表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姫勇者ラーニャ  作者: 松宮星
砂の国にて
73/115

人間やめてる奴と迷う奴! 選択は無限!

 僕のシャーマン修行は順調……

 と、言うのには、かなり微妙な展開となっている。



 シャーマン修行をしたいと願った僕を、タカアキ様はあっさりと受け入れてくださった。

『そもじが強ぅなれるよう助けたる。あのくされ僧侶、必ず仕留めてや』

 僕をキョウ郊外にご所有の森へと案内してくれ、三大魔法使いのタカアキ様本人かその分身による、教育を約束してくださったのだ。

 修行中は、カルヴェル様は別行動ということになった。神聖な修行場に敬意を表してのことのようだ。修行を終えたら、魔法道具の指輪で連絡をいれるということになった。

 僕が居るのは、タカアキ様の母方の一族の修験の為の屋敷らしい。けれど、着いた時には無人だった。この屋敷が使われるのは、主に、春から秋なんだそうだ。

 変な祭壇とか、道場とか、岩室の部屋とかある屋敷は、あっちこっちがしめ縄やらお札で封じられていた。立ち入り禁止の場所に入ると命の保証はないと脅されたので、妖しい場所には近づかないようにしている。

 屋敷の裏手は滝だ。毎日、滝に打たれている。水垢離ってヤツだ……冬だけど……。つくづく丈夫な体で良かったと思う。

 ここに来たのが僕ではなく、兄様だとしたら……来た当日に倒れているのは確実。悪くすれば死んでたろう。



 真夜中に、僕は、行燈の明かりを頼りに、眠気覚ましに本を読んでいた。

 呪殺についてまとめた本。霊を行使してできる事は何であれ勉強している。知識として持っとけと、タカアキ様(分身)に渡された本なのだ。

 おどろおどろしい内容かと思えば、呪文やその効果、対抗策がしごくあっさり羅列されているだけ。呪符や魔法道具がぽんぽん出てくるわりに、そっちの説明はなし。別の本で調べるしかない。

 布団にくるまって何冊かの本を手に取って読んでいた僕は、魔法の波動を感じ、顔をあげた。

 移動魔法だ。

 僕は笑みを浮かべた。

 良かった、一人じゃない! タカアキ様は移動魔法で別の人間も運んできてくれた!

「キヨズミさん、マサタカさん」

 嬉しい……僕にシッポがあれば、振りきれんばかりに振っていたろう。タカアキ様の従者のこの二人がいなければ、僕といえども、今日までに死んでいた!

「第一声は『タカアキ様、お久しぶりです』やないのん? 無礼なお子様やわ」

 三大魔法使い様本人は、不機嫌そうな顔を扇子で半分隠した。

 いや、だって、四日ぶりなんだもの……

 その間、僕、タカアキ様の分身とこの屋敷で二人っきりだったんですよ?

「インディラの王子はん、どうぞ」

 キヨズミさんが手に持っていた物を手渡してくれた。

 重箱!

 四日ぶりの、まともな食事!

