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姫勇者ラーニャ  作者: 松宮星
サムライと忍者と巫女の国
35/115

兄と弟! キョウに向かって!

「おかえり、ガジャクティン……」

 宿泊先の西国風高級旅館ではなく人通りのないオオエの大川のそばの河原に転移してきたというのに、いきなり第一王子に声をかけられるとは。

 おそらく、カルヴェル様の魔力を探知するかガジャクティンの気配を感じたら、そこに転移するよう事前に移動魔法でも仕込んでおったのだろう。

 薄暗い夕日に照らされた河原には、第一王子とアーメットがたたずんでいた。ラーニャ様達は宿か。

 第三王子は豚か何かの獣のような奇怪な叫び声をあげ、慌てて我の後ろに回った。それは無理であろう……その身長と横幅で我の後ろに回っても姿は隠せん。

「わざわざのお出迎えいたみいるのう」

 カルヴェル様は、不機嫌そうなガジュルシンなど意にかけず、余裕の態度。ホホホホといつも通りに笑われる。

「わしらがどこで何をしてたか、おぬし、すんごく気になっているであろう? 遠慮はいらぬ。わしらの誰の記憶でもいいから読め。何なら全員でも構わぬぞ」

 ガジュルシンは、我らを見渡した。大魔術師様と第三王子、それに我とムジャ。全員の顔を見てから、

「ではお言葉に甘えて……まずはガジャクティンとカルヴェル様の心を読ませていただきます。その後、必要があったら、ジライとムジャの心も見せてもらう。そういう事でいいでしょうか?」



* * * * * *


  

 やはり予想通り……

 何って馬鹿なんだ、こいつ……

 カルヴェル様に、僧侶ナラカの能力封印魔法を習いに行っていただなんて……

 無理だって言ったのに……

 カルヴェル様から魔力がどれほど足りないかを教えてもらって、ようやく納得して諦めたようだけど……

 そうか……ガジャクティンみたいな子には頭ごなしに駄目だ、ではいけないのか。どれぐらい能力が足りないのか数値をもって教えてやれば、納得してひきさがるのか……

 そこまでの知識しか与えないのなら、大丈夫だし。呪の種類さえ教えなければ、どれほど危険な呪なのかはわからないのだから。

 幼い頃から決めていた。魔に堕した大伯父のことを総本山で教わった日からずっと、大伯父がケルベゾールドの復活に関わった時には血族としての義務を果たすのだと。

 その為に必要とあらば命だって惜しくない。

 この世界が……

 僕の愛する者達が暮らす世界が……

 大魔王に蹂躙されるなど許せない。

 魔族は優秀な器に宿れば宿るほど、今世で大きな力をふるえるようになる。

 優秀な僧侶であった大伯父の体に大魔王を宿らせるのは、危険だ。

 まだ大伯父こそが大魔王だという確証はないが……

 そうとわかったら、僕は迷わない。

 生きて帰ると約束した父上には申し訳ないけれど、僕は術に全てをかける。

 大伯父を僕の呪で封印し続けるなど、無理だ。それこそ命をかけない限り……

 だからこそ……

 呪の種類をガジャクティンには教えたくなかった。僕が命がけだと気づいて欲しくない。やさしい性格のこいつは、僕を救う道はないかと模索し無茶をするだろうから。

 能力封印魔法を教われない代わりに、ガジャクティンは魔力増幅アイテムをカルヴェル様から受け取っていた。

 その魔法道具(マジック・アイテム)を見せてと願うと、びくびくと怯えながらガジャクティンは二つの腕輪と足首用の足輪を見せた。

 アイテムにこめられたカルヴェル様の魔力を引き出せる造りのようだ。ガジャクティンが微力な魔力を魔法道具に注ぎ込むと、数十倍の魔力が魔法道具から放出される。

 四つの輪を上手に利用できれば、シャイナのエーネ戦の後のように魔力枯渇で気絶する事もなくなるだろう。

 僕はカルヴェル様をチラリと見つめた。

 ガジャクティンにはこのアイテムで充分だ。ガジャクティンのレベルの魔法使いなら、これで、魔力増幅及び安定維持が可能になる。

 しかし、当然のことながら、この程度のアイテムでは、僧侶ナラカの能力封印魔法は無理だ。四つの輪のアイテムを同時に用いても、僧侶ナラカ封印に必要な魔力に遠く及ばない。無茶な魔法を発動させようとすれば、アイテムは粉々に砕けるだろう。

