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19

颯太は、バイクを全速力で飛ばしていた。




風が頬を切り裂き、エンジン音が耳鳴りのように響く。




(頼む……無事でいてくれ、悠人)




胸の奥で、嫌な予感が消えない。




校門が見えた瞬間、颯太はブレーキを強く踏み、バイクを放り出すように降りた。


そのまま駆け出し、バトルステージが行われている巨大ドームへ向かう。




ドーム周辺は――異様なほど、盛り上がっていた。




歓声。


怒号。


興奮した顔。




「……何も、なかったのか?」




だが次の瞬間――


巨大スクリーンを見上げ、血の気が引く。




映し出されていたのは――西園寺と、あの男。




(金髪……“喜”の文字が入った服……まずい……!)




「あれが……ジョイ……!」




西園寺はレイピアを構え、


閃光のような速度で突きに出る。




一突き。


二突き。


三突き。




――速い。




「閃光の速さ」とまで称される、西園寺の攻撃。




本来なら、避けられるはずがない。




だが。




ジョイは――


まるで舞踏でも踊るかのように、それをすべて躱していた。




軽やかに。


余裕の笑みすら浮かべて。




「……ウォーミングアップ終了」




次の瞬間。




――ズブッ。




薙刀が、容赦なく。


西園寺の横腹を貫いた。




「――っ!!」




颯太は、言葉を失った。




(ありえない……西園寺さんの攻撃を……全部、避けた……?)




横腹を押さえた掌の隙間から、鮮血が零れる。


一歩踏み出すたび、視界が揺れるが、それでも足を止めない。




そのとき――




『西園寺さん!』




耳元の通信が弾けた。




『十文字さんと、連絡が取れました!』




九条の声だ。


荒い息と、切迫した緊張が混じっている。




「……そう」




光のスピードで、掻き消えた。




残ったのは、焦げたような空気と、


わずかな残光だけ




「……あーあ、逃げちゃった」




ジョイは、肩をすくめる。




「まあいいや。最後に残るのは、一チームだけだしね」




軽い。


あまりにも軽すぎる口調。




その瞬間、颯太ははっきり理解した。




(……これは、試合じゃない、殺し合いだ)




急いで観客席を見渡す。




――いた。




前方の席に、悠人の妹。




「……葵ちゃん!」




颯太は駆け寄り、肩に手を置く。




「今の状況、分かるか!? 何が起きてるんだ!?」




だが――




葵は、反応しなかった。




いや、聞いていない。




スクリーンを見つめたまま、


笑顔のまま、


まるで中身の抜けた人形のように、歓声を上げている。




「……っ」




背筋が、凍る。




周囲を見ると――


観客たちは異常だった。




歓声は、どんどんヒートアップし、


興奮のあまり、互いに殴り合っている者までいる。




颯太は即座に割って入った。




「やめろ! サイバー部隊の者だ! 喧嘩はやめろ!」




だが――


誰も、聞く耳を持たない。




虚ろな目。


感情だけが暴走した――人形。




(……こないだの事件と、同じだ)




脳裏に、最悪の記憶が蘇る。




(このままじゃ……みんな、死ぬ)




視線が、再びスクリーンへ向く。




そこに映るのは、ジョイ。




(――とりあえず、あいつを止めないと)




次の瞬間。




颯太は、迷わなかった。




観客席の柵を越え――


**その suggests **




――自ら、バトルステージへと身を投げた。




戦場へ。


狂気の中心へ。




すべてを止めるために。




♦︎




「おい、大丈夫か!」




赤い光が完全に消えきるのを待たず、悠人は駆け出していた。




座り込む西園寺のもとへ滑り込み、即座に視線を落とす。


横腹――血は流れているが、噴き出すほどではない。




(切り傷……深いけど、致命傷じゃない)




