表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姫勇者ラーニャ  作者: 松宮星
シャイナに忍び寄る影
22/115

いきなり四天王! 絶対、許さない!

「私、エーネと申します。初めまして、女勇者ラーニャ様。ああ、違ったわ、姫勇者様でしたっけ? フフフ、ごめんあそばせ、間違えてしまいましたわ」



 エーネと名乗ったシャイナ女性は、黒髪黒目の細面の美人だった。

 髪を優美に掻きあげたエ−ネは貫頭着を脱ぎ捨て、再び全裸となった。

 無防備そうな姿だが……多分、この方が戦いやすいのだろう。



 先ほど、エーネは瞬時に四方にいる私達を一斉に攻撃した。

 何をしたのだろう……?

 正直、私にはわからなかった。

 気がついたら、周囲から血が吹き上がっていたのだ。



「かなり高位の魔族の方とお見受けします」

 非常に静かな落ち着いた声が響く。

 シャオロンだ。

 どこも怪我はしていない。さっきの、魔族の奇襲を完璧に防ぎきったのだ。

『龍の爪』の先端を魔族に向けたまま、シャイナ語で話しかけている。

「シャイナ女性のその肉体に宿っておられる、あなたは魔界でも高貴な方なのでしょう?」

 話しかけながらじりじりと摺り足で進むシャオロンに対し、女魔族は媚びるような笑みを浮かべた。

「あら、いやだ。ふふふ、おわかりになるなんて、さすが英雄様ね。あなた、シャオロン様でしょ? よぉく存じていますわ、この体の母親が『女勇者セレス』のあなた様の大ファンでしたの」

「光栄ですね……シャイナ女性の脳を共有している今のあなたには、僕は多少は魅力的に見えますか?」

「ええ、とっても。ここに罠を張ってお待ちしてた甲斐がありましたわ。あなたの魂、私が食べてさしあげます」

「やはり待ち伏せでしたか……そのシャイナ女性の体にはいつから入っていたのです?」

「もう五日前からです。情報屋に魔族召喚の情報を配下の者を通じて流させたのに……あなたがた、来るの遅すぎでしてよ。召喚ごっこもあきていたところですわ」

 ホホホホと笑う魔族に、シャオロンは静かに頭を振った。

「黒の気を隠すの、上手ですね。オレ、魔の気には敏感な方なんですけど、あなたは、ただのシャイナ女性にしか思えませんでした」

 シャイナ女性ってやたら連呼するんで、私もようやく気づけた。

 そうか、シャオロンは……

 この魔族はシャイナ女性の体を乗っ取っているんだってことを、私達に意識させようとしているのだ。

 つまり……

 シャイナ人として得た知識を基本に、今、こいつは行動してるんだ。

 少しづつ魔族との距離を詰めてゆくシャオロン。

 魔族の目はそっちへ向いている。

 チャンスをつくってくれてるんだ。私達が死角へと入る位置にシャオロンは移動してゆく。まあ、人間の眼以外の眼でも周囲を見てるだろうけど、うまくすれば虚がつける。

 攻撃もしたいけど、今、まずすべきことは……

「ジライ……まだ戦える?」

 私を庇い、血を流したたずんでいる忍者にシベルア語で尋ねた。普通のシャイナ女性なら、母国語と共通語しか話せないはず。北方の言葉なんか知ってるはずがない。こっちの思考を魔法で読もうとしない限り、向こうには会話はわかるまい。

 綺麗に姿勢を伸ばしたその姿は、おそらく『ムラクモ』を魔に向けて構えているのだろう。私に背を向けたまま、ジライが答える。

「愚問にございますな。私めの動きに衰えはございませぬ。何なりとご命じください」

 肩や脇から、だらだら血ぃ流してくるくせに、強がって。

 馬鹿。

 でも……さすが、先代勇者の従者ね……頼もしいわ。

「ガジュルシンを正気に戻さなきゃ、彼のもとへ行くわ」

「承知」

 言うが早いか……

 ジライは行動に出た。『ムラクモ』を手に持ったまま、私を抱きかかえたのだ。いわゆるお姫様だっこで!

 で、ふわっとしたら、もうガジュルシンとアーメットのそばに来ていた。

 びっくりするほど素早い。

 何か鞭状のものが私達へと飛んでくる。

 私はジライの腕からすぐに降りた。ジライは『ムラクモ』を一閃した。

『ムラクモ』が何かを浄化した。

 でも、何を?

