取り調べ(コント)
登場人物 小暮刑事(50歳)
新田刑事(28歳)
鯛焼き
本文
○警察署・取り調べ室
机が一つある。
机の上に鯛焼きが一つ、皿に乗っている。
机の席に、小暮刑事(50歳)が座っている。
その側に、新田刑事(28歳)が立っている。
小暮が鯛焼きを問いつめている。
小暮「おい、鯛焼き。そろそろ白状したらどうだ?お前がやったことに間違いないんだ。観念しろ」
鯛焼き「・・・・・」
小暮「おい」
鯛焼き「・・・・・」
小暮「おい!」
鯛焼き「・・・・・」
小暮「聞いてんのか!コラァー!」
と、鯛焼きを皿ごと持ち上げて殴りかかろうとする、小暮。
新田「ぐれさん!落ち着いて!ぐれさん!」
小暮を後ろから取り押さえる、新田。
興奮している、小暮。
新田、皿ごと鯛焼きを小暮から取り上げて机に置く。
新田「君も、聞かれたことにはちゃんと答えなきゃ!分かってんの!」
と、新田、鯛焼きに言う。
鯛焼きが何か言ったように聞こえる、新田。
新田「んっ?なに?何か言った?もうちょっと大きな声で」
鯛焼きに耳を近づける、新田。
新田「うん、うん、わかったの?わかったから早くしろ、バカ野郎だと!口が悪いね、君ィ!」
新田、小暮の方を見る。
新田「ぐれさん、こいつ、わかったって言ってますよ」
機嫌悪そうにしている、小暮。
小暮「けっ!」
と言って、乱暴に椅子に座る、小暮。
小暮「おい、じゃあ、もう一度最初から聞くぞ!9月15日の夜7時半ごろ、お前はどこで何をしていた?」
新田、鯛焼きに耳を近づける。
新田「うん、うん」
と、うなづく新田。
新田「ぐれさん!」
新田、驚いた様子で小暮の方を見る。
小暮「どうした!アリバイがあるのかー!」
新田「バーカと言ってます」
小暮「カッ、カ、カー!」
と叫ぶ、小暮。
小暮「コッ、コッ、コケー!コッ、コ、コ、コ、コケー!ケッ、ケコー!」
小暮、ニワトリのような格好であたりをさまよう。
新田「ぐ、ぐれさん。怒りすぎて頭おかしくなったぞ・・・」
新田、小暮を捕まえて激しく揺らす。
新田「ぐれさん!ぐれさん!しっかりしてください!ぐれさん!」
小暮の頭はグラグラ揺れている。
小暮「(意識を取り戻す)お、おー新田、おーおーすまん、すまん」
新田、小暮を放す。
小暮「(一息つく)こ、この野郎、頭にきすぎて、今、意識飛んでたぞ。なんという悪党だ。この鯛焼き」
と、小暮、鯛焼きを睨む。
小暮「おい、こいつ吐かねーぞ。長期戦になるな」
新田「ええ、そうみたいですね」
小暮「長期戦になろうが俺は絶対許さねーぞ。こいつのしたことは犬畜生にも劣る!部活後の女子高生の着替えを盗撮とは!この外道が!鯛焼きの名も地に落ちたな!新田!こいつは俺たちが必ず牢屋にぶち込むぞ!警察官の誇りにかけて!」
新田「はい!」
ビシッと敬礼する、新田。
鯛焼きを睨みつける、小暮。
小暮「覚悟しろよ、鯛焼き。俺はあまくねーぞ。吐くまで帰さねーからな(指をポキポキさせる)」
新田「ぐれさん」
小暮「なんだ?」
新田「今、盗撮で思い出したんですけど」
小暮「なにか新しい証拠でもあるのか?」
新田「いや、このあいだ、ぐれさんから借りたAV、あれ盗撮系のやつだったんですけど、なんかの間違いですよね?ぐれさんあんなの見ないですよね?」
小暮「おい、新田。こいつ吐かねーぞ。長期戦になるな」
新田「それは聞きました」
小暮「こいつは絶対に牢屋にぶち込む!警察官の誇りにかけて!」
新田「それも聞きました。そうじゃなくて、このあいだ借りたAVの話ですよ。盗撮の」
小暮「おい、今、そんなくだらない話する時じゃないだろうが!」
新田「す、すみません。ちょっと気になってたものだから」
小暮「けっ、バカが。それはなんかの間違いだ。おそらく押収した資料を間違えて渡したんだろう。俺としたことが、ミスだ」
新田「そ、そうですよね!ぐれさんがあんなの見るわけないですもんね!ぐれさんは、ど真ん中直球のエグいAVしか見ないですもんね!そうですよね!いやーよかったー安心しました!」
