四章(1) 悲劇の連鎖は止まらない
四章に突入です! シリアス展開に入り、ようやく物語も本番です。一番長い章となりますが、お付き合いをお願いします。
彩人、ルネ、藍の三人がいるのは病院の一室。
だが、もう一人。
新代若葉。
帆布南高校一年生。水泳部所属。好きなものは犬や猫の小さな動物。嫌いなものは昆虫、爬虫類。得意なことは水泳。苦手なことは料理。明るい女の子で学校のクラスでは人気者。そして何より――――――家族思い。
彼女は今眠っている。
清潔感漂う白いベッドの上で。
いくら名前を呼んだところで目を覚まさない。
「若葉……」
ルネが嗚咽を漏らしながら若葉の名前を呼ぶ。もちろん若葉が目を開けることは無い。
彩人は椅子に座って、歪んではっきり見えない若葉の寝顔を見つめていた。
藍は何も話さない。
不運だった。
若葉は今日、部活が無かった。同じく幸祐の方も休みになっていたので、若葉は前日に靴を買いたいと陸上部の彼に頼んでいたのだった。行き先の店は後に火災の起こる総合スーパーマーケットのテナントだった。火災が起こるとも知らず仲良くその店で品を眺めていた。
そして火災が起こる。
幸祐の方は軽症で済んだとのこと。
だが若葉の方は重傷だった。事件発生から一度も目を開けていない。
火傷などの外傷もあったがそれよりも問題はそちらにあった。意識不明のまま救急車で病院へ搬送。
その後、幸祐からの連絡を受けた藍は事件のことを聞く。
三人が病院に駆けつけたときには幸祐の姿は無かった。
時間だけが過ぎる。
午後六時。
冬なので日没が早い。もう外は暗くなっていた。
「あなた達はもう帰りなさい」
長い沈黙を破ったのは藍だった。俯いていた他二人は顔を上げる。
「いや、残る……。それに幸祐はどこへ行ったんだ?」
「幸祐は警察に事情を聞かれているそうよ。あの子も最初は気を失っていて若葉より先に目が覚めたって言っていたわ。若葉をほったらかしにしているなんてことは絶対にないわ」
「そんなことわかってる」
幸祐は若葉を大切に思っている。そんなこと新代荘の誰しもが知っている。
「ルネ……あなた、もうご飯と味噌汁だったら一人で作れるわよね? 帰って五人分の夕飯を用意しといてくれない?」
「え……でも……」
ルネが若葉の顔を見る。
「あなたの仕事よ。彩人、あんたも帰りなさい。ここは私一人で大丈夫だから」
「藍さん……」
「行って」
「……」
「行って」
もう一度言われ、彩人が藍と目を合わせてから、一度閉じて立ち上がる。
「わかった。いくぞ、ルネ」
「え」
「いいから……」
彩人は彼女の手を引き病室を後にした。
若葉が搬送されたのは帆布区の中心―――火災の起きた総合スーパーマーケットから西にもう少し行ったところ―――に建っている。新しく、設備も充実している方の病院である。
彩人はベージュの外壁の病院を見上げる。彼が見ているのは先ほどまで自分のいた病室のあるところ。辺りは街灯がもう明かりを照らしていなければ暗くて見えないくらいだったので、病室の中からの光で照らされているカーテンしか確認できない。
ルネも彩人が見ている方向を見ていた。
彩人が先に立ち止まっている足を動かして病院に背を向け、ルネの横を通り過ぎる。
「……」
ルネは彩人に声を掛けようと思ったが口からは何も発することができず、わずかに動いた手は彼には届かず宙を掻いただけ。
彩人が一人ですたすたと歩く。
それにルネが後ろから付いて行く。
会話は無かった。
冬の寒さに劣らずと日没後の町は賑やかだった。
帰宅ラッシュで車が眩しいライトを付けながら走っている。向かい側から走ってくる車がそのライトで二人の顔をなでるようにして隣を走り去っていく。
周囲には食べ物の匂いが漂う。主に肉が焼ける匂いが最も強かった。アルコールの匂いもそれとなく感じることができる。
仕事終わりのサラリーマンが談笑でもしながら飲んでいるのだろう。酔っ払った人が何か叫んでいるのも聞こえる。
