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姫勇者ラーニャ  作者: 松宮星
愛と狂気と分身と
42/115

異種婚は命がけ! ある愛の形!

マイルドな表現としましたが、残酷な描写ありです。ただの、のろけのような気もしますが。

 タカアキは、赤毛の戦士など知らないと言った。

「姫勇者はんがミズハを殺そうとしとったから、橋の外へ移動させただけや。異空間には送ってないで」

 て、ことは、結界外に送られた私を、僧侶ナラカが勝手に赤毛の戦士の元に更に転送したってこと?

 何の為に?

 剣の稽古をつけてもらいに行ったみたいよね、あれじゃ。

 異空間での赤毛の戦士との事を話すと、ガジュルシンは困惑した顔となった。もう一人の義弟と弟は、ただびっくりしただけ。ジライは無関心そうに聞いていた。

 アジンエンデに、一番、赤毛の戦士の事を伝えたかったんだけど……話せなかった。ずっと眠っていて起きないのだ。上皇様の呪いの赤い鎧四点セットを着たまま眠っている。

「神様の憑代になって疲れきっているんだよ。しばらく起きないと思う」と、ガジュルシン。

 タカアキとかお伴のキヨズミとかは、白蛇に憑依されてもピンピンしてるのに〜

「あちらは『主さん』と契約を結んでいる一族だからね、肉体への負担はずっと軽いんだよ」

 時間がかかる場合は数日から数カ月、アジンエンデは目覚めないだろうとガジュルシンは言った。肉体への負担の度合いは憑代の体質次第なので、いつ目覚めるのかは周囲ではわからないのだとも。

 そんなにかかるの?

 あの馬鹿姫巫女〜〜〜〜!

 アジンエンデに何ってことを!

 顔がひんまがるぐらい、ぶん殴ってやれば良かったわ!(タカアキの顔がひんまがるだけかもしれないけど構うもんか、あいつも同罪だ!)

 ガジュルシンが心話でインディラ国のお父様と相談して、後宮に彼女を預ける事にした。

 北方人である彼女の立場は複雑だ。確かにお父様の庇護下の後宮なら、差別なく治療してもらえる。お父様も超一流の回復魔法の使い手だし、後宮の人間は全員ジライの部下のくノ一だから安全上も問題ないし。

 故国のケルティの方がいい気もする。でも、上皇様はちょっと変態だし、国には帰りたくなさそうだったし……うん、インディラの後宮に預けるのがベストよね。

 アジンエンデがいなくなるのは寂しいけれど……

 東の大橋での戦いの翌日、ガジュルシンはアジンエンデを移動魔法でインディラに連れて行った。むろん、『極光の剣』も一緒に運んで。



* * * * * *



「最長は一年と二か月やな、記録にあった憑代の眠りは」

 そう言って三大魔法使いタカアキは、扇子をパチンと閉じた。

「すまんなあ。記録を調べさせてこっちも驚いたわ。一族以外の(もん)が『主さん』に憑依されるんが、そないな大事(おおごと)となるとは知らんかった」

「知らなかったからで済ませられる問題ではないと思うのですが……」

 と、僕が言うと、タカアキは真面目な顔で頷いた。

「まったくや」

 今日のタカアキは、姫巫女の姿ではない。神官衣で、うなじで髪を束ねている。髪は腰を過ぎる長さだ。初対面の時はジャポネの男性にしては長い髪だと思ったが、姫巫女の為に伸ばしているのだろうと今ならわかる。彼女に女性らしい装いを楽しませる為に。

「あの赤毛の娘はんに、何ぞ償いせな、あかんなあ……」

 タカアキは思案するように、扇子で口元を軽く叩いている。

「うちで預かって治療してもええけど……ここで治療すると、目覚めがいっそう遅くなりそやな」

 その通りだ。

 姫巫女を本能的に恐れていた彼女には、ここは恐怖の館だろう。

 今、僕が居るのはキョウの街のタカアキの屋敷だ。御所の彼専用の小さな離れから、普通の扉のように見えた次元通路でここに来てしまっている。

 彼の母方の一族――白蛇に仕える一族もここに数多く寝泊まりしている。

 彼等が信奉する古えの神の霊体もタカアキの体に憑依して、ここをうろうろしているわけで……

 こんな所に置かれては、アジンエンデの魂は恐怖に縮みあがり、意地でも安らかな眠りに逃げるだろう。 

 今、僕はガジャクティン達と別れてタカアキの元を訪れている。

 アーメットだけは一緒だ。タカアキのこころづかいで、今、同じ部屋にいる。物陰から覗かなくていいと、忍者である彼を同席させてくれたのだ。アーメットは僕等から少し離れた、廊下の前で控えている。

