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Pravitas World  作者: 月草
silver---world
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一章(2) 『今』の彼にとっての出会い

 辺りは静寂に包まれている。

 新代荘にいしろそう周辺は一戸建ての家が何軒か立地し、周囲には田んぼや畑もある。よって新代荘近辺ではそれらが何本もの細い道を網目状に作っている。

 彩人あやとはその網目を縫うように右へ曲がり、左へ曲がりを繰り返しながら進んでいく。

「はあぁ」

 ため息混じりに白い息が出る。

(何で俺がこんなことを……。くそ……あいさんめ……)

 藍は解決案があると言い切った。

 それは次のようなものである。

 ガスコンロが押入れから発掘された後、ガスがないと期待を打ち砕くこととなった。

 要するにガスボンベを買ってこい、ということだ。

 ああついでにこのメモに追加の材料書いてあるからこれも買ってきてね、と藍から伝言もあり、他にも追加でお使いを頼まれていた。

(あの時勝っていればこんな事にはならなかったんだが……)

 誰がこのお使いをするかを決めるのは、やはり最も公平である『はず』のじゃんけんであった。

 結果はパーの人が一人、他三名がチョキ。すなわちパーの人の一人負けである。しかもこのじゃんけんは一度もあいこにならずに、一回で決着が着いた。

(一人負けってなんだよ)

 彩人は不満が大ありだった。

(昨日だってゴミ出しのじゃんけんで一人負けしたし、その前だって……。もしかして、俺が何を出すのかを読まれているとでもいうのか……。一人負けの確率ってどれだけだっけ……。ああもう考えても無駄だ! 数学は苦手なんだよ。まあとりあえずかなり低いのはわかる。それなのに連敗なんて読まれているとするしか言い訳がつかないじゃないか……)

 彩人は基本、面倒くさがり屋だ。お使いなど「めんどくせー」の一言で打ち返すはずなのだが、藍には簡単には逆らわない。いや、逆らえない。

(今回の場合はふざけている。なんなんだこれは。普通のお使いだったらこんなにも今、俺は苦しんでいないはずだ)

 こんな悪条件が無ければの話だが。

「寒い……」

 小声で呟いた。

 体はガクガクと震えている。

 ザク……ザク……。

 聞こえるのはその音しかない。それほど静かだ。

「どんだけ降ってんだよ……」

 雪は傘にどんどん降り積もって重量を増していく。そして傘が重くなってくるたびに傾けて雪を落とす。

「今年は異常じゃねえか?」

 彩人は今この状況に至ったことに対するわだかまりを、それを晴らす対象が見当たらないがために、つい何かに原因を押し付けようとしてしまう。

 だが確かに彩人の言うことにも一理あると言ってもいいだろう。

 悪条件の一つ。

 二月十二日。

 寒気きわまる如月きさらぎ

 まさに冬。

 つい三日前から分厚い雪雲が色見いろみ全体の空を覆っていて、天に青空を拝めることは出来ず、ただそこには灰色の空があるだけだった。

 色見とは、新代荘のある帆布はんぷ地区に他の七つの地区も含め、全八区から構成される地域のことを指す。色見では例年雪は多少降るが、今年の冬、特にこの時期は稀に見る大雪になると一月頃からテレビの天気予報でよく言っていた。

