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姫勇者ラーニャ  作者: 松宮星
姫勇者の目覚め
68/115

なんとかは忘れた頃にやって来る! いざ勝負!

 ガジャクティンがいなくなってから三日後、王宮の武闘会場で武術大会が開かれた。

 バンキグは戦士が最も貴いとされる国なので、軍事教練の名を借りた武術大会が盛んなのだ。雪に閉ざされる冬には娯楽が少ない事も手伝って、毎月のように武術大会が開かれる。

 大魔王が復活し、知恵の巨人を腐敗させた敵の正体もつきとめていないのに、遊びの大会に関わっていていいんだろうか? とは思ったものの、ジライ達忍者の奮闘むなしく、情報収集の成果はなし。動くに動けない以上、お世話になっている王宮との親睦を深める為にも、行事には参加した方がいい。

 お母様達の代は勇者一行VSバンキグ戦士達で戦った。でも、現勇者一行は、武術がからっきし駄目な者一名(ガジュルシン)、得手が両手剣が二名(私とアジンエンデ)、北方では盛んではない格闘のマスター一名(シャオロン)、ジャポネ刀の達人一名(ジライ)の五名。アーメットは私の影武者兼ガジュルシンの影で勇者の従者ってわけじゃないんで、参加権が無い。

 勇者と従者で同じ競技に出るのはナニだし、シャオロンが誰かと戦うとなると異種競技にならざるをえないし、忍者が片手剣の使い手の国王と対戦するのもどうかと思う。ジライが勝っちゃったら、戦士の中の戦士であるバンキグ王の面目丸潰れだし。

 なので、対決ではなく、バンキグ戦士の武術大会に混ざる形にしてもらった。

 武術大会は毎回、どんな勝負をどんな形でやるか決めるそうだ。今回は、両手武器、弓、北方で格闘にあたるレスリング、片手武器の四部門勝負で行われる。

 各部門参加者は四名の総当たり戦で、最も勝ち星が多い者が優勝。両手・片手武器部門は、相手に『参った』を言わせるか、武器を奪うか、かすり傷でも怪我をおわせるか、場外に追い込めば勝ち。弓は四人で的を射続けて的中が多い者が優勝。格闘は五回相手の上半身を床につければ勝ちだそうだ。

 私は両手武器部門に出場、アジンエンデはまあまあ使える片手武器部門(負けを承知で、ルゴラベルンハルト国王から教えを乞う形の参加)、で、ジライはバンキグでは弓使いと誤解されているので弓部門で出場した。

 武術大会会場は照明兼暖房の光球に照らされていた。天井が高く、中で軍隊の閲兵式ができそうなほど広い、石造りの建物だった。入口から見て正面が貴賓席で先王と国王の為の席で、左右の壁の前に階段式の観客席があってバンキグの戦士達がいっぱいいた。

 競技場は二面に分けられていて、入口から見て手前が弓競技場、奥の玉座に近い方がその他の部門の競技場で、床の上に盛り土をして十五メートル四方の正方形の試合場が造られていた。

 会場の合図と共に、試合場でシャオロンが『龍の爪』を装備して格闘の演武を披露した。北方における格闘は立ち技だけのレスリング。シャイナやインディラで発達したような、殴る・蹴る・突く・絞める等の多彩な技のほとんどが禁じ手なのだ。シャオロンの武はバンキグ人には見慣れないものだったが、彼の素早く無駄のない動きは、好意的に評価されたようだ。演武の終了と共に戦士達から拍手が送られた。

 その後は、ルゴラゾグス先王とシャオロンの特別試合となった。

 先王のご希望なのだ。お母様の代の武術大会で二人は対戦しているけれども、戦っていないという不思議な関係。先王と対戦したのは、シャオロンの体に憑依した過去の英雄ゲラスゴーラグン様の霊で、ゲラスゴーラグン様の憑きのシャオロンの圧勝だったそうだ。

 昔叶わなかった戦いを、あの時と同じ形で……と、いうのが先王のご希望なので、普通の戦斧を持つ先王に対しシャオロンは『龍の爪』を装備している。

 その上、その頃は壮年であった先王と十三歳だったシャオロンが、今では老年と壮年だ。圧倒的に先王に不利。

 でも、お猿さんみたいな顔をした先王はニコニコ笑って、楽しそうに戦斧を振りまわした。強い相手と戦えるのが、面白くってしょうがないって感じ。

 シャオロンは竜巻も聖水も使わず、眼の良さを生かして先王の攻撃を爪で受け止めたりかわしたりしていた。シャオロンの顔にも笑みがあった。油断すれば一撃を喰らい、その一撃で自分が負ける相手と戦うのが格闘家魂に火をつけたのだろう。実に見事な体さばきで先王の攻撃を避けきった。

