婚約破棄の現場をただ黙って見ていただけの男爵令息の話
良くある事かもしれない。たった一人の女に鉄壁の絆を誇った王子殿下達が翻弄された。伯爵令嬢だ。
「あ~、マク様ぁ~、エリザベータ様が私の悪口を言っていますぅ」
「良し、注意しておこう」
古今東西、悪女と言われる女性が組織を引っかき回す事件が多々ある。
女は男の隣に座ると、たちまち肩書きまで男の地位が憑依するのだ。
だから、女は身を飾り美しさを誇るのだろうな。
異国では誰も崩せなかった闇ギルドが、たった一人の女性で崩壊した事例なんてこともある。
夫のギルド長の不誠実を長老達に告発。長老達がギルド長を更迭したら、たちまちやりすぎだ。私に相談もなく、とギルドの若者たちを扇動し。身内の殺し合いにまで発展した。
公爵令嬢の悪口を言ったかと思うと・・・
「殿下ぁ~、言い過ぎですぅ、エリザベータ様が可哀想です」
「うむ・・・そうだな。言い過ぎたか」
メリング公爵令嬢を庇ったりする。
これは、異国の闇ギルドの女のやり方にそっくりだ。婚約者交代はあるか?
なんてことはない。
殿下は婚約破棄を宣言されたが、その日の夕方には伯爵令嬢は修道院に行きが決定し。
殿下は王位継承権を失い。側近候補達は謹慎という処分が決まった。
一方、俺は・・・
「ハンクス、婚約を破棄します」
婚約者から婚約を破棄された。
理由は。
「メリング公爵令嬢様がヒドい目に遭っていたのに貴方は助けなかった。ただ見ていただけと噂だわ。
公爵令嬢と同じクラスなのに助けなかった。そんな冷たい男と婚約続行は出来ませんわ」
使用人達も同調する。
「お嬢様、本当でございますね」
「ハンクス殿の部屋は片付けておきました」
伯爵殿は・・・
「リシリーの婚約者は高位貴族にする。初めからそうしておけば良かった。学費と生活費、請求するぞ」
と言われて、屋敷を追い出された。当然、退学だな。
俺は貧乏男爵家の三男、努力してAクラスに入学でき。伯爵家から縁談が来た。伯爵家の婿になれるのだ。学費も援助、王都での住む場所も与えられていたのだ。
「それも全て水の泡のように砕けちまった」
独り学園に手続きに向かい。夕方、授業が終わってから私物を取りに行った。
そしたら、メリング公爵令嬢と鉢合わせをした。
「あら、ハンクス、話は聞いたわ。とばっりちね」
「メリング公爵令嬢、お世話になりました」
「エリザベータと呼んでくれないのかしら?」
「もう、学友ではありません」
「いいえ。学友は一生ものよ。同窓会を開くでしょう?クス」
驚くことに、私に援助してくれると言う。
「伯爵家への負債を肩代わりしてあげるわ」
「それは断ります。理由がありません」
「貴方を気に入っているのよ。婚約破棄された日、貴方は私に何を言ったのか覚えておりますか?」
「それは・・・」
過去の扉を開けた。ほんの数ヶ月前だったが、まるで遠い昔の出来事のようだ。
確か、俺は、エリザベータ様に早退届を出すように言ったのだっけ?
