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姫勇者ラーニャ  作者: 松宮星
北からの誘い
54/115

魔族は魔族! 黒く聳える城!

 今から約二十年前……

 女勇者セレスの大魔王討伐後、武闘僧ナーダの部下――老忍者ガルバは臓腑の病にかかった。余命いくばくもないと悟った彼は、病の事は主人(ナーダ)には伝えず、一切、治療もせず、主人への最後の奉公をした。

 ナーダの父王の第二夫人一族の悪行を白日の下に晒し、彼等に謀反を起こさせ、正当な世継ぎナーダに討伐させたのだ。老人の計画外の事ではあったが、第二夫人一族がナーダの父の命をも奪った為、大僧正候補であったナーダは還俗し、寺院と正規兵を味方につけ、エウロペ侯爵令嬢セレスの手勢(忍者ジライを含む)と共に謀反人達を倒したのである。

 ナーダの母サティーを死に追いやりナーダを出家させた、国王第二夫人とその一族への老忍者の復讐はなったのだ。

 古代王朝の血を引き、且つラジャラ王朝の第一子であったナーダ。この地の正当な世継ぎにして、英雄ナラカの妹の子、そして長年愛し仕えた主人。

 主人(ナーダ)の国王即位を見届け、老人は満足して死を迎える事とした。

 即位したばかりの主人を煩わさぬよう、末期にある事は周囲に秘めて。

 女主人セレスの結婚相手をナーダと定め、老人の復讐に協力した忍者ジライ。

 老人の子飼いの部下ムジャ。

 二人だけに看取られる形で、老人は最期の時を迎えた。

 ナーダの即位後、二週間の事だった。

 老忍者は、ジライを新たな頭領に指名し、副頭領ムジャにジライと共に組織をまとめ主人ナーダに尽くすよう命じた。ガルバの一族が代々受け継いできた古代王朝の遺産も、ムジャに託した。

 心残りなく、死を迎えるはずだった。

 だが、その時……

 死の淵にあった老人の元へ、真の主人が姿を現わしたのだ。

 僧侶ナラカ。

 老忍者の最初の主人が、別れた時と変わらぬ姿で現れたのだ。三十六年以上前と変わらぬ若々しく美しい姿で。

 セレスの祖父ランツ――十二代目勇者の従者となった僧侶ナラカは、大魔王戦で殉死したと世に知られていた。

 しかし、ナラカは総本山の生活を厭い出奔したのだと、大魔術師カルヴェルはガルバに教えた。影であるガルバを伴わなかった理由は、インディラに妻子のいるガルバを気づかい、妹サティの影となる事を望んだが為と告げて。

 老人は死の淵まで、己の至らなさを恥じていた。 

 僧侶ナラカの供となれなかった理由を、家族を持ち身重となった自分にあったと考え、『影にふさわしくない姿』に堕した自分を責めていたのだ。

 一度心に決めた主人に、死ぬまで忠義を尽くすのがインディラ忍者の生きる道と……そう信じてきた老人にとって、主人に見捨てられた自分ほど許せぬものはなかった。



『迎えに来ました、ガルバ。影として、私と共に今しばらく生きてくれませんか?』



 主人の誘いに、老忍者が否と答えるはずはなかった……



* * * * * *



「それって、つまり……」

 私は不快に思いながら聞いた。

「あんたは、その時、何もしないで、男同士の駆け落ちを見逃したってわけね?」

 ジライはポリポリと覆面の上から頬を掻いた。

「まあ、そういう事にございますな」

 ジライから、だいたいの事情は聞いた。傀儡の術でアーメットの体を操り(いつかけたのよ? って聞いたらエーネ戦の後って答えが返った。あの時、アーメットが死にかけたから、いざという時、無様な姿を晒させぬ用心に傀儡をかけたのだそうだ)、僧侶ナラカの部下の忍者ガルバと戦ったって。ナラカの部下は私の荷物を漁っていたそうだ。

 もしかすると……僧侶ナラカの分身の襲撃は陽動だったんじゃないかしら? 私達の注意を武器庫に向けてる間に、私の荷物から何か見つけようとした……? でも、何を?

