姫巫女が義妹? 義姉さんは許しません!
私、ガジュルシン、ガジャクティン、アジンエンデ、アーメットは御所へと向かった。
御所に行くとなっても、アジンエンデは『そうか』としか言わなかった。『極光の剣』を背負って、私達の後を黙って騎乗でついて来る。縛って担ぐ必要も、薬で寝かせる必要もなかった。昨日あれほど嫌がって抵抗したのが嘘みたいだ。
ジライは宿に置いて行く事にした。ジライが一緒だと、アジンエンデが取り乱してしまうかもしれないから。あのストーカー、こっそりついて来てるかもしれないけど、とりあえずアジンエンデの視界に入らないのならよしとしよう。
ガジャクティンが馬を寄せて、あれこれと話しかける。武術のことやら、キョウのこと、キョウのお菓子とか料理、着物の話とか、今、話さなくてもいい、どーでもいい話題ばかり。気を紛らわせようとしているんだろう。
それに対し、アジンエンデはほとんど返事を返さない。自分の思いに沈んでいる。
ガジュルシンも、妙に緊張した顔をしていた。
ミカドに会う為じゃない。昨日、タカアキからもちかけられた取引の為だ。
いまいちよくわかんないんだけど、ガジュルシンがキョウの守護神と仮の婚姻を結ぶと凄い結界が張れて、キョウの都からナラカを追い出せるらしい。
その婚姻の返礼として、ガジュルシンは白粉お化け女と契約を結びたいと要求した。これもよくわかんない。
契約を結ぶと好きな時に相手をそばに呼べるようになるんだとガジャクティンが偉そうに教えてくれたけど……
ガジュルシン、あの高ビー女が好みだったわけ? アーメットに惚れてるんだと思ってたのに。
趣味悪ぅ……
義姉として許さないわ! あんなのを義妹なんて冗談じゃない!
御所は、たいへん歴史ある建造物だった。
うん、多分、こう言っとけば、当りさわりない。間違ってもオンボロとか廃墟寸前とか言ってはいけない。
だだっぴろいお庭はあんま手入れされてないみたいだし、よくお掃除はされているけれど廊下に継ぎ板とか当てられてていかにも貧乏くさい。客人の通り道ですら、こんな状態なのだ。ひとつの街ぐらいデカそうな御所全体は、きっとほとんどが使い物にならない状態だろう。
オオエのショーグンのお城は、きらびやかだったんだけどなあ。
ミカドがジャポネの真の王様で、ショーグンってその戦士長だったんじゃなかったっけ?
神官みたいな仕事を担うミカドと、国の実権を握るショーグンとじゃ、貧富の差が露骨に出ている。
ミカドとの対面は、やっぱ御簾ごし。シャイナの皇帝も、オオエのショーグンも、そして、ミカドも! もったいぶるの好きだなあ。
お父様の玉座にも天蓋はついてるけど、正面に立つ客人に対し、お父様はいつもきちんとお顔を見せてお話なさってる。
素顔を隠し神秘ぶるのが高貴なふるまいだなんて、間違ってると思う。客人と同じ高さに立っても、人なりが素晴らしいからこそ、高貴さって伝わるんじゃないかしら?
どデカイ御簾の向こうに、広間がある。ミカドはその真ん中の四面を帳で覆われた天幕みたいなのの中にいる。ミカド以外の皇族の方々もいっぱいその周りにいるけど、顔の判別なんかつかない。左手の神官っぽい格好の男の一団の中にタカアキも居るのかしら?
ミカドはおろか皇族も貴族も顔を見せない気だ。貧乏なくせにプライドたけは高いのねえ。
飛び交うジャポネ語。ガジュルシンも西のジャポネ語を使ってるんで、会話が妙にスローモー。何って言ってるんだかさっぱりわかんないけど、まだるっこしい感じ。くそぉ、解説者を側に置けなくて腹立たしい。ジライがアジンエンデにキスしたばっかりに〜
やたらホホホと笑って、御簾の向こうがうるさい。ガジュルシンやガジャクティンまで『ホホホ』と笑ったらぶん殴ってやろうかと思ったけど、さすがに笑わなかった。
妙にのんびりした会話の中、アジンエンデと私はただボーッと座っていた。
ミカドとの会見の後、女官に通されて奥まった離れみたいな所に通された。
開け放った襖の先に、小山と緑と綺麗な池泉からなる庭園があった。足元の草はけっこうボーボーだけど、池泉は濁っておらず、そこへと通じる敷石の周囲は草が刈られきちんと掃除されていた。
案内された部屋に座って見るとはなく、庭を見ていた私達。聖なる武器は壁に立てかけたりして、部屋の端に置いといて。
間もなく……
アジンエンデがびくっ! と、肩をすくめたかと思うと、三つの足音が近づいて来た。
シュッシュシュッシュ絹ずれの音を響かせて、裾の長い掻取とかゆう着物を羽織った白粉女がまず廊下から現れる。
その後に続くのは、お馴染みの顔のサムライと神官。二人とも足音をほとんどたてない。タカアキ兄妹ってもしかして……貧乏すぎて家来がこの二人しか居ないのかしら?
