表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姫勇者ラーニャ  作者: 松宮星
北からの誘い
51/115

ままならぬ心! 皇帝の決意!

 宮廷魔法使いの移動魔法で跳んでった先は、皇宮の外朝の執務室の中だった。



「姫勇者ラーニャ、予の愛しき太陽よ、会いたかった」

 出現したばかりの私に、ちっちゃいのが抱きついてくる。

 おチビだ。なんか、前より冠が小さくなったような。衣服はお気に入りの格闘服。ものすごい刺繍が入っているから、戦闘服には見えないんだけどね。

「本当に本物の姫勇者ラーニャだ……何度、そなたの夢を見たことか」

 おチビが私に甘えてくっつく。今は白銀の鎧姿だからいいけど、他の服の時にスリスリしたらぶん殴るわよ。冠がモロ胸に当たってんのよ。まったく、もう、これだからお子様は。後でよぉ〜く注意しておこう。

「毎日、そなたと従者達の武勇と無事を祈っていた。こうして、又、会えて嬉しく思う」

 二か月やそこらじゃあんま変わんないなあ、背は伸びてないみたいだ。でも、顔色が健康的。よく運動してるんだろう。私の理想の男『優しくて、賢くって、強くって、上品で、包容力があって、逞しくって、信仰心が高くて、国を深く愛していて、家臣を大事にして、必要なら策を巡らすけれども決して非情にはならず、魔を憎み悪を許さずそれでいて慈悲深い、M』を目指して日々精進してるみたいね、偉い、偉い。

 婚約者との再会を喜ぶ少年皇帝を、インディラからの執政と、重臣達がニコニコの笑みで見守る。

 ずいぶんほんわかした雰囲気になったものだ。お父様の選んだ執政とその部下、インディラ忍者の情報を基にシャオロン達と相談して決めた新しい大臣達は、皇帝をたて忠義を尽くしてるんだろう。人柄がいい人が多いんだろうな。

 ドルンが皇宮を支配してた頃を知ってるだけに、のどかになって良かったと思う。家臣達が皇帝を軽んじていたから、あの頃、おチビもギスギスしてたのよね。

「あんたも元気そうね、良かった」

「毎日、シャオロンに体を鍛えてもらっている」

 私から顔を離して、おチビがにっこりと笑う。

「予の夢は、予が手本とする偉大なるインディラ国王と格闘で手合わせをする事だ。そなたの父と対面しても恥ずかしくない実力を、いずれはつけてみせよう」

 よしよし。強くなる為の努力をし、強くなっても謙虚を忘れない。そんなお父様みたいな立派な男になれと命じた通り、忠実に鍛練を積んでるみたいね。それでこそ、私のM。

 おチビは私にもう一度ぎゅっと抱きついてから離れ、私のそばの弟達を見渡した。

「皇宮へようこそ、姫勇者とその従者の方々、そなたらの来朝を歓迎する」



 おチビはもっと私とべったりしたい! って顔をしてたけど、ちゃんと皇帝の仕事をした。

 私達勇者一行に椅子を勧め、執政に現状の説明をするよう促す。

 インディラ人である執政は私達に対し礼儀正しく挨拶をした。後宮からほとんど出ない私は表の人間なんかあんま知らない。けど、ガジュルシンは執政と面識があるみたいだ。

 執政の話によると、シルクド国王は本日正午よりシャイナ国の宮廷魔法使いを交えた上でのインディラ国第一王子であるガジュルシンとの心話を希望しているのだそうだ。まあ、話すのはシルクド国王本人じゃなくって、家来の宮廷魔法使いだけど。

 そこで話がうまくまとまればバンキグ行きの日程が決まる。

 バンキグからの了承も得ないといけないから、さすがに今日の午後から! は、ないとは思うけど、早いとこ決まって欲しい。



* * * * * *



 ガジュルシンと執政が正午の会談の打ち合わせをしている間、姉貴は皇帝と逢瀬(デート)、シャオロン様は親父と話し合い、ガジャクティンは案内された部屋で待機となった。内廷の修繕はまだなんで、皆、外朝にいる。

