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【壱】退紅の世界を乞う  作者: 裏柳 白青
第壱章 必至の回転
8/97

六、差

 紅が視線を外したのと同時に、黎が携帯電話を制服の胸ポケットにしまいこんだのが視界の隅に映った。そして、同時に出現した2つの妖霊──黒猫型2匹──を、2人は殆ど同時に切り裂いた。


 猫の叫び声が上がる頃、刀を収めて振り返れば黎も全く同じ仕草をとって紅を見上げたところだった。


 その手にある刀は少し形状が変わっている。柄巻が巻かれておらず、鍔もない。その点に関しては白鞘だと思えば納得はいくが、白鞘は実戦用ではなく、そもそも柄木が光沢のある真紅だ。どう見ても、それでは滑って使えないはずなのだが。


 じっと、怪訝な顔で見つめていると、それより1層怪訝な表情で黎は見つめ返してきた。


「…何でお前が手を出すんだ」

「はぁ? こっち側に出たんだからいいだろ別に」


 妖霊は紅の背後・黎の背後にそれぞれ出たのだから当然の行為だ。寧ろ同時に現れたのだから即座に始末したことを感謝してもらいたい。


 だが黎は不機嫌な顔を変えない。まるで自らの領域(テリトリー)に不用意に足を踏み入れられた挙句果実を(むし)り取られたかのような表情だ。


「勝手に手を出されると報告が面倒だ。やめろ」

「報告?」

「何処に妖霊が出たのか報告しないといけないんだ。先輩が歪みを修復するからな」

「黎は修復しないのか?」

「私は掃除担当だ」


 名前を呼んだせいか、黎はその眉尻を僅かに上げてみせたが、あまり抵抗はないのか何も言わない。


「今は同時だったからいいものの、余所(よそ)ではやめろ。迷惑だ」

「んなこと言って黎が来るのが遅かったらどうするんだよ」

「そんな馬鹿なことはしない」


 黎は冷ややかに答え、(おもむろ)に地面に刃を突き刺した。そこには先程退治した妖霊の血が広がっていたのだが、刀に吸収される。1瞬だけ刀が僅かに鈍く光ったところで血が消えた。瞠目するが、黎はその理由が分からないと言わんばかりの表情だ。


「なんだ」

「血、そうやって消えるのか」

「あぁ。…まさか放っておいたのか?」

「そりゃあ。どうするかなんて知らなかったし」

「確かに長時間経てば消えるが。妖霊が気付くからあまりよくない」

「気付くと駄目なのか?」

「当然、本能的に始末されるのを嫌がるからな。此処を離れてしまって追いかけるのが面倒だ」


 溜息をついて黎は刀を抜く。柄と同じ真紅の鞘に刃を収め、カチャリと音を立てた。するとその手の中から刀が消える。訊いても原理が分からないだろうから、特に尋ねはしないが、死族の能力だろう。竹刀を常に持ち歩いているせいで風評被害まで受けた紅からすれば羨ましい限りの便利な能力だ。


「じゃあな」

「えっ、あ、おい」

「なんだ」


 言うが早いが歩き出した黎を引き留めると不機嫌そうに振り向く。なんでコイツはこんなに愛想が悪いんだ。


 お陰で「何でもない」と追い払いたくなるが──ずっと気になっていたもう一点。


「…お前、その制服、」


 そう、百遡高校の制服だ。似てるわけではないのはその胸の校章を見れば1目瞭然。


 黎は「あぁ」とスカートの裾を少し摘んでみせた。健全な男子高校生らしく脊髄(せきずい)反射で紅の視線は1瞬その裾に移ったが、すぐに戻った。


「明日から通うんだ。あまり着ないから動きにくくて嫌なんだが、掃除係はこの恰好の方が便利だからな」


 そうじゃない。そういうことを聞きたかったんじゃない。


 ただなんと尋ね直すべきか逡巡する間もなく、黎はヒラヒラと後ろ手に手を振る。


「じゃあそういうことだ。余計ことをするなよ」


 走っているのか歩いているのか分からないほどの速足で黎は消えた。


「…アイツ、明日俺の顔見たらなんて言うんだろうな…」


 嫌な予感がする、と紅は小さく呟いた。


Data/ 2nd main character 風間(かざま) (れい)

髪/黒・瞳/黒

身長/154cm・体重/49kg

属性/風・所属/弐

好物/甘味

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