 ガジャクティンの記憶にもカルヴェル様の記憶にも、おかしな所はない。弟がもらったアイテムもさして能力のあるものでない。

 何の問題もないはずだ。



 カルヴェル様との緊急連絡用指輪を使って、ガジャクティンは大魔術師様に泣きついた。

 ジライとカズマの話し合いの仲介中だったカルヴェル様は、インディラ第三王子が会見に現れた方が話が丸くおさまると考え、渡りに船とばかりに、移動魔法でガジャクティンを運んだ。

 置手紙の『槍修行の為の外出』は、嘘。カルヴェル様に能力封印魔法を教わりに行こうとしたら、僕に止められると考えてガジャクティンはこっそり出かけようとした。

 ガジャクティンが話し合いに加わった事により、『ムラクモ』騒動は綺麗におさまった。その礼として、能力封印魔法は教えなかったが、魔力増幅用の魔法道具をカルヴェル様は弟にあげた。

 話には矛盾はない。二人の記憶もその通りだった。

 だが、どうも……釈然としない。

 何か見落としているような気がする。

 それに、記憶を操作されているかもしれない。カルヴェル様ならば、僕に察知されないように、自分やガジャクティンの記憶をいじる事もできる。悔しいけれど、僕とカルヴェル様では、経験においても能力においても開きがある。

 都合の悪い事を隠している可能性もある。

 疑い始めたらキリがないことだけど。

 とりあえず……ガジャクティンから、カルヴェル様との緊急連絡用の指輪は奪っておこう。こいつにこんなモノを持たせておくと、又、脱走しかねない。

「良いアイテムを弟の為にありがとうございました」

 僕はカルヴェル様に対し、微笑んだ。

 本音を言えば、『てめえがこのまえやった事だって許したわけじゃねえ。僕の大事な弟にこっそり会うんじゃない、殺すぞ、こら』ってところだろう。

 全身をドス黒い感情が駆け巡り、負の感情に魔力が混ざってゆく。

……暴発させてしまいそうだ。

 僕は、アーメットの左腕を握りしめている。さっきから、相当強く握っていると思う。痛いんじゃないかとも思う。

 でも、手を離せない。アーメットが、普段通りの穏やかな心で側にいてくれているから、どうにかなっているのだ。

 彼の穏やかな魂が、僕の怒りを鎮めてくれている。

 彼がいなければ魔力を暴発させ、カルヴェル様めがけ灼熱のマグマを振りかけるか、地割れを起して地中でその身を潰してやるかなんかしてる……

 でなきゃ、自家中毒だ。魔力を無理に抑えこんだ反動で、吐いて倒れているだろう。

「なぁに、たいしたモノではない。収めておいてくれ。せめてもの詫びじゃ。わしはおぬしの弟に対し、償っても償いきれぬ罪を犯したからの」

 当ったり前だ、馬鹿ッ!