また他にも若者たちの集団がわいわいと騒いでいたり。
時折、消防車を見かける。巡回して火事が起こっていないかパトロールをしているのだろう。
夜の町は昼よりも明るく見える。おそらくそれは一週間以上に渡って、空をずっと覆いかぶさっている灰色の雲が青空をいつまでたっても見せようとしないせいだろう。そのため気温上昇が気温低下をいつまで経っても上回らない。灰色の雲はさらに雪を降らせ、地上の人々に意地悪をしているかのようだ。
彩人は足を止めた。
そこには何台かのパトカーが止まっており、赤いランプが眩い。
夜の町が明るいおかげで炭や煤で黒くなったこの場所もどういう惨状かを確認することができる。
総合スーパーマーケット。
昼間までは買い物客で賑っていただろう。しかし、今は物静かなものだ。
まだ冬とはいえど閉店時間にはまだ早い。来店客は一人も居ない。黄色いテープが張られて店内には入れないようになっているのだから当然だ。
来店客は一人もいないが代わりに全員同じ服を着た人たち。彼らはせっせと働きアリのごとく働き続けている。
「変わり果てたな……」
彩人の口からこぼれ落ちるように出る。
総合スーパーマーケットは駐車場や道路などで他の建物とは接していないので、他の建物はそのような惨状にはなっていなかった。それゆえ、周りからは目だって見える。周りより大きい建物だから、といういつもの理由とは違って。
「最初に出かけた場所だったのに……」
全くと言っていいほど力のこもっていない声。
彩人は聳え立つその三階建ての建物を見上げる。
「さいしょ?」
「ああ、残念だったな……ルネ」
ここは彩人がルネと初めて出かけた場所。ルネにとっても思い出となった場所であった。
はずなのに。
「ここ、どこ?」
「なに言ってんだ? ここはルネが初めて出かけた場所。その服だってこの場所で買った。まあ、様変わりはしちまったけどな……」
「服……ここ……買った……?」
「俺たちがここから離れた後もまだ燃え続けたんだろうな。一応、お前との初めての思い出って感じがちょっとしていたのに……」
彩人は悲しそうな目をしながら言う。外見でこれならば店内はもっと悲惨なことになっていると思われた。これだと本格的に取り壊しにしてまた建て直すしかない。
「どういうこと?」
「本当に……最悪だよ」
彼はまだ気付かない、彼女の身に起こった問題について。
「わ、わたし……え? この服……どうして?」
「どうした、ルネ?」
「この服……ルネの……服?」
ルネの様子は明らかにおかしかった。先ほどまで二人とも暗闇のように沈んでいたのに今はそれとはまた違うものだった。困惑している。
「ああ、そうだが。……って、おい、どうしたんだ?」
彩人も急変したルネを見て、沈んだ気持ちから焦りに変わっていく。
ルネは両手を頭に当て抱えこむ。目の焦点が合っておらず動揺しているのが見て取れる。彼女の足が力なく崩れ、地べたにしりもちをつく。
「な……んで?」
その問いは自分自身に対して投げられていた。
「おい! しっかりしろ!」
彩人は彼女を正気に戻すために肩をゆする。
(若葉のことのショックが大きすぎたのか……。俺だってあんなの納得いくわけがねぇ!)
「さっきのこと……本当?」
わらわらとした声で彩人に尋ねる。
「は?」
ルネとの会話にややずれがあることを彩人はようやく気がつく。
ルネは彼の顔を見続けている。体はひどく震えていた。
「さっき?」
「服のこと……」
「服? ここで買ったって話か?」
(何で服のことなんかを……)
彼はルネの言う事に場違いさを感じてならない。ちょっと前には何の罪も無い若葉が事件に巻き込まれて、今でも意識不明だというのに。溜まりに溜まったわだかまりをルネにぶつけそうになる。彼が自分の無力さに対する怒り、若葉があのようなことになってしまった怒りなどを弾けさせてしまうほど、ルネの言葉に苛立ちを感じる。
(今はそんなこと話している気分じゃねぇんだよ! こういう時ぐらい空気を読んだらどうなんだ!)
