表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姫勇者ラーニャ  作者: 松宮星
姫勇者の目覚め
69/115

四天王……? それってサギ!

 三日後、雪曇の空の下、私達姫勇者一行はバンキグ北東部の広野を訪れた。

 ガジュルシンの移動魔法で渡った先には、積もった雪以外何もなかった。人影どころか動物の姿すらない。巨大生首の無くなった広野はひたすら開けている。遠くに森が見えるぐらいだ。

 風がとっても冷たい。けど、空気は澄み渡っている。

 十九年前からこの地を覆っていた瘴気も、イかれた巨人が吐き散らした瘴気も、みんなまとめて正気に戻った知恵の巨人が祓ってしまった。

 清浄となった大地は、春の訪れと共に草を芽吹くはず。

 このまま何事も起きなければ。

 お母様の代の四天王、そして今世の四天王――ナラカの言葉を信じるならフォーレンって奴が干渉した為、この地は魔の影響が濃く魔族が次元通路が開きやすいのだそうだ。詳しい事は私にはわかんないけど、次元通路ってのは空間の綻びに作りやすく、魔族にさんざん弄ばれたこの地は綻びだらけなのだそうだ。

 いつ、又、魔族の支配領域にされるかわからない、かわいそうな土地ということだ。

 ナラカが私達をここに呼び寄せたのも、次元扉を好きに開きやすいからだろうと、ガジュルシンは言っていた。

『勇者の剣』に白銀の鎧姿のいつもの格好の私、『極光の剣』を背負ったアジンエンデ、『ムラクモ』を佩いた東国忍者姿のジライ、『龍の爪』を装備したシャオロン、北部用の王族の衣装の上に毛皮のコートを着込んだガジュルシン、インディラ忍者装束のアーメット……の勇者一行に加え、バンキグ戦士のカラドミラヌとシベルア司祭一名と魔法使い二名が私達に同行していた。

 僧侶ナラカからの挑戦についてはバンキグ側にも説明済み。

 いざって時の用心の為、三日の間に、シベルア司祭達が広野に呪具を埋め直した。邪気が広がり次第、広野を再び結界内に封じられるように。広大な広野にアイテムを埋める作業を、移動魔法等でガジュルシンも手伝っていた。

 で、ルゴラベルンハルト国王は、カラドミラヌ達を私達に同行させた。聖なる武器の持ち手カラドミラヌと、浄化魔法の使い手のシベルア司祭、結界・探知等が得手な魔法使い二名。マヌケなおじさんではあるけれどもカラドミラヌは戦士としては私より強いし、魔法の使い手の同行はありがたかった。『勇者の剣』の魔法はをあんまアテにならない。今、勇者一行でちゃんと魔法を使えるのはガジュルシンだけだもの。

 ガジャクティンはいない。まだタカアキの所だ。

 今日の事は伝えてある。

 本人にではなく、カルヴェル様にだけど。真実の鏡を見てすぐに、ガジュルシンが心話でカルヴェル様にナラカと会話を伝えたのだ。今日、これから四天王と対決する事も話してある。

 それに対し、カルヴェル様は『ただの招待でまだ命のやり取りをする気はないと、あやつが言うておったのなら、その通りであろうよ。四天王とは戦わせても、ナラカは手出しはせぬ。アレはプライドが雲のように高い男じゃて、姑息な嘘はつかぬ。まあ、真実をひんまげて話すのが好きな奴ではあるがな』と、言った。

 魔族となっても元の性格は変わらんから、その点においての罠はありえないとカルヴェル様は断言した。

『いよいよとなったら指輪で、ガジャクティンを召喚してやれ。ナラカの能力封印の為に、の。異空間におっても指輪の繋がりは切れぬ。そうはならぬだろうが、一応、ガジャクティンにはおぬしらと四天王との事は伝えておく』。

 ガジャクティンのシャーマン修行は順調らしい。正しくは、シャーマンとなる為の心がけ授業か。タカアキの下での修行を終えたら、ガジャクティンは又、インディラに戻り、子供時分に契約を結んだ神と再契約を結ぶのだ。

