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姫勇者ラーニャ  作者: 松宮星
最後の戦いのはじまり
94/115

ついに開戦! 伝説の敵!

「そろそろ始めましょうか?」

 僧侶ナラカが、私達を見渡し、にっこりと笑う。

 私とアーメットを含め、総勢五十四人。

 五十四対一って……こっちのが悪役に見えるわ。

 でも……

「これだけの人数が居るんです、遠慮なくやれますよね」

 ナラカは嬉しそうだ。

 こいつは分身をいっぱい出せる。

 更に言えば、大魔王になってから、七日も好き勝手に動き回っていたわけだから……

 相応の準備をしているだろう。

 ナラカが右手をあげる。

 私達は動き始めた。



 私の役目は、『勇者の剣』と共に、あいつをぶった斬る!

 ただ、それだけ。

 能力封じの魔法がかかるまであいつはものすごく強いわけだけど、魔法がきくまで『逃げ回る』なんて、やっぱ私の(しょう)に合わない。

 攻撃は最大の防御!

 私が暴れ回る事で、あいつの攻撃の機会を奪う。

 あいつを斬れるようになるまで、休むものか。



 ナラカが薄く笑っている。

 背筋が凍る。

 だけど、負けない!

 静かに砂地に佇む男めがけ、私は『勇者の剣』を振り上げた。

 途端、ナラカの姿が消える。

 移動魔法だ。

 わりとすぐそばにあいつが現れる。あの嫌らしい、寒々しい笑みを浮かべながら。

 僧侶ナラカが、恐ろしい。

 見ているだけで、怖くなる。

 計り知れないほど巨大な黒い気そのものなのだもの。

 どこまでも深い闇が、そこに存在しているのだ。



 ぞっとした。



 胸が締め付けられるように苦しい。



 すくみかける足に、私は叱咤した。



 足を止めたら、負けだ。

 私が斬らなきゃ……

 誰がこいつを斬るというのだ。



 唐突に……

 圧迫感が消えた。

 僧侶ナラカはそのままだし、まとう黒い闇もそのもの。

 なのに、楽になった。

 どうして? と、思ったら『勇者の剣』が心の中にイメージを伝えてくれた。

 光り輝く矢が、上空を飛び、何処までも何処までも飛んでいくのが見える。

 矢ってことは、タカアキかな? 何かしてくれたんだろう。何やってくれたかはわかんないけど、とりあえず助かった。

 恐怖心が完全に消えたわけではない。でも、怯えて動きが鈍る状態からは脱した。

 戦える!



 奴の周囲に、黒い煙があがる。

 魔族を召喚したようだ。

 次から次に出現する敵が、私の進路を塞ごうとする。

 真っ先にジライが現れ、続いてシャオロンが、アジンエンデが、イムラン様が、私の前の敵を斬り捨ててくれる。

 名前を覚えきれない従者達も、魔を葬ってくれる。後方で魔法支援してくれている神官や魔法使いもいる。



 雑魚は彼等に任せよう。

 私はナラカだけを狙えばいいのだ。 



* * * * * *



 俺は後方の魔法担当組、ガジャクティン、ガジュルシン、カルヴェル様、タカアキ、サントーシュと一緒に居た。

 インディラ僧侶達が張ったデッカい防御結界の、南端の方だ。

 周りに何も無い砂漠なんで、視界は開けている。忍者だからもともと眼が良いんだが、今は、シンと同調(シンクロ)してるもんだから、遠方のものでも見たいと思ったら遠眼鏡で見たみたいにはっきり見える。魔力やら霊力やらも、現実に重なって見える。

 遠方で姉貴や従者仲間達がゴチャゴチャやってるのを見ながら、俺はガジュルシンの側に立っていた。

 俺とシンは、しばらく様子()

《汝が主人ガジュルシンが命じる。探知の魔法を用い、戦いを見渡せ。仲間の危機、計画の不備は発見次第報告せよ。主人への助言も許可する。何なりと、口にせよ》

 探知担当だから、シンは仕事がある。けど、俺は何も無し。近づく敵が居たら斬る事になってるけど、まずありえない。カルヴェル様が守りをしてるもんで、魔は俺らに近寄れないんだ。実に暇だ。



