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姫勇者ラーニャ  作者: 松宮星
北からの誘い
53/115

シルクドの要塞! 今昔の忍者!

 兄様の移動魔法で僕等が駆けつけた時には、戦闘が始まっていた。

 棚が壊れ武器が床に散乱する武器庫で、ラーニャは僧侶ナラカと戦っていた。

 僧侶ナラカは魔法使いの杖を手に静かに微笑み、たたずんでいる。

 ラーニャは大伯父に対し、『勇者の剣』で何度も斬りかかる。上段、中段、下段と攻撃を切り替え、大胆に踏み込み、相手を滅する為に剣を振るう。

 一瞬、みほれてしまう。

 恐れなく魔族に挑むラーニャ。

 その迷いのない行動。

 美しいと思った。

 初めてちゃんと見たのだ。

『勇者の剣』と一体化し敵と戦うラーニャを。

 エーネ戦では僕は気を失っていた。皇宮の戦いでは、ラーニャと離れていたり、結界維持に集中しなくてはいけなかったので周囲を見る余裕がなかった。キョウの異界の橋ではラーニャとはぐれてしまった。

 ラーニャは剣を軽々と扱う。空気のように軽いのだろう。武器や棚の残骸で足場がひどい状態なのに、苦もなく動いているのは剣からの助力で宙に少し浮いてるからなのか?

 剣技自体も見事だし、何よりも、ためらいなく魔族と戦う彼女の心に共感し、『勇者の剣』は力を貸しているのだろう。

 白銀の鎧をまとう女性と、彼女の身長ほどもある銀に輝く両手剣。

『勇者の剣』と心を一つにする勇者。

 英雄譚の一節のようだ。

 雄々しく美しい。

 魔力と浄化の力に満ちた美しい剣、触れたモノを全てを打ち砕く鋭利な刃。

『勇者の剣』の美を、ラーニャが極限まで引き出しているのではないだろうか?

 羨ましい。

 だが、完璧なまでに美しい剣は、僧侶ナラカには通用しない。

 大伯父は難なくラーニャの攻撃を避ける。剣の有効範囲を見切っているのだ。そして、危うくなれば移動魔法で逃げてしまう。

 兄様が呪文を詠唱し、魔力を高める。呪文を短縮化してるので何を唱えたかわからないけれど、浄化魔法だと思う。僧侶ナラカの動きを追うように、周囲に光の収縮や点滅がある。その魔法攻撃を、ナラカは空間歪曲と結界魔法で避けきる。

 僕は周囲を見回した。

 廊下には駆けつけたシルクド兵達。

 ジライは刀を抜いたまま、様子を窺っている。共に戦うにしろ、ナラカの隙をつくにしろ、魔法攻撃が仕掛けられている今、不用意に近づくのは危険なだけだからだ。

 シャオロン様は右手の『龍の爪』を敵へと向け、こちらもいつでも飛びだせるように戦いを見守っていた。敵に対し何とも言えぬ複雑な顔をしながら、ジライに何かを囁いている。

 僕の横の兄様が次々に呪文を詠唱する。浄化魔法だけじゃない。呪縛系の魔法や結界魔法も仕掛けている。ナラカが分身にしろ本体にしろ、この場から逃がさないように。けれども、その全てが不発となっているようだ。結界魔法が得意なナラカは、この場の空間を支配しているようだ。

「何の目的の襲撃だ、魔族?」

 話す間も惜しいかのように攻撃を続けるラーニャ、呪文を詠唱している兄様。二人に代わって僕がナラカに声をかける。多少なりとも注意が散漫となってくれればいいけれど、まずそれはないだろう。

「姫勇者の命を狙ったのか?」

「まさか」

 大伯父が楽しそうに笑う。父様に声がそっくりだ。僕にも、声がよく似ているという事だ。ナラカは攻撃を避けながら、口元に手をあてクスクス笑う。

「あなた方を殺す気なら、この建物ごと圧縮して潰していますよ」

 怖い事を言う。

「バンキグに行く前に少しお話したかったんですが」

 ラーニャと兄様を順に見つめ、僧侶ナラカが肩をすくめる。

「聞く耳を持たない方ばかりで、困っていたところです。あなたでもいいですよ、ナーダそっくりな第三王子。あなた、ここで私の話を聞いてくれませんか?」

『勇者の剣』は刀身から浄化の光を放っている。剣を包み込む形で浄化の光があるのだ。刀身そのものより、魔に対する攻撃有効範囲は広いのだ。だが、浄化の光すらも、ナラカは器用に避ける。踊るような優美な動きで。そういえば、大伯父は棒術の達人でもあったのだと思い出す。武器のみの対決でも僕は負けるかもしれない。