 あの女魔族から飛び出したように見えたけど……蛇みたいななんかが、もの凄いスピードで私達を狙って飛んで来てたのだ。

「アーメット!」

 ガジュルシンの叫び声。

 そうだ、今は魔族よりこっち。私は泣きながら弟を抱きしめている義弟へと視線を向けた。

 背後に風を切る音がする。ジライが魔族の攻撃を防いでくれているのだ。

 ジライが負けるわけがない……

 変態だけど、強いもの!

 今は、魔族はジライとシャオロンに任せた!

 ガジュルシンが、その名を呼び、その体を揺さぶってるんだけど、アーメットはぴくりとも反応しない。体に穴が開いているし……左足が膝から下が無い。

 でも、死んだわけじゃないわよね……

 血まみれだけど、忍者装束もあっちこっち破けてるけど……馬鹿はそう簡単には死なない!

 自らを盾にしてガジュシンを庇ったぐらいで死ぬもんですか!

 馬鹿の馬鹿の大馬鹿だけど……さっきの、あんたの行動は正解だわ! 褒めてあげる! だから、起きるのよ、アーメット!

 私はガジュルシンの胸倉をつかみ、かなり遠慮なく平手でぶっ叩いてやった。

「ふぬけてるんじゃないわよ! 早く治して、馬鹿弟が死んじゃうわ!」

「ラーニャ……」

「しっかりして! 治癒魔法を使えるのは、今はあんただけよ! みんなを助ける気があるんなら、しゃきっとしなさい!」

 ガジュルシンが泣きながら、かぶりを振る。

「でも、もう、アーメットは……」

「やんないうちから投げ出すんじゃないわよ! あんた、インディラ寺院の代表でしょう! 高位の回復魔法でも何でも使いなさいよ!」

「でも……もう……」

 腹が立ったから、もう一発、ひっぱたいてやった。

「何の為に、アーメットがあんたを庇ったと思ってるのよ! あんたさえ無事なら、みんな、助かるからよ! あんたを信じて、代わりに攻撃をくらってやったのよ! あんた、アーメットの期待を裏切る気?」

「!」

「ダメもとでもやってみなさい! うまくすりゃ生き返るわよ、そいつ、油虫なみにしぶといから!」

 涙をぬぐい、ガジュルシンが精神集中を始める。

 良かった……冷静さを取り戻してくれて……

 彼がパニくってたら、アーメットはお陀仏だろうし、多分、ガジャクティンもアジンエンデも……。二人とも床から全然、動かない。

 早くあの二人にも治癒魔法をかけてもらわなきゃ……

『龍の爪』を振るい、シャオロンが女魔族に攻撃をしかけている。

 高々と跳躍する彼。

 女魔族の髪がざわりと揺れる。

 見えた。

 髪だ。

 髪の毛だ。

 髪の毛が女魔族の頭から抜け、礫のようになって襲っているのだ。

 空中のシャオロンが爪を閃かすと、水飛沫が生まれた。ジライの『ムラクモ』と一緒だ。聖水だ。

 聖水のかかった髪が、浄化され今世から消えゆく。

 そうか……聖なる武器で、敵の攻撃を浄化してたのか……シャオロンも、そしてジライも。

 ジライは尚も私達に向けて放たれている髪の毛の礫を、ムラクモの刃、もしくはそこから生まれる聖なる水で浄化し続けてくれている。

 守る人数が増えているから動きづらそうだ。しかも、怪我してるし……。

 私は周囲に視線を走らせた。

 シャオロンの速攻を、女魔族はひらりひらりとかわしている。甲高い笑い声を上げながら。聖水も器用によけている。で、逃げながら、シャオロンやジライに髪で攻撃をしかけてる。

 アーメットの足元には『虹の小剣』……あれを拾えば私も戦える。

『勇者の剣』は部屋の中央の魔法陣のところにぶっ刺したままだ。すぐそばには、ガジャクティンが倒れている。

 アジンエンデはそこよりやや北側にいる。魔法陣をはさんで北、あの女魔族が身を横たえていた場所の近くに。

「あきてきましたわ」

 女魔族が口元に手を添えて笑う。

「そろそろおしまいにしましょうか……」

 シャオロンの攻撃を避けながら、首だけを私の方にむけ、女魔族が笑う。

「さようなら、姫勇者様。あなたの命は大魔王四天王の一人エーネがいただきますわ」

 大魔王四天王?