当然のように高ビー女は上座に座り、その左右に別れてサムライと神官が座る。
ガジュルシンが頭を下げ、弟も倣う。馬鹿女の入室前から、アーメットやアジンエンデは平伏していた。
だけど、私は挨拶なんかする気もないので頭をあげたままだった。
白粉女は眉をしかめ、いかにも意地悪そうな顔で私を睨んだ。
当然、その視線には強い視線で応えてやった。
しばらくは視線の応酬。
絶対、負けない!
「ふん」
白粉オバケのが先に目をそらした。いかにもつきあってらんないって顔で私を小馬鹿にするよう見てから、視線をガジュルシンに向けた。
いちいち何するにもムカつく奴〜
でも、視線合戦を投げ出したのは、あんたよ。私の勝ちだからね!
「タカアキから話は聞いたわ。麿が欲しいんちゅうは、本気か?」
「できますれば……」
馬鹿女がフフンと余裕の顔で笑う。
そんな女のどこがいいのよ!
もぉ〜、ガジュルシンの悪趣味! 義姉さんは、そんな女、絶対、許さないからね!
「そもじさん美味やしな……ええよ、契約したっても。どうせ短い間やろし」
「ありがとうございます」
「マサタカ」
サムライが文机を運んで来て、
「キヨズミ」
神官が何かを書かれた紙をガジュルシンに手渡す。
「条件、それでええやろ?」
文面を目で追い、ガジュルシンが頷く。
「結構です」
「ほな、はじめよか」
と、白粉お化けが言うと、
「お待ちを」
と、膝をついたまま、ガジャクティンが進み出る。
「申し訳ございません、その契約書、僕にも拝見させてください」
「ガジャクティン」
出過ぎるなという風に怒るガジュルシンを無視し、ガジャクティンが必死にタカアキの妹に詰め寄る。
「兄はインディラ国第一王子、国の世継ぎです。兄の一挙一動に国の浮沈がかかっているんです。兄が軽挙に及んでいないか、常に気を配るのが臣下となる僕の義務です」
そうよ! 言ってやって! あんたなんか『兄の嫁』には向かないって!
「かまへんよ。好きにしたらええ」と、姫巫女。
「ありがとうございます」
と、ガジャクティンが立ちあがってガジュルシンのもとへ向かったので、便乗した。そしたら、アジンエンデが後をついて来た。青い顔で私の左腕をとり、背中からぎゅっと抱きついてくる。
えっと……? まあ、いいか……
ガジャクティンの背後から契約書ってのを覗き見たんだけど……ミミズがのたくったような文字が並んでるだけだった。ジャポネ語なんて読めないわよ、くそぉ!