「お詫びは何ぞ考えとくとして……」

 タカアキが扇子をバッと開いた。

「結界の話をしよ」

「はい」

「今、ミズハ弱っとるけど、儀式自体はできる。今日の夜中から明日にかけてやりたいんやけど、ええ? あかんかったら明後日の夜中からしあさってになる」

「今日で構いません」

「助かるわぁ。ちゃっちゃと結界だけは張りたかったんや。あのバケモノ僧侶、キョウから早う追い出したいんよ」

「結局、僧侶ナラカの狙いは何だったのでしょうね?」

「四天王をおびき出す為ちゅう感じでもなかったしなあ」

 不機嫌そうな顔でタカアキは言う。

「まあ、ミカドの神官長としては、キョウの都さえ安泰ならええ。バケモノの心ん内なんぞ知らんでも構わんのや」

 神官長としてはそうでも、タカアキ本人は現状が不満そうだ。キョウの街をひっかき回した大伯父に対し、それなりの制裁を加えねば溜飲は下がるまい。

「僧侶ナラカとの決戦にはミズハ様の御力をお借りする事となるでしょう」

 僕は三大魔法使いに対し、頭を下げた。

「あのバケモノ相手に、タカアキ様の肉体が一矢報いる機会もあるかと」

「肉体は、な」

 ホホホと笑ってから、タカアキは扇子を閉じて、僕を面白そうに見つめる。

「そいや、婿殿は、早くからミズハの正体に気づいとったようやけど、何でわかったん?」

 婿殿……

 ミズハ姫と仮の婚姻を結ぶとはいえ……仮だろう? 婿は嫌だなあ……

「ミズハ様とタカアキ様が、同じ肉体である事は一目でわかりました。二重人格かとも疑ったのですが、タカアキ様とミズハ様では魔力量が全然違います。三大魔法使いよりも魔力量の多い『人間』なんているはずない。だから、ミズハ様は人外の存在なのだろうと察しました」

 魔術師協会本部には魔力量を純粋に測る大水晶がある。その魔法道具が世界中の人間の魔力量を測って、タカアキを三大魔法使いの一人と見極めたのだ。タカアキ以上に魔力のある人間なんて、いるはずがない。まあ、水晶では計測不能なカルヴェル様という規格外の方もいる。ミズハ様もカルヴェル様のご同類の可能性もあったが、タカアキが古えの神を祭る一族の長だと知っていたので『主さん』なのではないかと推測したのだ。

「なるほどなあ……強い魔力のある人間の前には、どっちかしか顔出さんようにしよ」

「最初ミズハ様でいらしたのに、翌日はタカアキ様でしたね」

「しゃあないやろ」

 タカアキは朗らかに笑った。

「この体、一日交代で使っとるんやもん。ミズハが表に出とる日は麿は一日体ん中で休み、その逆の日はミズハが寝とる。入れ替わり前には霊体のミズハと話すようにはしとるが、後の時間はだいたいすれ違いや」