 日の差さぬ曇り空が暗くなってゆき、気温がどんどん下がる。

 日の入りの時刻の訪れと共に、嫌な気配を感じた。

 異次元通路が開いたのだ。

『勇者の剣』がそれの場所を教えてくれたし、探知の魔法で扉をつきとめたガジュルシンにもそれが見えているようだった。

 私は扉を睨んだ。

 カルヴェル様は、僧侶ナラカの言葉を信じている。相手は穢れた魔族なのに。忌むべきものの言葉なんて、信用に値するはずないのに。

 扉の先はどっかの異空間で私達は閉じ込められるかもしれない。僧侶ナラカが襲って来るかもしれない。

 絶対、油断しない! 何があっても仲間を守り通す!

 そう思いつつ、私は扉をくぐった。

 ガジュルシンの張った聖なる結界に包まれる形で、仲間達と一緒に。



 すっごく警戒して次元扉を通った。

 しかし……

 扉の先は……

 あたたかな陽光が照っている、のどかな場所だった。

 インディラ風の白亜の建物の中庭だ。私達は白い石畳の歩行路に立っていた。左右には花壇。色とりどりの花が咲き乱れていて、南国風の背の高い木が生えていた。処々に鳥や獣の石像もある。が、どれも見た事もない種類の生き物を(かたど)った石像で、不思議な形をしていたが、神秘的で綺麗だった。

 貴族の館の、手入れのいい庭のようだけれども。

 歩行路の先には、白い大きな(パラソル)付きのテーブルと椅子があり、そこにあの男が居たのだ、僧侶ナラカが。インディラ忍者装束の二十ぐらいの男性に給仕をさせて、(ティー)を飲んでいた。

「ようこそ、私の城へ。姫勇者様と従者の方々」

 ナラカはカップを片手に、微笑んでいる。親しい者を家に招いたように、とてもくつろいで。

 殺意が生まれる。

『斬れ!』と、心の中に声。

 背の『勇者の剣』が叫んだのだ。目の前のモノを早く浄化せよと私を責め立てる。黒く変わり果てた友など見たくないと、剣は私に訴える。

 常の私なら、その声のままに動いていただろう。

 だが、私の足は動かなかった。

 正しくは、動けなかったのだ。

 私の目に映っている優男。

 それは、人の形をしていた。が、人ではないモノだ。

 暗い……

 あまりにも黒く暗い……

 圧倒的なほどに……

 巨大な闇……

 底知れぬ無限の闇が……この男から感じられる。

 分身のはずがない。私は確信した。目の前の男は、僧侶ナラカの本体だ。

 この男こそ大魔王ケルベゾールド。

 勇者たる私が倒すべき相手だ。

 だが……

 足が動かないのだ。

 気圧されているのか?

 私は勇者だ、地上最強の戦士だ、神の剣の振るい手だ。

 敵を前に私が臆するはずがない。私はそんな惰弱な人間じゃない。

 なのに……体が動かないのだ。どうしたわけか体も震えている。これ以上、一歩も前に進めそうにない。

 私の周囲の仲間達も、皆、妖しい男とその側のインディラ忍者を睨んでいた。だが、誰も動かない。動こうとすらしない……

「結界はそのままに。ここの空気は清浄そのものですけれど、解いたら暑いでしょうから」

 ナラカが楽しそうに笑う。

 剣は世界ごとナラカを斬りたがっている。ってことは、この空間は現実ではない。インディラの多分春か秋の環境を模した、異空間なのだろう。上部からさほど強くない陽射しを感じるし、見上げれば青空が見える。が、それも全て幻術かナラカの創った偽りの空なのだろう。

 雪だらけのバンキグから、インディラ並にあたたかな所に来ては気温差がありすぎる。暑さ寒さを感じない白銀の神聖鎧の私はともかく、他のメンバーは結界外に出たら暑いと思う。毛皮を身にまとってたりするし。

