三章(7) 狩猟者《ハンター》強襲
「また会ったな」
背後からの声は彩人の背中に寒気を走らせる。
その声に聞き覚えがあった。
(嘘……だろ……)
平穏は一時の夢を彩人に与えていた。
だが彼はまだ全てを解決したわけではなかったのである。
「彩人?」
ルネは彩人の顔を一度見て、声をかけた背後に立つ人に目を向ける。彼女はいつものように見知らぬ人を前にして震えていた。
しかし、震えているのは彼女だけではない。
彩人は震えを止めることができないままゆっくりと後ろを振り返る。
男が立っていた。
サングラスを掛けている。
「なんで、なんでこんなところにいるんだよ……」
彩人はその男が今この場所にいることに心の底から憎み、落胆した。
男は不気味な笑みを浮かべる。
「ふんっ、いやあの時、本当に俺も死ぬかと思ったさ。『OASP』の連中まで現れた始末だからな。まあそこの『標的』のおかげで奴らにその場で殺されなかったんだけどな」
彩人は男の声には耳を傾けず周囲を見渡すため目を動かす。
(少ないが人はいる……。だったらこいつは前みたいにあんなことはできないはずだ)
彼はいざとなったら周囲に助けを求めることができるとわかって少し安心する。
「なぜ俺がここにいるか……。その問いの答えは決まっているだろう? 標的の確保」
男がルネの方を見る。
彼女が怯えるのを彩人は自分の後ろに立たせて庇う形になる。しかし、それは庇っているとは到底いえるはずが無い。彩人は無力だ。この男には敵うはずがない。それは当の本人も十分に承知していた。
「個人的な行動はしてはいけない規則だがな。そうさ、知られたからには消すこともあるのさ。まあ、どう言ったとしても、本命は俺のただの憂さ晴らしだけどな。だからな―――」
彩人はせっかく取り戻した安心を失っていく。とりあえずの安全を確保したはずなのに直感的に危険を感じる。
「お、おい……ここは人が、他の人もいるん――――――」
「お前を消す!」
突如、熱風が吹き荒れる。
(おい! 人前では暴れないんじゃなかったのか?!)
熱風が押し寄せるため目がわずかしか開けられないが、そのわずかな隙間から男の手に炎が燈っているのが確認できる。
店内の火災報知機が甲高い悲鳴を上げ、スプリンクラーが慌しく働きだす。
「はっ! もはや、周りなど関係ない! まとめて燃やして灰にしてしまえば問題ないッ!」
男が両手腕を振ったことで周囲のテナントに火が移る。衣類などの商品に次々に引火し、火災範囲は広がっていく。
「おい! なにやってんだ!」
彩人は男のとった行動が信じられなくて思わず叫ぶ。
周りからは火事だ、逃げろなどと人々が騒いでいる。
「消してやる。灰も残らずになあ!!」
男は容赦なく彩人に炎を振りかざす。
「あ、彩人!」
ルネが彩人の袖を引っ張る。
彼女のおかげで彩人は「こんなことをしている場合じゃない」と気付かされ、ルネの手を引いて何とか炎を避ける。
彼らが避けたことによって炎を代わりに受けたショーガラスが、パリン、と音を立ててガラス片を撒き散らす。
「うっ……」
ガラス片は彼らを襲う。
しかし、ガラス片は運よく男の片目にも当たり、男は一時ひるんだ。
現在、彩人たちがいるのは幸い一階であり、彩人はルネの手を引いて一直線に出口を目指す。
当たりからは黒煙が立ち上り天井に溜まっていた。
「ルネ! 鼻と口を押さえてろ!」
彩人はルネの方を確認する暇もない。一目散に逃げなければまたあの男が追ってくるのは明白だった。
(あいつ、こんな人の多いところで……)
店内には煙が充満し、視界を邪魔する。
「くそ! どこ行きやがった!! ぶっ殺してやる!!」
男は憤慨し声を荒げると、再び熱風が吹き荒れた。
何から何までも焼き尽くすつもりで男は炎を乱暴に振り回す。まさしく無差別な攻撃。
(出口はまだか!)
