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瓦礫の隙間から、火花が散る。


倒壊した高層ビルの残骸が折り重なり、空は煤で濁っていた。遠くで金属同士が擦れ合う、不快な駆動音が響く。


九条は舌打ちし、周囲を見渡す。


「十文字さんのチームと、悠人のチーム以外の参加者は全員、この“崩壊破壊都市エリア”に放り込まれたらしい」


「え……?」


美咲が息を呑む。


「そんな……じゃあ、ここに倒れてる人たちも……」


「ほぼ間違いない」


九条は背中に手を回し、ガジェットケースを開いた。


「ちょっと待ってろ」


次の瞬間――

展開音と共に、無数の小型ドローンが射出される。


銀色の球体が空中で一瞬静止し、

パキッという乾いた音と共に、さらに細かく分裂した。


十数、二十、三十――

蜂の群れのように散開し、崩壊都市の上空を埋め尽くす。


空中投影されたホログラムに、赤い点が次々と灯る。


九条は目を細め、即座に解析する。


「……数えた、戦闘ロボ、ざっと三十体」


美咲の喉が、ひくりと鳴った。


「さ、三十……?」


「しかも、配置がいやらしい、瓦礫の陰、ビルの内部、地下――完全に殲滅用の布陣だ」


九条は吐き捨てるように続けた。


「このルートを正面突破するのは――自殺行為だな」


だが。美咲は、倒れている参加者たちから目を逸らさなかった。


「……それでも、助けなきゃ、いけない人がいる」



「絶対言うと思ったぜ」九条は肩をすくめ、九条は歯を食いしばりながら端末を操作していた。


「やっぱりな」


背中のガジェットから放たれたドローンが、赤い光を帯びて分裂する。

それぞれが戦闘ロボ数体の背部ポートに張り付き、コードを流し込んだ。――ピッ。


数台のロボが、動きを止める。


次の瞬間。


それらは一斉に向きを変え、倒れている参加者たちの前へと展開した。


「よし……こいつらは元々、バトルステージ用のロボだ」九条は息を吐きながら言う。


「戦闘AIに書き換えられてたが、根っこは変わってねぇ管理プロトコルを逆利用して、護衛モードに上書きした」美咲は目を見開いた。


「じゃあ……!」


「ただし――」


九条の声が、低くなる。ドローンの映像に映る数値、残存ロボ――22体。


「こんな数、一斉に来られたら……」


その言葉を遮るように。


――ゴォォンッ!!


瓦礫を踏み砕き、残りのロボたちが美咲、九条に気づき一斉に動き出した。「来たわ!……何分あれば、全部コントロールできる?」


美咲の問いに、九条は一瞬だけ視線を上げすぐに端末へ戻した。


「最短で……10分だ!それだけ耐えてくれりゃ、残りも全部“俺の管理下”にできる」


一瞬の沈黙。


美咲は、迷わなかった。


「……わかった、任せて」


そう言って、彼女は一歩前へ出る。


瓦礫だらけの地面に足を踏みしめ、

静かに、弓を構えた。


狙いは―空。

弓にセットされた矢が、淡い光を帯びていく。

一本ではない。

二本、三本――

いや、空間そのものが弦に引き寄せられていく。


「支援用多目的矢――システムコード《リンク・レイン》」


美咲が、静かに名を呼ぶ。


――パァンッ!


放たれた矢は、空中で分裂した。

無数の光粒となり、破壊都市の上空に散開する。


次の瞬間。


――ザァァァッ!!