* * * * * *



 麿が生まれる前の話や。

 古代神の血をひく皇家も時の流れと共に神秘から遠ざかり、『神事を司る皇家』は有名無実化しとった。

 魔力のない人間ばかしになっとったのや。

 キョウの守護神にも逃げられ都は荒れ放題、ええ加減な神事ばっかやっとって民からの敬意もどんどん失っとった。

 先代ミカド――麿のおじい様は、古えの力が復古せな皇家は滅びる思うてな、国中から巫女を皇族の妃に召し上げたん。

 麿のお(たあ)様も、そんで御所にあがったんよ。

 そこそこ皇家と血の相性がよろしかったらしゅうて、生まれた麿もそこそこの霊力を持っとったんやけど……

 四つでミズハに見染められてからこっちずっと一緒にいるからな、年々、魔力や霊力が高まってってな、おととしには三大魔法使いちゅうもんになってしもた。

 魔術師協会から表彰してもらえるとか報奨金もらえるとか、なぁんにもないんやけどな。

 皇家の権威を高めるぐらいには、役に立ってる思うわ。



 お母様の実家な、キョウからちょっと離れた山んそばの大神社なんや。

 雨と雷、多産と豊穣をもたらす『主さん』を奉ってきた、由緒ある、えらい大きい神社なんやけど……

 麿が四つの時になあ、先代の長の麿の叔父さん、やってしもうたんよ……女の色香に惑って、おなごはん断ちの戒め破って……

『主さん』の怒りを買ったんよ。

 一族の長は『主さん』の夫や。

 夫が願うからずぅっと『主さん』は力を貸してきてくれはったのに、その夫が不義を働いたんや。

 怒った『主さん』に叔父さんは喰われ、一族と『主さん』の契約は宙に浮いた。

 契約破棄して山に帰るか、お母様の一族から好きな男を夫に選び直して人の元に留まるか、選択権は『主さん』にあった。

 あん時、お山に帰れば良かったのに……

『主さん』、一人は寂しいちゅうて夫選びを始めたんや。

 新たな夫ちゅう、神官に支配されるだけなのになぁ。わかっとらんかったんや……阿呆やさかい。

 それまでの婚姻は数人の夫候補の中から『主さん』に選んでもらう形式やったんやけど、そん時は人間側の制約なしで選べるっちゅうんで『主さん』はりきって、一族の全部の男を見渡してな。

 ほいで、一番、好みの麿を夫に選んだんや。外戚やったんやけど、血の匂いをたどって御所まで『主さん』押しかけてきてなあ。

 あの日のことは、よう覚えとる。

 半霊体の『主さん』が綺麗な白蛇の姿で、部屋で一人で遊んどった麿の前に現れたん。

 怖くはなかったで。前々から麿は『見える』子やったから、ただ綺麗や思っただけやった。

 名前つけて欲しいと頼まれたから、『ミズハ』って名前あげたんや。

 けど……それが婚姻の契約だったんや。

 その日から、麿の体ん中に『主さん』が棲みついてしもた。

 四つの幼児が『主さん』の夫で一族の長なんて、無理な話やのに。

 麿が選ばれた理由?

 決まっとるやろ。

 顔や。

『主さん』、面喰いやさかい。

 麿は、それはもう天から降りて来たみたいな、かぁいらしい子供やったからな。『主さん』は麿の美貌に惑ったんや。全ての不幸も喜びも、この美貌から始まったんや。

 て、そこ笑うとこやないで、インディラの王子はん。

 ものすごくたいへんな事やったんやから、神官の勉強をなんにもしとらん幼児が『主さん』の夫になるんは。

『主さん』の夫は憑代。『主さん』に今世で力をふるわせる為の器や。

 ほんまの神官なら儀式の時だけ『主さん』に体を貸せばええんやけど、四つの子供では『主さん』を支配できん。『主さん』に好き放題、体を使われてしもうたんや。

 四つの幼児の体を使って子作りしたがるわ、腹減ったちゅうて人間を食べたがるわ、あげく麿の体を喰いおってなあ……

 ああ、『主さん』、憑依体を喰えるんよ。白蛇だからやな。尻尾から自分の体、がっぷり飲み込むようなもんやな。

 半霊体となった『主さん』が巻きついてきて体中の骨を砕いて、足から徐々に飲み込んでゆくんよ。

 もう半端なく痛い。

 死にそうやけど、死ねない。

 気も失えない。

 狂えない。

『主さん』に憑依されとると、異常なほど丈夫になってまうんでな。

 泣きわめくと『かわいい』ちゅうって興奮して喜ぶんやから、もう……どなんしようもない変態や、あれは。

 人間食べたがるんは魔力・霊力・精気を求める本能やけど、麿に対してのんは愛情行為でもあるわけや。

 あ?