煙が目にしみる。目をつぶってしまうのを必死で堪えながら、わずかに明るみのある方を見続ける。
その彩人の努力を裏腹に視界は霞を増していく。
(なんか……ぼーとしてきた……)
どんどん意識が遠のく。「これが一酸化中毒って奴?」などと無駄なことがぼんやりと頭に浮かぶ。それでも体は頭の命令を必要としないかのようにただ前へと進む。
彩人は気付いた時には店の外にいた。苦しい中、休みたくてしょうがなかったがそれは許されない。
「大丈夫か?」
自分と手の繋がっているルネへと振り向く。
「う、うん……あ、彩人! そ、それ!」
ルネが目を見開く。
「……ん? ああ、たいしたことねぇよ」
彩人は右手で頬の血を拭う。
ガラス片が飛び散った時に切れた傷。
「そっちは当たらなかったみたいだな。よかった……」
ルネはフードをずっと被っていたのが幸いして直に顔には当たらなかった。さらに冬服であったこともあり露出度が少なかったため手足が傷だらけということもなかった。
「彩人はだ、大丈夫なんかじゃ――――――」
「それより、早くここから離れるぞ!」
彼女の言葉を遮る。
店の外は大騒ぎだった。消防隊員たちも駆けつけて消火活動および救助活動に取り掛かろうとしている。外からでも黒煙が立ち上っているのは確認でき、爆発音も数回聞こえていた。
彩人は消防隊員に捕まる前に早く退散しようと思った。
(あいつの狙いは完全に俺たちだった。だから奴は意地でも俺たちを追っかけてくるにちがいない!)
彼は消防隊員に怪我の状態やらの尋問をされて足止めをされるわけにはいかず、まして救急車にお世話になるなどしたら奴は病院まで襲撃するんじゃないかと危惧すらした。
繋いだままのルネの手を再び引っ張り、人だかりの中を通り抜けて火災現場からひとまず脱出する。
「とりあえず新代荘に帰るぞ!」
「わかった!」
人々のざわめきが激しいので大声で伝え合う。
町中を二人で駆け抜ける。
彩人は走りながら火事のことを話す人の声が聞いた。雑木林の火事といい、この辺りの人々は多少火事に敏感になっている。
彼はあの火事で他の人には被害が及んでいなければいい、と切実に願う。俺たちに責任はない、と言い逃れはできない。
(あの男が発端とは言え、紛れもなく俺たちが原因だからな……)
それでも自分たちの身は守らなければならない。
他の人たちに構っている暇などないのだから。
彩人はもうあの夜の事件は終わったと思い込んでいた。
しかし、今日、あの男は再び自分たちの前に現れた。
それは、つまり、あの男はいつまでも自分たちを狙い続けるということ。
あの男が警察にどうこうできる相手ではないことなど明白だった。
(どうすることもできない。でも、今は逃げるしかないんだ)
彩人とルネは走り続ける。
雪降る町を。
逃げ惑う。
『異常』から。
彼らは不可能だとも知らず。
「そこのお二人さん? ちょっとストーップ!」
彩人とルネが車二台ぎりぎりすれ違えるぐらいの幅の通りを走っていた。そこは町から住宅街に入りかけるところにある。彼らは声をかけられたが、前だけ見つめ走り続けていたために気付かなかった。
彼らが一人の金髪の女性とすれ違ったことに。
「チッ……」
金髪の女性は二人に気付かれなかったので深くため息をつき、ジャケットの裏に隠していた金属の塊を取り出し――――――
鋭く、そして短い音が響いた。
必死で走っていた彩人とルネの足が止まる。
「無視はやめてほしいわねー」
金髪の女性の声。
(今の何の音だ?)