「今日のところは、わしはここで退散する。今はアジンエンデに会いたくないで、の」

 それは……

「その後、新情報はないのですか?」

「うむ」

 カルヴェル様の顔が渋いものとなる。

「残念ながら、の。まだまだ、父親と会わせてやれそうもない。今、会うても、あの娘をがっかりさせるだけじゃ」

「………」

 ガジャクティンは首を傾げている。ムジャも話についてきていない感じだ。

 ジライはいつも通りの無関心そうな態度。赤毛の戦士などどうでもいいのだろう。

 シャオロン様が預かっていた赤毛の戦士からの手紙を、僕は読んではいない。

 だが、左腕を失った赤毛の戦士アジャンが己が身を魔族から守る為に選んだ守護者が誰かは、察しがいっていた。

 大伯父だ。

 反発心からカルヴェル様を頼らず、故郷に戻りたくないが為にケルティの上皇様にも助力を求めなかったのだ。

 伝え聞く性格からして、大伯父と何か契約を結んで守護者になってもらったのだと思う。

 大伯父の行方が知れぬ今、赤毛の戦士の行方もわからない。

 まだ堕落はしていないが。赤毛の戦士が魔に堕ちれば、彼の半身である上皇様にその事実は伝わる。相手が異次元にいようとも伝心するとのことだ。そうとわかったら知らせてもらえる事になっている。

 最悪の事態にはなっていないが、アジンエンデを安心させてやれる情報も何もない。

 この前伝えた嘘ではない事実『赤毛の戦士アジャンはインディラ寺院関係の者に保護されている』よりも詳しい事実を話したくない、だから、カルヴェル様はアジンエンデを避けているのだ。

「そのうち、明るい情報が手に入った時にでも、おぬしらに会いに行くわ。それでは、またの」

 忍者ジライが『本日はご足労ありがとうございました』と頭を下げ、ムジャも丁寧に頭を下げる。

『カルヴェル様、また〜』と、明るく挨拶をして、手を振る弟。

 無邪気に、いや、敬意をこめた瞳を消えゆくカルヴェル様に向け、元気に力いっぱい手を振っている弟。

 自分を二年以上もの間、異次元空間に閉じ込めた相手を、まったく怨んでもいない人の良い弟……

 カルヴェル様の姿が移動魔法で消えた後、さすがに何か感じ取ったのだろう、父上なみに大きい弟は、おそるおそる僕を見つめる。

 満面の笑顔で僕は弟に、優しく言った。

「ごめんよ、ガジャクティン。僕がわからずやで、おまえを追いこんでしまって……」

 にっこりと僕は笑う。

「だけど、不満があるのなら陰でこっそり解決するのではなく、直接、僕にぶつけてくれないかな?」

 ニコニコニコニコ。顔面の筋肉がひきつりそうなほど、僕は微笑んでいる。

「今夜、一緒に寝ないか? おまえが心に思ってること、全部、僕に聞かせておくれ。おまえを委縮させないように、僕は余計な口出しはしないから……ね、ガジャクティン、いろいろと話してくれるよね、この僕に、おまえの不満を?」

 ビク! ビク! ビク!

 毛を逆立てて今にも泣きそうな顔で、弟が僕を見る。

 僕との間にジライをおいて、ジライを盾にして僕から身を縮まらせている。

 ほぉんと、馬鹿だなあ、ガジャクティンは……

 ジライがおまえを僕から守るわけないじゃないか……

「こんなに優しく接してやってるのに、何でそんなに怯えるんだい?……ねえ、ガジャクティン……」

「アーメット!」

 半泣きの弟がジライの陰から、僕の横の忍に向かって叫ぶ。

「アーメットも一緒なら行く! ねえ、一緒に寝て!」

「え? 俺も?」と、アーメット。

「けど、兄弟水入らずに俺がお邪魔しちゃ」

「アーメットも僕の義兄じゃないか! 男兄弟仲良く三人で寝よう! 僕がデッカくて邪魔だけど、あそこのベッドなら三人で眠れる! ね、ね、そうしよう、ね?」

 あんなこと言ってるけど、どうする? って、アーメットが僕を見る。アーメットは僕の怒気に気づいてない。兄弟のスキンシップを邪魔するのも悪いなあという顔をしている。

「アーメットが一緒じゃなきゃ、僕、兄様と寝ない! ジライの宿に泊めてもらう!」

 あからさまに迷惑そうな声をあげる王宮付き忍者頭。

 あそこまで言うんじゃしょうがないかと、とりなしをしを始めるアーメット。

 チッ。ガジャクティンを精神的に責めた上で、カルヴェル様に何か体に仕込まれていないか徹底的に調べてやろうと思ったのに……

 まあ、今日やると、怒りのままにやりすぎるような気もするし……

 三人で寝るというのもいいか……

 正直、嬉しいし……

 分身を皆に同行させてたから、シャイナ皇宮以来、僕本人はほとんど別行動だった。

 アーメットの寝姿とか、目の毒とは思うけど……ああ、でも、護衛役だから眠ってはくれないかあ……

 うん。ガジャクティンを調べるのは、又、後日で……



* * * * * *


  