 ああ、大丈夫、そもじさんとミズハの婚姻は形だけやから、食べるまではやらん。安心してええで。

 あれが、食べられるんは、麿だけや。

『全部食べたいけど、タカアキがいなくなったら寂しい』って、いつもちゃんと少し残してくれて、再生して蘇生してくれる。

 昔っから、むちゃくちゃ愛されとるん。

 御所でミズハが悪さばっかしおったから、じきに麿はお母様の実家の蔵に閉じ込められた。

 術で蔵ごと封印されたんよ。

 神官として一人前にならなあ外に出さん言われてな、十になるまで蔵の中で暮らした。

 教育係の神官が毎日決まった時間に来たけど、後の時間は一人っきりだったんや。お(もう)様やお母様から引き離され、召使もなく一人。幼児に対してひどいと思わん? 寂しかったわぁ。霊体となった『主さん』しか話し相手おらんのやもん。

 泣いてばかしの麿を、ミズハはミズハなりにかわいがって慰めてくれた。

 麿のこと食べた化け蛇やけど、いろいろ話すうちになあ、何とも……。

 ミズハもかぁいそうなおなごでな……あぁ、いや、かわいそうな白蛇はんでな……

 つれあいに先立たれ寂しがってたところをご先祖様に捕まってな、夫になってやると騙されたんや。

 で、千年。いろんな制約の術をかけられて、夫への奉仕という形で使役されとったんや。本体も魂も封印されてて、人間の望む時に魂だけ起こされて、力使えと命じられてたんよ。旱の時の雨乞い儀式とか、不妊の治療の時とかなあ。

 ちゃんとした夫のいないまま千年……

 夫と仲良くつれそって子供いっぱい産みたいとしか思ってなかった白蛇はん、麿の先祖のせいで千年も孤独だったんや。

 そないなのに、あれ、阿呆やさかい……

 麿とは、ずっと一緒に居られて嬉しいちゅうんや。扱いに困った一族の者に蔵に幽閉されとっただけやのにな。

 大好きや言うてすり寄って来た。

 デレデレに甘えてきてる思うと、突然、お腹すいたぁ言うて麿を襲うし……

 ぺろんと一のみしてくれりゃ、まだ楽なのに、『かわいい、かわいい』言うてな、ゆっくり、ゆっくり飲み込んでくんや。じっくり味あわな、もったいない言うてな。

 こっちが痛がっても暴れても泣いて許しを乞うても、おかまいなしなんやから、まったく、もう……。

 おっかない化け蛇やけど……阿呆すぎて……

 だんだん、かわいそで、かわいくなってきてな……

 ほんまはな、一族に内緒で、契約解除の法探して自由にしたろ思ったんやけど……

 本人が嫌やとだだこねおって……麿の寿命がくるまで一緒に居たいなんて、まあ、かぁいらしいことを……

 十になって蔵から出る頃には、ミズハを体ん中から追い出して封印できる術も習っとったけど、一回も封印しとらん。

 ずっと体ん中に棲ませてる。

 人の世に長く留まれば留まるほど、ミズハは腹が減る。麿が喰われる頻度も増す。

 代々の神官は、体からミズハの魂をひきはがして箱ん中に封印した。その箱に霊力をそそいで、代わりに箱からミズハの御力を引き出してた。そんやり方なら、ミズハは飢えんし、夫の神官も喰われんですむ。

 けどなぁ……封印して闇の中に一人ぼっちにさせるのなんて、かわいそやろ?

 ミズハ、寂しがり屋やから……

 一緒にいるんは難儀やけど、時たま、痛いの我慢すればええことやし……


 なんや?

 そうや、その通りや。

 麿は、『主さん』に惚れとる。熱烈(イチャイチャ)恋愛中(ラヴラヴ)や。

 そらぁ……食べられるのは凄い嫌やし、嫌なことは結構あるんやけど……

 まあ、しゃあないわな。相手、白蛇やし。


 他の嫌なこと……

 う〜ん……

 王子はん、さっき、ミズハと麿が一日交代でこの体を使ってるゆうたら変な顔したやろ?

 それも、しゃあないことでな。

 ミズハと一緒にこの体を使うのは難しいんよ。いろいろと面倒なんや。互いにやりたい事ちゃうし。

 蔵ん中にいた頃は、この体を二人で使っとった。麿に霊体のミズハがまとわりつく形でな。

 そやけどな、ず~と起きとるとミズハの腹の減りは早いし、麿もうるさくてかなわんし。

 麿はな、勉強したかったんよ。騙された憐れな白蛇はんを幸せにしてやりたくてな。その為には守れるだけの力持たなあかんやろ?