 ガジュルシンの幻術+千里眼防止の魔法に包まれているから、私達の会話は周囲に漏れていない。出入口の前の壁にたたずむ監視役は、今、幻を見ている。ガジュルシンとガジャクティンがこの部屋に運びこんだ召使達を癒しているだけで、後の者は無言でただ座っているだけに見えているはず。

 実際、ガジュルシン達は、私達の召使役の忍者達を治療しているけど。

 もう十時過ぎてしまってる。でも、動けない。国境を超えるどころではない。アーメットも含め、忍者達はまだ眠り香が抜け切っていない。

 要塞の軍人相手の事情説明はシャオロンが引き受けてくれたけど、そっちもまだ時間がかかるだろう。

 私はイライラしながら、ジライを責めた。

「相手が黒の気を消していたんだとしても……あんたなら、僧侶ナラカの正体、わかったんでしょ? 魔族だって」

「はい。わかっておりました。相手も魔に堕ちたと、はっきり私とムジャに告げましたので」

 その、のほほんとした緊張感のないしゃべりが、気に喰わない。

「あやつからその時、事情も聞きました。大魔王との戦いで敵の封印の呪にかかり、三十六年間、魔界に封じられていたこと。心ならず影ガルバと別れた事を苦しく思っていたこと。今世に戻れたものの黒の気に染まりきっており、インディラ大僧正とカルヴェル様の治癒・浄化魔法によってかろうじて魔に堕ちずにいた状態にあったこと。治療中の身でありながら、忍者ガルバの命の灯が絶えるのが我慢ならず、総本山を抜けだしたこと。全て聞きました」

「知ってたなら、何で……」

 私はジライを怒鳴りつけた。

「何で見逃したの? 『ムラクモ』で浄化もできたでしょ?」

「できましたが、殺す理由もありませんでした」

 殺せたのに、殺せなかった?

 穢らしい魔を?

 信じられない。何でそんな事ができるの? 魔は存在するだけで、この世に瘴気を撒き散らし、光の世を穢すのよ。

「敵対の意思を示せば、むろん浄化しました」

 ジライが淡々と言う。

「ですが、あやつらは二人で完結しておりました。ご老体は……忍者ガルバは人としての生を終え、魔の眷族となっただけのこと。僧侶ナラカとて、あの時は何の企みもなく、己の影を取り戻そうとしていただけにございます。周囲に魔の穢れを及ぼす気が無いものなら、存在しても良いのではないかと」

「でも、魔族よ! 大魔王が復活したのは僧侶ナラカのせいよ! あいつが大魔王かどうかはわかんないけど、高位魔族に変わりはないわ! 昔、殺しておけばよかったのに! 魔は見逃してはいけないのよ!」

 ジライが覆面から覗かせる目を微かに細める。その目も……何か気に喰わない。私に賛同してないっぽい。

「二度と魔を見逃さないで。どんな小さな敵であってもよ? その時、邪悪じゃなくたって、魔族なんですもの。いずれこの世に害をなすわ!」

 ジライがいけ好かない目のまま、静かに言う。

「全ての魔の抹殺がラーニャ様のご命令とあらば、従いましょう」

「命令よ!」

「承知」 

「僧侶ナラカの肉体の時は三十六年の間、止まっていたけれども、魂はカルヴェル様の魔法によって封印されてから十七年後に今世に戻っていた……」

 忍者達を治療していたガジュルシンが立ちあがる。

「周囲の者達が年をとり、大事な者達が亡くなっていったのだ。解放されるまで、さぞ孤独だったろう。その境遇はお気の毒に思う。だけど……」

 ガジュルシンがはっきりと言い切る。 

「人には、してはならない事がある。忍者ガルバの存在が心の支えだったのだとしても、自らを人ならざる者に堕してまで、神の理に逆らい長らえさせるのは間違っている。僕はそう思う」

 その通りだと、私も思う。

 どんな理由で堕落したのであれ、魔族は魔族。滅ぼすべきものだ。同情なんかしない。次に出会った時に、斬るだけだ。

「父上は大伯父が魔に堕した事はご存じだけれども、自分の影だったガルバが魔の誘惑に屈し眷族となった事はご存じなかったんだ。病で亡くなったと思われているんだよ」

 え?