 その予報は的中し、色見は銀世界と化している。

 今日も雪は止む事なく朝からずっと降っており、どんどん積雪して町を白く満遍なく塗りつぶしていく。

 しかも夕方から風が強くなっており、昼間で穏やかに降っていた雪は気分を悪くしたかのように表情を変えてしまって吹雪になってしまっている。

 彩人が目指す目的地はちょうど風上にあたり、強い冷気を纏った風は正面から襲う。

 それを傘で防ぐように歩き続けているが、傘は上半身全体を守れるか守れないかの瀬戸際で、足には容赦なく吹雪が襲う。

 凛とした冬の空気が彩人を苦しめる。

 彩人は傘をやや前に傾けて吹雪を防ぎながら歩く。

 ザク……ザク……。

 降り積もったまだやわらかい雪が音を立てる。一歩一歩進むたびに足が埋まるため歩きづらい。

息を吐くたびに白い息が出る。

「寒い……」

 彩人はこの銀世界に放り出されたのだった。

 これが藍の言っていた『尊い犠牲』というものだった。

 そしてもう一つの悪条件。

 時間帯である。

 ただいまの時刻は午後八時すぎ。

 ただでさえ冬で日照時間が少ない上に、この時間帯ではいっそう気温が下がり、気温は氷点下に達していそうだ。

 また、新代荘の最も近くにある(徒歩十分)スーパーマーケット『イトヤスシ』は、とっくに閉店時間を迎えてしまっている。だから、彼の行き先はコンビニ(徒歩二十五分)へ変えざるを得なかった。

往復五十分。

 それがこの極寒の中にいなければいけない時間である。

 そこに新代荘の立地条件の悪さがにじみ出ていると言えよう。

(ショートカットすれば十五分で着けるか)

 新代荘の周辺は細い路地が網目のようになっている。その中でも電灯がある所無い所とあって、この時間だと電灯がない道は光がないに等しい。ただ中には民家から漏れるわずかな光が照らしている所や、機械だがどこか寂しいようにも見える自動販売機が闇の中にポツンと立っている所もあるが。

 それを考えても普通は電灯のある道を行くのだが、その道を選ぶとどうしても遠回りになってしまう。往復一時間以上はその場合を考えた時の所要時間だ。電灯のない道を行けば四十分にまで短縮できる。

 だが彩人はさらなるルートを知っている。

実際、新代荘からコンビニまで直線距離で考えるとそれほど遠くはないのだ。コンビニと新代荘の間には荒地や田、畑、とくに雑木林などが障害物となっている。そのためそういったものを避けるために迂回して行ったときの所要時間が、先ほどの往復五十分ということになる。

 しかし、必ずしも迂回する必要はない。道がないというわけではないからだ。ただし、その道は暗かったり、土手道だったり、しっかりとした整備が行き届いていない道だったりする。

 それらをうまいこと利用すると大幅な時間短縮ができる。先に挙げたデメリットももちろんある。

 それらの道を人々は好んで通ろうとはしないだろう。まして知っている人もわずかしかいないかも知れない。だから整備が疎かになる。

 知る者は少ししかいないという道を、彩人は知っていた。

 なぜ知っているのかと言うと、『彩人は暇人だから』という解答が最もしっくりくる。

 彩人はよくフラリとあてもなく出かけることがしょっちゅうある(それを散歩として彩人は趣味と主張する)のだ。

 高校生だったらゲームセンターとかに行けばいいじゃないかと思うかもしれないが、彼はお小遣いを貰っていないのでただふらふらするしかない。行けるとしたら本屋で、立ち読みをするしかない。

 それが習慣になって暇だから色々な場所へと赴くうちに新代荘周辺の土地は大方記憶してしまっている。

 そのように空虚に消費されていく時間の源は彩人が高校の部活動に参加していないなどから出てくる。

 彩人は単に言えば面倒くさがりや。

 何かを積極的にやることもほとんどない。

 ダラダラ、ゴロゴロと日々を過ごす。

 それは充実した生活とは言えないと思うだろう。

 だが彩人はそれでいいと思っている。

 平和で楽に暮らしていれば何も困ることはない。

 だから彩人はそんな風に生きる人なのだ。

「こっちか」

 彩人は車一台の横幅より少し大きい道路から、ぼろぼろの廃屋や小屋の間の暗い細い道へ入っていく。その細道は車が通れるほどの道幅はない。この道をまっすぐ行くと雑木林にぶち当たる。

「懐中電灯っと」

 ジャケットのポケットから懐中電灯を取り出す。

 これがないと今から行こうとしている道は歩けない。なにせこれから明かり一つない真っ暗な道を通るのだから。

 この辺りに民家は立っていない。

 右手には傘、左手には懐中電灯。

 どんどん進んでいくとやがて雑木林にぶつかる。

 雑木林は人が通れるように道が一本あり、今歩いてきた方向とコンビニのある通りの方を繋いでいる。一応コンクリート舗装がしてあってガタガタ道ではないので足を踏み崩すこともない。

