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姫勇者ラーニャ  作者: 松宮星
シャイナに忍び寄る影
23/115

姫勇者と勇者の剣! 血まみれの勝利!

 痛い、痛い、痛い、痛い〜〜〜〜



 意識がはっきりするにつれ、猛烈に左腕が痛くなった。

「縛って血は止めておきました。可能ならば治癒魔法でお癒しください」

 シャオロン様に支えられ、どうにか体を起こした。

 痛すぎて、精神集中しづらい。

 でも、しなきゃ。

 痛い……

 うぇぇ〜、見たくない。

 左腕、ぐちゃぐちゃの、血まみれ。

 見たらますます痛くなってきた。

 顔をしかめて初めて、泣いているのに気づいた。

 みっともない……

 でも、止まらない。

 いいや、今は涙は!

 ともかく、治療!

 こんだけひどいと、応急処置しかできない。僕の魔法じゃ、骨を繋いだり傷口を塞いで血を止める事はできるけど、失った下腕の肉をもとに戻す再生や、神経や血管を繋ぐような細かい治療はできない。

 下腕の肉がざっくりと削られてる。

 くそぉ……手首から先、感覚がないや……。

 左腕が一番ひどい、きちんと処置しなきゃ二度と動かせなくなる。左の太腿も、脇腹も痛い。そっちも怪我してるみたいだ。

 腕の傷の応急処置が終わったのを見て、シャオロン様が腕を固定してくださる。裂いた衣服と添え木を準備しておいてくださったんだ。

 脇と太腿は傷を塞ぐぐらいにしといた。そろそろ魔力も尽きそうだ。

 見れば……

 兄様がアーメットを抱えて魔力を高めている。けっこうな重傷の僕を放置してるってことは、大怪我でもしたのだろうかアーメットが。そのすぐそばにジライが立ってた。

 ラーニャは気絶していて、アジンエンデがつきそっていた。『勇者の剣』は二人のすぐそばの床に転がっている。

「運が良かったですね、ガジャクティン様」

 シャオロン様が穏やかにおっしゃる。

「『勇者の剣』のすぐそばに立っていらっしゃったから、その程度ですんだんですよ。あの剣は剣そのものに浄化の力がありますから、ガジャクティン様の体に達するはずだった魔族の攻撃の大半を剣が浄化して消滅させてくれていたんです」

『勇者の剣』様が?

 そうか、僕は魔法陣に突き刺さっているそのお美しい銀の刃をうっとりと眺めていた。位置的に、魔族と僕の間に、『勇者の剣』様があったんだ。

 結果として、『勇者の剣』様が僕の盾となってくださったのか。

「敵は……?」

 しゃべると泣いてるの、バレバレだ。格好悪いなあ、もう。

「ラーニャ様とアジンエンデさんが倒してくださいました」

 ラーニャが?

 僕は床の上に倒れ、意識を失っている義姉を見つめた。

「さきほどのエーネという魔族、四天王の一人だったようです。姫勇者一行はもう四天王を一人、討伐したんです」

 四天王?

 ケルベゾールドは今世に降臨する度に、必ず四人の腹心を魔界からつれて来ている。

 その時、魔界で最も強い奴らを四天王にしてるのだろうとされている。大魔王に次ぐ実力の魔族だ。

 それを倒したのか、ラーニャとアジンエンデで…… 

 すごい……

 あの、ラーニャが……

 血筋だけのお飾り勇者かと思ってたけど……

 やっぱ、勇者だったのか……うぅぅぅ、今更、尊敬するの、難しいよ。

 ああああ、痛っ! ちょっとでも動くと傷に響く。

「立てますか?」

 僕は頷き、立ち上がった。

 くぅぅぅぅ、すっごく痛い! でも、痛いけど、平気!

 シャオロン様の後を、ひょこひょことついていく。左太腿も怪我してるんでまともに歩けない。

 で、見えた……

 兄様とアーメット達が……

 これは……

 ひどい……

 アーメット……衣服の破れ具合や床の血だまりからいって、体に少なくとも三箇所は大穴が開いていたんだ。今は傷一つないけど……左太腿から下が露出してるってことは……左脚はひきちぎれていたのか……傷口を合わせてくっつけたんだな、兄様が……

 呪文を詠唱する兄様の顔は、本当に真っ白だ。完全に血の気が無くなっている。

 もう魔法なんか使っちゃいけない状態だ。

 でも……

 今やらなきゃ、間に合わなくなるんだ。

 僕は呪文を詠唱し、右手で兄様の背にそっと触れた。

 僕の魔力なんて微々たるものだけど……

 雨の雫みたいな小さなものだけど……

 無いよりはマシ!