 うわぁ。ジャポネのキョウ式のお弁当! お菓子みたいに綺麗なおかずがいっぱいだ♪

 そして、マサタカさんは抱えていた荷をとき、僕の為の着替えやら、日持ちのする干し芋とかの携帯食を部屋に置いてくれる。

 ありがたい……

 僕は胸を熱くしながら、重箱の料理をパクついた。



 姫巫女が、非常識なのはよぉくわかっていた。

 自分の憑依体を食べちゃうとか、男性である憑依体を使って子種を集めちゃうとか、憑依体に卵を産みつけるとか……

 ありえない。

 でも、もとは大白蛇だし、人間の常識が通じないのも当たり前。

 仕方無いと、思っていた。



 だけど……

 非常識な存在は、姫巫女限定ではなかったのだ……



 キヨズミさんがわかしてくれたお湯で、僕とマサタカさんとキヨズミさんでお茶をいただく。

 ああああ……あったかい……

 涙が出そうだ……



 タカアキ様は、僕らの輪から離れていた。

 上座に座り、扇子を広げては閉じで、遊んでいる。

 身にまとっているのは、あいもかわらず神主服のみ。十二月の真夜中だってのに、防寒着の一枚も羽織っていない。

 薄着なのも、お茶を飲まないのも、暖をとらないのも、修行の為……とかじゃない。

 寒くないのだ。



 おかしいとは気づいていたんだ。

 ここでの修行初日から。

 僕と一緒にこの屋敷に来たタカアキ様(本人)はすごい薄着で……

 滝に打たれろと命じられたからやったけど、体を拭く布の準備はなく……

 着替えもなく……

 当然、お風呂なんか用意してくれてなくって……

 屋敷にあった布団を被って寒さを堪えてる僕に、シャーマンの心得の授業を始め……

 休憩なしで何時間も延々と語り続け……

 日が暮れても、灯りをつけてくれなくって……

 空腹と喉の渇きを訴えると『食事? 今朝、食べたやろ?』とか言いだし……

 断食修行かと思ったら、真っ暗な外へとスタスタと出て行って……

 野ウサギを片手に帰って来て、『ひもじかったら、お食べ』と言い出す始末……



 生肉を食べろと?



 つくづく……カルヴェル様とシャオロン様に感謝……

 異空間にこもっての生活の間に、僕は、お風呂をわかす事も調理も、魔法でできるようになっていた。

 そして、シャオロン様のサバイバル授業で、ウサギのさばき方も教わっていた。



 ウサギを魔法で焼く僕を見て、タカアキ様は『丸呑みできんの?』とか聞いてくるし……どんだけ姫巫女基準なんだよ、あんた……



 で、そっからは、分身のみを屋敷に置いて、タカアキ様本人は帰られたわけだけど……

 分身は、タカアキ様そっくりだった。

 こっちから言わなければ、食事を忘れる。水も忘れる。

 着替えが必要だと理解してくれない。

 暖房の必要は感じていない。

 暗くなっても灯りをつけない。

 雨戸を降ろさず、夜になろうが、雨だろうが、襖は開けっぱなし。

 屋敷のどこに生活必需品があるのか、知らない。

 休憩時間一切なしで、僕に授業をしようとする。トイレ休憩すらくれない。



 次にタカアキ様本人が姿を見せた時、おつきの二人を伴ってくれて本当に良かった!

 神官のキヨズミさんは、僕の現状を見て、深いため息をついてから主人に意見をしてくれたのだ。

『インディラの王子はん、このまんまでは修行どころやらあらしまへん。ご病気で死んでまうかもしれませんえ』。



 二人がいろいろ差し入れを持って来てくれるようになって、僕の生活はだいぶ改善された。



『ご当主様に悪気があるわけではない』

 タカアキ様がいない時、東のオオエの言葉をしゃべるマサタカさんが、苦笑まじりにこう言った。

『人間のあり方をご存じないだけだ。あの方は幼い頃から、白蛇神様の器となっておられる。もう半ば以上、人ではないのだ』

 人ではない……?

『半分仙人みたいなもんや』と、キヨズミさん。

『ご病気にならんし、十代で成長も止まってはる。その上、飲食もめったにせんよ。(ささ)やら果物はお召しにならはるけど、舌で味わっておられるだけや』

 食事をしない……?

『白蛇神様の摂取なさる餌で、あのお身体は保たれておるのだ。ご当主様本人に食事の習慣はない』と、マサタカさん。

 えぇ〜?