「ああ、そうだ! 俺たちが火曜日にお前の服を買うためにいっしょにここへ来た! それがどうした!」
彩人は怒鳴りつけるように言ってしまった。しかし、それは正しくなかったと証明させられる。
「ほん……とう……?」
「―――ッ!」
ルネは泣いていた。
彼は迂闊だった。それを見て面食らってしまう。
「わ、悪い……」
地べたに崩れ落ち、また表情も崩れてしまったルネは彩人の足を掴む。
「なんで?」
「おい、本当にどうしたんだ?!」
ルネは泣き崩れて嗚咽ばかりが漏れる中で、途切れ途切れながらもその口から言葉がつむがれる。
「なんで、ルネは、憶えて……いないの?」
彩人は一瞬、時間が止まったような気がした。一生懸命脳を働かせようとするのに理解が追いつかない。
「い、ま、なんて?」
「思い……出せない、の」
ルネの大きな水晶玉から出た小さな水晶玉が彼女の頬を転がり、雪の上に落ちて溶け込む。
「思い、だせない……だと」
そんな馬鹿な、と彩人は思う、いや、思いたいがルネの様子がそれを真実だと物語ろうとしている。
「う、嘘だ、そんな記憶が……」
「わたし、そんなの、知ら、ない!」
ルネの言葉を嗚咽が分断する。
(どうして……なんで……。ルネは一度すでに記憶を無くしているんだぞ! それなのにまた、また記憶喪失なんて! ありえない、ただちょっと忘れただけだ!)
「ただ思い出せないだけなんじゃないのか? 思い出せ、ルネ! その日は朝から、俺は学校をサボってお前と一緒に新代荘を出て……それから!」
「彩人が、その日、帰ってきたの、は覚えてる。なのに、その後、なにがあったの、か少しもわから、ない。真っ白なんだよ」
(なぜだ? どうして記憶を失った? 違う、前にもあったような……いや、前にもあったはずなんだ!)
「そうだ……」
男との戦闘した時を思い出す。ルネは力を使って彩人の身を守った。その際、ルネと少なからずだが会話を交わした。顔も向け合った。
次の日、彩人がルネと話したときには、男のことも自分が力を使ったことも憶えていなかった。
「……よく考えたらおかしくないか?」
感覚的に彩人が背中に彼女を負ぶっていた時のぬくもりだけを彼女は憶えていた。彼女は衰弱していたとはいえ、意識はある程度あったのではないか? 彩人を守ろうとしたのだから。彩人が守る対象だとも知っていた。あの男が敵であることも。
単にその場の状況で咄嗟の判断で決めたと言ってしまえば正しいとは言えないが。
しかし、あの衝撃的な光景が記憶に残らない?
彩人は焼き付けられたようにしっかりと憶えている。
(じゃあ、なんで戦闘について全く憶えていない?)
そして今日、ルネはまた記憶を失った。
日曜日と今日の共通点。
彼女は同じ行動、そして彩人は同じ経験をした。
「まさか……」
その二つの日に彩人は襲われた。
では、その二つの日にルネは何をしたのか?
