四章(8) 病室2
「ん……」
藍は病院の一室で目を覚ます。
時刻は午前零時三十分。
日付が変わってから三十分が過ぎていた。
若葉の容体が回復したため、緊張の糸が切れたのか寝てしまっていた。頭を預けていたベッドから離すと、今でも若葉は寝息を立てているのが確認できた。
「今回はあいつに感謝すべきなのか……」
いやいやそんなことはない、と気分を変えるために窓の傍に行き、カーテンを開けて遠くを見る。この病室からは新代荘がある方向が見える。
「あれは……」
もう深夜だ。普通の人だったら暗闇になった町が見えるだけだろう。
しかし、藍には別のものが見えている。
彼女の『異常』な目だからこそ見える。
それは新代荘から少し行ったところにある火災の起こった雑木林の地点。
暗闇の中、ゆらゆらと揺れる白銀の帯のようなもの――――――藍がオーラと呼んでいるものだった。
藍の目には異常がオーラとなって見えるのだ。修正者のアメンドさえ除けばどの異常も見ることができ、またその人物が改変者であるかを判別することができる。
そしてかつての仕事に役立てていた彼女の目に写っているのだ。今。
しかも雑木林から病院まではかなり距離があるというのに見えるほどの大きさ。改変者が力を大きく使っているときにはこのようにオーラは大きくなる。
(あれは……まさか!)
彼女には見覚えがある。
なんといっても今見えているオーラは、藍が毎日見ているのだから判別はほぼ当たっているといってもいい。だがそれには混ざっているのだ。一つは白色。もう一つは銀色。
「あの子達……まさか!」
藍は若葉の様子を見る。
可愛らしい寝息を立てて眠っている若葉の頬を優しくなでる。
「若葉ごめんね。ちょっと行ってくるわ」
藍は眠っている若葉にそう声を掛け、病室を飛び出す。
(私はなんて馬鹿なことを! 目先の悲劇に捕らわれてそれ以外に目が行き届いていなかった! 何のためにあの世界と縁を切ったの? 私は! 結局また、私はあの子達を巻き込んだだけじゃない!)
八年前の出来事を繰り返さないで、と藍は願った。それを起こさせないために彼女は彼らの元へと急ぐ。
話ごとにむらがありすぎてすみません。場面ごとに分けようとするとついこうなってしまい。ちなみに次話は長いです。