 デバガメ忍者が帰って来た。

 基本、セーネと入れ替わる。必要に応じては別行動をとり、セーネに護衛役に復帰してもらうのだそうだが……

 ジャポネにいる間、あのド変態と同じ部屋かと思うとうんざりだ。しかし、ほっといても物陰から覗くのだから、最初から女の振りをするあいつと同室となったとて差はない。

 どうせ、あいつはずっとラーニャの側にいるのだ。着替えや、風呂など、あいつに見られては困る事をする時は、ラーニャから離れればいいこと。

 あいつは、ラーニャ以外の人間には関心がないのだ……

 


 ラーニャ達には話していない事がある。

『極光の剣』に継承者と選ばれる前の事だ。

 私は女としては、剣を学び過ぎた。同年代の女達が嫁ぎ、子をなしても、尚、私は男達と混じって剣術修行に明け暮れていた。

 若者の中に、女が一人混じるのだ。いかに男装で通そうとも、剣仲間は私を女として意識し、性的なからかいをしかけてきたり、恋の相手としようとした。

 剣の道を極めたい私には、修行仲間の感情はうっとうしいばかりだった。

 だから、誓いを立て、その誓いを剣仲間にも聞かせた。



『私の操は、私以上の実力の戦士に捧げる。私の目にかなう者が現れぬ限り、穢れを知らぬ身で神の戦士として戦う』……と。



 この私の誓いを尊重し、結婚後、ハリハラルドは私を処女妻としておいてくれた。彼の剣の実力は私には及ばない。『知恵の指輪』を受け継いで舅殿のような魔法戦士とならぬ限り、ハリハラルドでは私に勝てぬ。

 舅殿は私の誓いを無効だと考えた。一介の戦士であった時代と、アジの王たる立場に立った後では、義務が異なる。王には豊穣の義務……すなわち、子作りの義務がある。

 誓いを破るのが嫌ならば、誓いに新たな条件を加えろ、そうでなければおまえの処女は俺が貰う。と、舅殿は私を責めた。ハリハラルドが止めてくれねば、舅殿に女にされていただろう。

 それで仕方なく、私は条件を加えた。



『私の操は、私以上の実力の戦士に捧げる。私の目にかなう者が現れぬ限り、穢れを知らぬ身で神の戦士として戦う。しかし、アジの族長となった今、魂が求める相手とであれば神聖な子作りをなす』



 魂の求める相手=惚れた相手。

 舅殿は私とハリハラルドを相思相愛にしようと、あれこれ仕掛けてきた。

 ハリの跡継ぎたる惣領とアジの王の証を継いだ私との間の子供が、欲しいゆえに。

 


 この誓いのせいで……



 今、困っている。



 今、私の身近に『私以上の実力の戦士』がいる。

 私の剣術がまったく通用しなかった相手。

 剣を抜きもせず、私の攻撃を全て避けた男……



 忍者ジライが……側にいるのだ。



 あんな変態、冗談じゃない。

 ラーニャと国にいる妻以外の人間には冷淡で冷酷で……

 道徳心の欠片もなく……

 神族を敬う心もなく……

 ラーニャに殴られ罵倒されて喜んでる変態なんか、御免だ。



 だが……

 戦士としての技量は素晴らしい。まともに立ち合ってはいないが、勝負となったら百本中、百本、私が負けるだろう。

 更には……

 顔が……

 女性のように美しく、それでいて女々しいわけではなく、凛とした気品があり、白い髪も肌も人離れしており、まるで精霊のようで……目を奪われてしまう。



 違う!