 なのに、ミズハ、勉強の邪魔ばっかしくさりおって。そんなん退屈や、遊んで〜 と、もう……邪魔しかせえへん。はっきり言って勉強の邪魔やった。ミズハの為に勉強しとったんに、あの阿呆。

 んで、ミズハはミズハで、この体を使ってやりたい事があった。

 子作りや。

 白蛇は多産な生き物。なのに千年も禁欲生活を強いられたんで、子孫残したいっちゅう本能に責められとったらしい。

 昔、子作りしたいから体を貸してって頼まれてなあ、子供やったさかい深く考えずに許してしもた。

 蔵から出てからこっち、もんのすごく後悔したけどな……

 綺麗な格好したい言うて勝手におなごはんの服を着て、ほんであないな事しおって……

 あないな気色悪いもん、いっぺん付き合っただけでこりごりや。

 そやから、一日ごとに交代してこの体を使い、使わん方は眠る事にしたんや。互いに相手のやる事には干渉せんちゅう約束で、な。

 表向きは、ミズハは麿の妹ちゅうことにした。が、まあ……御所でも子作りしとるんや、女装とバレとる。『タカアキ』ん時にも言い寄られたりして、閉口しとるんよ。


 子作りの仕方って……

 まあ、ええか、教えたっても。そもじにも関わりある事やしな。

 人間の子作りとは違う。『主さん』が欲しいのは、『精気』やら『魔力』やら目に見えない生命力と、その人間の一部や。血や肉や……その……人間が子作りする時の子種のアレとかや……

 そいういうもんを取りこんですぐに、卵、産むんよ。

 産む先? 麿の体に決まってるやろ。ミズハ、麿から離れられんのやから。

 で、卵を孵す為に、何百倍のモノをこの体に取り込む。

 せや、アレやアレ。言わんでもわかるやろ? 麿の体を使って、『主さん』がアレで男から必要なモノを吸うわけや。

 人間を食べたらあかんと麿が禁じたから、アレがてっとりばやいんや。子作りと、卵をあっためる為には、な。


 そやから……

 その変態を見るよな目、やめて。

 麿には、男色の気も、M嗜好も、女装癖もないんや。

 ミズハの為や。ミズハがかわいそうでかわいいから、体貸してるだけや、しゃあないやんか。 

 麿なんぞ、もって数十年や。あれが、又、一人きりになる前に子供もたせてやりたい。そんだけや。

 一番ええのは麿の子を産ませてあげる事なんやけど、麿との間では卵ができなくてなぁ。

 しゃぁないから、他の男の間を渡り歩くんを許してるんや。


 ん?

 ミズハと?

 いややわぁ、そない露骨な……

 うんまあ……してるよ。週に一、二度は……

 ミズハがミズハの時間を使って犯りたいって誘ってくるんや。

 ええやん、夫婦なんやから。

 やり方?

 そらぁ、体つくらなできひんから、分身とかキヨズミとかの体にミズハに憑依してもらってなあ……

 ほんまはハルナとかナツメとかおなごはんに憑依してもらいたいんやけど、それだと『おなごはん断ち』の戒め破る事になってまうから、泣く泣くなあ……

 自分の分身とか男とか気色悪いんやけど、ミズハが中に入ると不思議とかぁいく見えるんや……愛の力やわ。

 麿の子がつくれんのは、契約のせいでミズハの霊体の大元が麿ん中に残ってまうからやと思う。二人で励んでも、一人遊びみたいになってしまう。麿と寝ても不毛なだけやのに、好きやから抱いて欲しいってミズハからいっつも求めてきてな……

 くぅぅぅ、もう、たまらん。

 かわええやろ、ミズハ? 

 おや?

 青い顔やな。

 どしたん?

 仮婚姻の儀式?

 気が重い?

 何で?

 食べられて飲み込まれるわけやなし。ちょいと体から、気と液体、抜かれるだけや。痛いこと無い。

 大丈夫や、ミズハ、上手やさかい、気持ちええ間に終わるで。

 は?