 ガジュルシンの顔に、苦いものが浮かんでいる。

「でも、忍者ガルバも大伯父の悪事に加担しているのが明らかとなった……もう秘めてはおけない。父上には心話でお話するよ」

 お父様……

 胸がズキンと痛んだ。



* * * * * *



 シルクドとバンキグの間には、山脈が横たわっている。便宜上、山の南面がシルクド、北面がバンキグとされている。が、明確な境界があるわけではない。北方諸国が国境を閉じてからの百年以上の年月、シルクドは山自体を立ち入り禁止区域とし、一般人をよせつけぬようにしている。

 まだ両国が友好関係にあった頃に築かれたトンネルを、姫勇者一行は通った。シルクドの小隊に先導されて。

 勇者一行のトップを歩くのはラーニャ様、『勇者の剣』を背負い『雷神の槍』を左手に持つガジャクティン様が続き、その後を道悪に難儀されているガジュルシン様とアーメットに代わりフォロー役となったジライさんが進む。アーメットは召使役なので、オレやセーネさんよりも更に後方に居る。北方にいる間は、常にガジュルシン様とアーメットが一緒にいられるわけではない。悪影響がなければいいけれど。

 国境閉鎖後の百年以上もの間、トンネルの利用者はほとんどいない。魔力による光球に照らされたトンネルの中は暗く、所々が陥没し水が溜まっていた。が、定期的に軍隊が巡回している為、交通不能となるほどに荒れた場所もなく、正午前にはトンネル内のバンキグ側検問所に到達した。

 そこで姫勇者一行はバンキグ軍に引き渡され、やはり一個小隊と共にトンネルの先を歩いてゆき……



 トンネルを抜けた先には……



 懐かしいお方がいた……



「バンキグにようこそ。女勇者セレスの娘とその従者の方々よ、我が息子ルゴラベルンハルト国王に代わりそなたらを歓迎いたす」

 大地を揺るがしかねない大声が、雪の野原に響き渡る。ルゴラゾグス先王は武の誉れも高い国王だった。よく覚えている。聖なる武器『狂戦士の牙』の使い手、戦斧の名手だ。背はニメートルを越え、横幅も広く、誰より体格が良かった。年をふり赤銅色であった髪と髭は白く変わられていたが、毛皮で覆われた体は戦士にふさわしく太く逞しく威圧的だ。

 雪の野原には天幕が五つあった。先王自ら姫勇者一行の到着をここで待っていてくださったのだ。実にルグラゾグス先王らしい。何事にも豪快で、瑣末な事には拘らない『豪傑』な方だったのだ。

 国王の背後には、思い思いの武器を装備したバンキグの戦士達がいた。装備も装束もてんでばらばらだ。寄せ集めの軍隊のようだったが、それがバンキグ風だ。兵士の装備を統一化しようという考え自体がバンキグの国風にはないのだ。剣や斧、槍など各々得意武器は違う。画一化された装備ではなく、バンキグ人は己が『戦士』として最も優秀に働ける姿をとる事を信条とするのだ。

 その中に、覚えのある顔が何人も見受けられる。セレス様とオレ達はバンキグの王宮に一か月ほど滞在し、その後も、バンキグの方々の助けを借りた。大魔王四天王との戦いで倒れられたセレス様をルゴラゾグス国王が保護してくださらねば、オレは雪の広野で死んでいた事だろう。

「懐かしいな! 大きくなったな、シャオロン! 会えて嬉しいぞ!」

 ラーニャ様やガジュルシン様への挨拶を終えられたルゴラゾグス様が、その巨大な体でオレをガシッと抱きしめられる。

 ラーニャ様が目を大きく見開いてびっくりしている。当然か。オレ、もう三十を超えてるし。大きくなったなんて……

 思わず笑みがこぼれた。

 バンキグでオレは十四となった。ルゴラゾグス様のご記憶の中では、オレはずっと子供のままだったのだ。オレがいたからこそ『狂戦士の牙』の使い手に選ばれたのだと、ルゴラゾグス先王はオレの事をかわいがってくださった。バンキグの方々も、皆、優しくあたたかくオレに接してくれた。

「お目にかかれて光栄です、ルゴラゾグス様。先王の位に就かれたと伺いましたが、昔と変わらずご壮健なお姿で安心いたしました」

「ん? うむ。バンキグは戦士の国だ。衰えた者が国王の位にあっては国の恥となる。まだまだ戦士として恥じない戦いはできるが、より優秀な戦士に国を譲り、より優秀な戦斧の使い手に愛武器も譲った」