「力を使って……俺を守ろうとした」
時に大きな力には代償が伴う。
それが彼女の場合。
記憶。
「これからは二度とその力を使うな!」
「え?」
「氷を出したその力だ。その力の代償が記憶だったんだ! だから力を使った後に記憶を無くす!」
「そん、な……」
「いいか? 確証は無い。これはあくまでも俺の推測に過ぎないかもしれない。でも、二度と力を使わないと約束してくれ!」
ルネは少し躊躇った表情を見せる。
「……わかった」
ルネは新代荘に帰るまで目から流れる雫が落ち続けた。空からは雪が落ちてくる。
彼らは藍の部屋に入り、彼女が藍に任されていた夕食作りは彩人が代わりしてあげた。幸祐は帰ってきていなかった。
ルネはご飯に少しも手をつけようとしないので、彼女の部屋に連れて行って寝かしつかせる。
「落ち着いてからでいいから……飯は食べろよ」
「……」
ルネ彩人と顔を合わせようとせず、何も話そうとしない。
「じゃあ、俺は自分の部屋に戻ってるからな」
彩人はそう言って、そっと部屋から出て行った。そして自分の部屋に戻るなり布団に体を叩き付けた。
苛立ち。
ルネがまた記憶を無くした。
さらなる問題により彩人は追い詰められる。
「くそ、くそ、くそ!」
握りこぶしで布団を殴りつける。
「なんで、なんで、俺は……俺は!」
何もできない。
彩人にとってそれが一番嫌なことだった。
ルネの記憶が取り戻せないのも。
若葉が怪我をしたことも。
襲われた時も。
自分は何もしていない。
ましてやルネが自分を守ったせいで記憶が無くなったのかもしれないのだ。
そしてふとあの始まりの夜でルネが最後に言った言葉を思い出した。
「たぶんルネも次に目が覚めたら『今』のルネではなくなると思うから」
彩人には最初はその意味が全くわからなかった。いままで気にも留めていなかった。それは間違いだった。その言葉の意味に早く気付いていれば、もしかしたらルネが記憶を失くさずに済んだかもしれないのだ。
(あの時、ルネは知っていたのか?! こうなることを!)
そして他にも。
「それと、彩人には世界を変える力がある。だから諦めちゃ駄目だよ」
俺にできること、と考える。
(そんなの……違う)
無力。
そう、彩人は無力だ。
「俺にできることはないのか?! あの時だってルネがいなきゃ、今頃もう死んでいた! 代わりにルネの記憶が無くなったっていうのに!」
隣の部屋ではルネが寝ている。
それに気がついて唇を噛み、自身を黙らせる。
時計の音だけがカチカチと音を立てる。
(時計……?)
九時二十分。
「あ、あぁ、ああぁあ!」
十二時まで残り三時間を切っていた。
良い言い方をすれば、待ち合わせ。
悪い言い方をすれば、取引。
ミロリーが提示した条件。
ルネを渡せ。
もし、渡さなかったら派手に行動を起こす。
若葉は意識不明になった。
じゃあ、彼らが強行的になって出たらどうなる?
新代荘の皆は?
そんなの決まっている。
殺される。
容赦なく。
ルネは連れて行かれる。
ミロリーが出したもう一つの条件。
ルネを大人しく渡せば、新代荘の皆は……否、一人を除いて助かる。
できるわけがない。
彼女を見捨てることなど、できるはずが――――――
■□■□■
「あと五分……」
ミロリーは腕時計のライトを付けて時間を見る。
彼女は数日前に火災が起こった雑木林の中で、黒い煤になっていない表面の木に体の体重を預けながら日付が変わるのを待っていた。
十二時が取引の時間だった。
「さて、目標が来るか……それとも、坊やが来るか……」
気温はもちろん低い。氷点下に達していてもおかしくないくらい寒く、じっとしていると体温をすぐにもっていかれそうになる。
「まったく」
言葉をため息混じりに吐き捨てる。ため息は寒気に冷やされて水蒸気ができ白くなるが、真っ暗な雑木林の中では確認できない。
腕時計のライト機能(こちらの機能は白色電球が使われ明るさが強い)でしか辺りを照らせないため、ポケットからライターを取り出して、根本が焼けて倒れてしまった樹木の上に落とした。
それから灯油を入れた小ビンもそこに投入する。すると、たちまちその樹木を炎が包み込む。炎が暗闇を照らす。