 断じて違う!

 あんな変態が『魂の求める相手』のはずがない!



 ラーニャも言っていたではないか。ジライなんか無視していい、

『世界は広い……強く逞しく人徳にあふれ正義に燃える従者もいる……』と。

 世界は広いのだ、ハリの村のような狭い世界とは違う。強い男ならばまだ数多くいる。強く人徳にあふれる好人物だっているはず。

 世界の何処かで、『魂の求める相手』と出会えるかもしれない。

 そうだ、立ち合ってはいないが、あのシャイナの格闘家シャオロンだって、私より強かった。

 あの男の格闘は見事なものだった。

 しかし、あの男は……男という感じがしなかった。いや、牡ではないというべきか。非常に淡泊そうで、神官のようだった。

 正直、ときめかなかった。



 いや、違う!

 だからといって、あの変態にときめいているわけではない!

 気になるだけだ、あいつが側にいると……

 素顔が、その……雪の精霊のようで……いや、あの気性からいうと、吹雪を司る風の精霊か……

 冷たく、無慈悲で、全てを凍らせ、切り裂き、葬る、圧倒的な力……

 死者の亡骸を包みこむ死を司るもの……

 人の力では御する事かなわぬ、美しい吹雪の化身……



 あああああああ!

 だから、違う!

 あんな変態、私はどうでもいいんだ!



* * * * * *


  

 私は馬上であくびをかみ殺した。

 このところ、毎晩のように、アジンエンデが夜中にうなされる。

 うるさくって目をさますと、『ラーニャ様の安眠を守る為』とか何とかぬかす変態が、アジンエンデの顔に濡れた布のせようとしてたり(暗殺する気か、馬鹿!)、アジンエンデをスマキにして部屋から放り出そうとしたり、アジンエンデを縛って猿轡を噛まそうとしてたりする場面にでくわす。

 いちいちアレだめ、これも駄目って言わないと、いけないんだから、もう……ジライの馬鹿は面倒くさい。

 アジンエンデが夜中にうめいていてもほっときなさいって言ってるんだけど……私の為だって言って、アジンエンデの口をジライはどうにかふさごうとする。

 夜中、うるさいのぐらい大目にみてやればいいのに。

 慣れない南の国に来て、アジンエンデもいろいろストレスためてるんだろう。特にジャポネはせっかく覚えた共通語がほとんど通用しないしね。家に入る時に靴を脱ぐとか習慣も独特だし。

 お父さんの赤毛の戦士アジャンの行方も、ちっともわからないし。お父さんが魔に走るようなら『極光の剣』をもって止める覚悟で南に来たのにねえ。

 私とジライと三人の相部屋ってのもストレスの原因なのかも。とはいえ、ジライはたまに偵察とかでいなくなるし、アジンエンデが同室の方が護衛の観点からすると便利なのよね。