 て、ちょっと待って!

 四天王っていうからには、大魔王の部下のトップ・フォーじゃない!

 何でそんな大物が、私の初仕事に出ばってくるのよ! 



 エーネの体から爆発的に黒の気が広がる。

 髪の毛からだけじゃない、手足、体、顔……全ての毛穴から黒の気が広がったのだ。



 黒の気が全て礫となる。



 幾百幾千幾万の魔の礫が……



 部屋中に広がるのだ……



 黒の気のひろがってゆくさまを、私の目は非常にゆっくり捉えていた。



 エーネと対戦しているシャオロンにも……



 倒れているガジャクティンやアジンエンデにも……



 瀕死のアーメットと治癒しているガジュルシンにも……



 私を庇って戦ってくれているジライにも……



 逃げ場はない。



 いや、聖なる武器を構えている二人ならば、命を拾える可能性は残っている。彼らの超人的な戦技をもってすれば。

 しかし、他の者はダメだ。



 死ぬ。



 防げない。



 この攻撃で、私の弟達が死ぬ。



 確実に。



 そんなこと……



 あってはならないことだ!



 絶対、許さない!



 私は怒りのまま、声をはりあげていた。



「庇いなさい! あんたと共に生きる仲間を!」



 命令だ。

 誰をと意識して言ったわけじゃない。

 でも、心の奥深いところで理解していた。



 私は命令できるのだ。

 する資格があるのだ。

 だって、私は……



 姫勇者だから!



「馬鹿な!」

 エーネが驚き、身をすくませる。

 彼女の放った礫は一つとして、私にも私の仲間にも届かなかった。

 全て防いだのだ。

 私の両手が握り締めているモノが。

 私の仲間の周囲に、物理・魔法障壁を張って完璧に。

 私の命令に従って。



「きさまが、それを操れるはずが……」



「ごちゃごちゃうるさい! あんたは、絶対に、許さない! よくも、私の弟達に手を出したわね!」



 私は両手を振り上げた。

 私の求めに応じ、私のもとへ宙を渡ってやってきたモノが……軽い。

 持っている事を忘れてしまうほどに……

『勇者の剣』が軽かった。



「ひぃぃ!」



 エーネに達したはずの攻撃が、ぐにゃりと歪んでそれてゆく。

 空間を歪曲させたのだ。

 馬鹿な女!

 そんな手、一回しか通じないわ!

 移動魔法も無駄よ!

 させない!

 あんたの魔力なんか全部、封じてやる!



 あんたを殺すのなんか簡単だわ……

 今の私には全部、わかるのよ!

 その肉体のどこに本当のあんたがいるのか……



 消滅させてやる……



 魔族よ……

 穢れたものよ……

 無残に砕いてくれよう……



 あんたなんか嫌いよ!

 消えちまいなさい!



 私の剣の一振りを、かろうじて身をそらしてエーネは避けた。



 斬る!

 斬る!

 斬る!

 斬る!

 斬る!



 遅い! きさまなど、斬ってくれるわ!



 私の振り上げた剣は……

 しかし、エーネには届かなかった。



 斬り裂く前に消えてしまったのだ。



 浄化されて……



 私は茫然と、聖なる武器の使い手を見つめた。

 自分の身長ほどもある大剣を振り下ろした姿勢で、その者はたたずんでいた。

 燃えるような赤い髪に、赤い鎧。鎧を隠していた衣服は裂けて破れてしまっていたが、彼女はまったく怪我をしていない。

 そうだ、と思い出す。下着姿にしか見えないその赤い鎧は、四部位を揃えて装着すれば、彼女の全身に物理・魔法障壁を張り巡らすのだった。無防備に見える頭部にも、だ。彼女は最初から無事だったのだ。

 気絶したふりをして攻撃する機会を伺っていたのか……

「ラーニャ」

『極光の剣』を右手だけに持って、彼女は私へと近寄る。

 そして、左手をあげ、私の頬をはたいた。

「剣は使うものだ。使われるな、未熟者」



 両手の武器が重くなる……



 私は『勇者の剣』を支えきれずに落とし、そのまま、その場に崩れ落ちてしまった。 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