「私らしくも無いことをしているわね……」
請け負った仕事は絶対に成功させなければならない。
それは何年も心に決めてさまざまな汚れた仕事をしてきたつもりだった。今回の仕事は標的の捕獲。これから、その仕事を全うしようとしているわけだが、今の自分に呆れていた。
「今回の私はどうかしているわ」
これは趣味ではない。仕事だ。いつもどおりだったら、すぐさまにでも標的の確保。もし妨害が入ったら障害を排除する。
今回はそれが全くこなせていない。
一回目に標的に接触した時点で周囲に、標的と関わりを持ったと思われる人はいなかった。確かに町中で人はそれなりにいたが、そのような障害はどうとでもない。それ相応の処置をとれば周囲の目など気にすることは無かった。でもそうしなかった。
二度目の接触。その時には標的の知人が一人。どうみてもただの少年でしかなかった。何か戦闘に長けているというわけでもない。集中力にかけた少年で一瞬のうちにふところに飛び込めそうなほどだった。
「あと三分」
それでも少年は自身の部下の一人と接触し、標的を連れて逃走に成功している。まだまだ新米のがさつな男だったが、それでもD等級の改変者である彼から逃走できたのは中々のものだと感心してしまう。
たいていの一般人だったら腰を抜かすか、パニック状態になってもおかしくないというのに、標的を連れて逃げるという自分には信じられない決断に至ったのだから、その少年には恐れ入る。
そのような珍しく、さらに面白くもあるその少年に、無意識のうちに手を抜いていたのかも知れない。
「次は何を見せてくれるのかしら」
くすくす、と笑う。
あの少年には『何か』がある。長年の勘がそう告げている。
「そろそろ、あっちも始まっている頃ね」
ミロリーが自分たちの隠れ拠点にしていた根城を頭に浮かべる。
今、彼女は一人だ。
他のメンバーはここにはいない。彼女が根城にしている場所に残るように命令をくだしたからだ。
この仕事は自分単体でも遂行できるものだから一人でこの場所にいるという理由ではない。彼らには重要な仕事を与えていた。
「ごくろうね、囮さん達」
ミロリーは今頃、自分の根城が襲撃を受けていると予想する。依頼主からは詳しいことを訊くことはできなかったが、知らないところでも色々な組織、人々が動いているのはとっくの前から気づいている。その中には仲間とは呼べないが同じ、依頼を受けた狩猟者も含まれる。そして、もちろん敵対勢力も。
標的にファーストコンタクトをとってから一週間が経とうとしている。敵対勢力の妨害が本格的に入るのも時間の問題だった。
ミロリーの予想ではおそらく今夜。
だから囮としてメンバーを残してきた。自分の方で本来の任務を遂行するために。
「あと一分」
任務はあくまでも標的の捕獲。敵対勢力との交戦ではない。
だから無用な戦闘をしないためにも穏便に動いていた。
「あいつも飛んだお荷物だったわ。罰はしっかり受けてもらったことだし」
標的とのファーストコンタクトが新米のメンバーだったことは不運だった。穏便に行動しなければ敵対勢力に見つかってしまう。現に少人数だが見つかったとも聞いている。
ミロリーのいる雑木林は焼け跡と化している。どう考えても穏便ではない。一番厄介な一般人の方でも公になってしまったために警察が動いている。
彼女たちの存在は表沙汰ではない。だから知られると面倒なことになる。
なのに今日も大事になってしまった。標的を見逃してでも事態収拾に向かったことで、表沙汰にはばれなくて済んだ。だが、その時、敵対組織の一人と接触してしまった。彼は殲滅よりけが人の救護を優先したようだったが。
「来たわね」
もてれかかっていた木から離れる。
がさがさと雪を踏む音。
誰かがこちらに走っている。その足音は一人分。
「さあ、どちらがきたのかしら」
ミロリーは楽しくて仕方がなかった。
『異常』とは正常でないこと。つまり予測もできない未知なるもの。ありえないと思えることだって起こる。
だからこそ、楽しみなのであった。彼らがいったい何を見せてくれるのかを。