 シャオロン様は、親父とアジンエンデの事を相談するんだと思う。

 北方諸国への入国は難しい。めったに許可書が発行されないからだ。

 アジンエンデだけ後から遅れて入国するなんて不可能だ。インディラで俺達がバンキグから戻るのを療養しながら待っててもらうのがいいだろう。

 けど……意識が戻ったら、すぐにもアジンエンデには俺達と合流してもらいたいって気持ちもある。

 アジンエンデは父親と血と剣の絆で結ばれているし、二人ともシャーマン体質だ。

 僧侶ナラカが何か悪だくみをしてて、悪いことに赤毛の戦士アジャンを利用しようとしても、アジンエンデが絆をもって訴えれば止められるかもしれない。

 強力な大魔王の出現を阻止できるかもしれないのだ。



 執政との打ち合わせが終わっても、正午まで一時間近く猶予があった。ガジュルシンは弟のいる部屋へと向かい、

「すまない……アーメット、少し、席を外してくれる?」

 扉の前で顔を曇らせて言った。

「物理魔法結界を張るから、君の護衛がなくても大丈夫だから……二人っきりにさせて」

「……大丈夫なのか?」

 青白い顔の義兄。微かに口を開き、ガジュルシンが弱々しく微笑む。

「大丈夫だよ。北方へ行く前に、気持ちの整理をしたいんだ。僕もこれから心おきなく戦いたいからね」

「うん……」

「僕は大丈夫だから……行って」

「……うん」

 全然、大丈夫そうじゃない顔のくせに。

 胸が、又、ズキンと痛んだ。

 けど、俺は何も言わず忍の体術で姿を消した。



 変だ。

 変だ。

 変だ。



 俺は変だ。



 ガジュルシンの顔を見るだけで、何でこんなにときめくんだよ。

 そんなに俺、恋してるのかよ……

 ウシャス様に。



 皇帝から賜った外朝の自室に、シャオロン様は親父と居た。

 アジンエンデの代わりの影武者を勇者一行に同行させるって事で、話の決着がついたみたいだ。影武者役、誰にする気だろ? セーネだとちょっと年齢が上すぎるけど、女は化粧でバケるし……くノ一の中ではセーネが一番優秀だ。セーネかなあ。

「あの……すみません」

 俺が二人の前に姿を見せると、親父がジロリと睨みつけてきた。親父はインディラ忍者姿はやめ、東国忍者装束に着替えている。背に忍刀、腰に『ムラクモ』だ。慣れたこの姿の方が動きやすいのだろう。

「きさま、ガジュルシン様の護衛はどうした?」

「打ち合わせは終わったよ。ガジュルシンはガジャクティンの部屋だ。大事な話があるんだってさ、席を外してくれって」

「主人の言葉でも従わんで良い時もある。影のくせに、そんな事もわからぬのか」

 む。

「ガジュルシンの『影』は親父が解任したじゃないか、インディラを旅立つ前に。俺は、今、友人として判断して行動してるんだよ」

「身分など、どうでもいいわ、阿呆。理由なくお側を離れるな」

「うるせえな、三十分で戻るよ。向こうは結界、張ってるからそんぐらい離れたって大丈夫だ」

「三十分?」

「ああ。俺、シャオロン様に相談があるんだ」

「相談だと?」

 オレは頷いた。

「北方に行くまでに済ませておきたいんだ。シャオロン様と二人っきりで話したい。出てってくれない?」

「………」

 親父は無言のままジロジロと俺を見てから、フンと鼻で笑い、忍の体術で姿を消した。「三十分で戻れよ」との言葉を残して。

 俺と視線が合うと、シャオロン様が優しく微笑まれる。俺は頭を深々と下げた。

「すみません、シャオロン様、少し、いいですか?」

「はい、相談というのは?」

 兜と口布は取った、ちゃんと顔を見せなきゃ失礼だもんな。俺は正面からシャオロン様を見つめた。

 俺に常に平常心を保つよう助言してくださったのは、シャオロン様だ。

 魔力の強い人間は周囲の影響を受けやすい。周囲に悪意をまきちらす人間がいたりすると、精神的なダメージをモロに被り、それが体調の悪化に繋がってゆくのだそうだ。

 俺はガジュルシンの影として、己の感情に溺れず、ガジュルシンに同調しすぎず、常に心を穏やかに保つべきなのだ。俺が無心なら、周囲の雰囲気が良くなる。ガジュルシンは落ち着いて話せ、体調も悪くならない。