 国も聖なる武器もお譲りになったのか……国風の違いなのだろう、何とも潔いご決断だ。

「そちらの覆面男はノリエハラスの気に入りであった弓使いか?」

 ジライさんがルゴラゾグス様へと頭を下げ、名を名乗る。バンキグの武術大会で弓部門に出場した為、この国ではジライさんは弓使いと誤解されているのだ。

「懐かしいな! ノリエハラスは十一年前に喜びの野に旅立ったが、良き好敵手であったそなたがこの国を再び訪れ、アレも喜んでおるだろう」

 ルゴラゾグス様はアジンエンデ役のセーネさんにもお言葉をかけられる。それ以外の者は勇者と従者の召使として同道している。少し離れて控えるアーメット達忍者には一瞥をくれただけで、ルグラゾグス先王はラーニャ様達と向かい合った。

「我が求めに応じ、この国においでくださったご決断、感謝する。何はともあれ、我が国に現れたアレを見ていただいた方が今後の方針も定まろう。長旅でお疲れのところ申し訳ないが、移動魔法でアレのそばまで一旦お送りする。その後、王宮まで案内しようかと思うが、よろしいか?」

「はい、ルゴラゾグス様」

 はきはきと、ラーニャ様がシベルア語でお答えになる。

「長旅の疲れなどありません。私は一日でも早く魔族を討伐したいと思っています。可能ならば今からでも……」

 ルゴラゾグス様はラーニャ様をご覧になって、大きな声で笑われた。

「さすがは、女勇者セレスの娘! 美貌ばかりではなく、勇ましさも母譲りか! よいおなごだ! 感服した!」

「どうぞラーニャとお呼びください、ルゴラゾグス様」

 ラーニャ様が、セレス様によく似た美貌に艶やかな笑みを浮かべられる。

「姫勇者ラーニャと呼ばれています」

「ほうほう。そうであったな。そなた、女勇者セレスとインディラ国の第一王子であったナーダ殿の子であったな。南のことはよう知らぬが、ナーダ殿が国王に立たれた事は風の噂に聞いていた」

「はい。私はナーダ国王と女勇者セレスの娘、義弟達は母は違いますが偉大なる父の息子である事に変わりはありません」

「ほうほう、なるほど、なるほど」

 ルゴラゾグス国王は背後の男に振りかえって、笑顔を見せた。

「似ておるわけだ。のぅ、おまえもそう思うであろう?」

 (こわ)い黒髭の武人が頷く。壮年の男で、たいそう体つきは逞しく、目つきも鋭い。その背には、見覚えのある両手斧があった。『狂戦士の牙』に間違いない。男は熱い視線をインディラの王子達に向けていた。

「紹介しよう。一昨年、わしが愛武器を譲った、我が国一の戦斧の使い手カラドミラヌだ。魔族の城に赴くそなた達の案内人も務めさせる」

「お初に……お目にかかり……ます。カラドミラヌにございます……」

 カラドミラヌさんって……確か……

 ラーニャ様やガジュルシン様への挨拶をうわの空でこなし、バンキグ一の戦斧の使い手は……

 ガジャクティン様を見つめ、滝のような涙を流されたのだった。感激の涙だ。

「まさに瓜二つ! ガジャクティン様! お会いできて嬉しゅうございます! あなた様の父君の『心の友』カラドミラヌにございます!」

 そう叫び、カラドミラヌさんがガジャクティン様にヒシッと抱きつく。

「おおおお、この鍛え抜かれた体! 父君と一緒ですな! 魔族城騒動が治まりましたら、是非とも、戦斧で対決いたしましょう! あなたの父君との再戦を俺はずっと夢見てきたのでございます!」 

 ガジャクティン様が、糸目をパチクリとさせる。知識としてバンキグの国風をご存じでも、こうもあけすけに慕われれば驚かれるだろう。王族という御身分なだけに、他国の人間にいきなり抱きつかれるなど初めての経験に違いない。

 戦士を最も尊い職業と考えるバンキグ人は、優秀な戦士には惜しみのない敬意を捧げる。そして、底抜けに明るく豪快で人懐っこく親切。

 戦斧勝負でナーダ様に負かされたカラドミラヌさんは、その後、毎日のようにナーダ様に戦斧勝負を仕掛け、稽古をつけられていた。負けん気の強い、後先を考えない方だったけれども……『狂戦士の牙』の後継者となったのか。戦斧の道一筋に精進なさったからだろう。



* * * * * *



 カラドミラヌって確か……

 お父様に毎回、けちょんけちょんにされていた、鼻っ柱の強いバンキグの若者じゃなかったかしら?