 ガジャクティンは、守護神使役後、ガジュルシンから魔力を引き出し、僧侶ナラカの封印をする役だ。

 ガジャクティンが胸元からお札を山のように取り出し、前後左右に向けて投げ飛ばす。お札はありえない速さで宙を飛び、何処へともなく飛んで行く。

 つづいて独鈷を前に二、後ろに二、砂の上に投げて立て、その真ん中にあぐらをかいて座った。

「兄様、僕の前に来て」

 タカアキとカルヴェル様から教えてもらった守護神使役の指示は、さっきので終わりらしい。すぐに発動できる形にまとめておいたみたいだ。

 これからガジュルシンから魔力を借りて、僧侶ナラカの能力封印の魔法を唱えるのだ。血族だからこそできる能力封じなのだそうだ。 

 呪文を唱え始めたガジャクティンの前に、ガジュルシンが座る。ガジュルシンの背に、ガジャクティンは右の掌をあてた。

 ガジャクティンは、すげぇ真面目な顔をしている。自分の魔法がうまくかからなきゃ、姉貴の命が危ないってわかってるからだ。

 腿の上に置いた左の掌には何か小さな袋を握っていた。魔法道具かと思ったけど、シンの目で見ても、何のきらめきもない。ただの小袋だ……と、思ってから、ああ、お守りかと思い出す。バンキグで、姉貴があげてた奴だろう。

 正念場は姉貴と一緒ってわけか……俺は血の繋がらない弟が、かわいく思えた。



 序盤のタカアキの仕事は、気の浄化だ。

 大魔王となったナラカは、本来の能力+魔の力で、底知れぬほどに気が大きい不気味な存在になっている。

 シンの目を通して見るとわかる。ナラカは、そこに存在しているだけで人間に恐怖心を与え闘気を奪う、凄まじい気を常に発散しているんだ。

 その黒の気を、タカアキが『破魔の強弓』で祓っている。

 三大魔法使いは、ガジャクティンより西に、距離をとって並んでいる。自分の周囲に護符を円状に配置し、その中央に立っているんだ。デッカい弓に矢をつがえ、きりきりとひきしぼっては、たまに射る。

 人間の目で見ると、何処を狙ってるんだ的外れ(ノーコン)ってな感じ。何もない宙に向けて、矢を射てるから。

 だが、あの的外れ(ノーコン)矢には意味がある。タカアキの霊力のこもった矢が、ナラカの禍々しい気を祓って弱めてるから、姉貴達、物理戦闘担当(アタッカー)が、恐慌(テラー)状態にならず、前で戦えるんだ。

 浄化の力は世界一って言われているだけあって、効果は抜群っぽい。

 俺は、聖なる武器『破魔の強弓』を見つめた。怪力の男でも苦労しそうな大弓を、タカアキは楽々と引く。膂力なさそうなのに。

《あの弓は、霊力の強さに応じるのだ。タカアキならば、十本、まとめてでも矢を放てるだろう》

 シンの説明に、へぇぇと感心する。

 タカアキの頭の上には、今日も『トシユキ』がとぐろを巻いている。体中にくっついた蛇や卵も、そのまま。タカアキが矢を射る度に、俺はタカアキの体にくっついているモノを見てしまう。落っこちやしないか、心配になる。

 霊体が落ちるか、と、シンが俺を馬鹿にする。実体がないから重力は関係ないのか、それもそうかと納得する。



 大僧正候補のサントーシュの仕事は、ガジャクティンとガジュルシンとタカアキの護衛だ。

 三人を包み込むように守護結界を張り、必要に応じ、三人に回復魔法をかける。

 そうしながら、前衛の奴等を注意して見ているんだ。探知の魔法も使ってるだろう。

 怪我をした奴がいたら、得意の移動魔法で結界内に呼び寄せ、治癒をする係でもあるからだ。

 この坊さん、どんな人だかよくわかんないんだが、大僧正候補なだけに優秀みたいだ。幾つもの魔法を同時に使えるってんだから。

 サントーシュは、今は穏やかな顔で、守るべき者達や遠方の姉貴を見ている。



 カルヴェル様の仕事は、いろいろある。

 探知の魔法を常に使って、ナラカの攻撃を先んじて塞ぎ、仲間に警告を与え、絶えずナラカに精神攻撃をしかけ、必要があれば攻撃魔法を使う。他にもちょこちょこ仕事をすると、大魔術師様はニコニコ笑っていた。ナラカ戦のカギとなるガジャクティンを守る為、魔を追い払ってもいるようだ。