 十分ほど戦った後、シャオロンは攻撃をかわして、一陣の風のように先王の脇を駆け抜け、先王の左腕の袖と皮膚を浅く切り裂き、勝者となった。

 先王は豪快な大きな声でシャオロンに笑いかけ、会場には割れんばかりの拍手が響き渡った。勇者の従者シャオロンの見事な戦いっぷりに、戦士達が惜しみない拍手を送ったのだ。

 その後、弓耐久戦が弓試合場で開始。

 私は、第一競技の両手武器部門に出場した。

 はっきり言って……甘くみてた。

『勇者の剣』ではなくただの大剣を借りての出場だけど、私、姫勇者だし、この地上最強の戦士なんだから楽勝よ! とか思ってたんだ。

 ところが、大苦戦。と、いうか本当なら負けていた。残りの二人は敵じゃなかったのに、予想以上にカラドミラヌが強かったのだ。

『狂戦士の牙』の振るい手だってのはわかってた。でも、昔、お父様にボコボコにされた軽薄オジサンって印象が強かったんで、ついバカにしてた。

 重たい武器を持ってるのに、カラドミラヌの動きがとにかく早い。刃に拘泥せず、側面やら柄を使って来るし、軽々と片手で持ったりする。片手で持たれると、武器の間合いが変わる。動きの予想がつけづらいところはアジンエンデに似ている。が、カラドミラヌの腕力は驚異的で片手での一撃でも、私の両手なみに重いのだ。両手で大剣をしっかり握っての私の攻撃も、片手で受けてしまう。

 そんなんで、何で私が勝てたかというと、カラドミラヌが対戦前に会場に響き渡る声で誓約をしたからだ。

「勇者とはいえあなたは女性、女性より体力も腕力も勝る男が同等の条件で戦うのは卑怯。五分だ。五分であなたに勝てなかったら、俺は負けを宣言しましょう」と。

 私、完全に防戦一方だったんだけど、五分間、しのぎきったもんだから勝ち……

 カラドミラヌはさっさと『参った』宣言をして、敗者として試合場を後にした。

 私が三勝、カラドミラヌが二勝、残りは一勝と全敗なので、私が両手武器部門の優勝となったわけだけど……

 納得いかない! カラドミラヌのが強かった! 勝ちを譲られるなんて、超悔しい! 私、勇者なのに!

 ムカムカ腹を立てて出場者控え席に戻った私を、(王子なので出場者でもないのに)特別にその席に座っていたガジュルシンが、共通語で慰めた。

「勇者に恥をかかせてはいけないと配慮してくださったんだよ。地上最強の勇者が他の人間に負けては外聞が悪いからね」

 シャオロンも私をシャイナ語でなだめてくれる。シャイナ語に切り替えたのは、共通語がわかるバンキグ人がそばにいないとも限らないからだろう

「バンキグの思惑はそうでしょうね。でも、カラドミラヌさんは一本気な方なので、多分、本気で五分で勝てなきゃ負けだと思って勝負に臨んだんですよ。己の定めたルール上で負けたので、敗北宣言をしたのです。勝ちを譲ったつもりはないと思いますよ」

 相手の心の内なんかどーでもいい! 勝てなかったのが悔しいのだ! あのまま戦ってても、私ではカラドミラヌに勝てなかった!

「実力差がわかるんですから、まだ伸びしろがあると思います」

 シャオロンがニコニコと微笑む。

「更に両手剣に精進したらいかがですか? 運命が変わると思いますよ」

 むぅ。

「シャオロンから見て、私の腕前ってどう? お母様と比べて?」

「セレス様とですか……そうですね、素人のオレの目から見てなのであくまで参考程度に聞いてください……セレス様よりもかなり技術が劣っていると思います。スピードは目で追いやすいですし、攻撃の型もセレス様に比べると引き出しが少ないような」

 ぐぅ!

