二章(1) 異常は何処へ
「朝か……学校……面倒くさ……」
一週間の始まりの朝に出た第一声。
彩人は学校をサボりたい気は山々なのだが、そのようなことをしたら後々(藍)が恐ろしいのでそれは許されない。
起きようとして肩までかかっていた掛け布団をばさっとどけた途端に、冷気は容赦なく忍び寄ってきた。
「寒い……」
再び掛け布団を手に取って被り丸くなる。
部屋には暖房器具として電気ストーブが一台ある。これが唯一の暖房器具だ。後は厚着するとか毛布を肩にかけるとかで毎年冬を乗り越える。新代荘の他の面子も例外ではなく、皆このように今年の冬も過ごしている。
電気ストーブのスイッチを入れたまま寝るのは何かしら危険があるといけない(電気代の軽減もある)ので睡眠時は使用禁止というのが新代荘の規則の一つにある。
そのため朝になれば室内は完全に冷気でいっぱいに満たされて、冷蔵室のようだ。
今日も寒いのだろう、とカーテンの閉まっている窓の方を布団の中に篭りながら見ていた。
このまま布団のぬくもりに包まれているところから、冷気を遮断するベールを取り払ったら、温度差の影響を多大に受けてしまう。
だから彩人は掛け布団を体に巻きながら立ち上がりカーテンを開けに向かう。
カーテンを開けてもぽかぽかとした朝の日差しはやはり拝むことはできなかった。
「今日も晴れないなー」
本日の空に青色なし。
本日も、だ。
灰色に少し薄みがかった感じである。雪は幸いにも降っていない。先週から色見市上空にある雪雲は少しずつ変化していたようだ。何日かすれば、お日様も顔を出すであろう。
外の様子を確認した彩人は時計を見る。時間にあまり余裕は無さそうだった。
藍の部屋へ朝食をとりに行かなければならないので、布団を外して着替えを終えた後、藍の部屋に向かう。
「おはようごさいまーす。ううっ……寒いっ」
新代荘の各部屋はそれぞれ別の住戸となっている。そのため部屋の移動は必ず一度は外に出なくては行えない。
外の寒気は室内の冷気に劣ることなく、よりいっそう強烈なものだった。
「遅かったわね。遅刻しても知らないわよ」
彩人が起きてくるのが遅かったので味噌汁が冷めてしったのを藍は台所で温め直していた。彼はまだちゃんと開かない目をこすり、ふらつきながら丸机のある部屋の奥へと歩いていく。
「あ……」
机の横に布団が敷かれている。
そこには眠っている銀髪白皙の少女。
今、彼女は若葉の服を着ている。
(そう……だったな……)
彼女を見たことで昨日の出来事が脳裏に蘇る。
夢ではなかったのだと。
それは実際にあったこと。
日常ではない――――――非日常。
それは一夜のことであり、朝はいつも通り。彩人が望んでいる日常である。
藍がお盆の上に朝食を乗せて運んできた。味噌の香りが伝わってくる。
「ルネは、あれからどうですか?」
第一に藍に尋ねておきたいことだった。彩人はそう尋ねつつ、ルネの顔が見える位置に座る。
藍はお盆の上の朝食を丸机の上に並べ終える。
「あなた達が自分の部屋に帰った後に一度目を覚ましたわ」
「本当ですか?!」
今の彩人にとっては何よりの吉報だった。
(あの状態からよくがんばったな)
彩人はルネの方を見て微笑む。
「ほらその子を見てにやけている場合じゃないでしょう?」
「にやけてないっ!」
「さっさと学校行きなさい」
「今日学校、あるの? 昨日あれだけ雪降ってて」
「なに馬鹿な事を言っているの? 幸祐も若葉も部活の朝練習で六時くらいにはもう出て行ったのよ。あんたも見習いなさい」
部屋の隅にある箪笥の上に置かれた時計は七時を三十分を過ぎていた。
彩人は学校の事などはどうでもいいから彼女のことを色々と聞きたかった。
「この子が起きた時どう?」
「起きたのはあなたたちが部屋に帰った後、そうね……十二時は過ぎていたわね。様子は……ぼーっとしてた」
「ぼーっと、って……」
それは彩人を少し不安にさせるような発言だった。
「とりあえず何か食べさせた方がいいと思ったから、鍋の残りもちゃんと食べさしたわ。まあその後すぐ 寝ちゃったけど」
「なにか言ってた?」
「とくに何も。聞く暇もなかったし」
「そう……」
(まだ本調子じゃないのかな?)
