四章(4) 彼らを繋ぐもの
電気はついていない。
明るい部屋にいたい気分ではなかったのでもともとは点いていたが、ルネが自分で後から消した。
彼女が顔を押し付けている枕は濡れている。
たびたび嗚咽が漏れる。
彩人は記憶が無くなってしまった原因は自分の持つ『異常』な力だと言った。記憶はその力を使うためのエネルギーとして消費されたのだ。そのようなことも知らず自分は大切な思い出を無くした。
ただ出かけただけ。
最後は喧嘩をしたようになってしまった。でも彼女は大事にしていた、その思い出を。新代荘に来るまでの記憶は正直もう思い出すことはないだろうと何となくわかってしまっていた。だからもう諦めていた。
でもその後から失った思い出は違う。失いたくなかった。新しい自分の思い出を積み重ねていこうと決意した矢先の出来事なのだった。
だからといって力を使わざるを得なかった。
そうでもしなければ自分の大切な人が死んでしまっていたから。
死んでしまったらもう一緒に思い出を作ることは出来なくなってしまう。それは嫌だ。だからこの結果は正しかったのでは、とも思えた。
後悔はない。
絶対にない。
目から流れ出すものが止まらない。鼻もすすらないと垂れてくる。
「うぅ……」
寝てしまったら楽になるだろうか。
忘れることができるだろうか。
忘れるのは今このつらい気持ちだけでいい、大切な思い出は忘れたくない。
でも寝付けない。
目をつぶってもつらいことからは逃れられなかった。いつまでも頭の中でつらいことが残り続ける。
胸が苦しい。
彩人にたくさん迷惑をかけてしまったのではないだろうか。
「彩人……」
彼は泣きじゃくるルネをここまで連れてきて藍に任されていたことも彼が代わりにやった。
ルネは迷惑をかけたのに礼を言っていなかった。
「謝らないと……」
目を服の袖で拭って立ち上がる。暗い部屋にずっと居続けたせいか暗闇でも少し目が見える。電気を点けずにそのまま自分の部屋を出て、彩人の部屋に行く。
彩人の部屋は鍵が掛かっていた。
ルネは、夜は鍵を閉めなさい、と藍に注意されていた。しかし、彩人がそこにいないということがわかる。
「彩人……どこ?」
夕方、攻撃してきたミロリーが言い残した言葉を思い出す。
「ぞうき……ばやし?」
彼女は日曜日にその場にいたのだが、その時の記憶はもう失ってしまったため、どこかさっぱり知らない。
「だめ、彩人が、彩人が……」
自分が行かなければ彩人がどうなるかわからない。へたしたら死んでしまうかもしれない。
ぐずぐずしている暇は無かった。
ルネは彩人の元へと走る。
「彩人」
彼女は何となくだが、わかる気がしていた。彩人がどこにいるのかを。
その手がかりを証明する方法はあるのかどうかはわからない。
ただ当てにならない理由を一つ述べるならば、彼らはあの時から切れることの無い『何か』で繋がれているのかもしれない。