 俺はガジュルシンの為に、余計な感情を持ってはいけない……はずだったんだが……

「すみません、困ってるんです。俺、どうも恋をしちゃったみたいで、平常心が保てなくなってるんです……」



 さすがに、正直に、ガジュルシンの母親に惚れたとは言えない……

 俺は名前は明かせないけれど高貴な女性に道ならぬ恋をしてしまったんだと言った。

 今朝、ガジュルシンに練気を渡しをしてから、俺は、おかしくなった。ガジュルシンのそばにいると、心が乱れてしまう。その人の事を思い出してしまう、その人の代わりにガジュルシンに触れたくなる、抱きしめたくなる、もっとすごい事までしたくなってしまう。

 恥ずかしい。

 どんな時にも平常心を保てる『優秀な影』でいたいのに、情けなさすぎる。自分で自分が嫌になる……そんな事を伝えた。



 シャオロン様は小首を傾げて、オレの話を聞いていた。

 俺がくだらない事ばっか言うから、あきれられたのだろうか?

 気持ちが悪い奴と思われちまったのかも?



「それ……勘違いじゃないですか?」

 と、聞かれたので、びっくりした。

 勘違いなものか! 俺はもう一回、シャオロン様に説明した。ガジュルシンと一緒にいるとドキドキしちまって、『影』の仕事がまともにできないんだって。

 シャオロン様は困ったような顔で、顎の下に手をあてた。



「わかりました。何処のどなたかオレの知らない方に、アーメットは恋をしたと思ってるんですね?」

 俺は頷きを返した。

「その方に恋焦がれすぎて、仕事に手がつかなくて困ってるんですね?」

 俺はもう一度、頷いた。

「要は、影の仕事ができるようになればいいんですね? 恋の成就は二の次で」

 俺は力強く頷いた。

 恋の成就なんて、無理だ。ウシャス様はナーダ父さんの本当の奥さんだ。好きになっちゃいけない人なんだ。

「それならば……思いは鬱屈させずに吐き出した方がいいと思います。悶々としていたら精神制御なんか無理ですよ」

 いや、でも……

 どうやって?

「一番良い方法は……」

 シャオロン様が静かに微笑まれる。

「一人で悩んでいないで、ガジュルシン様にご相談する事ですね」

 え~~~~~?

 ガジュルシンに?

 ウシャス様に惚れたって?

 そんな事……あいつに話せるわけがない。

「アーメットは、ガジュルシン様を身代わりにする自分を汚いと非難していましたが……多分、ガジュルシン様は気になさらないと思います」

「気にしない……?」

 シャオロン様が頷かれる。

「あなたは義弟で、共に育った友達、そして影でしょ? ガジュルシン様にとって代えがたい大切な存在です。常に優秀な部下である必要はないんです。必要な時にだけ影に徹する事ができればいいんです。それ以外の時は、アーメットの弱いところも、駄目なところも、ガジュルシン様は受け入れてくれますよ」

「………」



 そうなのだろうか……?



 そうかもしれない……



 あいつは優しいから……

 俺が馬鹿でも、許してくれそうな気がする。

 だけど……

 やっぱ言いたくない。俺がウシャス様に惚れたって知ったら、あいつは俺に同情して、心を傷めるだろうから。

「ガジュルシン様には話したくないんですね……では、仕方ないです。別の方法で、平常心を保ってください。内緒でひとつだけ、ガジュルシン様に甘えるんです」

 俺の心を見透かしたのだろうか? シャオロン様がおっしゃる。

「恋心が消えるまでの間、練気の受け渡しの時にだけ、思いをこめてみてはどうでしょう?」

 へ?

「練気の受け渡しって接吻に似てるって、おっしゃいましたよね? その時だけガジュルシン様を恋しい相手と思い、それ以外の時は主君だと頭を切り替えるんです」

 え〜〜〜〜〜〜!