「残念です……」

 魔族が嘆息する。

「私の自慢の城を案内したいところですが、歓迎の宴の準備はもう整っていましてね。あまりアチラを待たせておけないので、来ていただいた早々、申し訳ありませんが、四天王のもとへお送りしましょう」

 ナラカはカップを口に運んだ。気障ったらしくって、腹立たしい仕草で。

「私はここであなた方の健闘を祈って、見物しています。あっさりやられたら嫌ですよ。私を楽しませてくださいね、神速の勇者様」

 フッとナラカ達の姿も周囲の景色も消える。

 違う場所に送られたのだ。

 次元の扉を開かれたんだが、移動魔法か知らないけど、一瞬で。

 移動先は、明らかに異空間とわかる場所。

 日中のように明るい。

 けれども、そこには何もないのだ。

 足元にも左右にも上にも何にもない。そんな世界の宙に私達は浮かんでいた。基準となるものがないので何処までがその世界なのか、何処が果てなのかさっぱりわからず、その空間が広いのか狭いのかすらわからない。

「来たわね」

 空間が震動し、空から美しい女が現れる。エウロペ人かエーゲラ人だろう、サラサラの直毛のブロンド美人。身にまとうものは何もなく、裸身を腿を越える長さの髪で隠しているだけだ。豊満な胸と豊かな腰をしている。彼女は大地に立つかのように足の裏を水平にして、宙に浮いていた。

 女は妖艶な笑みを浮かべた。男を魅了する淫魔のような、お色気たっぷりな顔だ。

「お会いしたかったわ、姫勇者様……」

 共通語だ。艶っぽい女が、憎々しげに言う。

「今度こそ……あなたを殺してあげる」

 今度こそ?

 誰だろう、この女? 見た事ないんだけど?

 と、思ったら、又、空間が震動し、女の側に男が現れた。日焼けした、ちょっと格好いいおじ様。がっしりとした体型で、ペリシャ風ターバンと衣装をまとい、腰に曲刀をつけている。

「俺も戦う」

「わしらは対等のはず。先手を譲る義理はない」 

 と、言って、更にもう一人、女の横に増えた。そいつはわかりやすい格好をしていた、覆面に黒装束。ジライとそっくりだ。東国忍者だ。

「む?」

 私の背後でジライが声を漏らす。

「ハンシロウ?」

 知りあい……? 顔が見えなくても、声か気配でわかるのかしら?

 妖しい全裸美女と、ペリシャ戦士、そして東国忍者が私達と対面する。

「あらためて自己紹介した方が良さそうね」

 ブロンド美人がフフフと笑う。

「本当、人間って馬鹿よね。見た目に惑わされるんだから」

 むぅ。

 女がエウロペ風の貴婦人の挨拶をした。ドレスを着ていない全裸でやられても、異様なだけだけど。

「再びお会いできて光栄ですわ、姫勇者様。エーネよ。覚えていて?」

 顔をあげた女が悪戯っぽく笑う。

 え?

 エーネ?

「ゼーヴェだ」

 そう名乗ったペリシャ戦士を、シャオロンが驚いたように見つめる。

 そして、続いて東国忍者が名乗る。

「バテンサだ。初めましてと、言うべきかもしれぬな? 面識なきまま、前の憑代は浄化されてしまったからのう」

「馬鹿な……」

 と、つぶやいたのはガジュルシン。私も同じ思い。

 エーネ、ゼーヴェ、バデンサ……

 それぞれ、アジンエンデ、シャオロン、タカアキが倒したはずの大魔王四天王だ。

 今世から浄化されたはずの魔族が……何で?

《私が召喚したんですよ》

 何処からともなくナラカの声。

 いや、思念だ。

 体は、さっきのインディラ風の城の庭にあるのだろう。あそこから、私達を覗いているのだ。

《姫勇者様、あなたへのプレゼントとしてね》

 思念がクスクスと笑っているようだ。

《タカアキ様がバテンサを倒した時、すっごくお腹立ちでしたよね? 高位魔族を誰一人倒していないって。あなたが悔しがっていた姿を拝見してしまった以上、贈らないわけにはいきませんよ。淑女のご期待に応えるのが、紳士の務めですから》

 プレゼントぉ〜!