そう思って彩人は後ろを振り向く。
今は逃げることに集中するべきなのに彩人は足を止めた。そしてルネも。
それは反射的に体が固まったからだ。
「だ、誰だ?」
彩人の目に映ったのはいたって普通の外国人の女性。確かに珍しいかもしれないが、別にいてもおかしくはないはずだった。彼女の右手にある物を見なければ。
女性は右手にもつそれをまっすぐ二人の方に向けていた。
彩人の顔が冷める。
(あれって……おもちゃだよな? 本物なわけあるはずが……)
彼女の手に握られたものはまさしく――――――拳銃。
「そちらの坊やは初めまして、私の名前はミロリー。そしてそちらの子は……お久しぶりね」
「お久しぶり?」
彩人は女性がそう声を掛けた少女―――ルネを見た。
彼女は何かを言おうとしているがそれは言葉になっていないように口をぱくぱくさせている。
「昨日は来てくれると思っていたのに……残念ね」
言葉通り残念な表情をするがどこか作り物のような雰囲気がある。
「知り合い……なのか?」
「ルネを知っていた人……ルネが『普通』じゃないって教えた人」
「『普通』じゃ……ない、だと?」
ルネは自分が特別なことができると知っていた。
それを彩人は昨日知った。
彼は気付いていなかった。
(ルネは初め、目を覚ました時には夜に起こった出来事をぼんやりとしか覚えていなかったじゃないか。あの男の炎や氷のことを尋ねた時、ルネはなんて答えた?)
ルネは覚えてはいなかった。
自分がそんなことができるなど知らなかった。
彼女はそのことについては自分から一言も話さなかった。昨日を除いて。
(思い出したんじゃんかったのか……)
彩人はそれをルネが自分で思い出したものだと思っていた。だから、そのことをルネに伝えた人物が存在したなど一度たりとも考えはしなかったのである。
「そこの坊やは、その子が普通でないことはわかっているのでしょう? というより、うちの部下を異常も使わずに逃げ切った『ただの』少年は……坊やってことになるわね。恐れ入るわ。とても馬鹿馬鹿しい。でも、おもしろい! まさか改変者が一般人に遅れをとるとは……坊や、中々やるわね。運がよかっただけでしょうけれど」
ミロリーと名乗った女性は淡々と話しながらも、拳銃の照準を二人からはずすことはなかった。
(俺のことも知っている?!)
「あ、あの……」
やっとのことでルネは言葉を発する。
「いいのよ。謝らなくても。私は昨日、寒い中あなたを待っていたけどね」
「お、おい、どういうことだ。さっきから、ルネが『来てくれる』だとか―――」
「坊やはその子を受け入れたのね。自分とは生きる世界が違うとわかっていながら」
ミロリーは彩人の質問を隅に置き、自分のペースで話す。
「そうだ。なにが悪い。ルネは俺たちの家族だ!」
「家族、ねぇ……」
ミロリーは彩人を見つめる。その目が意味するのは哀れみ。
「私が昨日の夜、その子を呼んだのよ」
「なん、だと……」
昨日、いや日付は周っていたので今日のことになるがルネは夜中に新代荘を一人で抜け出した。誰にも別れを告げずに。それはもう二度と帰ってこないという意味の込められた出て行くという意味だった。
「そう……なのか、ルネ?」
彼女に恐る恐る訊くと、ルネは控えめに頷いた。
「昨日の昼にね、声を掛けておいたの。あなたはこっちの世界でしか生きられない、ってね。平和的にことを済ませようとしたのだけれど……残念だわ」
「それじゃあ……」
この場の恐怖より、ミロリーに対する怒りが上回った。
「それじゃあ全部お前の差し金だったのか! ルネの様子がおかしかったのも! 俺たちから離れようとしたのも!」
「違うわ。選択権はその子にあった。その子の決断だったのよ。そう、一応私の元に来る気は少なからずあったの……。でも、坊やが止めた、か」
「どうしてルネを狙う! お前はあいつの仲間なのか? ということはルネが狙いなのか?」
「あいつ……それは誰を指すのかはわからないけど、たぶんそうよ。この周辺に私たち以外の『狩猟者』はいないはずだから。そして私たちの目的は『標的』の捕獲。つまりはその子を捕まえるってこと。正解ね」
「なんでそんなことするんだ!」
「それが私たちの仕事だからよ」
「彩人!」
ルネが彩人を叫んだ時にはもうすでに戦いは始まっていた。
銃声が鳴り響く。
その途端、彩人の前に氷の壁が出現しそれを防ぐ。
「ルネ……」
「早く逃げよ」
あの時もそうだった。彩人はルネに守ってもらう。
(くそっ! 俺にはなにもできなってのかよ!)