藍の口元が少し上がる。
「なに? やっぱりその気があるわけ?」
くすくす、と藍が微笑を浮かべる。
「そういうわけじゃないって!」
「ふふ、まあいいわ。そんなことよりさっさと食べちゃって。洗い物するから」
彩人は朝食を口の中へ急いで掻き込んで、ささっと済ませ学校へ行く支度する。
「じゃあ、ルネをお願い」
「はいはい、任せておきなさい。いってらっしゃい」
藍はしっしと追い払う仕草で、ルネを気にしてばかりいてぐずぐずしている彩人を新代荘から追い出す。
そして追い出された彩人は気乗りせずに登校している。
昨日嫌と言うほど夕方まで降り続けていた雪は道路に積もっている。道の真ん中は車が通ったりして積もった雪が削り取られ、タイヤ痕が残っている。道の脇にある水路の近くはそのままの状態だった。
(ルネ、大丈夫でよかった……)
想像の世界だけで起こるような出来事が終わった後、ルネの体は昨日、氷のように冷たかった。本当に命が危険だったかもしれない。彩人は新代荘を出る前に彼女の手を優しく握ってみた。その時にはちゃんと人の温かさが伝わってきた。そのおかげで不安は一先ず消え去った。
彩人たちが通っている高校―――帆布南高校はごく普通の公立高校だ。一応進学校ではあるがレベルの高い大学を目指せとまでは、勉強に力を入れているという気は感じられない。彩人にとってはとても過ごしやすい環境であった。
学校までの道のりは新代荘から北東に向かって徒歩二十五分。
昨日行ったコンビニといい、どこかへ行こうとするとどうしても時間がかかってしまう。さらに交通機関が通っているわけでもないので徒歩で移動するすしかない。自転車さえあればそんな苦労はしないのだろうが、生憎新代荘にはそのようなものを揃える経済的余裕はない。
住宅が建ち並ぶ道を抜けると橋の手前までやってきた。
学校へ行く途中に川が陸地を隔てているので、橋を渡らなければならない。この橋を渡ると新代荘周辺のような築五十、六十年といった古い家屋に比べて築二十年未満の比較的新しい住宅街がある。道路も白線できっちりと分けられている二車線の車道になる。
川は彩人が歩いてきた道の周りの田のように凍ってはいない。滔々と流れる水はいかにも触っただけで手がその冷たさで痛くなりそうだった。
橋からは家々が建っているところより高い土地になっており、普段は違うのだがどの建物も白い屋根だった。
橋を渡り終えると新代荘が建てられた地域より新しい住宅街に差し掛かる。その中を進んでいくと店も見かけるようになってくる。
ランドセルを背負った子供たちが集団で登校しているのも見かける。
「ガキだなー」
三人の小学生が雪球を作って投げ合っていた。
対して大人たちは雪かきで大変そうだ。家の駐車場や車の上に乗った雪をせっせと下ろしている。その 駐車場の傍らには、一メートルはあるだろうか、雪だるまが作ってある。
「そういや今年はまだ作ってなかったか」
数日降り続けた雪は降っていた期間と同じくらい溶けるまでは時間がかかりそうなのでまだまだ間に合う。
空はまだ青空を見せる様子はない。空一面に灰色の膜が覆っている。
そんな晴れない空を見ていても仕方がない、というよりは、彩人はルネと名乗った少女のことばかりを気にして歩き続けていた。
「何者なのだろう……」
帰ったら聞いてみるか、とまだ登校している途中だと言うのに、早く学校が終われと思い続けている矢先のことだった。
「彩人ぉぉおおおおおおおおおおおお」
唐突に大声で自分の名前を呼ぶ声。