 今はサントーシュの守護結界の中に一緒に居るけど、戦況によっては、戦場に移動する事になっている。

 杖を手に空中浮遊の魔法で俺のそばの宙に浮かんでいる大魔術師様は、いつも通りにこやかな顔だ。

 しかし、さっきから大活躍中。

 あっちこっちで開きかける異次元通路を、次から次に破壊しているんだ。中から現われようとしている高位魔族ごと。

 ヤバい奴が魔界から出て来る前に、確実に潰している。呪文詠唱なしの魔法で。

 探知の魔法で感じ取った結界の破壊を、シンが報告する。広い戦場全体をカバーし、三つまとめて次元通路を壊す事もある。時々、俺の内側でシンが非常に不快そうに毒づく。大魔術師様の御力が、圧倒的すぎるんで嫉妬してるんだ。

 何もしてないようでいて、一番、敵を倒しているのはカルヴェル様だ。

 低中級魔族用の扉の方は放置だけど、次元通路の破壊自体は駆けつけてくれた新従者の魔法使いだってできるし、中から魔が出て来たって新従者達でも難なく倒せる。

 優先すべきものを瞬時に見極め、確実に、行動している。

 今までも凄い方だと思っていたけど、魔力や霊力を感じられるシンの目と同化するようになって、改めてわかった。カルヴェル様は凄い。人間離れした能力がある。



「僧侶ナラカが、魔力と気を高めております」

 俺の口を使って、シンがガジュルシンに報告する。

「仕掛ける気じゃな」

 と、カルヴェル様。何かの呪文の詠唱を始めた。詠唱が必要ってことは、大技の魔法を使うんだ。

 姉貴の攻撃をかわしている僧侶ナラカの前で、空気が揺れていた。

「『キヨズミ』!」

 と、タカアキが叫ぶと、首の辺りにくっついていた白蛇が形を変え、引き絞っている矢へと乗り移った。

 シンが白蛇の眼で、矢を追う。

 タカアキの放った矢が光と共に走り、人の間をすりぬけ、ナラカへと達する。

 ナラカの周囲の空間は、何とも言えぬ嫌な感じ。

 その歪んだ空に突き刺さり、矢は消えた。

 霊的な光が散った。

 何かを砕いたようだった。

 タカアキが、舌打ちをした。

「半分もやれんかったか……」

 半分?