「話とは?」

「バンキグに出現したアレの事です」

「アレ?」

「バンキグ北東部の平原に突如出現した、黒く巨大なアレですよ。アレがあんまりひどいモノだから、ルゴラゾグス先王が姫勇者様を頼ったのでしょ?」

「ひどいもの?」

 バンキグ北東部に、魔力で構築された建造物が出現した。それは、今世の常識からかけ離れた形状の巨大な城で、凄まじい黒の瘴気を撒き散らしている……バンキグからもたらされた情報はそれぐらいだった。

 大魔王の本拠地の可能性が高いとも聞いてはいるが……

「何がどうひどいんだ?」

「おや、そこまでは聞いていないのですか」

『勇者の剣』を首をすくめて避け、兄様からの魔法を空間歪曲でかわし、僧侶ナラカが笑う。

「案外、狡猾なんですね、あの大猿そっくりな先王。アレは外からでは壊せず、普通の人間では中へ入れません。手に余ったから、勇者を頼ったわけです」

 外から破壊できず、人間は内に侵入できない?

「嘘じゃないですよ。まあ、行ってみればわかる事ですが……くれぐれも外部から攻撃しないように。『勇者の剣』でも駄目です……あれを攻撃するのは自殺行為です。ラーニャ様でも死にますよ」

 どういう事だ?

「ご親切にも、助言を与えに来てくださったわけか」

『ムラクモ』を構えたジライが、すり足で少しづつ前へ進み出る。

「その城、きさまの根城なのではないか?」

「冗談でしょ」

 僧侶ナラカが不快も露な声で言う。

「あれが城なものですか。あんな美学の欠片もないモノ、近づきたくもない。私は美しくないものは嫌いなのです」

 大伯父とバンキグの魔族の城は無関係?

 いや、でも、魔族の言う事だ。真実とは限らない。疑ってかかるべきだろう。

 大伯父が女性めいたい顔に、妖しい笑みを浮かべる。

「神速の勇者、姫勇者様には更なる伝説を作ってもらいたいのです。バンキグを伝説の終焉の地にしないでくださいね。あんなつまらぬ罠、破れなかったら、勇者の恥ですよ」

「我等に、その魔族の城を壊してもらいたいのだな?」

「ええ、まあ……」

 刀を手にした、ジライがムッと顔をしかめる。まだ大伯父やラーニャからは距離があるが、ジライならば一瞬で距離をつめられる。

「……最後の四天王でもいるのか?」

「さあ?」

 軽やかにラーニャの剣を避けながら、大伯父は笑う。

「何の(メリット)もなければ、きさまは動くまい」

 僕は低く呪文を詠唱した。ジライが大伯父との話相手を自ら始めたのは、むろん聞きたい事があるからだろうけど、それだけじゃない。兄様のように呪文を簡略化できない僕の為に、時間を稼いでくれているのだ。

 軽く小突かれたように思い、視線を向けると、僕のすぐそばで『龍の爪』を構えているシャオロン様がにっこりと微笑まれる。その口が動く。声を出さずに唇だけ動かし、それから視線を前方へと向けた。

 シャオロン様の見ているモノを見ながら、僕は頷いた。目の端で僕を見て、シャオロン様も頷きを返す。 

「……そこに、きさまの探し物でもあるのか?」

 ジライの問いに、大伯父は答えない。妖しく微笑むばかりだ。

「何もかも思い通りになると思うなよ、魔族」

 ジライが、大伯父へと走る。

『ムラクモ』で斬りかかる! 