「?」
彩人は呼ばれた方を振り向いた。
「ぐはっ!」
彩人は振り向いた瞬間、顔面に痛みと冷たさが染み渡る。
何だよ、と心の中で愚痴を言いながら顔についた雪を払う。
「ほれ、どうしたそんな暗い顔して! もう一発いくぞ!」
目を開けると自分目掛けて雪球が飛んできていた。
「おっと」
それを横飛びして避ける。
路面は凍っていてとても滑りやすくなっていた。
「しまっ……!」
彩人は足を滑らせて完全にバランスを失い、不覚にも転倒。
「くっそぅ……」
人がよく通る歩道を歩いていたのでふわふわな雪は積もっておらず、クッションのように働いてくれなかった。
「ふん、どうだ」
尻をさすりながら地べたに座っている彩人を、腕を組み俯瞰している人物は、雪球を片手に持っていた。
先ほどの無邪気な小学生たちではない。彩人と同じ制服を着た高校生だ。
「ノッキー、てめぇ何しやがる……」
彩人に呼ばれたノッキーと称された高校生男子はニヤニヤと笑みを浮かべている。
「いやあ、なんか彩人がぼーっとして歩いてるからな、ついぶつけたくなっちまった」
本名、波瀬乃樹。
彩人と同じく南帆布高等学校に通う生徒で彩人のクラスメイトでもある。彩人とは中学校の時からの付き合いで、今彩人が歩いている住宅街に住んでいる。やんちゃな小学生のような面影を感じさせられるが彩人よりは少し背が高い。
「顔面ヒットしたんだぞ!」
「それはすまなかつたな」
棒読みで誤る。これは昨日、藍に同じようなことをやられたばかりだ。
「覚悟しろっ!」
彩人はひそかに後ろで作っていた雪球を乃樹に向かって投げつける。
だが。
「フッ、甘いな」
乃樹は一歩後ろに下がり、悠々と雪球を避ける。雪球は何も無いところへ飛んで行く。そしてその場に彩人を置いて学校の方へ歩き出した。
「逃げるのか!」
「仕返しがしたければ追いついてみろ」
乃樹は尻を叩き彩人を挑発する。
彩人が立ち上がると同時に乃樹も走り出した。
「待てや! このやろう!」
雪球二個分の雪を確保して、作りながら走る。その間も乃樹は逃げ続ける。
右手にある雪球を投げつけた。
前方を走っている乃樹はそれを避けて先ほどの彩人と同様、滑って転倒。彩人はそれを見逃さず、顔面目掛けてもう一方の雪球をぶつける。もちろん顔面目掛けて。
目には目を歯には歯を、である。
そいうことで、これにて仕返し完了。
しかしその後も乃樹が再び攻撃し出したので、彩人も反撃し、という小学生たちと同じことを数分間続けていた。
二人とも体を動かしたため、体は温まっていた。度を超して汗まで掻いてしまっているが。
今は二人の同意で休戦状態になり、普通に大人しく、高校生らしく登校している。
「あ、そういえばさ……」
乃樹が先に話を切り出した。走り回っていたせいで息が切れてしまっている。
「なんだよ……」
「噂で聞いたんだが昨日、火事があったの知ってるか?」
「……」
彩人は瞬時にわかった。
知っている。
知っていて当然だ。何せその事件の関係者なのだから。
「へ、へえ……」
「でさあ、その火事がさあ、あの向こうの方の雑木林で起こったらしいんよ。それが結構でかくてさ、雑 木林にぽっかりと空いた木々も何も無い場所ができちまったらしい」
乃樹はそう言って昨日彩人がコンビニへ行く途中に通った方向を指差す。
ドンピシャだった。
「けっこう近いんだなー……」
「例の放火の件じゃないかって言われてる。そんな人がめったに立ち寄らない場所で炎が出るわけがないだろう? だから放火だろうってさ、恐いよなー。例の不審者と同一人物なのかね」