 ズバッ! と。

 言うべき時には容赦ない……さすが、シャオロン……

「でも、それも無理からぬ事と思います。セレス様は二年かけて『勇者の剣』と一体化しました。言いかえれば、大魔王退治の為に魔族・大魔王教徒を相手に実戦を二年間積んだという事です。経験が違いすぎます」

 私は四天王三人をとっとと倒した『神速の勇者』と言われている。まあ、倒したのは私じゃなくって、アジンエンデとシャオロンとタカアキなんだけど……インディラを旅立ってからまだ五か月になっていないのだ。

「更に、セレス様にはアジャンさんという剣の師匠がいました。毎日が剣の修行のようなものだったのです。ラーニャ様とは環境が違います」

 異空間で会った、あのSの赤毛のおじ様か……あの人も私の剣の扱いが『なってない』って言ったのよね、くそぉ……

『勇者の剣』と一体化すると、難なく魔が斬れる。だけど、その時、剣は持っているのを忘れるほど軽く、触れるだけで、ううん、触れずに剣から広がる浄化の力で魔を倒せちゃう。

 私の戦いは、剣の強大な浄化の力に頼っている部分が大きいのだ……

 私の両手剣の腕前が優れているから強いわけじゃない……

 お母様に指導されてきたから、両手剣は、アーメットの百倍はうまいし、そこらの両手剣使いよりは明らかに強いと思う。でも、名人・達人級から見ればまだまだという事なのだ。

「オレもアジンエンデさんもいくらでもお相手はつとめますし……バンキグにいる間なら、カラドミラヌさんも喜んで剣の修行に付き合ってくださると思いますよ。頑張りましょう、ラーニャ様。ラーニャ様はまだ十八。その道一筋何十年の方にかなわなくても仕方ありません。これから強くなればいいんです」

 以上の会話は南の言葉だったんで、当然、アジンエンデには通じていなかった。が、落ち込んでいる私に、

「一緒に強くなっていこうな」

 と、言ってくれたから、私の気持ちは察してくれたようだ。

 レスリング勝負の後、片手剣部門勝負となった。

 やはり、大本命ルゴラベルンハルト国王が三勝して優勝した。アジンエンデは善戦したと思う。両手剣じゃなく、片手剣での参加だし。二勝したしね。

 弓部門のジライは、バンキグの弓の名手一名と並んでの同点優勝というか引き分けになった。両者ともに、制限時間内的中を続けたから雌雄を決しられなかったのだ。

 姫勇者一行は参加競技では三戦一勝一敗一引き分け。姫勇者もバンキグの国王陛下も優勝して、勝つべき者がきちんと勝った申し分の無い結果なんだけど……悔しい〜〜〜



 それから十二日。

 まったく進展なし! シベルア司祭と一緒に小物魔族の掃討したり、武術鍛練をしたりして私は日々を送っている。

 時間がある時は、ひたすら大剣の修行。シャオロンやアジンエンデに付き合ってもらって、暇そうな時はカラドミラヌやルゴラゾグス先王を捉まえて稽古をつけてもらった。

 ガジュルシンから実戦魔法の使い方も教わった。魔法を使えるのは私じゃなくて剣だけど、剣が使用可能と思われる魔法の種類・その効果をきちんと把握してればいざって時に落ち着いて動けると思うから。

 んでもって、アーメットの馬鹿にも両手剣修行をさせた。バンキグの人達の目に留まらぬよう、私の部屋でこっそりと、ね。私の見た未来通りなら、私が死んだ後、こいつが『勇者の剣』の持ち手となる。ヘボじゃ困る。私がいなくなった後、みんなを守ってもらわなきゃいけないんだ。

 バンキグ国もいろいろ調査を進めてくれてるし、ジライの部下の忍者達も北方諸国の情報屋も利用したりいろいろ頑張ってくれてるんだけど、知恵の巨人を腐らせた敵の正体も狙いもあいかわらずわかんない。バンキグで敵が派手に動いている様子もない。かといって他国で魔族が暴れているという情報もない。



 で、今夜は満月。

 修行の邪魔はしたくないと、ガジュルシンは弟と一切連絡をとらない。が、さすがに満月に合流するかどうかは気になったのだろう、前日、カルヴェル様に心話でガジャクティンが一行に戻って来るかどうかを尋ねていた。それに対し、ガジャクティンはもうタカアキの下でシャーマン修行に入っているとのカルヴェル様の答え。

 あっちは順調のようだ。良かった。だけど、何か……変。ガジャクティンは戻って来ないとわかったら、何て言うのかしら……胸がちょっと痛かった。



 私とガジュルシンとアーメットとシャオロン様は、アジンエンデの部屋に集まっていた。 

 アジンエンデは布の袋から、丸い鏡を取り出し、手に持っている。

『真実を映す鏡』。

 タカアキが慰謝料としてアジンエンデにプレゼントをしたアイテムの一つだ。『心の底から知りたいと思ったモノの、本当の姿が見える鏡』だ。満月の夜しか使用できないモノだけど。

 さっきからずっと、アジンエンデはジーッと鏡を見つめている。私がいる角度からだとアジンエンデの顔が映ってるだけだけど、彼女の目には他のモノが見えてるっぽい。

 多分、赤毛の戦士アジャンだ。お父さんが何処で何をしているのか魔族に堕ちはしないか気にかけている彼女の目には、お父さんの今の姿が見えているんだろう。うまくすれば考えてる事までわかるやもしれないってタカアキは言っていた。どんな映像がアジンエンデには見えているんだろう?