 僕は疲労回復の魔法を兄様にかけ続けた。



 魔力を完全に枯渇させ、気を失うまで……



* * * * * *



 あれ……?



 覆面の親父が見える。

 目を細めて、俺を見ている……



「死に損なったな、たわけが」

 親父……笑ってるみたいだ。

「ガジュルシン様に感謝せい。今、おまえが生きているのはあのお方のおかげだ」

 ガジュルシン……?

 いきなり攻撃されたから……

 俺はガジュルシンの前に立って盾となって、それで……

『虹の小剣』で頭部から胸部までの攻撃はできるだけ防いだけど……

 何発かモロくらったはずだ……

 あれ?

 ガジュルシンは無事かって聞きたかったんだけど、声が出なかった。

 親父の右の掌が俺の顔を覆う。

「ガジュルシン様はご無事じゃ。ようやった。きさまにしては上出来じゃ……今は、眠れ」



 褒めるなんて、珍しいじゃん……

 明日は雨だな……



 ガジュルシンが無事なら、もういいや……寝よう……



 俺は目を閉じた。



* * * * * *



「『勇者の剣』を置いて行くのか?」

 いぶかしそうにアジンエンデが問う。

「剣を鞘に収められる者も、運べる者もおらぬのだ、運びようがない。あの剣は魔法剣じゃ、放っておいても、帰りたくばラーニャ様のお手元に飛んでまいるであろう」

 我の説明を聞いても、北方の女は、尚も納得がいかぬと言いたそうな顔をしておった。

 突然、ガジュルシン様からの心話が途絶えたゆえ、シーアー軍所属の魔法使いが移動魔法で遺跡に現われた。エーネ討伐後、三十分も経ってからだが。間もなく、将校と治癒魔法の使い手及び移動魔法用の魔法使いがここまで来る手筈となった。

 一命をとりとめたアーメット、魔法の使い過ぎで倒れられたガジュルシン様、重傷のガジャクティン様には治療が必要。ラーニャ様はしばらく休まれればお目覚めになられるだろうが……

 既に、我が配下の忍が周囲を固めている。姫勇者一行に陰ながらつき従えさせておる者ども。その数、八。我が配下にラーニャ様達のお体を運ばせても良かったのだが、今、緊急を要す危険な状態の怪我人はいないのだ、護衛の忍が表に出て動く必要もない。

 シーアー軍も事情聴取もしたかろうし、魔族戦の跡の調査もしたかろう。軍はラーニャ様達の護送と治療もすると申しておるのだ、それぐらいの相手をしてやってもいい。

「ラーニャ様達の護衛役として、二人は移動魔法で共に街へ戻ってください」

 シャオロンが我とアジンエンデに言う。

「軍への説明はオレがします。オレ、この国の英雄ですから」

 任せるに異存はない。

「ラーニャ様やアーメットさんについていてください」

「すまんな……任せた」

 漏れる息が重い。まったくもって……情けない。

「ジライさんも、ちゃんと治療受けてくださいよ?」

 笑みを浮かべながらシャオロンが言う。

「血止めを塗ったからそれでいいとか言わないでください。振りがいつもより遅いです」

 うむを言わさぬ態度だ。

 我は肩と脇に浅いながらも傷を負っている。

 シャオロンは無事だ。怪我などしておらん。

 年は取りたくないものだ……敏捷性が衰えている。

 ラーニャ様の盾となった後の『小夜時雨(さよしぐれ)』の抜刀が遅れたがゆえの、負傷だ。セレス様と共に旅をしていた頃とは比べようもない遅さ。昔であれば、主従共に傷一つ負わなかったものを……

 怪我は現在の技の衰えの証だ……

「おい、忍者」

 北方の女が我を睨んでいる。使っている言語はシベルア語だ。

「アレは離れたが、アレに憑かれた時、あいつは混ざり合っていた。本人でありながら武器だったのだ。破壊する喜びに狂っていた」

 む?