《お一人でも三人まとめてでも、お好きなだけどうぞ。この地上最強の戦士なのですから、倒すだけなら易いでしょ?》

 なにぃ!

 四天王討伐をしろって言ったから、最後に残ったフォーレンってヤツと戦うんだと思ってたのに!

 前に倒した奴等との再戦だなんて、普通、思わないわよ!

 何で今世から消えた奴を、改めて召喚するのよ!

 四天王よ!

 大魔王に次ぐ実力の高位魔族をいっぺんに三人なんて、そんな無茶な!

「ありえない……あなたが大魔王なら……」

 ガジュルシンが声を震わせている。それは問というより、疑問を口にしている感じだ。

「二度目の召喚などありえない……できないはずだ」

《過去に例がありませんものね。四天王は憑代が倒されれば魔界に強制送還、光の攻撃を受けた魔族は身を削られ能力自体が衰えるし、高位魔族ともなればそうそう今世との絆も結べない。だから、倒されればそれっきり。以後、今世に関わらないのが、常識ですものね。でも、》

 ナラカの思念は本当に楽しそうだ。

《既成概念に囚われてはいけませんよ。何事にもやりようがあるのです》

 私達の目の前の三人の魔に、何かが重なる。

 最初、黒い塊としか見えなかった、それ。

 よく見れば、数枚の古びた紙だった。読めない字がびっしりと書き込まれている。紙から爆発的に黒いモノが広がっているのだ。

《闇の聖書は複製できない……これも常識でしたよね? けれども、数を増やす事はできます。簡単なのです。書を分断すればいいだけなのですから》

 


《分断すれば、闇の聖書としての能力は衰える。書の一部を所有したところで、ケルベゾールドが今世に残した秘術の全ては手に入れられない。けれども、書の持つ禍々しさはいかように分断されようとも消えません。一頁となろうとも、紙の切れはしとなろうとも、闇の聖書は凄まじい瘴気を放ち続けます。魔を今世にとどめる苗床に実にぴったりなのですよ》



《私の術で苗床化した書の一部を大魔王教徒達に与えた結果が、あなたがたの目の前の三人の魔族なのですよ。姫勇者一行に一矢報いたい三魔族と、魔への昇華を願った大魔王教徒との心が一つとなったわけです。三人とも核が闇の聖書ですから、前より強いはず。嬉しいでしょ、姫勇者様……是非とも三人を倒してみせてくださいな》



 そこで、ナラカの思念は途絶えた。

 私は三体の魔族を見渡した。



 エーネの武器は髪の毛だった。

 正確には黒の気だが。憑代の体の全身の毛穴から黒の気を礫のように飛ばすのだ。油断してたせいもあるけど、エーネのたった一回の攻撃で、アーメットは虫の息になり、ガジャクティンは大怪我を負い、ジライも負傷していた。

 ゼーヴェとバデンサは、どんな攻撃をするんだか知らない。

 ゼーヴェと戦ったのはシャオロンだ。その時は憑代になっていたリューハンの意識の方が勝っていたから、シャオロンとは格闘で対戦していた。魔の力はほとんど見せなかったのだ。

 んでもって、バデンサに至っては、出現と同時にタカアキが浄化しちゃったから、どんな特徴があるのかすらわかんない。

 大魔王四天王ってのは、その時、魔界で最も強い四体の魔族が選ばれるのだろうと言われている。ゼーヴェもバテンサも半端なく強いと思う。

 さっきから、バチバチと結界の周囲で火花やら雷やら黒い煙のような瘴気やらが具現化するんだけど、すぐに消えている。

 ガジュルシンが張っている聖なる結界が、私達を守ってくれているのだ。

 それがなきゃ、四天王の攻撃が雨あられのように降って来て、私達は大パニックになっているところだ。 

「ラチがあかんな」と、ペリシャ戦士風のゼーヴェ。

「お籠りされていては遊べん」

 苛立たしいそうにゼーヴェが言う。

「あら、可愛いじゃない。私達に恐れをなして、亀みたいに縮こまる勇者様ってのも」と、素っ裸のエーネ。

 ムカッ!

