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Pravitas World  作者: 月草
evergreen---mind
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前編(2) 裏側に生きる者達

「間に合わなかったか……」

 右手に鉛色の鎖を握った男―――百緑びゃくろくはたたずむ。

 彼は炎の向こうに一人の男が立っているのが見えた。間違いなくこの事件を起こした犯人に違いないと判断した。一体あそこでなにをしているのか、という疑問ができたがそれはすぐにわかった。その場にいるのは男だけではない。少女を抱えた少年がいたのだ。

 それに気付いた百緑はまずいと思って彼らに向かって咄嗟に、逃げろ、と叫んだのだが、時既に遅し。

 男が炎を灯した手を振り下ろしたことによって、彼らは灼熱の炎に包まれる。

 百緑は手に握った鎖をきつく握る。

 同情している場合ではない。早く己の仕事を遂行しなければ。

 そう思い立つと鎖を先に付いた錘に、振り回すことによって生まれる遠心力を与えてそれを炎操る男目掛けて解き放つ。

 鎖はジャラジャラと音を立てる。百緑の手の平では滑るように鎖が流れていく。流れる先はもちろん男の元。そして鎖は男の立っている位置まで到達すると、ウェスタンの投げ縄のように体の周りを三、四周して身柄を捕らえる。

「なに!」

 百緑は男の腹部に鎖が巻きつけられると放った時とは逆に次は引いた。そうすることにより鎖は男の腹部をきつく締め付ける。

だから男は腹から無理やりこみ上げられるように空気を口から吐き出した。

「ッ――」

 百緑は締め付けただけでは終わらせない。締め付けるために鎖を引いたが、今度は縛り付けた獲物を横へなぎ払うように鎖を横に引く。

 それに吊られて男の体は百緑の右前にあった正方形の陳列棚、おあそらく特価品などが売られていたコーナー(腰までの高さ)に勢いよく衝突する。

 衝撃で男の体から力が抜ける。

 百緑は男の動きを封じた一瞬で、炎で包まれてしまった彼らの所へと駆け寄る。

 焼死体となってしまっただろうか? そうならばあまりにも悲惨な光景があることだろう。

 彼が鎖を振り回した場所は、男が不自然に炎を撒き散らしたのとまた同じく不自然に鎮火される。

「これは……」

 百緑は目を見張った。

 焼死体なんてものは存在していなかった。煤と化していない少年と少女の体はその場にあった。

(あれだけの炎食らって無事なのか?)

 彼の経験上それは考えられない。

 あの炎はマッチやライターでの放火とは次元の違うものだ。津波のように押寄せる炎の渦は物質を溶かしてもおかしくないほどの高温だ。

 だからあの攻撃を食らえば火傷では済まないだろう。それなのに彼らの腕一本も焼け落ちていない。

 それより気になること。

(燃えていない、だって?)

 それは少年と少女の周囲。

 そこは炎で囲まれていた。否、すっぽりとその場だけが燃えていないのだ。まるで何かに消去られたように。

(もしかして……)

 彼にとっては気になって仕方が無いことだったが人命を救うのが優先だ。てっきり助かっていないと思っていたので予想外の事態だった。

 だが彼には標的を拘束するという任務が与えられている。

 彼らの命を助けるか、それとも真っ当に任務を遂行するか。

 一瞬のためらいが出たその時。

 がさっ、と音が聞こえたので百緑は後ろを振り返る。

 一人の女性が立っている。金髪が熱風に靡く。この場にいられるのは一般人ではない。彼女もまた普通ではない人物だった。

「リーダーか?」

「ええ」

 女性は答えると自分より体格のいい男の体の腹に足を引っ掛ける。そのまま足を前方、百緑の立っている方向に振り上げる。

 鎖に繋がれている男の体は百緑の足元に転がる。

 その不誠実な行為を平気でやり終えた女性は尻ポケットから鉄の塊を取り出す。

「役立たずと、敵対勢力と、証拠隠滅のための後始末」

 そう言うと鉄の塊を投げると、女性は身を翻して一瞬で加速しこの場から逃げる。

(手榴弾かッ!)

 すでに起爆のためのピンは抜かれていて、爆発するまでは一秒も無かった。

 炸裂する激しい音とその爆風で周囲を荒らす。

 間一髪。

 百緑は一秒の間に二つのことをこなした。

 

 一つは少年と少女も体と共に身を守るために伏せること。

 もう一つは爆発の衝撃を和らげるための壁。


 壁として手っ取り早く使えたのは、仲間であっただろう女性にゴミのように扱われた男の体。おそらく彼はまだ死んでいなかった。

 彼女と同じく非人道的な行為であっても、そのようなことを気にして自分が死んでしまうよりかは断然いい、それが百緑の考えだ。

 百緑は床に伏せたので男がどうなったのかは見えない。確認するまでも無いことだが。

(やはり修正者リバイスだったか)

 確信に満ちていた。

 彼が伏せたのは炎の消えていない、まだ焼け野原のようになった場所だ。伏せる時に少年少女と共に伏せた。

 すると伏せる直前にその場は鎮火された。

 要因は百緑ではない。

 炎の津波が襲っても彼らのいた場所だけ燃えていなかったのと同じように彼らがいる場所は炎が消えた。

 予想通りだった。

 だから確信が得られた。

(さて、我々も退散するか。後始末は彼女がやってくれたわけだからな)

 百緑は仕事が一つ減ったとわずかに喜ぶ。

(とりあえず外に待機させているフェルメールの治療を受けてもらうとしよう……。残念ながら修正者リバイスの方は治療ができないがな)


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