 たいした実力もないくせに、お父様の事を『格闘しかできないへっぽこ戦士』って馬鹿にして、お父様に格闘でも両手斧の勝負でもボコボコにされたのよね、確か。

『女勇者セレス』にそう書いてあった。

 うるさくつきまとう若造に、お父様は大人として対応し、礼儀正しく戦斧の稽古をつけてあげた。お父様ってこの軍人の先生よね……なのに、何で『心の友』なのよ?



 納得はできなかったが、この軍人の頭の中ではそういう事になってるらしい。まあ、思い出って美化されるしね。



 カラドミラヌはガジャクティンはチヤホヤするけど、ガジュルシンはほぼスルー。戦士が一番の国じゃ貧弱な女顔の王子なんて受けるわけないか。

 私は勇者だから、それなりに敬意を払ってるみたいだけど。



 カラドミラヌの指示で宮廷魔法使いが、私達に移動魔法をかけ始める。

 発動まで五分かかると、案内役となるカラドミラヌはカカカと笑った。魔法は便利なものではあるが、まだるっこしいと。

 戦士を尊ぶ国じゃ、魔法使いになる人間も少ないし魔法も進化しないのね。無詠唱でバンバン移動魔法を使えるカルヴェル様とか見たら、びっくりするだろうな。



 で、跳んでった先なんだけど……



 私達姫勇者一行――私、ガジュルシン、ガジャクティン、シャオロン、ジライ、セーネは雪の広野に出現した。

 少し離れた所に森があるけど、そこはだだっぴろい、何もない所で……

 雪の広野の真んなか辺に、黒いドームのようなモノがあった。

「あの結界の内側だ」

 カラドミラヌの説明に、目を凝らす。

 あれは黒いドームではない。内側に黒い靄のようなものが充満しているから黒く見えるのだ。

 おそらく瘴気。

 ドームの中に巨大なモノがある。

 けど、周りが黒すぎてよく見えない。

「あの外観のイメージをお送りします」

 宮廷魔法使いがそう断って魔力を高めた途端……

 頭の中に信じられないモノが浮かび上がった。

 城?

 城なの? これが?

 私は愕然とした。

 ううん、みんな、愕然としたと思う。

 黒く巨大なモノの表面に穴が開く。百とか千とか途方もなさそうな数。そこから一斉に黒の瘴気を噴き出し、穴は閉じられた。

 瘴気を撒き散らす巨大な黒い……城?

 城なもんですか!

 何か、悪い冗談?

 趣味悪いって僧侶ナラカは言ってたけど、予想以上! 



 私は黒いドームを睨みつけた。 



* * * * * *



 頭の中で誰かが叫んだような気がした。

 ひどく慌てた声だった。



 助けを求めているのだろうか……?



 そう思ったら、気がひどく焦った。



 戦うべき時に戦えねば戦士ではない。

 守るべき人を守れねば、肉体の鍛錬を積んだ意味はない。


 

 幼い頃、国は荒れていた。

 魔族の瘴気に晒された国は荒廃していた。働き手は少なく、土地に実りは少なく、飢えと貧しさが常に私と共にあった。

 だから、戦おうと思ったのだ。

 ハリの族長たるハリハールブダン……尊敬に値する人物の助けとなる為に。

 国を豊かにする戦いに身を投じようと思ったのだ。



 叫んだのは誰だ……?

 親しい者だったように思う。

 女性だった。



 とても強いが……

 仲間思いで優しく、もろいところもある友人だ……



 そう思い当り、私は瞼を開いた。

 行かねばならない。

 彼女はこの地上の希望。

 彼女を守り共に戦い、『極光の剣』に選ばれた運命を知るのが私の望みだ。



「ラーニャ」



 目覚めた私の目に飛び込んできたのは、薄衣で覆われた天蓋。異国風の天井。そして、変わった衣服を着た異国の女達だった。私を見つめ、彼女達はわけのわからない言葉で何かを叫んでいた。

 アジンエンデとセレス&ナーダとの出会いは次章で! すみません。

 一方、バンキグのラーニャ達は黒く巨大な城に手こずります。

  

 明日からムーンライトノベルズに『女勇者セレス―――ジライ十八番勝負』をアップします。十四番勝負で中忍時代終了です。その後、ラーニャちゃんに戻ってきます。

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