「ふーん、抵抗するのね」
「彩人は傷つけさせない!」
ルネは彩人より前に出て、雪が一面に積もった地面に手を付く。
やがて雪に変化が訪れる。
「これは……ルネがやったのか?」
白い息を出して言いながら彩人は目を見開いた。
ルネの周囲にはダイヤモンドダストが漂い、きらきらと輝いている。
ルネが手をついた地点は凍りつき、それはミロリーの足元まで氷の道のように伸びていた。そしてその氷の道はミロリーをぐるりと取り囲むと天に突き上がった氷の柱と化す。柱は束になることで檻の役割を果たしてミロリーの身動きを封じる。
「やってくれるわね……」
怒りを押し殺したような声が氷の柱で出来た檻の中から漏れる。
ルネはミロリーの方を一瞥するとさっと立ち上がる。
「彩人! 早く逃げよ!」
「お、おうわかった」
彩人は彼女がしたことに度肝を抜かれ、反応がやや遅れる。
「そうはさせない」
彩人たちはミロリーの言葉が聞こえて振り向くと、氷の角の腹部分が何かに寸断され、檻は崩壊する。
「そんな……」
彩人にとってルネが氷の檻を出現さしてしまうことを凄いと思ったのに、閉じ込められたミロリーが一瞬で崩壊させたことにお驚きを隠せない。氷の檻を作り出した本人―――ルネも彩人と同じ様子だ。
氷の檻から出てきたミロリーの手には先ほどの拳銃と違ってナイフが握られている。
「どうやって破壊したのかって顔をしているわね、二人とも。その子には力のことを話しただけで、戦いへの転用は教えないようにしたはずなのに……。これは想定外だったわ。私も驚き」
「そのナイフ一本でやったとでも言うのか?」
「そうよ」
彩人の問いにあっさり肯定し。先端を切り落とされた氷の角の残骸を一薙ぎ。氷は紙をカッターナイフで裂かれるように何にも閊えることなく切断される。
異様な光景。
彩人には氷がただのナイフであんなにも綺麗に切断できるとは全く思えない。
「この世界には様々な種類の異常が存在するの。その中でも仲間はずれなものがあるのよ。それが私の持つ力。修正者の持つ力。アメンド」
「修正者だって?」
「例えばその子の力。私も正確には把握していないのだけれど、おそらくは物質の結晶化。どう? それが常人に成せる技だと思う? そんな普通では考えられないようなことをやってのける力は紛れもなく『異常』である。そしてそれらはあらゆる法則すら超え、世界をおかしく変えてしまう。ゆえにそれを持つ者を改変者と呼ぶ。あなたが接触しただろう男、炎を使う男も同様。でも私は改変者ではない。改変者と相反するもの、それが修正者。このおかしくなった世界を修正するための存在。私のこのアメンドと呼ぶ力は異常を消滅させるためだけに存在する。結論をいうと私はその子の力を打ち消して、氷を破壊、否、消したということよ」
あなたに話したところで理解できないでしょうね、とミロリーは付け加える。
(わからないことだらけだ。なんなんだ。この世界は。俺たち一般人の知らないところでは何が起こってるんだ?!)
「言っとくけど、その子に勝ち目は無いと思うわ。想定でB……私でもなんとか対処できるレベルよ。sれにお荷物を連れた状態じゃあ存分に戦えないだろうけど」
「あ、彩人、どうしよう……」
ルネが彩人を頼ろうとしている。
だが彩人は何もできない。彼女やミロリーのような特別な力も使えない。できることは見ているか、逃げるかだけ。戦えるわけがなかった。
(もう、おしまいか……)
ミロリーはナイフを拳銃に持ち替えて容赦なく彩人に向ける。
ルネが庇ってくれなければ彩人は弾丸に打ち抜かれて死んでしまう。
そう死ぬのだ。
認めたくない。死にたくない。彩人は神様にでも縋りたい気分になる。
あの男に襲われた時も同じだった。あの時は運よく生き残った。ただそれだけ。
そう何度もうまくいくはずがない。
自分がここで殺され。
ルネは連れて行かれる。
そう彩人が絶望した時、人が死ぬかもしれない冷たいこの場をぶち壊すように軽快なメロディーが鳴った。
(な、なんだ?)
