三章(6) 白色の少年
俺は今までただ呆然と生きることしか考えていなかった。記憶を失ったあの時から。
リセット。
当時はまさしくそんな感じだった。
気付いたのは病院のベッドの上。
ここはどこだ。
病院?
だから何で俺がそんなとこにいるんだよ。
俺?
あれ?
わからない。
俺は誰だ?
名前。
わからない。
ベッド脇の表札には、白上彩人。
誰?
この表札は確かにこのベッドの表札だ。
そこに寝ているのは紛れも無い――――――俺自身。
これが俺?
俺は白上彩人なのか?
思い出せない。
俺は誰だ?
わからない。
何も。
全てが思い出せない。
焦った。
混乱した。
わけがわからなかった。
その後、俺は藍さんと会う。
藍さんからは冷静に俺の状況を伝えられた。
記憶喪失。
自分のこと―――主に思い出を失った。
そして新代荘へ。
二人の同年代の子と会う。
同年代と言っても記憶に無いから藍さんの情報を頼りにするしかなかったが。
一人は女の子。
新代若葉。
ちょっと可愛いなと思った。
もう一人は男の子。
常磐幸祐。
こっちもこっちでちょっとモテるんじゃないかと思った。
彼らは初対面だというのに気兼ねなく接してきた。
俺は不安だった。
いったい何を信じればいいのか。
信用していいのかこの人たちを。
最初は警戒心があったがそれも時とともに和らいでいく。
新しい生活。
悪くは無い。
正直、嬉しかった。
あれから八年。
今では家族のようなかけがえの無い存在となった。
そして、新たにもう一人。
ルネ。
銀色の少女。
彼女は俺と同じだった。
でも全てが同じじゃない。
ルネは俺よりすごい。
一瞬だ。
もう彼女は今を受け入れている。
俺は時間が必要だったのに。
新代荘の皆とすぐに慣れて、笑顔も見せて、恐怖から開放されて。
もう俺たちのかけがえの無い家族だ。
ルネがいるとなんだろう?
不思議と心が安らぐと言うか何と言うか……懐かしい?。
自分が変われる。何かを変えられる。そんな気がする。
とにかく俺たちはこれからもずっと一緒にいるんだ。
普通に暮らして。
新代荘で皆とわいわいやりながら。
楽しい日々が続けばいい。
……そう、続けばいいのに。
なのに、なぜだ?
どうして俺たちの平穏を邪魔する?
この世界の『異常』は。