 この道への入り口はどこへ繋がっているかを予測できないため、人は通ろうとしない。彩人以外にこの道を知っていて利用する人はいないかもしれない。

「不気味だな」

 ここはさっきの住宅地の静けさとは違って、風に揺られた木々が互いに擦れ合う音、それにしたがい葉に降り積もった雪が落ちる音がある。

 その音が恐怖を煽る。

 住宅地を歩いていた時よりも少し歩く速度が上がっていた。雪が歩くのを妨げているにもかかわらず。

 五分足らずで雑木林を抜け出した。

 雑木林の出口も入り口と同じように民家はない、だがもう少し進むと民家は建ち並んでいる。

 民家が建っているがこの道にまだ電灯はない。

 だから彩人はまだ懐中電灯で行く先を照らし続ける。

 懐中電灯の明かりともう一つ、この道には自動販売機の明かりがある。

 この時間帯車道は電灯の付いた電柱が等間隔に連なっている。しかし路地裏は電灯がなく自動販売機のライトだけが照らしていた。

「何かこう……人がいないところにある自動販売機って……」

 まるで孤独を感じているかのよう―――――

 などという機械に自分と同じ何かを感じてしまった彩人はその自販機に横を通り過ぎる。

 彩人にも暗く細い道は孤独感を感じさせる。

 細道の遠くの先は明るくなっている。それはこの道をまっすぐ行くと車道に出るからだ。

(そういえばガスボンベってコンビニで見かけたことあったか? 売ってなかったら……とんだ無駄足になるな。まあ……あるだろう。そうじゃないと俺は恵まれない!)

 そんなことを考えているとようやく、ちゃんと白線の引いてある二車線道路に出た。

 この時間でも車は数台走っている。さすがに車道であるので、街灯から放たれるオレンジ色の光が道路全体を照らしている。

(よっしゃあ! さあ目的地は目の前だ!)

 彩人はやる気を高める、が……。

「はあっくしょっんっ!」

 鼻を啜った。


   ■□■□■


 コンビニの店員の「ありがとうございましたー」という挨拶を聞いて店内を出る。

 店から出た瞬間、着込んでいるのに服の隙間を縫うように冷気が入り込んできた。

「うっ……」

 体が急に固まる。

「はあぁ」

 ため息は空気中で白い息となりしだいに消える。

「萎える」

 店内の空間がどれほど冷気からの回避エリアとなっていたかが思わせられる。

 彩人は行きに味わった凍てつく町をまた歩かなければならない。そう思うと帰る気力が削がれる。

 コンビニでつい長居したくなって店内を無駄にグルグルと回っていた。店内の暖房は格別の癒しだった。だから先ほどまでの苦闘を忘れかけていたのかもしれない。しかも暖かい所から急に寒い所に出たので冷気がいっそう冷たく感じていた。

 あまりの寒さに体を動かす気が湧かなかったが、店の前でいつまでもぐずぐずしているより歩いたほうが体を温められると思い歩き始める。

(この仕事の報酬ぐらいあってもいいよな)

 彩人は上着のポケットからコンビニで買った缶入りのコーンスープを取り出す。藍はご褒美の分までお金を渡したわけではないが、頼まれたものを買ってもお金が余るとわかった彼は勝手に商品を追加した。もちろんこれは新代荘の皆には秘密である。

 すぐに呑んで缶を空にしてしまうのはもったいないので、手を温めるために呑まずにとっておく。

(新代荘に着くまでに呑んじゃえばばれないし)

 幸いなことで、行きよりかは雪の降りが弱まり、風も止んでいた。傘を差さなくてもある程度大丈夫そうである。

 だから彩人は差しているよりかは畳んでしまった方が楽なので傘を閉じる。

 また行きと同じ細道へと入っていく。

 もちろん帰りも同じ裏道を使って時間を短縮する。

「それにしてもよかったなー。注文の品は全品購入完了。売ってないというオチがなくてよかったぁ」

 彩人は右手に買った物が入っている袋を持ちながら歩み進む。

「帰ったら飯の前に風呂入ろうかな」

 彩人はかなり着込んだつもりだったが、さすがに長時間この寒さの中にいたので、体は完全に冷え切っていた。

 ちなみにこの時の彩人は気付いていないことだが、ガスが止められているので風呂には入れない、というのはこれから数時間後の出来事である。

 暗い道にぽつんと立っている自動販売機が見えてきた。

 相変わらずのしんとした中に立っている。

(さぞかし寒いことだよな。お前にしかわからないよな……。あいつらにはわからんだろうな俺の辛さは!) 