小暮「当たり前じゃねーか!新田のバカヤロー!俺が盗撮のAVなんて見るわけねーじゃねーか!ど真ん中直球のぐれさんだぞ!バカヤロー!ガッハッハッハッ」
と明るく振る舞う、小暮。
新田、鯛焼きが何か言っているのに気づく。
新田「んっ?なに?」
鯛焼きに耳を近づける、新田。
新田「(鯛焼きの話にうなづく)ぐれさん!」
小暮「なんだ?」
新田「こいつ、よう兄弟って言ってます」
小暮「なんだと、貴様ー!お前と俺を一緒にするなー!貴様ー!」
小暮、鯛焼きに殴りかかろうとする。
新田がそれを止める。
小暮「俺はお前のような外道とは違う!俺は作られた盗撮AVを見ているのだ!」
新田「えっ?」
小暮「ちゃーんとシナリオがあって、監督がいて、作り物の盗撮だ!てめーはマジでやってるじゃねーか!しゃれになんねーじゃねーか!この変態がー!」
新田「ぐ、ぐれさん、盗撮のAV見るんですか?」
小暮「(ハッとする)み、見ない!」
新田「でも今、作られた盗撮のAV見るって・・・」
小暮「見ない!見ない!間違えた!言葉のあやだ!うっかりした!俺は作り物でも盗撮なんて見ない!」
鯛焼きが何か言っているのに気づく、新田。
鯛焼きに耳を近づける、新田。
新田「ぐれさん!こいつ、作った盗撮のAVもあるって言ってます!釈放するかわりにどうだって言ってますよ!」
小暮「な、なんだと!おい、新田!こいつ、人の弱みにつけ込んで駆け引きしてきやがったぞ!」
新田「よ、弱みなんですか?」
小暮「こ、こいつ、鯛焼きのくせに、ギリギリの駆け引きしてきやがった!権謀術数だ、この鯛焼き!鯛焼きのくせに権謀術数だ!ちょーこわー!」
新田「・・・・・」
小暮「だが、俺は負けん!警察官の誇りがある!プライドがある!一歩も引かん!」
小暮、汗をかきながら必死の形相で鯛焼きを睨む。
小暮「新田、よく見とけよ。これが男の駆け引きだ。のまれるなよ。一瞬でも油断したらもっていかれるぞ。気を引き締めろ!」
新田「あ、そう・・・」
と、新田、冷めた表情で言う。
鯛焼きが何か言ったのに気づき、耳を近づける、新田。
新田「(小暮の方を見て)あの、10本セット1980円でどうだって言ってますけど」
小暮「高い!」
新田「えっ?も、もう見る前提?」
小暮「1000円だ!それ以上は、びた一文払わない!」
鯛焼きに耳を近づける、新田。
新田「1800円だ。その中にAV業界金賞受賞のお前が見たことのない、想像を絶するやつを入れておいてやろうと言ってますけど(冷めた表情をしている)」
小暮「なにっ!」
唖然とした表情をする、小暮。
しばらく考え込む、小暮。
小暮「おい、新田。この辺で手を打つべきだと思うんだが、どうだ?」
新田「ど、どうだって、何言ってるんですか!手を打つとかじゃなくて、こいつは盗撮の犯人ですよ!牢屋にぶち込むんですよ!さっき言ってたじゃないですか!」
小暮「古い!お前は古い!そんな大昔の話をするなー!今を見ろ!今を生きろ!そして明日に向かって走れ!バカヤロー!」
と言って、新田をぶん殴る、小暮。
新田、倒れる。
新田「(涙目で)い、痛い、なんだこのおっさん・・・」
小暮「買うぞ!俺は決めた!1800円で買う!警察官の誇りにかけて!」
鯛焼きが言った事が聞こえる、新田。
新田「やっぱり、2500円だって言ってますよ!(怒った口調で言う)」
小暮「な、なにー!」
頭を抱える、小暮。
小暮「ぐ、ぐぐ・・・わ、わかった、2500円だな!フッ、鯛焼き、お前もなかなかやり手だな、この俺相手にここまで攻めてくるとは!よかろう、その度胸に免じて2500円で手を打ってやろう!」
新田「間違いだ。今までの全部間違いだ。10万だって言ってます」
小暮「じゅ、じゅーまーんえーん!」
小暮、頭を抱えて暴れる。
新田、それをジーッと見ている。
小暮「ぐおー!じゅーまーん!鯛焼きー!分割でいいですかー!」
と叫ぶ、小暮。
新田「バ、バカだ、こいつ・・・」
小暮「ぐおー!ぐおー!」
と、叫び続ける小暮なのでした。
おしまい。