Program6 エドガー=『息子』
よ、四ヶ月ぶり・・・・
「今更何言ってんだ。あんたは」
ドアがガチャリと閉まる音がエドガーの入るリビングにまで響いた。エドガーは溜息を一つ吐き、先ほど蹴倒した椅子を直し、腰掛けた。
隣ではルーチェが巨大なマグロと格闘していた。口の周りにはマグロの肉片がこびり付いている。行儀がいいとは言えない。
エドガーの頭の中で、カレンの放った言葉が何度も黄泉がえっては消えてゆく。その言葉が造りだす怒りの感情を、彼はひたすら消し去っていった。
そしてエドガーはしばらくボーっとし、立ち上がった。するとルーチェがこちらへと視線を向けた。エドガーは横目でルーチェの眼を覗く。そして視線を下げ、ルーチェの手を見やった。
ルーチェを造ったのはエドガーのチーム。ルーチェは言い換えればエドガーのチームの子供みたいなものであって、ルーチェの面倒を見るのはたしかに当然の話だ。
だが、ルーチェは戦闘用人造人間だ。人を殺すために造られた、殺戮兵器。
それに教育を施すと言うことは、エドガーはルーチェに戦場での生き方を、人の殺し方を教えることになる。
戦車の壊し方。敵軍殲滅のイロハ。どれもこれも普通の少年が学ぶことではない。教えるこちらも普通じゃない。
プレゼンテーションの時に見せたあの鬼神のような戦闘。それを可能にするためだけに特化した強靭な肉体。異常なまでの生命力。そして最大の武器である彼の爪、『化猫の爪』。その伸縮自在の爪は分厚い鉄板までも細切れにし、確実に目標の息の根を止める。ルーチェはそのような力を生まれながらに持っている、生まれながらの異常な少年。
小さな子供の姿を借りた殺人兵器。それを造り続ける自分達研究チーム。どちらが悪魔だろうか?答えは明白だ。
だが、望んで悪魔になったわけじゃない。
エドガーはルーチェの髪を撫でた。ルーチェはルーチェは表情を崩さず、こちらを伺っている。
「ごめんな、ルーチェ」
エドガーは呟き、ルーチェの頭から手を戻し、リビングをぬけた。その足でドアまで向かい、ドアノブを握った。
何年ぶりだろう。『息子』と呼ばれたのは。
生まれた時から地下生物兵器研究所に住んでいた。五歳の頃に初めて人造人間を見せられ、その時あの人は「全部私の子供達です」と言った。その頃、あの人に『息子』となど一度も言われたことがなかった。
自分は嬉しかったのだろうか?『息子』と呼ばれて。認められて。
「チッ、面倒くせぇ」
エドガーはノブを回し、魚臭いルーチェの部屋から外に出た。
どうしようもない。それが俺の、カレン・バーミンガムの息子の仕事なのだから。
あの人の息子としてしか、生き方を知らないのだから。
エドガーはとぼとぼと廊下を歩いた。
コーラでも飲んで頭をすっきりさせよう。エドガーは近くの自動販売機の在り処を思い出そうとした。
受験なんてクソ喰らえ!
そう叫びたいです。