 だけど、それじゃ、それこそ身代わりじゃないか! 欲望を発散する為に、ガジュルシンを利用するなんて嫌だ! ガジュルシンがウシャス様とよく似た顔だからって!

「でも、毎日ではなくても数日おきに、練気の受け渡しをするのでしょ? その時、ガジュルシン様はあなたの気を貰い、精神の安定を得ているのです。アーメットも、ガジュルン様から精神の安定を頂くと思えばいいのでは?」

 そういうわけには!

 シャオロン様が微笑まれる。何か……優しそうだけど、凄味があるような?

「始終悶々として発情している方が、ガジュルシン様には迷惑です。その時だけと頭を切り替えた方がマシですよ? 練気の受け渡し以外の時は、しゃきっとして。これから北方に行くんです、腹をすえなきゃ、ガジュルシン様の助けになれませんよ」

「だけど……」

「だけど?」

 笑顔が怖いような……

「口づけの真似事をしても……ときめきがおさまらなかったら?」

「おさめるんです」

 きっぱりとシャオロン様がおっしゃる。

「練気の受け渡しの時、ガジュルシン様をお相手の女性だと思うんです。アーメット、相手は女性なんです、かよわい女性なんです。愛しい方があなたの助けを必要としているのに、腑抜けてるなんて……男として非常に情けないと思いませんか?」

 う。

 それは……確かに。

 シャオロン様がにっこりと微笑まれる。

「男なら愛しい人は守るんです、それが戦士です」



* * * * * *



 などという気色悪いアドバイスを弟が貰ってたなんて、この頃の私は知らなかったわけで……



 おチビと長椅子に座ってのんびりとお話なんかをしていた。

 警護の者しか居ない部屋で、二人っきりのラヴラヴ・モードに突入して。なので、おチビは私を『ラーニャ女王様』と呼ぶ。そう呼べと命じてあるから。

 私はジャポネでの出来事を話し、おチビは私と別れてから誰に助けられてどんな事をしてきたのかどんな事を思ったのかを話してくれた。しっかり、国の施政者となっていて偉いと思う。

 会話が途切れた時、皇帝がふーっと溜息をついた。

「……そなたは雪吹き荒ぶ国でも太陽であろうな、ラーニャ女王様」

「ん?」、

「そなたは美しく若い乙女でありながら、魔族を相手に勇ましくも戦い続けている。そなたの輝きを眩しく思うばかりで、何もできぬこの身を口惜しく思っていた……」

 あらら?

「馬鹿」

 私はおチビの右手の甲を左手で握った。

「前にも言ったでしょ、ガキは素直に守られてりゃいいの。あんたが大きくなって強くなったら、それから誰かを守ってやればいいのよ」

「予は大きく強くなったら、そなたを守るのだ」

 ムッとした顔でおチビが言う。『誰か』と言ったのが気に喰わなかったようだ。

「だが、『いつか』の事ではなく、たった今、予ができる何かについて話したい……ずっと考えていたのだ。予がそなた達の為にできる事、魔の脅威にさらされた今世の為にできる事は何か……ラーニャ女王様、聞いて欲しい。予の願いを聞き届けてはくれまいか?」