☆☆☆
『エリザベータ様、屋敷に戻るのでしたら、早退届をお書き下さい』
『それは形式ですわ。あってもなくても良いものが形式、それどころではございませんの』
『エリザベータ様、確かに形式ですが、女神様の元では時間だけは平等です。それで動く学園事務の者がおりましょう。彼らの時間を奪ってはいけません。お忙しいようでしたら、代筆しましょうか?』
『もう、いいわ。自分で書くわ』
・・・・・・・・・・・・・・・
そんなことがあった。
「優しく無関心を装ってくれたわ。公爵家が援助しますわ。外国に留学しませんか?」
「もはや、それしかございません」
こうして、俺は外国に留学し何とか卒業出来て公爵家に挨拶に向かった。
「公爵閣下、無事に卒業できました」
「うむ。成績表を見た。列国の貴公子たちが集まる中で良くやった」
「有難きお言葉です」
「マナー、礼法で成績を引っ張ったが、中の上、上の下、男爵家出身でこれは異例だ」
「もったいないお言葉です。どうもです・・・。私は如何に恩をお返ししたらよいでしょうか?」
「それでな・・・ここだけの話だ・・」
公爵閣下は神妙な顔をして人払いをした。
いいか?ハンクス、女主人の側近に相応しい男は稀だ。
辛抱強く、男である身分におごらず。身の程を知って行動出来る者だ。
まるで執事のように付き従い、時には友のように歓談し。夜は夫として振る舞える。
「君はどう思う?」
「さあ、どうでしょうかね。王配殿下の素質を考えたことはありませんでした」
「でだ。息子は外国の王女との縁組が決まった。王宮に入る。エリザベータが公爵家を継ぐ事になった」
「喜ばしいことでございましょう」
・・・・・・・・・
そして、何故か、公爵家長男の婚約披露パーティーにエリザベータ様のエスコート役として参列をした。
「フフフフ、お久しぶりね」
思わず目を見張る。地味に思えた黒髪が白いドレスで際立つ。
腕を組み披露宴会場の庭園に入ったら・・・
「全く、お前は出来ていないな!こんなスーツを用意して!伯爵家は貧相だわ。婚約を破棄する!」
「そ、そんな」
婚約破棄が起きていやがった。
しかし、覚えのある声・・・
元婚約者の伯爵令嬢リシリーだ。
「・・・・ハンクス、おさめてみなさい」
「はい、エリザベータ様」
俺はエリザベータ様の命令で騒ぎに向かった。
男は・・・見た事がある。確か、元婚約者のDクラスの同級生で侯爵家令息・・・
そうか、噂ではリシリーは仲良くなって結婚したくなり公爵令嬢との婚約破棄をきっかけに俺を屋敷から追い出したと聞いた。まあ、噂だ。
・・・ハンクスは現われた。公爵家があつらえたスーツ、お抱えの理髪師が整えた髪。
明らかに風貌が見違えて見えたと云う・
「まあ、どなたかしら?」
「婚約者はいらっしゃるのかしら・・」
令嬢たちは噂をした。ハンクスの耳に届いたが自分のこととは思いもしなかった。
「ゴホン、そこの貴公子殿、婚約破棄は結構ですが、時と場所をお選び下さい。隣国レスター王国王女と公爵家令息の婚約披露宴パーティーでございます」
侯爵令息の振り上げた手を掴みハンクスは割って入った。
「俺を誰だと思っているのか!」
「ここは公爵家の庭園です」
貴公子は渋々退いた。
「ハンクス、覚えていれてくれたのね。私のために立派になって・・・・」
「ご令嬢も馬車をご用意します。さあ、そこのメイド殿、このご令嬢を控え室にお連れしてください」
「「はい」」
「まだパーティーに参加したいですわ。ハンクス、エスコトートをして」
既にハンクスの隣にエリザベータが立っていた。
「ハンクス~!浮気?浮気したの?」
メイド達に引きずられながら退場し元婚約者の叫び声が庭園に響き皆の耳目を集めた。まるで、自己の都合のよい噂を流すように・・・
ハンクスは。
「女ってたくましいな・・・」
とだけつぶやいた。
「あら、何かしら」
「いや、女ってたくましいと・・」
「当たり前じゃない」
ハンクスは誤魔化さずにエリザベータに答えたと云う。
このハンクスがつぶやいてエリザベータが尋ねるメリング公爵家夫妻の名物がこのとき誕生したと伝わる。
最後までお読み頂き有難うございました。




