった。ただ俺が傷ついただけである。
後日また会長がやってきた。俺は何もしていないのに今度は何を言われるのやらと思ったが今回は別に文句を言いに来たわけではないらしい。
むしろ前回の謝罪のようなものだった。
以降会長には色々とお世話になった。勉強や進路のことで相談に乗ってもらうこともあった。
鬼の形相で文句を言ってきた最初のころとはまるで別人である。
会長と過ごす日々の中で、俺は会長がいかにこの学校を大切に想っているかを理解した。
会長のこの学校への想いを理解しているのは俺だけだ。他の奴には任せられない。彼女の後を継いで俺は生徒会長になった。
彼女は今年で卒業だ。
来年からは、俺リーダーとなりこの学校をより良くしていこう。
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高校二年の春。一人の少女が俺を訪ねてきた。
一つ下の女の子で、ふわふわした雰囲気の少女だった。
彼女は近所に住む女の子で小学校の時にはよく一緒に遊んでいた。
俺にとっては妹のような存在だった。
訪ねてきたからには何か用事があるのかと思ったが「なんでもない」と俯いて帰ってしまうような子だった。
しかしある日彼女は言った。「今日、一緒に帰りませんか?」
構わないよ。と即答すると「ありがとうお兄ちゃん」と言い教室を後にする。
やれやれ、未だにお兄ちゃんと呼ばれるとは思っていなかったよ。
その日から俺と彼女はよく一緒に帰るようになった。
帰りに色々なお店に寄ったりすることもあった。映画を見に行くこともあった。雨の日に彼女が傘を忘れてしまったときは、一つの傘を二人で使ったこともあった。文化祭の準備などで帰りが遅れた日には、彼女が「怖いから手を繋いでほしい」と頼んでくることもあった。
そんな彼女も来月からで高校二年生。俺は高校三年生だ。
なんとか自立してほしいものである。
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ピピピと携帯が音を鳴らす。
メッセージが届いたということを知らせる着信音だ。
朝霧ハルキはその音を聞いて目を覚ます。
「やっべえ、今何時だ?」
慌てて時計を見るが時刻は十三時を回っていた。
やってしまった。
せっかくの成人式を寝過ごしてしまった。
「はーーー。やっちゃったぁ。しかしまぁ」
先ほど見ていた夢を思い出す。
「またあの夢か」
高校二年の一年間を、別々の少女と過ごした夢。
当然、ハルキにはそのような記憶はない。
頭の悪い夢だと思う。
彼の高校生活はさほど悪いものではなかった。
しかしあの夢のように少女たちと過ごしたような記憶はない。
あのような夢を見てしまう理由を感がえていても仕方がない、と思考を切り替える。
そういえば先ほど携帯にメッセージが届いていたきがする。
「うわ、メッセージ何件もきてる・・・こないよりかはマシなんだろうけど・・・」
メッセージの内容は、そのほとんどが何故成人式に来てないのか?体調でも悪いのか?という中学時代の友人たちからのメッセージだった。
その中でも一件、彼の注意を引くメッセージがあった。
≪ ≫
なんて書いてあるかがわからない。
わかるのは文字化けしてるということと、送り主の名前だけだった。
送り主の名は時雨唯。高校時代、クラスメイトだった少女の名だ。
さほど仲が良かったわけでもなかった気がするのだが・・・このメッセージの真意は何なのだろう?と考えているうちに、ピピピと携帯が鳴り彼の元へ新しいメッセージが届く。
送り主の名は久遠守
小中高と同じ学校に通っていた親友だ。
メッセージの内容はこうだ
≪お前成人式出てないけど、この後の高校の打ち上げには来れるの?≫
「あぁ、そうだった。確か夜は高校の時の面子で打ち上げだったな」
慣れた手つきで返事を送る。
≪成人式は体調不良で行けなかったけど、もう平気だから余裕で行ける≫
「返事はこんなもんでいいだろう。さて、じゃあ俺は一先ず・・・」
自分の衣服のにおいを嗅ぐ・・・やはり、汗臭い。
「風呂に入って着替えなくちゃだなぁ」