音の出所は拳銃を片手に持つ金髪の女性―――ミロリー。
ミロリーは拳銃を持った手はそのままでもう片方の手でジャケットのポケットを探る。
そして出てきたのは―――携帯電話。
先ほどのメロディーは携帯電話の着信音だった。
思わず気が抜けかけた彩人はすぐに緊張を取り戻す。
ミロリーは彩人とルネをずっと見つめ拳銃を向け続けながら、取り出した携帯電話を耳に当てる。
「私だ」
「なに? くそっ! あの役立たずめが……」
「『奴ら』に嗅ぎつけられのはまずい!」
「ああ、わかった。すぐに向かう」
ミロリーは通話をしながらも一切油断せず、彩人たちが逃げる暇を与えない。
銃口を向けられた彼らは動くことができなかった。
ただ緊張を保ちながらミロリーの言葉に耳を傾けるしか許されない。
三十秒以内に通話を終えたミロリーは携帯電話を閉じてもとに戻す。
「目標を前にして見逃すのは屈辱だが、やむ負えないわ。ちょっとこちらで問題が起こってね。よく聞きなさい! 今日の夜、午前零時! 私は、坊やがうちの部下と接触したという雑木林で待っている。標的だけがそこに来れば、坊やの方の命は見逃してあげる。どう来るかは君達次第よ。ただし、もし来なければ私たちなりにも派手に動かせてもらうわ。殺しちゃうかも。例えば、あなたたちの言う『家族』っていうのとかね!」
ミロリーは全て言い終えた後に銃弾を放った。最初と同じようにルネがその弾を防いで彩人を守る。
そして、ミロリーは去っていった。
「彩人、だいじょ―――」
「おい、ルネ!」
体のバランスを崩した彼女を彩人は支える。
(なんだこれ……)
彩人は頭痛とはまた違う、だが頭、または脳か、自身の体に違和感がしていた。流れ込んでくる。それは一方的に。それは拒もうとせず、むしろ快く受け取っているような。
(確か前にも……)
しかし、そちらを気にしている余裕は無かった。
ルネは頭を押さえて苦しそうに唸り声を上げている。
「大丈夫か! おい!」
「だ、大丈夫……」
ルネは一人で立とうとする。しかし、まだふらついているので彩人が手助けする。
「ほんとに……ほんとに大丈夫なのか?」
「うん。ちょっと頭が痛かっただけ……」
彩人は彼女に肩を貸す。
(助かった……とは言えない……)
彼はなぜミロリーが急に退散して言ったのかさっぱりわからなかったが理由なんてどうでも良かった。
生きている。
二度も死ぬ状況に追いやられた彩人にとってはそれだけで十分だった。
彩人とルネは新代荘に帰っていく。
途中からはルネが一人でもう歩けると不機嫌そうに言うので、彩人は思うようにさせたが心配で彼女から目が離せない。
(今夜、また、あいつと……)
奴には仲間がいた。同じようにルネを狙う仲間が。
今度会うときは何人いるかわからない。
行かなければ新代荘の他の皆にも迷惑がかかる。
(それはだめだ。皆は絶対に巻き込めない)
藍。幸祐。若葉。どれも彩人にとって大切な人々。かつて自分を救ってくれた皆を守らなければならない。彼はそう思った。
ルネも同じことを思っていた。
そしてお互いに相手が同じことを思っているのもわかっていた。
大切な人たち。
巻き込んではいけない。
守らなければ。
絶対。
絶対に。
絶対に守らなければいけなかった……。
そう。
彼らの願いは、決意はもう無駄となっている。
もう、すでに手遅れだった。
「彩人! ルネ! 今すぐ病院へ行くわよ!!」
新代荘の外にいた藍が言った。
三章これで終了です。次からシリアス展開の四章に入ります。ぜひ読んでくださると嬉しいです。
12/5本作のヒロイン、ルネのイラストを描きました。挿絵として使おうかと思ってます。お楽しみに。