「さ、さあ……」
彩人は知らないふりをし続ける。自分が関わっているなどとうてい言えないからである。
(そんな放火なんていう軽いもんじゃないぞ? ただの放火魔じゃないからな。手から炎出しよった。あんな奴は人間じゃな……いや、これはいいや)
「捕まるといいよな、犯人。意外と大事みたいで警察も色々と動いてるらしい。火を放っただけじゃなくて、その火事では爆発もあったみたいなんだよ」
爆発。
彩人の肩がびくっ、と敏感に反応する。
「爆発物まで持ち歩いてるとか、放火魔から爆弾魔にランクアップだぞ」
乃樹は噂話を続ける。
彩人は心配していた。
(え……何かこれやばい? 爆発物って俺があの時投げたガスボンベのことじゃないか? もしそうだったとしたら、その爆弾魔って俺になっちゃうじゃねえか! いや……でも、よく考えろ、俺。炎を使っていたのはあの男のほうだったし、もとはといえばあちら側に問題があるわけであって……俺に責任はない。そう自己防衛だ! 俺は悪くない。警察に捕まることなんて……あるはずが……)
「おい、彩人大丈夫か? 顔色が悪いぞ?」
彩人がずっとうつむいて一言もしゃべらないので、乃樹が心配になって、ひょっとしたら体調が悪いのか、などと思っていた。
「ご、ごめんなさい! それだけは勘弁してくださいっ!」
彩人は乃樹に土下座ポーズをとっていた。さらに両手を差し出していた。
「お前……どうした?」
乃樹はそのような彩人の姿を見て一歩後ずさりしていた。
(え?)
ようやく彩人の頭が状況に追いついた。
「うおおおおお! 俺なにしてんだあああ!」
「彩人、どこだ、どこが悪いんだ? 頭か? そうか頭なんだな? よし俺が一発、お前が正気に戻ることを祈って拳を叩き込む! 戻ってこい彩人おおお!」
「正気だ! あほが!」
乃樹が拳を振ろうとしたところへ彩人のカウンターが炸裂。
カウンターは腹部へ。
「ぐっはっ」
乃樹が腹を押さえて蹲る。
「く……よかった……正気のよう……だ……な……」
「あ、ごめん……」
彩人は正直、ここまで強く力を入れたつもりはなかったのだが運悪くいい具合(この場合は悪い具合の方が正しい)に決まってしまったらしかった。
まだ学校に辿り着いてはいなかったが、学校のある方角から予鈴が聞こえてきた。
予鈴の五分後に鳴る本鈴に間に合わなければ遅刻となる。
現状、乃樹が負傷中。
いつもなら構わず置いていくのだが、今回は自分に原因があると思ってそれは止めにした。
彩人は乃樹に肩を貸して、二人は学校へ行った。
もちろん二人とも遅刻だった。
■□■□■
その日の授業は教室移動の必要のないものばかりが集まっていたため、朝来てから席を一度も離れていない。
彩人の席は窓側、教室の後ろから二番目に位置している。
そこからはグラウンドが見え、体育の授業で寒い中、上は体操着一枚、下は膝までの丈のズボンといった格好で生徒たちが走っていた。
彩人は、数学教師がチョーク片手に黒板を数式で埋め尽くしていってる最中、ぼんやりと窓の外を見続ける。
決してグラウンドを走っている女子を見ているわけではない。
「なあなあ、雨ちゃん」
彩人の後ろの席に座る乃樹が先生に気付かれないようにひっそりと隣の席に座る雨夜(『雨ちゃん』という愛称は乃樹が命名)に話しかける。
「ん? どうしたノッキー」
雨夜は小首をかしげながら乃樹と同様に小声で聞き返す。
「どう思う?」
乃樹はこれこれと、ずっと窓を見続けている彩人を指差す。