何って書いてあるの? と、小声で聞いたんだけど、義弟の奴、無視しやがった。糸目を更に細め、文面を必死に目で追ってる。
「『キョウ守護』と兄の召喚が重なった時は『キョウ守護』を優先する……『破魔の強弓』の使い手及びその一族が不利益となる行為を望まれた場合は拒否する権利を持つ……」
「当然やろ」
「契約は、兄が『信教の加護を失うか、魔力の源を無くす時まで、一代限り』?」
「麿がいなくなっても、そこまでやけどな」
姫巫女が兄のようにホホホと笑う。何かムカつくのよね、その笑い方。タカアキのほどおぞぞとはしないけど。
「失礼しました……」
白粉お化けに契約書を改めた非礼を謝ってから、ガジャクティンはその紙をガジュルシンに手渡した。
それにガジュルシンが署名して、姫巫女と二人で何かジャポネ語で問答みたいなものをした。
までは良かったんだけど……
「! ! !」
声にならない悲鳴をあげ、アジンエンデが私にしがみついてくる。
てか、これ何? 私もドン引きなんだけど……
ガジャクティンもアーメットも固まってる……
固まるわよね……普通……
* * * * * *
刃物を貸してとガジュルシンに頼まれたんで、最初『虹の小剣』を手に取ったんだが、聖なる武器じゃない方がいいってんで、クナイを一本、手渡した。
ガジュルシンがクナイの先端で左手の小指の先を傷つけた……と、思った時だった。するすると、いや、ぬるっとした動きで一気に距離をつめた姫巫女がガジュルシンの前に跪いたのは。
そして長く赤い舌を伸ばし、ガジュルシンの指から滴り落ちるものをその口で受け止めたのだ。
「!」
部屋の空気が凍りつく。
しかし、姫巫女は俺達の動揺など気にもしない。
美味そうに喉を鳴らし、恍惚とした表情を浮かべた。その目線は、ハンカチで押さえたガジュルシンの左手の指を見つめていた。
「イケズぅ。布に吸わせるぐらいなら、麿にくれればええのんに」
ぺろりと唇を舐め回し、甘えるように姫巫女がガジュルシンにしなだれかかる。
ちょっ……
流血プレイ……?
「契約成立ですね」
「そやな」
妖艶に姫巫女が笑う。
うわぁ……
ドキドキする……
見てはいけないものを見てしまったような……
「これで麿は、そもじのものにもなった。しばらく遊んであげる」
「よろしくお願いします」
「今夜、結界の為に、そもじさんを使わせてもらうよって、精進潔斎しといて」
と、言ってから、俺の方をチラリと見て、
「吸うたらあかんえ」
と、ウフフと妖しく笑った。
「ひもじゅうなったら、あの子の代わりに、御神酒でも食べとき」
へ?
俺達完全無視で姫巫女がガジュルシンの腕をとり、べた〜とくっつく。
お色気たっぷりの、ゾッとするほど綺麗な顔で。
ガジュルシンは……無表情だ。
けど、払いもしない。姫巫女に好きにさせている。
何か……変だ……
何か……もやもやする……
どうしちまったんだ、俺?
契約っていったい、何なんだ?
契約を結んだ者を好きな時に呼び寄せて、その力を意のままに行使させられる権利を持つ事だとガジュルシンは言っていたけれど……
力を欲するのならば、タカアキの方がいいじゃないか。あっちは三大魔法使いだ。
なのに、何故、わざわざその妹の方が欲しいなんて望んだんだ……?
「商売女じゃあるまいし、キショイお愛想ふりまいてんじゃないわよ、馬鹿!」
あ。
姉貴が切れた。
うん、まあそろそろだよな、姉貴の限界。
背後にアジンエンデをくっつけながら、姉貴が姫巫女を睨みつける。
「私の義弟から離れなさいよ! 義弟が化粧臭くなっちゃうじゃないの!」
「そないなこと言うたかて無理や」
姫巫女がホホホと笑う。
「麿はもうこのお方のものやさかい、身も心ももう捧げてしもうたんや」
「体はいりません」
と、すかさずガジュルシン。
そうか……肉体めあてじゃないのか……良かった……
「あぁん、イケズぅ。もらうなら、みぃんなもらって。子種もちょうだい。ミズハを試してみてぇ」
何か性格変わってないか、この姫巫女……
発情モード……?
お伴のサムライと神官はあさっての方向を向いて、姫巫女のご醜態を無視してるが。
「くっつくなって言ってるでしょーが、この尻軽女!」
姉貴が、ガジュルシンと姫巫女の間に割って入る。
その背後のアジンエンデはひぃぃと声をあげ、姫巫女から顔をそむけた。が、姉貴の背中が一番、安全とばかりに必死にしがみつき離れようとはしない。
「なんやのん? 麿と旦那様の触れ合いの邪魔しをってからに。そもじのような鬼瓦みたいなおなご、旦那様は相手になんかせんよ」
「旦那様? ふざけんじゃないわよ! 私はそいつの義姉なのよ、あんたとの交際なんか認めないわ!」
姫巫女は余裕たっぷりにホホホと笑ってから、無理矢理ガジュルシンにべったりくっつく。
「義姉と義弟の禁断の関係なんて古いわ。今更、流行らんで」
「ンな軟弱で病気がちな義弟に恋心なんか抱くわけないでしょ! 渋みも深みもやさしさも落ち着きも全くない、頭でっかちの青瓢箪には興味ないもん!」
「ラーニャ……」
あ、さすがにガジュルシン、落ち込んでる。
「けど、あんたは気に喰わない! 大嫌いなあんたが義弟とくっつくなんて許せない! あんたよりはアーメットの方が百倍マシだわ!」
え? 俺?