 でも、つらそうだしなあ。一人部屋になってもらった方がいいのかなあ。

 私同様、夜、熟睡できないアジンエンデも眠そうだ。



 私達は、今、キョウを目指し、街道を西に進んでいる。

 途中、山賊が出た。でも、たいした数じゃなかった。ジライと義弟達があっさりと退治した。私、出番なし。

 ジャポネって大魔王教徒があれこれたくらむ国って事前情報だったんだけど……

 今、拍子ぬけしちゃうぐらい平和なのだ。

 ショーグンから貰った資料にも、情報屋から買った情報にも『大魔王教団は現在、表だって活動していない』って書かれていた。

 大魔王ケルベゾールドが復活した直後は、やった〜! これからは俺達の時代だぜ! と、ばかりにジャポネの大魔王教団は各地で大暴れしたらしいんだけど……

 各地のサムライ達とこの国の神官職の大魔法使いによって、あっけなく沈静化されてしまったらしい。

 そうなのだ、今、ジャポネには大魔法使いがいるのだ。

 神官タカアキ。『破魔の強弓』の使い手にして、ミカドに仕える神官長。んでもって、ミカドの従兄なのだそうだ。つまりは、皇族。

 そんな偉いさんが率先して、大魔王教団退治をしているのだ。

 タカアキの魔法の才能は母方の血で、タカアキの母方のおじいさん達は神主(ジャポネの古代神に仕える神官)なのだそうだ。

 移動魔法をバンバン使えるタカアキが、どっかで大魔王教団が暴れると、自身か母の一族の者をその場に送りこんでドデカイ浄化魔法で悪を一網打尽にしてしまうのだとか。

 そんなスーパーな大魔法使い様とその親族がいるなんて、ジャポネに来るまで、私は知らなかった。



 タカアキがどれぐらい大魔法使いかというと、この世で三本の指に入るレベル。その超大魔法使いに、最近なったらしい。



 この三本の指に入るレベルってどういうものかわかんないので、私はガジュルシン(本人はインディラ総本山にお籠り中。なので分身)に聞いてみた。

 したら、利用可能な魔力量が多い人間のトップ(スリー)が、三大魔法使いになるのだと教えてくれた。

 魔術師協会本部には魔力を測る超巨大な魔法水晶があって、それが協会に不定期にお告げとして三大魔法使いを告げる。水晶は世界中を探知し、世界中の人間の魔力量を純粋に測るだけの単純な仕組みなのだそうだ。そこに、政治的思惑はない。北方の魔法使いだろうが、魔術師協会未所属の魔法使いだろうが、構わず教えてくるらしい。

 水晶が伝えてくるのは、居住している国と名前と魔力量だけ。年齢、人相、性別、得意魔法等々の情報は教えてくれないので、どんな魔法使いなのかはわからないみたい。

 現在の三大魔法使いは、シルクドのエルロイ、ケルティのハリハールブダン、ジャポネのタカアキ。

 ガジュルシンが言うには、エルロイは二百年以上ずっと三大魔法使いな凄い人らしいんだけど、残り二人はコロコロ変わるらしい。

 そのうちの一人は、アジンエンデのもと舅の、ちっぴり変態なケルティの上皇様。上皇様の場合、本人の魔力は微々たるものなんだそうだけど、『知恵の指輪』という超グレイトな魔法道具を持ってるおかげでのランクインだ。その時点で使用可能な魔力量を単純に測って、三大魔法使いは決まるらしい。

 で、残り一人がタカアキ……

 と、聞いた時は、あれ? と、思った。

 何でそのランクづけにカルヴェル様がいないの? と。

 それに対しは、カルヴェル様は規格外なんだという答えが返って来た。

 水晶はしょせん、人の手で作られたアイテム。能力にも限界がある。多分、カルヴェル様は計測不能なのだろうと、ガジュルシンの分身は言った。魔力量を測れないから、その能力を他と比較できず、ランキングから漏れるのだろうと。

 はあ、人間級じゃないってこと? どんだけ凄いの、カルヴェル様……

 まあ、ともかく、その三大魔法使いの一人が親族を率いてジャポネで大暴れしているわけだ……



 キョウでミカドに御挨拶をしたら、もうとっとと出国しちゃってもいいんじゃないかと思う。ジャポネは大魔法使いタカアキ様とその親族にお任せして……



 大魔王の本拠地がわかんないから、行先なんて特に決まってないけど……

 ジャポネにいても活躍のしようがないしねえ。



 こんな拍子抜けの国なら、ジライ、無理して入国する事なかったわよねえ。

 てか、入国自体、しなきゃ良かったのに。



 ジャポネ行きを決めたのは、ガジュルシンだ。

 まあ、もともと、私も行きたいとは言っていたけど、それは大魔王教団が暴れてると思ってたからだ。平和な国ならスルーして良かったんじゃないかと思う。



 ガジュルシン、何でジャポネに入国したかったのかしら? 

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