 アジャンの娘……こやつも、シャーマンか。

 いや、シャーマンであり剣の才が高かった為、『極光の剣』に選ばれたとみるべきか。

『勇者の剣』を振るわれていたラーニャ様から何かを感じ取り、危険と思うたがゆえに、代わりにエーネを討ったのか。

「目覚めた時、苦しむと思うぞ。ついててやれ」

 フッ。

 らしくないことを言う。

 軍の魔法使いも同室しておる為、はっきりとは言わぬが『父親なら落ち込む娘の側にいてやれ』と言いたいわけか。

 じゃが……

「我にはせねばならぬことがある。ラーニャ様のお相手はきさまが務めよ、巨乳」

「なっ!」

「護衛も任せた。その露出狂まがいの鎧があれば、きさま、物理にも魔法にも強かろう? 空っぽの脳みその代わりに膨らんだ巨大な胸と尻をもって、しっかりと盾役を務めよ」

「どうして、おまえは、そうHで、無礼なんだ!」

 顔を真っ赤にしてぶるぶると震えてはおるが、剣を抜いてはこない。

 こちらが怪我人ゆえ、我慢したか。

 意外と冷静だな。

 どこぞ安全な場所に王家の子らを預けたら、護衛は巨乳女と配下に任せ、アルダナの店に行かずばなるまい。あやつが魔族とつるんで我等をはめたとは思えんが、あの店にどの程度、大魔王教団が入り込んでいるのか、主人はそれを把握しておるのか、確かめねばなるまい。今後の情報収集の為にも。

 我とアジンエンデを見つめていたシャオロンがポツリとつぶやく。

「破壊する喜びか……なるほど、そんな感じでしたよね、ラーニャ様」

『勇者の剣』を呼び寄せた時のラーニャ様は、お強かった。旅の終わりの頃のセレス様に匹敵するほどに。だが、あの時、ラーニャ様は正気ではなかった。怒りのあまり我を忘れ……剣に憑かれていた。

「武器に憑かれるだなんて、能力ゆえですね。ラーニャ様も共感能力者(エンパシー)だったとは驚きです」

 我とて、知らなかったわ。あのお方が赤子の時よりお仕えしてきたが、まったくそのような特徴も兆候もなかった。

 共感能力とは、他人の強い感情や思いに触れた事がきっかけで、その者の心を我が事のように感じる能力。

 セレス様もそうだが、先々代勇者ランツも共感能力者であったと聞く。共感能力は勇者の血ゆえなのだろうか? 記録には特にないが、歴代勇者は、皆、共感能力者なのか? 『勇者の剣』に触ると、眠っていた才が目覚めるものなのか? では、アーメットも? それとも、この三人だけなのだろうか?

 移動魔法で魔法使いとシーアー軍士官が現われたので、思考はそこまでで止めた。



* * * * * *



『ラーニャ』



 お母様の声がする……



『そんなブスくれた顔てしちゃダメよ、女の子は笑顔が一番』



 だって、ひどいのよ……アーメットも、ジライも……



『そんな事で怒っちゃ駄目。カッ! と、しても、そこはグッとこらえて我慢よ。軽がるしい暴力を振るってると、愛の鞭の価値が下がっちゃうわよ』



 違うわ……そんなんじゃない、私はもう大人よ……暴力と愛の違いぐらいわかってる……



『私の鞭は愛を込めたプレイだからいいの。でも、あなたのはわがまま娘の暴力だからダメ。その違いがわかるまで、他人に暴力を振るうのは一切、禁止ですからね』



 愛?



 誰に愛を持てというの……?



 私の大切な弟を……義弟を……ジライを……

 傷つけたものを……



 魔族まで愛せというの……?



 私が愛したいのはそんなものじゃない……



 魔族は愛するものじゃない……



 魔族は……



 滅ぼすべきものだ……



 消滅させてやろう……



 穢れし魔族を……

 無残に砕いてくれよう……



 斬る!

 斬る!

 斬る!

 斬る!

 斬る!



『斬ればいい』

 若い女性の声が響いた。



『おまえが望むのならな』



 その声が私を覚醒に導いた。



「アジンエンデ……?」

 見知らぬ天井が見えた。シャイナ風のけっこう豪奢なお部屋だ。私が寝ている寝台の横に、アジンエンデが座っていた。レイの鎧の上に男物の袍を着ていた。『極光の剣』は背から外し、鞘に入れて壁にたてかけている。

「ここ……何処?」

「県令の館の客間だ。怪我をした勇者ご一行を保護してくださった」

「県令……」

 たしか地方領主みたいな身分の人だ。

 移動魔法で運んでもらったのかしら……?