「いい、耳の穴をかっぽじいて聞きなさい。ガジュルシンが好きなのはうちの」
「ラーニャ! 待って、ちょっと待って!」
ガジュルシンが横から姉貴の口を覆う。が、けっこう力持ちの姉貴を、ガジュルシンが押さえていられるはずがない。
首をぶんぶん振りまわし、手をふりほどくと、姉貴が又、叫ぶ。
「ガジュルシンはね、私の弟の」
その姉貴の口を、ふぅ〜やれやれといった顔のガジャクティンが無理矢理塞ぐ。
ガジュルシンが泣きそうな顔で、ガジャクティンにすまないと言っていた。
しかし……
ガジュルシンに姫巫女がくっついてて、間をわろうとしている姉貴の背にアジンエンデがくっついてて、姉貴の口をガジャクティンが覆ってるって……
密集しすぎ。
と、そこへ。
「ミズハ様、たいへんにおざります」
巫女の衣装の女が小走りに廊下を走って来て部屋の前で平伏した。
「僧侶ナラカが、キョウの街に現れました」
「来たか」
姫巫女はにぃぃと笑い、ガジュルシンから離れた。すくっと立ちあがったその姿は、恋に狂う女ではなく、歴戦の戦士を思わせた。
「案内せい。どこや?」
「東の大橋におざりまする」
「わかった、行こか」
姫巫女は、従者の二人を手招きする。
「我々も同行してもよろしいでしょうか?」
と、ガジュルシン。ガジャクティンも『雷神の槍』を拾いに戻っている。
姫巫女がフフンと笑う。
「ええよ。旦那様の働きも見たいし、思う存分戦ってぇな」
「お待ちを、ミズハ様」
女は必死の顔だ。
「僧侶ナラカは十人おりまする」
え?
「分身十体?」と、姫巫女。
廊下の巫女は懸命にかぶりを振った。
「申し訳ござりませぬ。わかりかねまする。全部が分身か、本体がおるんか、わたしらではわからんのんです」
「せやったな。しゃーないなあ」
「今、向こうには、トシユキ様とナツメが居るだけです。結界を張り、僧侶ナラカ達を監視しております」
「二人か」
自分の部下と姫勇者一行。一同を見渡し、姫巫女は溜息をついた。
「数、増やすか」
姫巫女がおいでおいでと手招きすると、キヨズミと呼ばれていた神官が暗い顔で近付いて来る。
「きばって働きや、キヨズミ」
そう言って、姫巫女は……
お伴の神官と接吻を始めたのだった。
驚いて硬直している俺達……
これって、練気の受け渡し……?
かと思ったんだけど、そうじゃなかった。
なんか、魔法とか霊的なものだ。
姫巫女に口づけされている神官が、徐々に変身していった。
肌の色がどんどん白く、いや、青白くなっていったのだ。まるで姫巫女のように……
姫巫女が顔を離した時、そこには……
たいへん女性的ななよやかな線の、妖しく微笑む男がいた。顔こそそのままだったが、その顔から受ける印象は目の前の女性と瓜二つだった。
「ハルナは不浄中やったな?」
そう問われ、廊下の巫女が深々と頭を下げる。
「すみません」
「もう巫女は居らんかったよな?」
「はい。今はあいにく一人も……」
姫巫女はもう一度室内を見渡す。
いったい、何が起きたんだ……?
茫然としている俺達。
姫巫女はピタッと視線を止め、アジンエンデを指さした。
「旦那様、それ貸して」
否も応も聞かず、姫巫女はアジンエンデと唇を合わせていた。
* * * * * *
ちょ、ちょ、ちょ!
ズブ、ズブ、ズルリ……と、何か変な音がした。アジンエンデの口の中から!
何かが、姫巫女の中から、アジンエンデの口の中に入ってった!