 寸前、ジライは跳躍した。

 大伯父の目も、ついでに僕の目も、大伯父の上を越えるジライを追う。ジライは大伯父の頭上から何か礫のようなモノを投げつけた。

 それからの事はほんの数秒のうちに起こった。

 大伯父の右手から『勇者の剣』を振るうラーニャ。

 大伯父の体を覆うように、兄様の浄化魔法が圧縮してゆく。

 そして、大伯父の正面からは竜巻。精神を集中し真龍に乞えば、『龍の爪』は聖なる水を放ち、竜巻をも放つ。書物では知っていたけれども、目にするのは初めてだ。

 四方・上方から迫る攻撃。

 大伯父は逃げる。

 移動魔法を使う。

 空間歪曲も結界も『勇者の剣』には通用しないからだ。僕は見ていないが、ラーニャは、エーネ戦ではエーネの空間歪曲魔法を破り、ジャポネの異界の橋では強固な結界ごと分身を斬ったそうだ。

 体術では逃げきれない。ラーニャの攻撃を避けきれたとしても、ジライの移動可能な範囲は広い。シャオロン様の竜巻も前方から迫っている。兄様の浄化魔法も。その全てをかわすぐらいなら、移動魔法を使う。

 僕は大伯父の姿が消えるのを、固唾を飲んで見守った。



* * * * * *



 姫勇者一行の召使役の忍者達は、全員、床に沈んだ。

 実にあっけない。

 忍者は、睡眠耐性を高めている。だが、仕掛け玉が複数破裂し、突如、猛烈な勢いで部屋中に眠り香が広がったのだ。口布が無い状態で密閉された部屋に閉じ込められていては、耐えようもない。

 火薬やら忍法やらで壁を壊そうとした者もいた。が、無駄なあがきだった。ここは、シルクド国の要塞の中。北方への最終警戒施設の、外部からの人間を軟禁しておく部屋なのだ。部屋の内部で、通常の物理・魔法攻撃が通じるはずもない。

 出入口さえ塞いでしまえば、眠らせるのなどやすき事。

 だが、正直に言えば……

 少々、がっかりした。

 密閉空間に無警戒に居るな、馬鹿どもが。インデイラ王宮付き忍者ならば、最悪の事態を想定し、逃げ道を確保しておけ。それでも、きさまら御身様の忍か。いざという時、主人の為に働けぬ者は忍者ではないわ。

 まだ部屋中に煙が残っている。わしは忍装束の口布を高くし鼻まで覆ってから、中に侵入した。この施設の者しか使用できぬ隠し扉――複雑な暗号と鍵を入力して初めて開く扉を通って。

 この施設の構造も、仕掛けも知っている。警備部の男を御身様が術で操り、傀儡(くぐつ)としていらっしゃるゆえ。

 床に倒れている男達を避け、目的の場所へと近づく。

 姫勇者ラーニャの荷物。

 北方への旅が長くなる場合も想定し、持ち物は増えている。衣装箱三つにも膨れ上がっている。探しモノはどの中か……

 無きに等しい鍵を開け、中を確かめる。一つ目の箱は、インディラ風・エウロペ風の姫君の衣服と靴に装飾ばかりで、それらしきモノは見当たらない。

 次の箱を開けようとした時……

 背後に気の動きを感じた。

 体術で避けねば、体に穴が開いていたろう。

 わしを狙っていたクナイが、ニ本、姫勇者の衣装箱に突き刺さる。

 床を回転して避けたわしを追って、敵が迫り来る。

 しなやかな動きだ。

 右手に小剣がある。

 わしは相手を見た。

 金の短髪、整った容姿、そしてあまり高くない背(わしよりは高いが)。ガジュルシン王子の召使役の忍者アーメット……東国忍者ジライの息子。

 眠り香を吸わなかったのか?

 だが、口布をしていない。

 まだ残り香があるというのに、鼻も口も覆っていない。忍者らしい無表情だ。

 近接では右手の小剣で、距離が開けば腰のポーチからクナイを引き抜きわしへと投げつけてくる。動きを先読みしての、攻撃だ。狙いは確か、しかも素早い。

 なかなかの技量。十六とは思えぬ。百戦錬磨の忍者と対戦しているようだ。

 天才の息子は天才か。

 敵のクナイを、わしは右手のクナイではじき返した。尚もこちらを狙ってくるので、わしは足元に転がっていた男の上半身を抱えあげ盾とした。仲間を盾としてやれば、もうクナイは使えまいと思ったのだが……

「!」

 ジライの息子はためらわず、クナイを放ってきた。

 しかも!