 彩人は自動販売機に語りかけていた。

「なにやってんだ……俺……」

 急にむなしさが沸き立ってきた。

 家を出る前はもう八時を回っていたので人の影はない―――と彼は思っていたのだが。

 ザク……。ザク……。

「ん?」 

 自分の足音。彩人はそれとは別に、前方から雪を踏む音が聞こえたような気がした。

 彩人は一度立ち止まって耳を済ませてみる。

 ザク……。

 かなり小さいが音がする。

 やはり彩人の前方に誰かが歩いているようだ。

 ザク……。

 道は街灯が無いので自動販売機が立っている所以外は真っ暗であり、誰かが歩いている様子は視覚ではわからない。

(へえー。俺と同じようにこの極寒の中を出歩いている人がいるんだな。あの三人はどうせ俺の苦労なんてわからないだろうが、あの人なら分かち合えそうな気がするな)

 彩人はその人と同じ境遇にいるので共感できると考えていた。

 今度は機械ではなくちゃんと人だ。

(しかもこんな時間に。多分もうすぐ九時になるんじゃないか? 足音からすると一人みたいだな。暗い夜道は危な――― )

 そんな時、ある事が頭を過ぎった。

(あっそういえば……)

 彩人は学校の事を思い出していた。

 この前学校で『不審者が出没しているので注意してください。できるだけ一人で下校しないで二人以上で帰りましょう』という連絡を聞いていた。

(まさかね………。ないない)

 そんなことはないと考えを変えようとするが、取り除くことのできない不安がそれを妨げる。

(懐中電灯で照らしてみるか……いや下手に怪しまれると嫌だな……)

 しばらく立ち止まって耳を澄ましていたが、足音は鳴り続く。

 どうやらこちらに向かって歩いているようだ。

 それがわかると不安がさらに募った。

(でも狙われるのって、あれだろ、女子高生とかだよな。そうどうせ痴漢目的のとかだろ。大丈夫だな、ああ大丈夫なはずだ。ちょっと考えすぎたな)

 彩人は歩き始めた。

(別に気にすることもない。普通にやり過ごせばいいんだ。いかんな凝り固まった考えは)

 ザク……ザク……。

 ザク……。

 二つの足音は近づいていく。

 相手のほうはだいぶ歩くテンポが遅いようだ

 雪を踏む音が次の一歩までの間がかなり長い。

 ザク……。

 ザク……ザク……。

 自動販売機が近づいてきた。反対方向から歩いてくる人もすぐ近くまで来ているようだ。

 彩人はとうとう自動販売機の前を通る。

 相手が通るのと同時だった。

 二人は自動販売機の前ですれ違う。

 彩人は横目で自分の右側を通った人を見る。

(そう何の問題も――――――)

「な―――――――――」

 彩人は目を見開いて、声を失ってしまった。

 彼は自分の目を疑う。

 神秘的なものが目に映った、そう脳の中で処理される。

 銀色。

 そうそれは雪に劣らないくらいの輝きを放つ。

 彩人は目を離すことが出来なかった。

 見とれた。この世の美しいものを見たときのように。

 だからそれが傾いて倒れ始めているというのに、最初は銀色に輝いたものがなんであるかが理解できなかった。

 だが彩人の体は本能的にもう動いていた。助けないと、と体が判断したようだった。

 彼はもうすでにすれ違っていたため体を一八〇度回転させる。

 その時にはその人は重力にだけ引き寄せられるように地面へと。

(くっ……間に合わない!)