光の雨が、降り注いだ。


ロボの動きを“止める”のではない。

破壊でもない。


光に触れたロボたちの動きが、わずかに、だが確実に鈍る。


「……っ!」


九条の端末に、変化が走る。


「嘘だろ、処理負荷が下がってる……!?」


美咲は息を整えながら言った。


「攻撃力低下、反応速度、約30%ダウンそれと――」


彼女は、倒れている参加者たちに視線を向ける。


「味方識別タグ、強制上書きこの光に触れてる間、ロボは“人を敵と認識しない”」


九条は、思わず笑った。


「……マジかよ、支援特化ってレベルじゃねぇぞ」


だが、猶予は短い。


光の雨をかいくぐり、

数体のロボが、それでも前へ出てくる。


光の雨をかいくぐり、

数体のロボが、それでも前へ出てくる。


「来るぞ、美咲!」


「うん」


美咲は、弓を引き直した。


「この任務――絶対、遂行してみせるぜ」


九条は歯を食いしばり、端末へ視線を落とす。

指が走る。

――いや、叩き込まれると言った方が正しい。


常人では到底追えない速度で、コードが画面を流れていった。


管理プロトコルの階層は三重。

さらに、外部干渉を想定した疑似自己修復コード。


普通なら――

一体制御するだけでも、数分はかかる。


「…今なら、行ける」


九条が低く言った。


上空では、リンク・レインの光がまだ降り続いている。

ロボたちの演算処理は鈍り、通信同期は乱れたままだ。


――美咲が作った、唯一の突破口。


だが。


「来るぞ、第二波!」


光をものともせず、強引に突っ込んでくる影。

装甲が一段階厚い。

指揮系統用の――上位ユニット。


「チッ……厄介なのが混じってやがる」


九条は歯を食いしばる。


その声を背に、美咲は深く息を吸った。


再び一本の矢に、全神経を集中させる。


弦が――軋む。


空気が、張りつめる。


収束する光。

矢の先端が、白く、鋭く輝いた。


一瞬の静寂。


「システムコード――《リンク・スパイク》!」


――ヒュンッ!!


放たれた矢は、一直線に空間を裂き、

上位ロボの胸部へと突き刺さる。


爆発は、ない。


だが――


――ピシィッ。


装甲表面に、無数の光の亀裂が走った。


次の瞬間。


ロボの全身から光が噴き出し、

動きが、完全に停止する。


九条の端末に、

《管理権限:取得》の表示が灯った。


「……今の一発で、制御回線が丸見えだ」


思わず、声が弾む。


「美咲……お前、本当に学生かよ!」


だが――安心する暇はない。


残存ロボが、なおも突撃してくる。


美咲は歯を食いしばり、次々と矢を放った。


一体、また一体。


撃ち抜かれ、止まり、沈黙していく。


最後の一体。


それは、美咲の死角から一気に距離を詰めてきた。


刃が、振り上げられる。


速い。

近い。


「――っ!」


まずい。

間に合わない。


その瞬間。


九条の指が、最後のキーを叩いた。


――カチリ。


振り下ろされるはずだった刃が、

美咲の眼前で、ぴたりと止まる。


「……ま、間に合ったぜ」


九条は、大きく息を吐いた。


ロボはそのまま、力を失って崩れ落ちる。


静寂。


次の瞬間。


「やった……!」


美咲は振り返り、

勢いのまま九条に抱きついた。


「九条くん、やったよ!」


一瞬、驚いた九条は、

すぐに苦笑する。


「……ああ。ギリギリだったけどな」


九条の言葉に、美咲はほっと息を吐き、勢いのまま彼に抱きついた。


「九条くん、やったよ……!」


その温もりに、九条は一瞬だけ思考が緩む。


(……待て)


背中に、嫌な感覚が走った。


視界の端。

瓦礫の陰で――沈黙したはずのロボが、かすかに動く。


(まさか……)


九条の血の気が、一気に引く。


(この個体だけ……コードが、違う)


理解した瞬間には、もう遅かった。


ロボは跳ねるように距離を詰め、

振り上げた刃が、美咲と九条の背へ――


(終わりだ……完全に、俺のやらかしだ)


刹那。


――――ドォォンッ!!!


衝撃音。


空気が、爆ぜた。


次の瞬間、ロボの巨体が横殴りの衝撃で吹き飛ばされ、瓦礫を巻き込みながら数十メートル先へと転がっていく。


粉塵が舞い、視界が白く染まる。


何が起きたのか、理解が追いつかない。


やがて――


煙が、ゆっくりと晴れた。


そこに立っていたのは。


黒と銀の装甲に身を包んだ、一人の男。

全身を覆う最新のパワースーツ。

地面に深く沈み込んだ足元が、今の一撃の重さを物語っている。


颯太だった。


肩から立ち上る蒸気。

握り締められた拳には、まだ衝撃の余韻が残っている。


「……間に合った、か」


そう呟き、颯太は振り返った。


「美咲。九条さん」


低く、だが確かな声。


「――怪我は、ないですか?」


美咲は、しばらく言葉を失い、

やがて目を見開いた。


「……颯太?」


九条は、呆然としたまま笑う。


「……助かった。最高のタイミングだ」


颯太は前を向いたまま、低く言った。


「ここからは、僕も参加者だ」


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