「人間の魔力なぞ、永久には続かぬ。魔力切れを待てばよかろう、さほど長くはかからぬ」と、東国忍者姿のバテンサ。

「結界を維持しているのは、あの軟弱な棒キレのような王子だ。半日もてばよい方ではないか?」

 ガジュルシンが眉をしかめる。さすがに怒ったか。無表情を保とうとしているけど、唇も微妙に歪んでいる。

「俺はどうせやるのなら、弱りきる前の敵と戦いたい」

 ゼーヴェは不満そうだ。

「きさまらとは共闘したくない。ただでさえひよわな人間を、数にまかせて攻めてはつまらぬ。俺は一人でこいつら全員と戦いたい」

 なるほど。もともとの性格だが、憑代の性格だか知らないけど、ゼーヴェは短気な武闘馬鹿っぽい。

「それはこちらとて同じ。姫勇者一行を自らの手で葬りたいわ」と、バテンサ。

「正確には姫勇者様を……ね。勇者を葬る事こそ全ての魔の望みだし、再召喚の返礼の条件ですもの。勇者は殺さなきゃ……。でも、残念な事に姫勇者様は一人しかいないのよ。私達の中の誰か一人しかとどめをさせない」

 そう言ってから、エーネは口元に手をあてて色っぽく笑った。

「ねぇ、こうしていてもつまらないし、賭けをして遊ばない?」

「賭け?」と、ゼーヴェ。

「私達、それぞれ一人づつ、勇者の従者を選びましょう。誰と戦いたいか決めるの」

 うふふとエーネが笑う。

「姫勇者一行には三つに分かれてもらうのよ。姫勇者様と戦えない者だって、見てるだけではつまらないでしょ? 姫勇者一行とそれぞれ戦いましょう。従者の誰と共に、私達の誰と戦いたいか、姫勇者様に選んでいただけばいいわ」

「三等分か」ゼーヴェは不満そうだ。

「一人だけを選び、他のメンバーは人間に選ばせるというわけか」と、バテンサ。

「そういう事」

 エーネが私達を見て笑う。

「遊んでくださいますよね、姫勇者様達? 私達、再召喚の条件で、あなたを倒さないといけないの。そうしないと今世に出られないのだけれど……あなたが戦いを拒否すれば別なの。私達は自由になるわ。次元通路から外へ……バンキグで遊べるわ。シベルア司祭の魔封じの結界なんか、四天王の私には通用しないもの。あちらでやりたい事をやれる」

 私はエーネを睨んだ。

「勝手な真似するんじゃないわよ、この露出狂。あんた達の相手は私達よ。勝手に外へ出たら、私達に恐れをなしたんだって嘲笑ってやるわ」

 エーネが甲高い声が笑う。

「素敵よ。それでこそ、姫勇者様」

 それから、エーネは仲間へと振り返る。

「私、赤毛の女戦士をとるわ。前の憑代を壊してくれたのはあの女ですもの」

 ゼーヴェが首を傾げる。

「縁で選ぶのか? なら、俺は『龍の爪』の使い手だ。あいつは俺と戦いたそうな顔をしている」

「では、わしは東国忍者だな。憑代体があの男に拘っておる」

 バテンサが面白くなさそうに溜息をつく。

「あの人間と、あの人間の兄弟子にあたる人間に対し劣等感を抱いているのだ、この体が。二人の才を羨み、己が技量不足を嘆いておる。まあ、そんな人間だから、憑代体にできたわけだが」

 ジライとジライの兄弟子に劣等感を抱いている? ジライは自分の事情を私には話さないからあいつとどんな関係だか知らない。このまえ、ジャポネに帰った時、何かあったのかしら?

「決まったわね」

 エーネが笑う。

「私は赤毛の女と、ゼーヴェは東国の格闘家と、バテンサは東国忍者と戦うわ。姫勇者一行の誰が誰を加勢するかは、そちらで決めなさい。まあ、やりたいのなら、一対一でもいいけど」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