 見れば、タカアキの首には消えたはずの白蛇が戻っていた。

「そもじは、ようやった。ありがとな。しばらくお休み」

 首に絡まりつく白蛇を撫でてから、タカアキは新たな矢をつがえた。

「召喚魔法が発動します」

 シンが事態を報告する。

「召喚阻止は……十三。封呪はもはや間に合いません。間もなく、僅差で三体、召喚されます」

 シンの眼も心の眼も、僧侶ナラカの前の宙を見つめている。

『勇者の剣』と姉貴の攻撃を避けながら、僧侶ナラカは余裕の笑みを浮かべ、気を高めていた。

 黒く淀んだ黒の気の中から……

 凄まじい瘴気の奔流が始まったのだ。

 親父やシャオロン様達が、護符による瘴気祓いの結界を張る。

 自ら結界を張る魔法戦士、後方の仲間の支援で結界をもらう者。さまざまだが、皆、まともに黒の気を浴びたら危険なので防衛手段をとっている。

 姉貴はお構いなしだけど。剣が守ってくれるって信じてるから、動きがまったく変わらない。

 姉貴の剣を楽々と避けつつ、ナラカが瘴気を放つもの達にほんの少し力を注いでゆく。

 あれは……

 ナラカの周囲に浮かんでいる、あの禍々しいものは……

 今世にあってはならないものだ……

 人が眼に触れてはいけないものだ……

 大魔王の力そのもの……

『闇の聖書』……

 その断片だ。

「あの野郎!」

 俺は思わず叫んでいた。

 僧侶ナラカは、聖書をバラし、聖書の断片を苗床に用い、エーネ、ゼーヴェ、バデンサを再召喚した。一度、滅した四天王を再臨させやがったんだ。

 又、四天王を呼ぶ気なのか?

 姉貴の前の書の一部が妖しく膨らみゆき、そして……

 出現したのだ……

 巨大な黒い馬が……

 通常の馬の倍はあるだろうデカい馬!

 その上に、古臭い甲冑姿の巨体が乗っていた。鹿の二本角を模した飾りのついた、フルフェイスの兜で頭部を完全に隠している。背には巨大な槍があった。馬がいななくと、その口から炎が吹き上がった。

 ビクン! と、座っていたガジャクティンの背が大きく揺れる。

 どうしたんだ?

 つづいて鳥人間が出現する。人の形をしているのに、全身が茶褐色の羽毛に覆われ、頭部と羽は完全に鷲だ。手の爪も、猛禽類の爪そのもので鋭い。

 ビクン! ビクン! と、ガジャクティンが揺れる。

 攻撃をくらってる?

 俺は慌ててガジャクティンの前にまわりこんで、その顔をよく見た。

 前方を見つめるガジャクティンは糸目を見開き、頬を上気させている。口は呪文を詠唱しているが、そわそわと落ち着き無い。攻撃されてるわけじゃないけど、妙に興奮してる。

「十二代目勇者ランツ様の代のヘスケトと、五代目勇者レイモンド様の代のフレズベルグですね」

 ガジャクティンが大きく頷き、声の主をきらきらした目で見上げる。

 大僧正候補サントーシュだ。

「次のは……ただの人型だと外見からだとわかりませんねえ。あ、でも、流星錘りゅうせいすいを持ってますし、ラゴスかも。あの特殊武器を好んだのは九代目アラステア様の代のラゴスだけですものね?」

 サントーシュの問いに、ガジャクティンが何度も頷く。

「所持武器は憑依した人間の好みによって変わりますので、断定はできません。が、アレは四天王ラゴスの可能性が高そうですよね」

 ガジャクティンが力強く頷く。

 えっと……

 四天王なわけ?

 あの召喚されたのが、昔の四天王なのか。

 そいや、火を噴く馬に乗ってた奴とか、鳥人間とか居たような気もする。俺も『勇者の歴史』を習う事は習ってるんだけど、どの代にどんな四天王がいたとか、どんな武器使ってたとか覚えてないよ……

 ガジャクティンの、ンなマニアックな知識についていけるの、姉貴とナーダ父さんぐらいだと思ってたのに……仲間がいてよかったな、ガジャクティン…… 

《集中しろ! ガジャクティン!》

 ガジュルシンの思念。怒ってるぞ、これは……

《召喚されてきたモノが何だろうが、おまえには関係ない! 神聖魔法に集中しろ!》

 慌ててガジャクティンが目を閉じる。僧侶ナラカの封印担当じゃなきゃ、心ゆくまで『勇者おたく仲間』と四天王について語り合いたいだろうなあ。

《サントーシュ様、出現した敵の知識をお持ちでしたら、ラーニャ達に伝えてください。特徴や弱点などありましたら、それも》

「了解しました」

 歴代の四天王なら、高位魔族の中でも本当の上位級だ。

 姉貴の前に立ちふさがろうとする魔族を、親父が、シャオロン様が、アジンエンデが、イムランが、その他の新従者達が、代わって戦う。

 姉貴は短距離の移動魔法を使って、ひたすらナラカを追いかける。

 僧侶ナラカの召喚は続く。

 何体かは形となりかける途中で、散じる。

 大魔術師様が詠唱した魔法で。

 そして、タカアキの蛇付きのニ矢目で。『ハガネ』って奴が今度はのっかってた。ニ体、倒しただけで矢は力を失った。

「大魔術師様の召喚阻止八、タカ……お(もう)様の二度目の阻止はニ。現在阻止数は二十三」

 と、報告しながらシンが心の中でつぶやく。

《『キヨズミ』は、十三体、倒したのだがな。『ハガネ』はニか。やはり浄化では差がでるな》

 ニ十三倒した? 