 そう判断して、受け止めるためには雪の積もった地を蹴って地面と水平に飛ぶしかなかった。

 右腕を目一杯伸ばしてそれを掴んだ。

 そのまま空中でその人の正面に入り込み抱きかかえる。

 空中キャッチ。

 彩人はそれの下敷きとなって一緒に地へ倒れる。

バサッ、と雪に埋もれ、積もった雪はその衝撃で舞い上がる。

「ふう………」

 地は雪で覆われてクッションみたいに柔らかく、白銀色のそれと彩人を雪が同時に包み込む。

痛みはない。

 彩人は体を起こすのと一緒にキャッチしたものも両腕で抱えて起こす。

「――――――!」

 その後だった。彩人が本当に驚いたのは。

 銀に輝いたもの、それは――――――少女。

 その少女は、まるで雪に溶け込むことができそうだった。

 先ほどの通りすがりに横目でみたもの。

 銀。

 彩人は改めて見てもまたそう思った。

 美しい白皙はくせき。彼女の長い銀髪は自動販売機のライトを反射して輝いている。見たところ彩人より少し年齢は若く、背丈は小さい。色白な四肢。その体はほっそりと、またとても軽かった。

「――――――!」

 だが見とれていたのは一時的だった。

 他の重要な事がそれを遮ったからだ。

「おい! 大丈夫か!」

 彩人は彼女に叫んだ。

 それは何故か。

 銀の少女は衰弱しきっていたからだ。

 少女は呼吸しているようだが、手足はピクリとも動かない。

 彩人が手袋を外して、少女の頬に触れる。

「冷たい……」

 彩人の手はこの寒さで冷え切っていたが、それでも彼女の肌の方が冷たい。

 生きてはいるが、彼女からは暖かさ――――――人の温もりがほとんど感じられない。

 そのような事など少女の姿を見れば一目でわかる。

 彼女の服装はどう考えてもおかしかった。彼女の着ている服―――服というよりは、汚れてボロボロとなった布切れのようなものが一枚、少女を纏っているだけだった。生地は薄く、寒さを防ぐことなどできはしない。

 ましてこの寒さだ。体は直に冷えるに決まっている。

「こいつ、どういう頭してやがるんだ!」

 彩人にはこんな格好で外に出るなど信じられなかった。

 彼は新代荘を出る前に各種防寒アイテムに三枚着という完全装備でこの白銀の世界に赴いているのだから。

「そうだコーンスープ」

 コーンスープで少しでも温められればと彼女の頬にあて、それから手に握らせる。さらに着ていた中で一番暖かいダウンジャッケトを少女に着せ、その自身の身につけていたマフラーも手袋もつけ、とにかく体を温めさせてあげられればなんでもよかった。

(この子……なんでこんなところに……)

 彩人は少女の頭や肩に降り積もった雪を払ってあげる。

 彼が歩いていたのは人影のない裏道だ。

 辺りは民家が無いわけではないが、少女がこのような時間、このような場所で、しかも一人で出歩いているなど考えられない。

「これじゃあ、まさに不審者の標的じゃないか」

 いくつかの不可解な点。

 一つ目はこのようなまるで自分から寒さに殺されてしまいそうな格好。

 二つ目は少女がこんな時間に出歩いていること。

 三つ目はこの少女自体――――――

「何者なんだ……」

 銀色の少女。

「外国人なのか……な? こんな人、今まで見たことがない……。この町の人じゃないのか……」

 少女はいまだ目を覚まそうとしない。

「とりあえずどうにかしないとな。このままだと絶対に危ない」

 その少女を放っておく事などできない。

 彩人はそう思って、少女を背中に乗せ、少女を抱えるために後ろにまわした手でビニール袋を掴む。傘は少女を抱える両腕に乗せた。

「ひかたはいからはぁ」

 彩人は懐中電灯を口に銜える。

「はいひゅうへんほうはほはたへはふはった」

 懐中電灯が小型で助かった、と言ったのである。

 彩人はやるべきことをする。

「はあ。へんひょふりょふらー」

 絶対に助けるからな、そう心に決めて彩人は全速力で走り出した。

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