 眉間に刺さるぞ、味方の!

 と、判断した瞬間、盾とした奴は捨て、横へと避けた。刺すべきモノを失って、クナイは床へと突き刺さる。

 馬鹿な! 

 父親が常軌を逸したキ印ならば、息子も常識知らずの極悪非道か!

 仲間を殺す気か!

 恥知らず!

 これだから、東国の血を引く忍者は!

 あやうく怒鳴るところだった。口を大きく開いては、わしまで眠り香を吸ってしまう。

 小剣が迫って来たのでクナイで受けた。きらきら輝く聖なる武器『虹の小剣』だ。『勇者の剣』のような馬鹿げた破壊力はないので、普通の武器でも刃を受けられる。

 武器に優劣がない以上、上段から体重をかけている方が有利。わしはじりじりと押される。

「ナーダの部下の命を守ったな……」

 わしを見つめ、ジライの息子が、にぃっと薄く笑った。実に嫌らしい……何とも胸糞悪い笑い方で。

「やはり、ご老体か……」

 その表情、その言葉使い……誰のものかは明らかだった。



* * * * * *



 僧侶ナラカの体が消滅する。

 ガジャクティン様の浄化魔法を浴びて。



『背後』と唇で言葉をつくり、ジライさんの背を見たオレの意図を、ガジャクティン様は正確に汲んでくださった。

 多分、ガジャクティン様も気づいてらっしゃったのだろう。

 僧侶ナラカは移動魔法を使う時、ほぼ、ラーニャ様の死角に現れていると。必ずではないが、圧倒的にそうする回数が多かった。

 人の虚をつくのが好きな方だったと聞いている。

 ならば、ジライさんが新たに参戦すれば……

 ジライさんをからかおうと、ジライさんの背後をとるのではないか……? しかも、真後ろに。

 そう思った読みは当たった。

 僧侶ナラカが空を渡った瞬間、ガジャクティン様はタイミングよくジライさんの背後に浄化魔法を放ってくださった。僧侶ナラカが出現するであろう場所を、聖なる光に満ちた空間にしておいたのだ。

 外部からのあらゆる魔法は結界で防げても、移動魔法で跳び、自分から飛び込んだ場所が既に聖なる光に満ちていたのだ。防ぎようもなかったろう。

 


 けれども、こうもあっけなく倒せたということは……

 分身だったのだろう。

 ガジュルシン様が眉をしかめ瞳を細め、大伯父にあたる方が消えた空間を見つめていた。非常に残念そうに。



「魔族の仲間が侵入しておる」

 ジライさんがオレの貸したモノを足元から素早く拾い、俺へと投げ渡してくる。金剛石の指輪。妻の浄化の気が、石にこめられている指輪だ。ナラカに対しジライさんは投げつけていた。が、予想通り結界にはじかれてしまったようだ。

「賊は勇者一行の召使達の部屋におる。要塞の緊急避難用通路を使い侵入したのだ、至急、通路を閉鎖しろ。賊を逃がすな」

 ジライさんは廊下のシルクドの兵士に向かって叫んだ。

 賊?

 僧侶ナラカの部下……?

 そこで、ズシンと大きな音が響く。『勇者の剣』を握ったラーニャ様が膝をついて、倒れられたようだ。『勇者の剣』が重くなったという事は魔族は消えたという事か? しかし……

 ラーニャ様を助け起こしながら、ジライさんがガジュルシン様へと叫ぶ。

「殿下、殿下の家来の金髪の小憎は、今、賊と対戦しております」

 アーメットが敵と対戦?