『四つから十まで、蔵の中に閉じ込められてはったやろ、あのお方。ほとんどの時間、だぁれも居ない蔵の中で、主さんとお二人だったんや。主さんに育てられたようなもんや』 

 それはそうだろうけど……

『主さん、箱入りの神様やし、人のことよう知らんかったんよ。タカアキ様のことかわいがって、常に体をあったかくして、飢えも感じんようにしてやったわけや』

 なるほど……

『食べんでも腹が()かんのやもん。タカアキ様、五才には膳に手ぇつけんようになったそうや』

 て、事は……二十二年間、食事してないのか……

『そやけど、そのせいで魔力使いすぎてな、すぐに主さんがお腹をすかせてしもてな』

 タカアキ様みたいにホホホとキヨズミさんが笑う。キョウの男の人は、みんなこれか……

『主さん、やたらタカアキ様、食べてたらしいんよ。かわいがってるんか、いじめてるんかわからんよな』

 いや、そこ笑うとこじゃないでしょ……

 四才から白蛇神に頻繁に肉体を食べられてたって……

 体はすごい丈夫だけど、痛みは感じるって言ってた……

 憑依されていると、狂う事ができないとも聞いた……

 後で再生で、生き返らせてもらえるんだとしても……

 ひどい……

 ゾッとする……

『ああ、それからな、タカアキ様、風呂に入らんし、厠も行かんよ』

 へ?

『主さんがぜぇんぶ食べてまうんよ。ご本人そのものも、そのお身体から出るはずのものも、ご馳走やおっしゃってな。垢も汗も、その他のものも、な』

 てことは、×××や×××までも……?

『白蛇神様が内にいらっしゃる為、暗闇でも目が見え、人の耳には聞こえぬ遠くの音も聞こえるようでござる』

 ちょ……

『主さんが体を保ってくれはるから、タカアキ様、暑さ寒さも感じん。まあ、それも主さんがいてこそやけど。主さんが抜けてよそに遊びにいかはると、タカアキ様、途端に、暑い寒い騒がれるんよ。普段なんのことないから、人一倍、熱さ寒さにお弱いんよ」

『お小さい頃から、ずっとそのような暮らしをなさってこられたのだ。多少、世の人間と違ってしまっても仕方なかろう?』



 多少じゃないと思う……



 タカアキ様を見てると、神と共生する恐ろしさが嫌というほどわかる。

 神が降臨した際には眠りにつき、体を譲るだけならいい。それなら、シャーマンは、人としての自我を保てる。

 しかし、タカアキ様は神を降ろしっぱなしのままだ。体は交替で使っているけれど、半霊体の白蛇神と交信してるし、神の御力であの体が保たれているわけだし……

 半ば以上人ではないというのは、大げさな表現ではない。

 普通の人間とは違う世界で生きているのだ。



 僕は人でありたいと思う。

 人のまま、みんなの所へ帰りたい。



 可能ならばだけど……



 タカアキ様が、パチンと扇を閉じられる。

 食事を終え僕がお茶での一服も終えたと、見てとったのだ。

「ほな、行こうか、インディラの王子はん」

 僕は頷きを返した。



 今夜は満月。

 タカアキ様が、大掛かりな招霊を見せてくださるのだ。滝の前でやるのは、身に宿っているのが水神だからだろうか。水を操るのがお得意そうだ。

 霊力を失っている僕に、キヨズミさんが目を貸してくれる。キヨズミさんの見える世界を、魔法で共有するのだ。

 マサタカさんも一緒に行く。ミズハ様のお気に入りで直々に鱗を与えられてるから、この世の神秘も見えるそうだ。事情は聞いてないけど、このサムライ、タカアキ様の母方の実家の人間じゃないっぽい。



 神との関わり方はさまざまだ。



 神との契約の仕方も。



 そこに善悪などない。

 憑依体すら喰らい自分の糧としてしまうミズハ様は、邪神とも言える。

 けれども、ただ子供が欲しいだけの単純明快な存在でもあり、タカアキ様は共に生きる事をお望みなんだ。

 異常な結びつきでも、そこに愛があるわけだし。

 二人をひきはがすのが正義とは、言えない。

 というか、ミズハ様に依存しきって二十二年以上も人外だったタカアキ様が、今更、人間の暮らしができるとも思えない……



 神とどう関わっていくかには、まだ迷いがある。

 強い力が欲しい……

 だが、その為に、どこまで犠牲にするか……

 どこまでなら許されるだろう?

 僕にとっても、僕を大切に思ってくれてる人達からも。



 僕は森の木々の間から見える月を、見上げた。

 綺麗な丸い月。

 今宵、ラーニャ達は、真実の鏡を使うのだろう。



 僕は天に懸かる月の美しさから、愛しい義姉の面影を思い浮かべていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