 そうや。儀式の時は、麿のこの体を使う。

 そやけど、ちゃんとミズハの顔の化粧するし、中身はミズハやん。ええやん、蛇やけど、おなごはんなんやから、寝ても。

 何か問題か?

 頭ん中、切り替えられん?

 難儀やなぁ。

 ま、嫌なら、目ぇつぶっとき。

 すぐ終わる。

 ミズハは気位高くてわがままやけど、尽すおなごや。

 蔵を出てから、ミズハが陰に日向に麿の為に術を使って助けてくれたから一族の鼻つまみから一族の長に復帰できたし、ミカドの神官長なんて偉そうな職にもつけたんや。

 やってくれって頼んでもないのに、キョウの都の守護神まで務めてくれとるし。麿が頼めば、いくらでも力を貸してくれる。麿を喜ばそと思って励んでくれるんや。いじらしいやろ? かぁいいやろ?

 そもじもミズハを召喚魔法で使う気なら、あれにたっぷり愛情注いでかわいがってやりぃ。期待以上の働きをしてくれるで。大魔王戦も楽になるの間違いなしや。

 ミズハに、そもじの種でええ卵を産ませてやって。誰も彼もの卵、産んどるわけやない。気に入った男のだけや。うん、マサタカとかキヨズミの卵もあるで。恐れ多くもミカドのも、な。

 知った男の子供がいっぱい居れば、麿が死んでも、ミズハ、寂しゅうないやろ。

 そや。ミズハが子種欲しい言うんは、かなぁり気に入った相手だけなんや。他の液体からでも作れるけど、やっぱ子種から作った卵のが具合がええそうや。

 良かったなあ、愛されとるで。子種やって、あれ、喜ばせたってや。麿からも頼むわ。



* * * * * *



 駄目だ……

 話が通じない……



 愛するあまり相手を食べてしまう、神の愛……

 そんな強烈な愛の形を、幼児の頃から与えられ続けてきたタカアキは……仕方がない事なのだが、感覚がおかしい。

 食人以外の神の行為を些事だと思いすぎだ……

 男性との性行為に自分の体を使われ、体に卵を産みつけられてるだなんて……異常(アブ・ノーマル)過ぎる。

 嫌は嫌みたいだけれども、タカアキは、そのへんのことはあまり気にしていない。

 けろっとしている。 

 だから……

 僕には無理だってわかってくれない……

……今、目の前に居るこの男性の体と子作りなんかできるわけないじゃないか……

 僕は女性が苦手だ。でも、積極的に男性が好きってわけでもない……と、思う……

 そりゃあ、男性しか居ない総本山とか落ち着くけど……

 いや、違う。

 僕は、ただアーメットが好きなだけなんだ。

 目の端でアーメットを見てみると……

 兜と口布から覗く目は『?』となっている。いまいち、タカアキの話についていけていないようだ。

 良かった。

 神様とどうやって子作りするのかわかってないようだ。このままわからないままでいてもらおう。

 儀式の時は結界張って、中を覗けないようにしておこう……

 僕に儀式が果たせるのか……

 無理だと思う……子種は無しにしてくれないかなあ……



「今、卵って幾つあるんですか?」

「百ちょっとや」

「百?」

 予想以上の数。実体は無いんだろうけど、百以上もタカアキの体内に卵が……

「むっさい髭面になったら、いっくら中身がミズハでも男はん誘惑できんと思ってな、麿が綺麗な内にと思って十代の頃、励ませたんや。それで凄い数になってるんやけど」

 タカアキは自分の頬をさすった。

「焦らす必要なかったわ。もう二十七やのに、まったく髭が生えんし、体もほっそくて逞しゅうならん。ミズハが中に居るせいやと思うわ。後、二十年くらい、ミズハに子作りさせられそうや」