 だいぶ経ってからアジンエンデはフーッと溜息をつき、私の目の前に鏡を突き出してきた。

 使えって事だ。

 私は鏡を受け取り、鏡に自分の顔を映した。

 私が知りたい真実は……私達が勝てるかどうか。誰一人犠牲を出さず、僧侶ナラカに勝てるかどうか。

 しばらく睨んだけれど、鏡に変化なし。いつまで経っても私の美貌を映すだけ。

 もしかして、このアイテム、未来は覗けないのかしら? 

 現在・過去限定?

 試しに、他の事を考えてみる事にした。

 僧侶ナラカ……

 やたらクソ長い髪を一つの三つ編みにした、いけすかない顔の優男。

 お父様の伯父、ガジュルシン達の大伯父。先々代勇者一行の従者。もと大僧正候補。

 魔に堕ちたあの男の狙いは何なのだろう?

 知恵の巨人は、奴の狙いは『今世の浄化』だと言った。世界を破壊したいのか? って問いに対してはその解釈は『正しくあり、正しくない』って言った。

 あの男は何を求めているのだろう?

 そう思ったら、鏡に嫌なモノが映った。

 背筋がゾッとした。

 目にするだけで、目の穢れと思えた。

 それの周りは黒の瘴気で覆われていた。と、いうか、それ自体が黒の瘴気を吐いている。獣の毛皮のようなもので覆われた表装の辞書のような厚みのある本。

 頭がガンガンしてきた。

 魔の産み出したアイテムだ。

 ふつふつと怒りがわいてくる。

 こんなモノを見てはいけない。存在を許してはいけない。

 魔は大切なモノを壊すのだ。この世界を私の家族を仲間を、穢し、奪おうと機会を窺っている。

 魔は『絶対、許してはいけない』。

 怒りと共に破壊的な衝動がわきあがる。

 駄目だ。

 見てると暴れ出しそうだ。

 私は目をそらし、鏡をガジュルシン達の方に向けた。

「見たい人、見て」

 このままじゃ、私、鏡に斬りかかりそうだから……

 それを受け取ったガジュルシンが鏡を見つめる。義弟も、多分、ナラカの真実を知りたいのだと思う。私と同じモノを見るのだろうか? あの禍々しい本……アレってもしかして有名なアレかしら。

 勇者教育で繰り返し、リオネルが教えてくれた奴。

『闇の聖書』。

 初代ケルベゾールドが初代四天王それぞれに一冊づつ与えた、暗黒魔法のアンチョコ本。ケルベゾールドが生み出した暗黒魔法の全てが記されているって噂の。

『闇の聖書』は最初は四天王の数の分だけ、四冊あった。

 聖書の中身は皆、同じだけど、最初の所有者の四天王の格づけから、一の配下グラウスの本が一の書、二の配下ディウスのが二の書、三の配下ゼグスのが三の書、四の配下ウインゼのが四の書と呼ばれてきた。

 そのうちの三の書は、三百年以上前に七代目勇者ロイド様が『勇者の剣』でぶったぎったから、今世にはもうない。

 で、残った三冊は今日まで大魔王教徒は奪い合って悪さに使ってきている。大魔王の聖書は複製できない魔法の書。写そうとしても、文字にした途端、文字が具現化して逃げてしまうんだそうだ。暗黒魔法の秘儀を手に入れたい者は、聖書そのものを命がけで手に入れねばならないのだ。

 私の代で十四回目の降臨となるケルベゾールド。初代より後、二代目から十四代目までは『闇の聖書』を読み解いたものが聖書を使って憑依体に大魔王を降ろしたんだと言われている。

 諸悪の根源とも言える本だ。

 僧侶ナラカの狙いは闇の聖書……

 聖書を使って『今世の浄化』をするつもりなのだろうか?

