四章(6) 不安定な世界
世界の異常。
この世界は、元々は正常だった。そんなものは存在していなかった。だが現在は『異常』が存在することによって不安定な状態となってしまっている。
元々無かったものが存在するということは外部から持ち込まれたということだ。
こことは違う別の世界から。
その世界では異常が存在した。だが、そちらの世界にとっては異常とは見なされなることはない。存在していることこそが通常なのだから。
そして異常をこの世界に持ち込んだことで、この世界をこのような状態にしてしまった存在は神とも称され、この世界を訪れた最初の『訪問者』。
この世界は改変される。想像だけでしか起こりえないことが起こる世界へと変貌してしまう。
この世界は正常だ。だから、その神なる存在はこの世界にとって凄まじく強大な『危険因子』となる。その結果、この世界である新たな異常がを生み出されるという現象が起きる。その際に生まれた『異常』こそが――――――
アメンド。世界をもとあるべき姿へと修正する力。
それを身に宿した修正者。この世界に新しく生み出されたアメンドというものは神のような存在が持ちこんだ異常とは違った。アメンドの存在理由はただ一つ。
他の『異常』を打ち消し、消滅させる。つまり外部から持ち込まれたものを消して元に戻そうとする世界の機能。
彩人は神話じみた話を聞かされてもいまいち掴めない。
ミロリーはそれを人体に置き換えて説明する。
この世界を、人体。
異世界から持ち込まれた異常を、体の外から入ってきたウイルス。
アメンドを、白血球などの体を守るためのもの。
するとわかるだろうか。人体へ侵入したウイルスを白血球は消そうとする。この世界もそれと同じだ。世界を外部から侵入してきた存在から守ろうとする。
しかし、アメンドも万能ではなかった。『究極の異常』を持つ神のような存在はこの世界によって消滅させられたが、その代わりに持ち込まれた無数もの『異常』がこの世界に散らばった。
究極の異常とは、全ての異常を意のまま操ることができ、一つに束ねることができる力。世界を自由自在に変えることができ、世界の創造さえできる可能性を秘めている。
だからこそ、神と呼ばれるのだ。
だが、あくまでもこれらは全て、改変者と修正者の間で、広く、長く、語り継がれてきているものだ。真実かどうかはわからない。
本題はここから、とミロリーは続ける。
現在の話。
この世界には異常を削除、または一般に被害が及ばないように活動する組織が存在する。
その名はOASP。正式名称は『Organization Anti Supernatural Phenomenon』
世界規模の組織で何十年、何百年、起源は不明。ただ昔から存在していた。
その組織は異常がこの世界に及ぼす『影響度』によって等級を決めた。それは上から順にAからEまでの五段階と定めた。Eはほとんど影響を及ぼすことはなく、他人に害を与えたりはほぼできないと言っていいだろう。しかし、Aともなれば話は別。規模はとてつもない大きさになるり、大災害に匹敵するほどの影響力を持っている。
そして、何事にも例外はつき物だ。
彩人の持つのはAからEの五段階には含まれない。含まれないものとして、『アメンド』もそうなのだがこれはその存在意義から、世界に与える影響力は無い。
もう一つは、最も世界を改変しうる異常。それは『マスター』と呼ばれ、S等級と定められている。先ほどの神なる存在の持つのもこれに含まれる。
マスターはある特有の性質がある。それは他の異常への干渉。異常をさらに異常なものへと変えさせることも意味している。だからこそOASPはこれを特別視し、また最も危険な存在と見なした。
この世界は改変と修正、二つが同時に行われるからこそ不安定なのだ。どちらかに傾かない限りそれは続く。そして改変者と修正者、どちらかがこの世界からいなくなったその時、この世界は安定を成す。