 て、事は……

 十四人の歴代勇者に対して四天王は……五十六。だから、出現した三を除き、残りは三十?

《いや》

 シンが探知の魔法を使いながら、答える。

《時の流れと共に、力を失い、消滅したものもいる。魔族とて永久に存在するわけではないのだ。又、もともと五十六はいない。何代かのケルベゾールドの下で四天王であり続けたものも居たし、な》

 そいや、そうだった。

《きさま、私より年長のくせに、何故、知らんのだ?》

 (いくさ)前に学べと、私はタカアキに教えられたぞと、シンは不満そうだ。どうでもいいことは、覚えないんだよ、俺は。

「更に四体が、間もなく出現。それらの阻止はもはや不可能。別所に、熱量増加中。気が乱れています。大型のものが召喚されかけています」

「タカアキ殿! 力を貸せ!」

 カルヴェル様?

 珍しく焦った声だ。

「わしと同調してくれ!」

 高速呪文を詠唱するカルヴェル様に、三大魔法使いが魔力と霊力を同調させる。

「六体出現します」

 と、シンが言った直後に、僧侶ナラカの前で光の爆発が生まれた。

 闇の聖書の断片が浄化されたのだ。

「訂正」

 シンの声が静かに事態を伝える。

「五体、封呪」

 と、いう事は……

 間に合わなかったんだ。

 一体、出現してしまうんだ。



「父上、ご命令を」

 俺の口を使って、シンが叫ぶ。

「不浄なるあの魔を倒せと、私にご命じください」

 ガジャクティンの前に座るガジュルシンが、シンの視線の先にあるものを見つめ、頷きを返す。

《汝が主人ガジュルシンが命じる。汝が敵と認めた魔を葬り、今世を清めよ》

「承知いたしました」

 騎士のような所作でガジュルシンに頭を下げると、シンは宙へと上がった。空中浮遊の魔法だ。いや、速度があるから浮遊じゃなくって、飛行か。

 俺の体を勝手に動かしているシンが、上機嫌そうに前方を見つめる。

《アレをしとめるぞ、忍者。アレならば我が敵に不足ない》



 遠方で、首をもたげた、それは…… 

 小山を思わせる巨大な体の、四足の生き物だった。

 鋭い爪と牙を持つ、黒々とした鱗に覆われたそれが、口を開く。

 灼熱の吹息。

『勇者の剣』が、カルヴェル様が、魔法戦士達が、仲間達の周囲に結界を張る。

 全てを焼き尽くす煉獄の炎を吐くそれが、何であるか……『勇者の歴史』を斜め読みしかしてなかった俺ですら、よく知っている。



 七代目勇者ロイドの時代に、西国で暴れた邪龍……



 三百年前、エウロペの首都クリサニアは灰燼に帰した。王城も街も、むろん、勇者の家も、全部、燃えた。

 大魔王配下の邪龍の炎によって。

 七代目勇者ロイドは、大魔王討伐まで十三年もかかった。人の世の争いが続いたせいで、旅が難航したからだ。今世に長く存在した為、大魔王は強力な力を振るえるようになり、強力な魔族を数多く召喚し……

 世界各国に深刻な被害がもたらされたんだ。

 特に、エウロペがひどかった。

 全土が、ほぼ焦土と化してしまったのだ。

 邪龍によって……



 あまりにも有名すぎる話なんで、俺だって知っている。



 邪龍を操っていたのは、当時の四天王カリブクス。『闇の聖書』三の書を用いていたそいつを、聖書ごとロイドはぶった斬って退治したんだ。

 あの邪龍は、今、カリブクスが操っているのだろうか?

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