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一度見たもの。脳内に刻み込まれたデータやイメージを、そのまま現実へと具現化する力。


そして――

《オーバーフロー・アサルト》に仕込まれた隠しコード。


369。


脳内で構築したデータを、そのまま武器へと出力するための、

俺だけが知り俺だけが使える――裏の起動。


その力によって生み出された無数の“悠人”が、

円を描くように十文字を取り囲んでいた。


三十六の視線。

三十六の銃口。

逃げ場は、ない。


「……はは」


十文字が、低く笑う。


「これはあっぱれだ」


視線を巡らせながら、楽しげに続けた。


「まさか――《蒼槍の流星》のホログラム分身まで再現できるとはな」


その言葉に、悠人の胸がわずかに跳ねる。


(蒼槍の流星……蒼空のことか、)


十文字の視線が、鋭く悠人を射抜いた。


「やっぱりお前、何か知ってるだろ?」


空気が、張り詰める。


「貴様がその気なら――

俺も本気で行かせてもらう」


十文字は、はっきりと宣言した。


「――戦闘コード・β 9」


次の瞬間。


ガントレットが唸りを上げ、装甲が展開する。


金属が伸び、絡み合い、

十文字の腕から肩、胴体へと這い回る。


まるで意思を持つかのように。


やがてそれは――

彼の全身を覆う、重厚な戦闘鎧と化した。


雷光が鎧の継ぎ目を走り、

周囲の空気が、びりびりと震える。鎧越しの声が、低く響いた。


「さあ、悠人――かかってこい」


次の瞬間。


――ピッ。


十文字の耳元で、無線が割り込む。


『……十文字さん? 聞こえますか』


軽いノイズ混じりの声。

だが、その調子は明らかにいつもと違っていた。


『ま、マジでやべーっす……!』


九条だ。


焦燥が隠しきれていない。

早口で、息が荒い。


『応答お願いします! 十文字さん!』


十文字は一瞬だけ、眉をひそめた。


「……何だ、九条」


低く、苛立ちを含んだ声で応じる。


『今、運営ログを裏から見てたんですけど……』

『生命制御ブレスレット、完全に死んでます!』


その言葉に――

悠人の背筋が、凍りついた。


九条の声は続く。


『十文字さんだけ、ピンポイントで――

 悠人のチーム付近に落とされてます』


そこで一度、九条は息を呑んだ。


だが、次の瞬間には堰を切ったように言葉が溢れ出す。


『それだけじゃありません!』


声が、明確に震えている。


『このバトルステージ専用のロボ……』

『何者かにリミッターを外されてます!』


悠人の喉が、無意識に鳴った。


『完全に戦闘用に書き換えられてます。

 もう“この学祭で使うようなレベル”じゃない……』


九条は続ける。


『ドローンで周囲を偵察しました』

『他の参加者――ほとんどが戦闘不能です』


その言葉が、重く戦場に沈んだ。


葉擦れの音。

遠くで、何かが崩れるような低い衝撃。


――ここが、もはや「競技場」ではないことを、誰もが悟る。


十文字の拳が、わずかに軋んだ。


「……ほう」


短いが、その声音には明確な怒気が滲んでいる。


九条は、さらに声を落とした。


『そして……最後に』


一瞬、通信が乱れる。


『いま、この“黒幕”と思われる人物が――』

『西園寺と、交戦中です』


悠人の目が、見開かれた。


(西園寺……!?)


『西園寺さんから……』

『このことを、十文字さんに一刻も早く伝えろって……』


九条は、必死に言葉を繋ぐ。


『さっきまで電波が遮断されてて……』

『やっと、ここまで来て繋がりました!』


♦︎


巨大スクリーンいっぱいに映し出されるのは――

悠人と十文字の激突。


火花と雷光が交錯し、森が抉れ、地面が砕ける。

その一挙手一投足に、実況席は悲鳴にも似た歓声を上げていた。


『す、すごい! これはすごい!』

『まさに怪物同士の激突だぁぁッ!!』


煽るような実況に呼応し、観客席が揺れる。


立ち上がる者。

拳を突き上げる者。

興奮に顔を歪め、叫ぶ者。


――誰一人として、これが“仕組まれた地獄”だとは気づかない。


その様子を、ドーム上層から見下ろしながら――

ジョイは、恍惚とした笑みを浮かべていた。


「……最高だ」


囁くような声。


「ほら、見てごらん」

「みんな、こんなにも喜んでいる」


スクリーンの向こうで命を削る二人を、

まるで芸術品でも眺めるかのように、うっとりと見つめる。


「人の感情って、本当に美しい、恐怖も、怒りも、興奮も……だが喜びが一番の最高のスパイスだ」


そして、ふっと肩を竦める。


「だからこそ――彼らを殺し合わせるなんて、勿体なさすぎる」


口元の笑みが、歪んだ。


「いっそ……僕の手で、殺してあげたいくらいだ」


その言葉に、隣に控えていた鈴木が、わずかに身を固くする。


「……第二フェーズは、いつ実行しますか?」


鈴木が淡々とした問いた。


「作戦変更」


そして、楽しげに言い放つ。


「――今だ」


次の瞬間。


ジョイは一歩前へ出ると、

ドーム最上部の縁に立ち――


まるで舞台に立つ役者のように、

両腕を大きく広げた。


「さあ……幕を上げようか」


ジョイは、両腕を広げたまま宣言する。


「システムコード:《ラスト・カーテン》」


その瞬間。


ドーム天井部から、無数の微細な光粒子が降り注いだ。

雪のように、羽毛のように、静かで美しい――だが、致命的な光。


観客たちは気づかない。

いや、気づくという思考そのものが、すでに奪われていた。


光が肌に触れた瞬間――

歓声は一瞬だけ大きくなり、次いで、奇妙な静寂へと変わる。


瞳は開いたまま。

表情は笑顔のまま。


だが、その奥にあったはずの“何か”が、ごっそりと抜け落ちた。


「……ほら」


ジョイは、満足そうに呟く。


「観戦中の記憶は、すべて消去、恐怖も、違和感も、疑問も――何も残らない」


観客席をゆっくりと見渡しながら、続ける。


「残るのは、ただ一つ理由のない高揚中身のない興奮」


口角が、さらに吊り上がった。


「――感情だけを与えられた、人形の完成だ」

鈴木は、喉を小さく鳴らした。


言葉は出ない。

いや――出せなかった。


止められる段階は、とっくに過ぎている。

それを、誰よりも自分自身が理解していた。


そんな鈴木の背に、ジョイは囁くように言葉を落とす。


「……君も、生まれ変わりたいんだろう?」


ゆっくりと、振り返る。


「優秀な人間が、憎いだろ?」


その一言が、鈴木の胸の奥を正確に抉った。


ジョイは続ける。


「努力もせずに称賛される奴ら、最初から“選ばれている”人間たち」


口元に、柔らかな笑み。


「今回の学園祭――君が、主人公なんだよ」


その瞬間。


鈴木の瞳が、大きく揺れた。


「……っ」


握りしめた拳が、わずかに震える。


そして――

堰を切ったように、吐き出した。


「……そうだ」


声は、低く、歪んでいた。


「全部……奴らが悪い、俺を馬鹿にして、見下してきた才能がないって、笑ってきた――」


鈴木の呼吸が荒くなる。


「……あいつらが、悪いんだ」


ジョイは、満足そうに頷いた。


「うんとても、いい顔だ」


ドームの外では、

意味を失った歓声が、今も鳴り続けている。


そして――学園祭は、完全に“別の顔”を見せ始めていた

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