 ぼんやりしていると、アジンエンデが私の知りたかった事を口にしてくれた。

「ラーニャ、おまえの弟は一命をとりとめた」

 私はガバッ! と体を起こした。

「本当?」

「ああ」

 アジンエンデが口元に微かな笑みを浮かべる。

「左足も臓器も血も肉も、もとの状態に戻った。以前通りの動きができるかどうかはまだわからんそうだが、死の危険はなくなった」

「………」

 私の頬を熱いものが伝わった。

「……よかった」

「病弱な王子様は治癒魔法の使い過ぎで倒れた。おまえと仲の悪い義弟も大怪我だったが無事だ、たぶん、左腕も治してもらったろう。それから……」

 ちょっと口元を歪めてから、アジンエンデはフンと荒い息を吐いた。

「忍者は軽傷だ。もう何処かへ情報収集に行っている」

「ありがとう、アジンエンデ……」

「ん?」

「教えてくれて、ありがとう……」

 ケルティの女戦士の頬が赤く染まる。

「別に! 知ってることを話してるだけだ! 東国の格闘家は軍隊と一緒だ! 遺跡で事後処理をしてるはずだ!」

「うん……わかった」

 ポロポロと頬を涙がつたわってゆく。

 死ぬだなんて思ってなかったけど……と、いうか思わないようにしてたけど……正直、あの血の量を見た時には、相当、危ないってことは私にもわかってた。

 だけど、怖くなって泣いたら負けだから……

 アーメットは死なない! って思い込んだのだ。倒れてたガジャクティンも無事だって、そう思い込もうとしてた。

 無事でよかった……

「………」

 アジンエンデが無言で差し出してきたハンカチを受け取り、私は顔をぬぐった。

「ラーニャ」

「ん?」

「今日のおまえはおかしかった」

「うん」

「だが、身内にひどいことをされたんだ。冷静でいられなくても仕方ない。気にするな」

「……うん」

「怒りは怒りだ。それは否定しない。だが、怒りで魂を無くすのは愚かだ。怒りながらおまえはおまえであり続けろ」

 難しいことを言う……どういう意味?

「つまりだな」

 多分、私、?マークでも浮かべてたんだろう。アジンエンデが言い直す。

「おまえの怒りを利用されるなと言っているのだ。おまえは怒った。おまえの武器も怒っていた。それぞれが自分の怒りをもって戦うのはいい。しかし、武器の怒りに飲み込まれ、おまえがおまえでないまま戦うのは愚かだと言っているのだ」

 武器の怒りに飲み込まれる……?

 あれは……

 そうだったのだろうか?

 アーメット達を傷つけられて怒りまくっていた私。

 あのエーネとかいう魔族に、むっちゃくちゃ怒ってたわ。

 あいつをぶった斬ってやりたいって思った。

 だけど、それって……

 途中から、何かズレたのだ。

 私にもわかっていた。

『勇者の剣』の感情に私が圧倒され、流されたということだろうか? 

「聖なる武器は持ち手を選ぶ。自分を振るうに値する者を武器は求めているのだ。おまえを操りおまえを傀儡とするなど、武器も望んでいないだろう」

 さっきの妙な同化は、私にとってマズいことだけど、武器にとってもよろしくない事だというわけね……

「武器を相棒として、共に戦え。剣を使ってやれ。おまえが剣にふさわしき者なら、剣は応えてくれる」

 剣にふさわしい者……

「前にも言ったが……未熟なら、実戦を積み続けて真の勇者となってゆけばいい。一足飛びにはうまくいかないかもしれんが、気概を持って戦うおまえを剣は好ましく思ってくれるだろう」



 アジンエンデの言葉って、しっくりくるのよね……

 境遇がちょっと似てるからかな。

 望んでもいなかったのに『極光の剣』の振るい手になっちゃったアジンエンデ……

 剣に選ばれた理由をずっと探していた彼女に比べると、私、不真面目極まりないけど。



 今は馬鹿弟達が無事で良かったとぐらいしか思えない。まだ頭がボーッとしてる。けど、アジンエンデの言いたいことはわかる。

 剣にふりまわされて、使われちゃうなんて勇者じゃない。

 女王様じゃない。

 次からは失敗しない。

 それだけは硬く誓った。




 で……

 そっから十日ほど、シーアー県令様のおうちにご厄介となった。



 シャオロンとジライは居たり居なくなったり。大人の付き合いやら、情報収集で忙しそうだった。



 馬鹿弟は五日目になってようやく寝台から離れられたけど、最初は生まれたての小馬状態だった。他人の足を動かしてるみたいだと泣き言を言ったから、ちょんぎれたものがくっついたんだから贅沢言うな!と、怒鳴っておいた。