呼吸も安定している。


内臓をやられている様子は、ない。




「……」




安堵しかけた、その瞬間。




西園寺が、痛みを隠すように苦笑して口を開いた。




「あなた……確か」


「十文字さんのことを、やけに気にかけていた男の子よね」




その言葉に、悠人は一瞬だけ顔を上げ――


すぐに、何も言わず首を横に振った。




「今は、喋らなくていいです」




短く、きっぱりと告げる。




「……すぐ止血しますね」




そう言って、悠人は美咲から自前でもらっていた応急キットを取り出した。


迷いのない手つき。


状況判断も、動作も、無駄がない。




西園寺はその様子を見つめ、かすかに目を細める。


まるで――安心したかのように。




そして、力が抜けたように、そのまま意識を手放した。




♦︎




赤い光が、二人の身体を包み込む。




次の瞬間――テレポート。




光が消えゆくと同時に、まとわりつくような湿気が肌を打った。


空気は重く、ぬるい。




足元に視線を落とす。


地面はびちゃびちゃと水を含み、歩くたびに嫌な音を立てた。




「……ここは」




雫が周囲を見渡し、眉をひそめる。




「水没エリア、ってやつ?」




視界の先には、半分沈んだ建造物。


濁った水面に、かすかな波紋が広がっている。




そのとき――


隣にも、赤い光が降り立った。




光が収束し、現れたのは異様なほどの巨体。




「はぁ……」




雫は即座に肩を落とした。




「なんで、よりによって……あなたなのよ」




転送されてきた男が、喉を鳴らして笑う。




「はは。まさか黒髪とはなこりゃあ、なかなかいいコンビじゃねえか」




十文字だった。




雫は深く息を吐き、睨みつける。




「……私の名前は雫よ」


「さっさと、このいかれたバトルロワイヤル、終わらせるわよ」




水を踏みしめながら、先に歩き出す。




「そうだな」




十文字も、濁った水を気にも留めず後に続く。




その背中が、水面を揺らし、水没エリアに、二人分の波紋が広がっていった。




♦︎




「落とされるわぁぁぁっ――!!」




叫びと同時に、身体が宙を舞った。




重力が、容赦なく引きずり落とされる。


風が耳元で唸り、視界が高速で流れる。




――ドンッ!!




瓦礫の山に叩きつけられ、美咲は転がるように着地した。


衝撃に息が詰まり、反射的に身を丸める。




「痛っ……!」




すぐに顔を上げる。




周囲には、無残に破壊された高層ビル群。


折れた鉄骨、崩れた外壁、粉塵がまだ空気中を漂っている。




「ここ……」




美咲は息を整えながら、呟いた。




「破壊都市エリア、か」




その背後から、投げやりな声が響く。




「クソ……」




振り返ると、瓦礫に腰を下ろした男が頭を掻いていた。




「なんで俺が、こんなことに巻き込まれてんだよ……こんなことなら家でガジェットでもいじってたほうが、百倍マシだった」




九条だった。




苛立ちと諦めが入り混じった声。戦場にいるとは思えないほど、現実感のない愚痴。




美咲は一瞬きょとんとし――


次に、状況を理解したように小さく息を吐いた。




「私のペアは、九条くん……ってことね?」




九条は一瞬言葉を失い、次いで顔をしかめた。




「マジかよ……」




瓦礫の向こうで、どこかが崩れ落ちる轟音が響く。




破壊された都市の中心で――温度差だらけの二人のゲームが、静かに始まった。




「ほら、行くよ」




美咲はそう言って、九条の腕を掴み、強引に引っ張る。




「十文字さんとか、西園寺さんにはこの件を任せようよ」と九条が言う


「私たちも……私たちにできること、やらなきゃ」




だが、途中でふいに手を離した。




その反動で、九条は前につんのめる。




「おいっ!」




慌てて体勢を立て直し、苛立ちを隠さず叫ぶ。




「行くって言ったり、急に引っ張るのやめたり……なんなんだよ!」




美咲は答えなかった。




彼女の視線は――前方に、釘付けになっていた。




「……」




言葉を失う。




「……なに、これ……」




視界いっぱいに広がっていたのは――


無数の戦闘ロボ。




そして、その足元に散乱する、今回のバトルステージ参加者たち。


倒れ伏し、動かない人影が、いくつも、いくつも。




九条の表情が、一気に引き締まる。




「……最悪だ」




彼は低く呟き、端末を確認する。




「ロボのデータが改ざんされてるただの戦闘用じゃない。完全に――殺人仕様だ」




歯を食いしばり、続けた。




「このルートを通るのは、自殺行為だ」




静まり返った空気の中で、


美咲は一歩、前へ出た。




震える声で、しかし迷いなく言う。




「……でも、倒れてる子たち、助けなきゃ」




九条は、言葉を失った。




破壊都市エリア。


選択肢は、どれも地獄だった。

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