world
この世界は正常ではない。
『異常』がところどころに存在している。
でもほとんどの人々はそれに気付くことはできない。気付いているのは一部の者達だけ。
俺もその一人だった。
だった、というのはもちろん過去の話。
これが俺の運命だったのかもしれない。
一度でも『異常』と接触してしまえば、それは知ってしまったということ。知ってしまった以上『異常』に溢れた世界からは抜け出すことができない。
中にはただ夢でも見ていたんじゃないか、といった風に見過ごすことができる者も居るかもしれない。だけどそう簡単に見逃すことはできない。
世界が正常な部分で生きている人々が『異常』と交わってしまうのは、大部分がもう知らぬ間に関わってしまっているのにまだそれに気付いていない人々。
俺はその中に含まれた。
元からそちら側の世界に関わる運命だった。最初から。
一度だけ。
たった一度で自分のいる世界から違う世界へと変貌してしまう。
俺の場合は高校一年生の冬、雪が舞い散る銀世界で起こった。
それは俺を、俺の世界を変えてくれた彼女との出会いでもあった。
この出来事さえなければ俺はまだ普通に世界の裏事情なんかに首を突っ込むことにはならなかったのかもしれない。
でも、俺はこちらの道を選んでしまった。
後戻りはできない。
後悔は無い。
この時の判断は間違っていなかったはずだ。そう信じなければならない。
俺の世界はここから変わってゆく。
いや、それは俺が知らないだけで、もしかしたらもっと前から始まっていたのかもしれない。『前』の俺だったらもしかしたら……。
だが『今』の俺にとってはこれが全ての始まり。
この物語は異常な世界へと誘われる転機の物語であると同時に、これからの物語を彩っていく上での最初の色となる。
銀色。
それは一面の雪の世界のように美しい彼女を連想させる色。
対して白色とは無の色。空虚で。儚くて。何の鮮やかさもない。
一見銀色とは似通っているようにも見えるが、一点において違いがある。
それは輝きがあるかないか。
一度は全てのものを失い、リセットされた白色の少年はその輝きに満ちた少女に魅せられる。そして彼女はその美しい銀色で彼の白いキャンバスを彩る。
これは白色の少年と銀色の少女の物語。