《やはり、真実の鏡を使いましたね》

 頭の中に声が聞こえた。

 鏡を持っているガジュルシン、周囲から様子を窺っていたアーメット、シャオロン、アジンエンデも、びっくりした顔をしている。この場に居る者全員に声が聞こえているようだ。

 私はガジュルシンの手の中の鏡を覗きこんだ。

 そこには、澄ました顔の魔族が映っていた。私の目にも僧侶ナラカが見える。

《お久しぶりです、姫勇者一行のみなさま。あなた方がフォーレンのつまらない罠を破り、新たなる伝説を作ってくださって嬉しいです》 

「フォーレン?」

 私の問いが聞こえているみたいで、ナラカは答えた。

《最後の四天王です。今世の、ね》

 鏡の中の魔族が薄ら笑いを浮かべる。

《現在の私の姿を確認したいと真実の鏡に願ってくださったから、こうして会話できたんです。嬉しいです。あなた方が王宮に籠っていると連絡が取りづらいんですよ。王宮の魔封じが邪魔で。まあ、やりようはあったのですが……できれば、あなた方とだけ話したかったので》

 という事は、真実の鏡の魔法の干渉を感じて、逆にその魔法に関わってきたって事? ガジュルシンから習ってもいまいち魔法ってわかんないんだけど、相手の魔法にのっかって自分のしたい事ができるってのは相当、魔力が強いって証だ。

《三日後、知恵の巨人の首が晒されていた場所に次元通路を開きます。私と会いたかったら、そちらへいらしてくださいますか?》

「決戦……てわけ?」

 ナラカは肩をすくめた。

《ただの招待ですよ。まだ命のやり取りをする気はありません。私には、ね。あなたがたがどうしてもっていうのなら、仕方ありませんから遊んであげますが》

 信じない。

 魔族の言葉なんか信じられない。

 ガジュルシンが鏡の中のナラカへと話しかける。

「どういった意図のご招待なのです?」

《あなた方の力試し……と、いったところですね》

 力試し?

「拒否すれば?」

 ナラカはいやらしい顔で微笑んだ。

《バンキグ国が、多分、どうにかなっちゃうでしょう。次元通路の先には四天王がいます。あなた方が倒さなければ、あの広野から今世に出現して大暴れするでしょうから》

「僕等を四天王と戦わせる気か?」

《四天王討伐は姫勇者一行にとっても、願ったりでしょ? お膳立てしてあげるのですから、感謝こそされ、睨まれる覚えはありませんね》

「ふざけるな、魔族!」

 私は鏡に向かって怒鳴った。

「汚らわしいおまえの言葉なんか信じない! おまえなど剣と力を合わせ滅ぼしてやる!」

 私を背後から誰かが抱き締める。だが、振り返る気はない。私は鏡だけを睨み続けた。

《勇ましいですね、さすが姫勇者様》

 余裕たっぷりの顔で、魔族が笑う。

《でも、今のあなたでは役不足です。私を倒せません。あなたがあなた自身の怒りで私に立ち向かえば、まあ、勝機はあるかもしれませんが》

 私が私自身の怒りで立ち向かう?

「どういう意味?」

《人から与えられたものではないあなた自身の感情……何故、魔が憎いのかよく考えて御覧なさい。あなたがあなた自身に目覚めれば、剣はより一層、あなたと共鳴するでしょう》

 何よ、それ。

「わけわかんない」

《四天王戦であなたが目覚める事を期待してます。へなちょこ勇者では相手をするだけ時間の無駄ですから、さっさと強くなってください》

 ムカッ!

 鏡に向かってあげた私の拳を背後から誰かが押さえつける。くそぉ! 離してよ、あの魔族ムカつく〜! ぶん殴る!

「美しくないものはお嫌いだとおっしゃいましたよね? この前……それから、昔、トゥルクの王宮でも。そうおっしゃってたって、セレス様から伺いました」

 シャオロンだ。とても真面目な顔をして鏡を覗きこんでいる。

「魔族は……美しいですか?」

 ナラカはフフフと笑い、その問いには答えなかった。

《それでは三日後に。そうですね、日の入りの時間に次元通路を開く事としましょう。あなた方の健闘を祈ります》

 真実の鏡がただの鏡となる。

 私達は顔を見合わせた。

 背後からのしめつけがなくなったんで振り返ったら、アーメットがいやがった。私の行動パターンを読んで、止めたのね。くそ生意気な弟め。まあ、ぶん殴って、鏡をぶっ壊すなんて馬鹿な真似しなくて良かったけど。

 三日後……ナラカのお膳立てした場所で四天王と戦う……

 罠かもしれない。けど、何も進展のないままお城に籠っているよりもずっといい。

 ナラカは私達と戦う気がないと言っていたけど、魔族の言葉なんか信じちゃいけない。

 ナラカが牙を剥いてきたら……私は死ぬのだろうか?

 巨人の見せた未来のように、千々に砕けるのだろうか?

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