「?」
雨夜の首がさらに右へ傾く。彼女の最大の特徴であるといえる、末端をゴムで縛られた長いサイドテールが床についてしまいそうなほどだ。
雨夜は彩人の方を見る。
「駄目だねー、彩とん、体育の授業をしている女の子に気を取られるなんて」
「いやそうじゃなくってさ」
「?」
またサイドテールが地面に付きそうになる。
「今日なんか、様子がおかしくねえ?」
「ああ、確かにそんな感じするねえ」
「朝っぱらから何か暗いっていうか……考え事をしてる感じだった」
「そうだね……」
ふむふむ、と顎に手を当て考える。
「最近、彩とんの周囲で変化は?」
「変わったことか……んー、いつも通りでぐーたらしてるなー。あっ!」
乃樹が大声を出してしまった。
「しー」
雨夜が人差し指を立てる。
チョークを持つ手を止めた数学教師が「どうかしたか?」とやかましいという意味をこめた上で言ってきたのを、乃樹は「消しゴムを落としました」と言ってやり過ごす。
「で、変化って?」
「先週の金曜日のことなんだけど、これがな……」
「なになに?」
「掃除を真面目にやってたんだよ、こいつ。すごくね?」
雨夜の目が半目になる。
「なーんだ……」
「あれ? そういうことじゃないのか?」
「ノッキーは鈍感だなー、もう。そうじゃなくってさ、あれはズバリ」
「ズバリ?」
「恋、だね」
探偵っぽく決めようとした風に言う。得意げな顔で白い歯がチラリと見え、Vの字に開かれた親指と人差し指が顎に当てられている。
「さいですか……」
今度は乃樹が半目になる。
「春の到来だ!」
うんうん、と納得したように雨夜は頷く。
「それは……あるのかねー。こんな窓の外みたいに冬真っ盛りだと思うけどなー。一緒に住んでる若葉ちゃんは幸祐の方に気があるんだろうし」
乃樹は中学時代から彩人の周りで好きな人とかの噂が全く立たっていなかったのを思い出す。
「あの二人付き合ってるのか、付き合ってないのか未だにはっきりしないよね、まったく。というかその話は置いておいてー、あれ? あまりその気はしない? 私は恋わずらいで間違いないと思ったんだけどなー。窓の外を見ながら、『寒々しい景色だなー』とかで自分の気持ちとのギャップ差に落ち込んでいるんだよ。ギャップ萌え!」
「いや、ギャップ萌えって意味わかんないし」
「彩とんは多分心の中で『フッ、そうか……どうやら俺の方が来るのが少しばかり早かったよう、だな。恨むなら気温を上げようとせず雪ばかり降らせる天にしな(キラッ)。』とか、そんなふうに思っちゃってるんだよー」
「そんな彩人……きもいな」
「うん……ま、まあノリと言うやつだよ。実際にそんなことを言う彩とんを見たら、爆笑か白けるかのどっちかだよ」
彩人の様子がいつもと違うことに乃樹と雨夜は、様々な想像を膨らませて二人で盛り上がっていた。その会話をしているうちに刻々と時間は過ぎてゆき、授業終了のチャイムがなる。学級長が起立の号令をかけて礼をした後、彩人は着席せずにそのまま、二人のほうを向き。
「勝手な想像すんな」
「あはは、聞こえてましたか……」
乃樹と雨夜はぺこりと小さく頭を下げる。
彩人は教室の外へと出て行こうとする。
「彩人! どこ行くんだよ!」
乃樹が立ち去る彩人の後姿に尋ねる。
彩人は、トイレだよ、と言って出て行った。
「聞かれちゃってたねー」
あはは、と困った表情の雨夜が乃樹の隣に立つ。
「やっぱり、何かあるな」
「ちょっくら探りいれてみますか?」
内密の企てをする二人であった