 一日で歩行可能になり、次の一日で日常生活が可能になり、その次の一日で走ったり飛んだりの運動が可能になった。それから……

「きさま、それでも忍か! 何じゃ、そのトロい動きは! 小僧以下じゃぞ!」

 と、鞭を片手にビシバシしごくジライ(嬉々としてやってたような。さすがドS)に二日、う〜〜〜んと可愛がられてた。でも、まだまだ本調子ではない。筋肉っていったん衰えさせちゃうと、取り戻すのたいへんよね。



 ガジュルシンは三日間、昏々と眠っていた。

 魔力の使いすぎて、体が疲れきってしまったのだ。魔力は枯れなかったけど、体力の方が尽きてしまったわけだ。

 毎日、寺院から僧侶様がいらして疲労回復の魔法をかけてくださったんだけど、それでも目を覚ますまで三日もかかった。治癒魔法ぬきだったら、一週間以上寝てたんじゃないかしら。

 目覚めた彼が、普段は分身を私達に帯同させ本体は総本山に籠もっていたい、そこで体力をつけたい、いざという時には合流して難事にあたりたいと言ってきたので許してあげた。

 是非とも体力をつけてもらいたい。

 それに今のところ、普段は休んでてもらって、有事に動いてもらった方が効率よさそうだしね。

 彼には移動魔法があるから、離れていてもすぐに合流してもらえるし。



 ガジャクティンはインディラ僧侶様に怪我を治癒してもらって、ひどかった左腕もほぼ元通りにしてもらっていた。

 で、あの騒動の次の日から、動きが鈍くなった左手を早くまともにしようと、武術鍛錬を始めてた。本当、体力バカ。槍も普通に扱えてた。本人は『遅い』って嘆いていたものの、一般人から見ればむちゃくちゃ早い振りで槍を使えていた。

 枯渇した魔力の方はもとに戻るまで一週間かかったようだけど。



 アジンエンデは私と一緒にいるか、共通語の勉強をしているか、ガジャクティンの武術鍛錬の手伝いをするかって、感じ。

 本当、仲いいわよね、ガジャクティンと……



 でもって……

 私はジライとアジンエンデの護衛つきで、魔族戦との三日後、ガジャクティンと共にシャイナ教の神殿遺跡に又、行った。

 というのも……



 いくら呼んでも戻ってこなかったのだ、馬鹿剣が!



『勇者の剣』様は、私が床に落とした状態で、つまり抜き身のまま遺跡本殿の床の上に落ちていた。

 勇者か十二代目勇者の従者だったカルヴェル様・ナラカ様の血筋の者しか、剣には触れられない。だから、置きっぱでも盗難の危険はない。剣自身が持ってる魔力で常に鋭利さを保ってるから、このまんまでも錆びの心配はない。

 が……

 ここに置いとくわけにはいかないだろう、勇者のメイン武器なんだから。

 こいつは魔法剣で、攻防の魔法で勇者を守ってきた。勇者抜きで、移動魔法を使った事もあったらしい。

 なのに……こいつ……

 県令様のおうちから、私が呼んでも全然、戻ってこようとしなかったのだ!

 仕方ないから、わざわざ迎えに来てやったのに……

 柄を持ったらクソ重かったのだ!

 成人男性の体重並!

 本当、ムカつく!

 鞘に入れてやろうとしてんだから、軽くなれっての!

 鞘に収まってる状態じゃなきゃ、ガジャクティンは剣に触れない。ナラカ様の身内ってだけのこいつは、持つのはいいんだけど、振るおうとすると雷を放たれちゃう。

 抜き身のこいつに触れるのは、私かアーメットだけ。



 今、アーメットは動けないんだから、私しか触れないのよ!

 ちっとは協力しろ、馬鹿剣!

 鞘に入れ終えてから、頭にきたんで蹴っとばしてやったら、雷撃を放たれた。

 神聖鎧のない箇所の皮膚に多少火傷ができる程度の弱い攻撃だったけど……



 あんたなんか、大嫌い!

 いつか、絶対、屈服させてやる!



 私は『勇者の剣』を睨みつけた。

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