 シルクド兵がそばにいるので、ジライさんは遠まわしな言い方をしているのだ。

「殿下の魔力なれば、ご家来の場所もおわかりでしょう? 部屋の中は眠り香に満ちております。そこへ迅速かつ安全に移動いたしましょう。魔の手下を葬るのは、我ら姫勇者一行の務めにございます」



* * * * * *



 傀儡(くぐつ)か……

 実の息子に傀儡の忍法を仕込んでいたのか、イかれた東国忍者め。

 眠り香に満ちたこの部屋で動けるのも当然、この体の主は眠っておるが、今、体を操っておる男はよそにいるのだ。

 道理で倒せぬわけだ。こちも体は若返ってはおるが、昔から技量差は心得ておる。だが、記憶にあるジライの動きよりは明らかに劣っている。自分の体でないゆえジライも動きづらいのだろう。

 本体もどうであろう? 四十を超えたのだ。忍者としては老人だ。本体も昔ほど鮮やかには動けまい。

 息子の体の中のジライが不気味に笑う。

「ご老体、良き手を思いつたのです、協力をお願いしたい」

 協力?

「あのクソ僧侶の鼻をあかしてやる良い手です……是非とも、死んでいただきたい」

 な?

「あなたへの執着ゆえに、あやつは、光の道を捨てた。あなたが全ての元凶」

 まさにその通り……悪いのはこのわしじゃ。だが、今、何故、その話を? おまえはムジャと共に見たではないか、わしを迎えにいらした御身様を。そして見逃したではないか。

 息子の顔を使って、ジライがゾッとするような笑みを向けてくる。

「あなたを殺した者を、アレは決して許さぬでしょう。命を賭けても復讐に現れるはず。そこが光に満ちた聖域であろうとも」

 なるほど……

 そういう事か。

 きさまごときが御身様と渡り合えるか、たかが忍者が。

 御身様の為に働きおれば、死ぬ事もあろうと覚悟はしている。

 だが、きさまにだけは殺されるものか。

 きさまを喜ばせる事だけは絶対にせん。

 昔からきさまにだけは……

 譲れぬ一線があるのだ。

 左手より轟音。目の端で見れば、この部屋と廊下を区切る扉が粉々に砕けていた。

 廊下にたたずむは、ガジュルシン様。

 魔力で扉を粉砕したのだ。

 お怒りの形相だ。

 アーメットの肉体とわしが戦っておるからか。

 引き際だ。

 ジライの息子一人ですら倒せぬのに、これ以上、人が増えてはかなわん。

 わしは退却の為の呪文を唱えた。

 魔法とは縁のないわしの為に、御身様は魔法道具をお与えくださっている。ブローチのようなソレは常に左胸につけている。

 これに願い呪文を詠唱すれば危機を回避できるのじゃが……ハタ迷惑な魔法が発動する。

 廊下より、風のように忍者が駆け来る。

 ジライ。

 傀儡を操りながら、よう本体も動けるものだ。

 聖なる水を生む刀『ムラクモ』が、わしを狙う。

 ジライに少し遅れシャオロンが、更に遅れてガジャクティン様が走って来る。

 槍を手にしたガジャクティン様。

 あああああああ。

 実に凛々しい。ほんに御身様にそっくりじゃ……

 お若い頃の御身様がおそばにいらっしゃるようだ……

 ずっと見ていたかったのだが……

 それはかなわぬ願いだった。



* * * * * *



 インディラ忍者装束の男は消え、その男が居た場所には代わりに黒の瘴気をまとう人ならざるモノが現れる。

 魔族。

 低級魔ではなさそうだったが、実力のほどはわからなかった。出現とほぼ同時に、ジライに両断されたからだ。

 僕は室内を見渡した。僕の横からラーニャも部屋を覗きこむ。

 先程の賊は完全に消えていた。ジライとシャオロン様とガジャクティンが、辺りを窺っている。僕等の他には床に崩れ眠っている忍者達しかいない。

「置換魔法か……」

 あの男は、自分と先程の魔、それぞれの存在していた位置を入れ替えたのだ。大伯父の与えた魔法だろう。大伯父のもとへ帰ったのか……



 忍者ガルバ。

 約二十年前に亡くなった、父上の影。おばあ様の部下でもあり、大伯父の影でもあった忠義の忍者。

 大伯父の堕落の原因となった男だ。 

ガルバの言う『御身様』は、ナラカかナーダの事です。どちらを指しているのかは文脈からご判断ください。わかりづらくてすみません。

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