 幾つ卵を産ませる気なんだ……

 しかし、二十七か。そうは見えない。

「老化が止まっているのでは?」

「う〜ん、そうかもなあ。ようわからん。『主さん』をずっと体ん中に棲ませとった神官、今まで居らんかったんで前例がない」

「魔力と霊力をわけてもらい続けるのでしょう? いただける量も年々増えているのなら……肉体もそれに見合ったものに変化するかもしれません。たとえば……不老不死とか」

 僕がそう言うと、『そうだとええなあ。ずっと、ミズハと一緒に居てやれる』とタカアキはホホホとおかしそうに笑った。

 三大魔法使いの一人のエルロイ様は長寿の法で三百年以上生きていらっしゃるし、大僧正様ももうすぐ二百歳だ。強い魔力・霊力があれば半永久的に生きるのも不可能ではないはず。

 タカアキの場合、生き続けるという事は、白蛇様に食べられ続けるという事だけど……

 あ、でも……

 気になったので、聞いてみた。

「ミズハ様がタカアキ様を食べると、中の卵はどうなるんです?」

「卵も一緒にミズハの腹の中や。けど、そっくりそのままの体で再生してもらえるから、卵も元通りになる」

 そういうものなのか、精神体というのは?

「まだ一つも孵ってないんですか?」

「いいや」

 タカアキは扇子を広げては閉じ、閉じては広げと遊び始める。

「二十ぐらい孵っとる」

 え?

「では、もうミズハ様にはお子様が?」

「まだ、居るとは言えん。産まれたばっかの子供は霊体なんや。実体化するんには、普通、何十年から何百年かかるんやて」

「はあ」

「母親と一緒に、みぃんな麿の中に居るけど、空気みたいなもんや。まだ話せんし、何も自分じゃ考えられん」

 自我がない段階という事なのだろうか?

「だからな」

 開いた扇子で口元を隠しながら、タカアキが言う。

「麿が死ぬか、ミズハを裏切ったら、この肉体を餌にやるて約束したんや」

「え?」

「魔力・霊力の高い人間の血肉は、神様にはごっつい御馳走やからな。麿を食べれば、子供達も実体化できるやろ」

 タカアキの目元が、にっこりと笑みをつくる。

「麿の死と共に一族との契約も切れる。術も書き変えてあるし、一族にもミカドにも、まあ、脅してやけど、納得させた。麿が死ねばミズハは子供とお山に帰れるんや」



 狂気と決めつけ、切り捨ててはいけないような……

 何とも……

 凄まじい愛の形だ……



「ミズハ様を裏切るというのは……?」

「浮気や。おなごはんのアソコを使ったら、麿は子供達の餌になる」

 ホホホとタカアキが笑う。

「だから、ミズハにもちゃぁんと断ってある。命懸けても惜しゅうないおなごはんに出会ったら男やからフラフラと浮気してまうと思うけど、その代わりミズハには子供を残してやるてな」



 それは確かに、命懸けの恋だ……



 神に魅入られた男の愛を知るにつけ……

 儀式なんてたいした事ではないような気になってきてしまう。

 危険な精神状態だ。 

 姫巫女ちゃんはフェロモン出しまくりです。普段、高ビーなくせに、好みのタイプの男性の前ではコロッと態度を変えて媚びまくるという、クラスに居たら女子一同から総スカンをくらうタイプ。

 でも、白蛇なので、そんな生態で、私的にはOKですw

 

 タカアキとミズハが気に入ってしまったので……

 もしかすると、ムーンライトノベルズに、このバカップルの話、書くかもしれません。

 タカアキは男色が嫌いなのに、ミズハがほぼ男性にしか憑依しない為、BLになってしまう難儀なカップル。いちゃいちゃラヴラヴで、血なまぐさい、おまぬけなコメディになると思います。

 とちくるって書いてしまった時には活動報告でお知らせしますので、十八歳以上の方、よろしかったらご覧ください。

  

* * * * * *

 

 次章は番外編。『ぼーちゅーじゅつを教えなさい! 恋する九才!』より少し前の話。夏の別荘での親子の触れ合いの話。

 お父様大好きなラーニャや、まだ王子のアーメット、ガジュルシンが弟を猫っかわいがりする理由、インディラ王家の乱れた大人の夜とか描きたいなあと思っています。次回はアジンエンデはお休みです。

 

* * * * * *


 明日からムーンライトノベルズに『女勇者セレス―――ジライ十八番勝負』をアップします。十二番勝負までアップしたら、ひさしぶりに『女勇者セレス』を更新します。ラーニャちゃんの更新は、少し先です。

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