 私はおチビの話を聞き、目を丸めた。

「それ本気?」

「うむ」

 おチビがゆっくりと頷く。

「皇帝の言葉は翻る事はない」

 迷いもなく答えるその顔は……紛れもなく男のものだった。ちょっと目がうるうるしてるっぽいけど、そこは大目に見てあげよう。

「ちょっとキュンとしたわ」

 私はおチビの頭を撫でた。冠をしてるけど、いいわ。後で付け直せばいいんだもん。撫でてあげたかったんだ。

「格好いいわ、見なおしちゃった。あんた、お父様の次ぐらいに良い男よ」

 おチビの顔がパーッと輝く。それから、うるませた目のままで私を見上げた。とても幸せそうに。

「インディラ国王の次とは、そなたにとって最大の賛辞であろう。嬉しく思うぞ、ラーニャ女王様……」

 微笑んでいた顔が、次第に歪んでくる。

 あ〜あ、頑張れ! 泣くな! そこで泣いたら、せっかくの『男』が台無しだぞ。

 おチビは鼻をすするような顔をしたけど、泣きだすのは何とか堪えた。

「予の願い、聞き届けてもらえるか?」

「ええ、もちろん」

 私は微笑んだ。とびっきりの笑顔を、シャイナ皇帝に見せてあげた。

「あなたの気持ち受け取ったわ。百万の味方を得た気分よ、ありがとう」




 もう間もなく正午。

 皇帝の執務室に集まった一同に、シャイナ皇帝は会談について新たな指示を与えた。

 インディラからの執政、新たな大臣達、皇帝の侍従達、宮廷魔法使い達がびっくりして皇帝を見つめる。

 むろん、他の人間も驚いている。私を除く姫勇者一行も。そして……

「恐れながら皇帝陛下、それはどうぞご容赦ください」

 皇帝の前に跪いて進み出た者が深々と頭を下げる。

「現在、シャイナ皇宮は未曽有の混乱にあります。大魔王四天王ゼーヴェと大魔王教団によって壊された国の体系は、未だに整っていません。皇帝陛下と共に国難を乗り越え、安寧なる国家を新たに築く事が臣の願いにございます」

 それに対し執務椅子に座っている者が静かに答える。

「皇帝の言葉が翻る事はない」

「しかし……」

「そなたの心配もわかる。予は未だ幼く国の長として甚だ頼りない者である」

「いいえ! とんでもございません、陛下は国の長として、ご立派にお役目を務められております」

「その言葉、嬉しく思う。そのように見えるのであれば、ラジャラ王朝からの執政達文官、そして新たな大臣達が皆、優秀であり、予の助けとなっていてくれているからであろう。今の予には、誠に良き臣下が多い」

「はい、さようにございます」

「それゆえ、案ずる事はない」

 皇帝はにっこりと臣下に微笑みかけた。

「予には予を支えてくれる臣下が数多くいる。予は大丈夫である」

「陛下……」

「命令をもう一度、繰り返す。皇帝の言葉をしかと聞くがよい」

 ちょっぴり口をへの字にし、目をうるませながら皇帝は跪く臣下に向かって言った。

「皇帝の私兵シャオロンよ、そなたに命じる。姫勇者の従者となり、大魔王退治の旅に加わるのだ。この世は今、大魔王復活の混乱の下にある。世界の安定こそがシャイナ国の繁栄にも繋がる。又、勇者が倒されれば世界は暗黒となろう。一命を賭してでも勇者を守る事を命ずる」

 跪いているシャオロンが皇帝を見上げる。執務机に座る皇帝は、ぶるぶると体を震わせている。泣くのを堪えた顔でシャオロンを見ている。大好きな臣下を見つめている……

「慎んでご命令を拝します、皇帝陛下……ご配慮、感服いたしました」

「うむ」

 もったいぶって頷いてから、皇帝が私を見る。そのへんはもう打ち合わせ済み。

「予の臣を旅に加えてくれるか、姫勇者ラーニャよ」

「喜んで、皇帝陛下」

 私は礼儀正しく、勇者に相応しい所作でおチビに頭を下げた。私の従者達もそれに倣い、偉大な皇帝に礼をとった。



 その後、ポロポロと泣き出した皇帝。顔を拭こうとした侍従から布だけを受け取り、おチビは自分で目元を覆い、心配して駆け寄ったシャオロンに涙声でいろいろ言っていた。

「必ず生きて帰り、大魔王討伐後も、予の拳の師匠を務めて欲しい。そなたは予にとって師であり、賢き忠臣、そして友と呼ぶにふさわしき者である。予が皇帝として恥ずかしき者でなくなるまで、できうれば予を支えて欲しい。討伐後、村に戻りたいのであれば許す。だが、年に数日は予の元を訪れてはくれまいか?」

 シャオロンは皇帝に対し、優しく微笑みかけた。

「オレは陛下の私兵です。陛下がオレの力を望まれる限り、お側におります」

「うむ。嬉しく思う」

 顔を拭きながら偉そうにおチビが言う。大好きな臣下にずっと側に居てもらいたいだろうに……

 おチビだけど、本当、格好いい。お父様の次ってのは嘘じゃないわ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