09
女の子の寝姿を見るのはマズイと思ってテントの外に出てから時間が経ち、今は太陽が沈みきり真っ暗になった辺りを焚き火が照らしている。
(そろそろ、半日が経つけど・・・・・ん、目覚めたかな?)
テントの中から、物音がして起きただろうと思い、テントを開ける。
「えーっと、大丈夫?」
「えっ?」
エルフ?の女の子はびっくりした声をあげこちらを見上げる。その顔には涙が流れていて、逆にこっちがびっくりした。あわてて声をかけるが、女の子は呆けた顔でこっちを見ているだけで、何も答えてくれない。俺は、野盗と間違われてると思い、今までの出来事を教え助けたと伝えると、女の子は安堵して泣き出してしまった。
あれから落ち着いた女の子は、知らない男の前で泣いた事が恥ずかしいのだろう、耳まで真っ赤にしながら、自己紹介とお礼の言葉を言って深々と頭を下げてきた。
「す、すいません。あんなに泣いてしまって。私は冒険者Eランクのソフィーって言います。助けていただいて、ありがとうございます」
「俺は神し・・・・・ユウトです。偶然通りがかっただけなので、そんなに頭下げないでください」
と言っても聞いてもらえず、地面に頭がつくんじゃないだろうかと思うほど下げる。それからなぜ1人で森に居たのかを聞くと。どうやらギルド職員に頼まれて、Fランクの薬草の採取依頼の為に森に来ていたみたいだ。もともとこの森周辺は魔物も弱く野盗の類はいないようで、どこからか来た野盗と遭遇してしまったらしい。ギルド職員に頼まれて依頼を受けるとは、人が良いというかなんというか。
「ユートさんも、依頼で森に来てたんですか?」
「俺は違うよ。冒険者になる為に街を目指してたんだけど街の場所が分からないから、ここで野営してたんだ」
「えぇーーーーー!!ユートさんって冒険者じゃ無いんですか?野盗5人をソロで倒すぐらいだから、私よりだいぶ上の冒険者だと思ってました」
どうやら俺を冒険者と勘違いしてたみたいで、街に行く道が分からないならとソフィーが街まで案内をしてくれる事になった。
街の場所を聞くとここから一時間程度で着くようで、街に着いたら、お礼がしたいって事で何か希望ありますかと聞いてきたので美味しいご飯が食べたいと言うと「それじゃ、冒険者ギルドで登録して街を案内します。それから食事にしましょ」と冒険者ギルドまで連れて行ってくれたり街案内までしてくれるみたいだ。それから冒険者の事を色々、教えてもらい晩飯にしようとテントを出た。
美味しい鳥を捕まえたから楽しみにしててよと、ずんぐりむっくりした鳥を見せたら、すごくびっくりされた。どうやら、この鳥はシュネルバードって言う名前で、肉の味はすごく美味しいが中々見つけれないうえに足がすごく速く仕留められないので高級食材らしい。
「本当にユートさん冒険者じゃないんですか?」
「うん、冒険者になる前の普通の旅人だよ。」
「普通の旅人がソロで野盗討伐やシュネルバードを手にできるとは思わないですけど・・・・・」
ずんぐりむっくりした鳥いや、シュネルバードを捌きながら、何故か疲れた顔したソフィーにお願いをしてみる。
「ソフィーさんの受けた依頼、街に行く前に手伝ってもいいですか?」
「えっ、野盗から助けていただいたのに採取の依頼まで手伝ってくれるなんて、そんなの悪いですよ」
ソフィーはあわてて断ろうとするが、俺は今後の為にどれが薬草なのか知りたいと、言うと快く承諾してくれた。
一緒に鶏肉を焚き火で炙りながら話をしてたらお互いにだいぶ打ち解けてきたところで、突然ソフィーが驚いた声をあげる。
「ユ、ユートさん。テ、テントが無くなってます!!」
テントがあった方を指差し、ソフィーが驚いた顔をしてあたふたしていて。それを見て俺もあんな感じだったんだろうかと思い出してしまった。
「あーーーあのテントとかは俺の魔法で製作した物なんだ」
「えっ、どういう事ですか?」
ソフィーに俺の鍛冶魔法の特性や効果などを話し、実際に目の前で見せてあげた。それを見たソフィーは、また呆けた顔をしていた。それから数秒経ち、驚愕した顔で詰め寄ってきて。
「な、な、なんですか?その魔法。そんな魔法、今まで見た事も聞いた事も無いですよ。それに無詠唱で魔法まで発動するなんて」
「ソフィーさん、俺の魔法と無詠唱ってそんなに驚く事なんですか?」
「ええ、魔法は火水風地氷雷光闇の精霊から力を借りて発動すると今まで言われてて、精霊から力を借りる行いが魔法名詠唱なんです。ユートさんはどの精霊から力を借りたか分からない魔法を使いそのうえ無詠唱で魔法を発動したので」
「驚いたと。でも、ソフィーさんも無詠唱スキル覚えられると思いますよ。教えましょうか?」
「えっ、無詠唱ってスキルなんですか?ってユートさん、そんな簡単にスキルの事や習得方法なんて教えちゃダメです」
なんで教えちゃダメなのかを聞くと、スキルの習得方法は秘匿にする傾向があって、そうそう人には教えないみたいだ。なので今までで分かってるスキルは簡単に習得できるスキル以外は公表されていない。今まで見た事も聞いた事もない無詠唱スキルの存在や習得方法を簡単に教えたりしたら、次々に教えてもらおうと人が来て大変な事になると注意してくれた。
「じゃーこの事は2人だけの秘密で」
「わ、分かりました。2人だけの秘密ですね!!」
ソフィーがすごく嬉しそうに返事をしてるので何が嬉しいのだろうと思ってると、シュネルバードの肉が焼けた美味しそうな匂いがして思考を完全に奪われた。
それから2人でシュネルバードの肉を食べてるとソフィーが「こんなお肉食べてしまったら、明日どこでご馳走すればいいのかしら」とウンウン悩んでいたので、それなら安くて美味い一般的な料理を出す店にしようと言ったら、そんなのはお礼にならないと一蹴された。しばらくすると何か思いついたのだろう、すごく良い笑顔のソフイーが目の前に現われ、その笑顔に目を奪われてしまう。
「ユートさん、明日は私が料理を作ってご馳走します」
「えっ、いいんですか?わざわざめんどくさくないですか?」
「いつも作ってますから、平気ですよ~」
「じゃーお言葉に甘えて、ソフィーさんの手作り料理楽しみにしてますね」
「はい、楽しみにしててくださいね!!」
と、またまたすごく嬉しそうに返事をされた。
食事も終わりそろそろ寝ようかと思ったところで大変な事に気づいてしまう。
(昼間に魔法を5回使ってしまったから、テントと人数分のベッドが製作できな・・・・・あれ?なんであの時、発動できたんだ?)
「どうしたんですか?ユートさん」
「昼間にMPをほとんど使って、魔法を発動できないはずなのに、さっき魔法が発動したなと思って」
「えっ、ユートさん。MPは休憩してたり寝てたりすれば自然に回復しますよ?」
「な、なんだってーーーーー」
詳しく聞くと、座って休憩すれば1分にMP1回復して、MPを使い切って倒れてしまうと1時間にMP1しか回復しないようだ。まさか寝る以外に座って休憩すれば回復してたなんて、知っていれば魔法を使いまくってたのにな。とにかくこれで、地面に寝る事は回避され、ゆっくり寝れそうだ。
「おやすみーソフィーさん」
「おやすみなさい、ユートさん」