姫巫女に接吻されてるアジンエンデは、硬直状態。
昨日がジライで、今日がこの白粉女とキスだなんて……
どんだけ不幸なの、アジンエンデ!
取り乱し二人を裂こうとしたガジャクティンを、姫巫女のサムライが抱きついて止める。義弟を押さえこむなんて、こいつも相当な怪力だ。
アジンエンデの肌は徐々に青白くなってゆき、昨日から感情の抜け落ちていた顔に表情が戻る。
嬉しそうに緑の目を細め、にぃぃと妖しく色っぽく笑う。
まるで、姫巫女のような笑い方だ。
対する白粉女は体から力が抜け切ったみたいで、床の上に崩れていった。
「何やこの子、無粋なもの着とるなあ」
エーゲラ風の衣装の上から胸や腰のあたりを触り、アジンエンデが唇を尖らせる。
綺麗な赤毛を一本頭から抜き、彼女が何かを唱えたら……いろんな事が一瞬で起こった。
髪の毛が徐々に大きくなってゆき、アジンエンデそのものの大きさとなって、裸体の彼女が現れた! と、思った時には裸体の上に赤い鎧四点セットをつけていた。
でもって、本物のアジンエンデは……
いつの間にか、廊下の巫女さんそっくりな衣装を着ていた。
一瞬の早変わりだわ!
私は髪の毛の分身の方にみとれてて劇的瞬間を見損ねたんだけど、着替えの瞬間をモロに見たと思われる、デカイ義弟と弟は口と鼻元を押さえて床にしゃがみこんで震えていた。
ど〜して、男って、こう……
巨乳好きのスケベなのよ!
すっぽんぽんのアジンエンデを見ただろうに無反応なガジュルシンも、それはそれで問題とは思うけどね!
アジンエンデは上機嫌そうに、ガジュルシンの前でくるりと回ってみせた。
「ええわ。この子、いい巫女やわ。こないに具合のええ子、初めてかもしれん」
「その体はあなたが契約を結んだ一族の者ではありません。決して長く使わないでください」
アジンエンデがお色気たっぷりに、ガジュルシンに微笑みかける。
「わかっとる。僧侶ナラカを倒したら返す」
「お忘れなきよう……」
んっと……
ようするに……
アジンエンデの体を姫巫女がのっとったって事……?
あれ? 『極光の剣』の使い手って、そうそう簡単に体をとられないんじゃなかったっけ……?
ああ、でも、先祖の守護の力って魔族に対してだけだったか……?
むぅ?
アジンエンデは、彼女なら絶対に浮かべない、妖しい笑顔を顔に刻んでいる。
「旦那様、東の大橋まで跳べはります?」
「いや、行った事が無い」と、ガジュルシン。
「あらぁ、そんなら後から来て。かんにんえ。麿はタカアキの一族しか運べんよって、先に行って、僧侶ナラカを叩いてるわ」
ガジュルシンにうっふ〜んと熱い視線を送ってから、アジンエンデと神官のキヨズミが消える。
後に残ったのは……
鼻血を押さえてるスケベ二人と、ガジュルシンと、廊下の巫女と、サムライのマサタカ。後、人形みたいに動かない赤い鎧四点セットのアジンエンデの分身と、抜けがらとなっている姫巫女の体。
「なんや……もう、朝かいな?」
どこからともなくタカアキの声がしたと思ったら、姫巫女が上体を起して大きく欠伸をした。
「寝足りん気ぃするんやけど、今、何時や、マサタカ……」
そこまで言って、姫巫女の体の者は口を閉ざした。私やガジュルシン達を見渡して。
その顔に、乾いた笑みが浮かぶ。
「なんや……もうバレてしまったん?」
あちゃあと額に手をあてるその者は、顔は姫巫女だけど……肌の色が違う。白粉の下の肌は普通の色だ。
「タカアキ……?」
私に名を呼ばれた者は苦虫を噛みつぶしたかのような顔をして、胸元から扇を出しバッ!と広げた。
「ま、そういうこっちゃ……」
て……
ええええ〜〜〜!
嘘!
姫巫女がオカマでタカアキでガジュルシンにメロメロなホモなわけぇ!
「オカマでもホモでもないわい! 憑依されとっただけじゃ、ミズハは麿の『主さん』や!」
ええええ〜〜〜!