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16

十文字は地を蹴り、容赦なくこちらへ向かってきた。


「来る!」


雷光を纏った巨体が、一直線に距離を詰める。

その圧だけで、空気が悲鳴を上げた。


――その瞬間。


「悠人! 雫ちゃん、伏せて!システムコード、オーバーレイ・ネット!」


美咲の叫びと同時に、弓弦が鋭く鳴る。


矢は十文字の足元に突き立ち――

次の瞬間、着弾点を中心にホログラム化されたネットが何重にも展開された。


光の網が絡み合い、巨体を包み込む。


「……っ」


何重にも重なったネットが、十文字の動きを束縛した。


「今よ!」


拘束された、ほんの一瞬。


雫は迷わず死角へ回り込む。

雷光を纏った木刀が、背後から振り抜かれた。


――だが。


ガンッ!!


片手のガントレットが、正確無比に一撃を受け止める。

そして再び、力が吸い上げられていく感覚。


(また……吸収!?)


だが、その刹那。


雫の視界に、確かな“穴”が映った。


――胸元が、空いている。


「今だ……!」


悠人は一切の迷いなく、

《過剰放出型アサルトライフル〈オーバーフロー・アサルト〉》を肩に担ぐ。


チャージ完了の警告音を無視し、引き金を引いた。


「もらったッ!!」


収束されたエネルギーが解き放たれ、

眩い光線が正面から十文字の胸元を撃ち抜く。


――ドォンッ!!


爆音が森林を揺るがし、

衝撃波と熱が周囲の木々を薙ぎ倒す。


白煙が一気に立ち込め、視界は完全に遮断された。


「……やった、か?」


悠人が息を詰め、呟く。


やがて――

風に押されるように、煙がゆっくりと晴れていく。


現れたのは――


無傷の巨体。


十文字は肩を鳴らし、平然と立っていた。

装備にも、肉体にも、致命的な損傷は一切見当たらない。


「いい連携だ」


低く、だがはっきりと響く声。


「だがな――」


十文字は胸元を叩き、歪んだ笑みを浮かべる。


「俺はサイバー部隊所属。

陛下直属のボディーガードだ」


ネットの残骸を、力任せに引きちぎりながら続ける。


「電流なんてものは……

とっくに訓練で慣らしてある」


美咲の顔から、血の気が引いた。


「……嘘、でしょ」


雫も思わず呟く。


「……化け物」


十文字は、ゆっくりと拳を握りしめる。

ガントレットが再び光を帯び、空気が軋んだ。


「――しっかり、受け止めろよ」


次の瞬間。


巨体からは想像もできない速度で、十文字は美咲へと肉薄する。


「――っ!」


拳が振り抜かれる。


だが、その前に――

雫が一瞬で割り込み、木刀で受け止めた。


ガキィンッ!!


衝撃が爆ぜた。


次の瞬間――

雫と美咲の二人の身体が、同時に宙を舞う。


為す術もなく吹き飛ばされ、

背後の巨木へと、叩きつけられた。


ドンッ――!


鈍い音が森林に響き、

幹が大きく軋む。


雫は地面へと転がり、木刀を手放したまま動かない。

淡く灯っていた雷光も、静かに掻き消えていく。


美咲もまた、木の根元に崩れ落ち、

弓を握る指から力が抜けていた。


二人とも、息はある。

だが――


返事は、ない。


「……っ」


悠人の喉が、ひくりと鳴った。



戦場に残ったのは、悠人と――十文字。


たった、二人。


「……っ!」


悠人の視界が、一気に赤く染まる。


そんな彼に向かって、十文字は笑った。


「さあ、悠人」


低く、楽しげな声。


「実は俺はなずっと、お前と一対一で勝負したかったんだ」


一歩、また一歩と距離を詰めながら続ける。


その言葉と同時に、

十文字の足が地面を蹴った。


――来る。


悠人の背筋を、氷のような予感が走る。


巨体が、視界から消えた。


「っ――!?」


次の瞬間、

空気が爆ぜる。


「《スカウター》、起動!」


反射的に叫び、視界に情報層を展開する。


速度解析、軌道予測、筋出力――

警告表示が、赤に染まった。


《警告:反応限界超過》


「クソ……速すぎる!」


だが、見えないわけじゃない。


スカウターが捉えた“未来の軌道”が、

一瞬だけ、脳裏に焼き付く。


(――右、上段!)


悠人は転がるように回避する。


その直後、

彼が立っていた場所を、雷光を纏った拳が粉砕した。


地面が抉れ、土と木片が吹き上がる。


「ははっ!」


十文字が、楽しそうに笑った。


「いい反応だ。

だが――」


雷光を纏った巨体が、再び消える。


「遅い」


次の瞬間、

悠人の腹部に――重圧が叩き込まれた。


「ぐっ――!?」


空気を圧縮したかのような一撃。

防御の構えすら間に合わず、悠人の身体は宙を舞う。


背中から地面に叩きつけられ、

肺の中の空気が、一気に吐き出された。


「――っ!」


声にならない悲鳴。


(……ヤバい)


視界が歪み、世界が左右に揺れる。

鼓動だけが、耳の奥で異様に大きく響いていた。


それでも――意識だけは、必死に繋ぎ止める。


(十文字はもっと強いよ)


唐突に、記憶が弾けた。


ゲームセンター。

薄暗いフロア、ネオンの光。

筐体の前で、何気なく放たれたあの一言。


蒼空の声が、鮮明に蘇る。




十文字は、ゆっくりと歩み寄ってくる。

まるで、獲物が立ち上がるのを待つ捕食者のように。


「安心しろ」


低い声が、降りかかる。


「一瞬で終わらせてやる」


拳が、再び光を帯びる。


その瞬間――

悠人の視界の端に、スカウターの補助ログが走った。


《エネルギー流入傾向:ガントレット集中》

《反応遅延:0.3秒》



(……ある)


悠人は、ゆっくりと立ち上がった。

全身が軋み、呼吸のたびに肺が痛む。それでも――視線だけは、十文字から逸らさない。


(俺の能力……)


脳裏に浮かぶのは、かつて誰にも理解されなかった“異能”。


一度見たもの。

脳内に刻み込まれたデータやイメージを、

そのまま現実へと具現化する力。


そして、それを起動できるのは――

この世界で、俺だけ。


(記憶喪失する前に作られた。俺専用のアサルトライフル……そして、隠しコード。ここで使わなきゃ、意味がない)


悠人は、アサルトライフルをゆっくりと天空へ向けた。


十文字の視線が、怪訝そうに細められる。


「……?」


次の瞬間、悠人ははっきりと告げた。


「――シークレットコード369」


引き金が引かれる。


轟音。


放たれたチャージショットは、十文字ではなく――空を撃ち抜いた。


上空でエネルギー弾が炸裂し、眩い閃光とともに分裂。

無数の光の粒子となって、雨のように降り注ぐ。


ドン、ドン、ドン――!


分散したエネルギーが地面へ叩きつけられ、

衝撃とともに土砂と木片を巻き上げた。


瞬く間に、視界は白煙に覆われる。


森が、戦場が、音すらも掻き消されていく。


「……チッ」


煙の向こうから、十文字の低い声が響いた。


「おい、悠人。小細工はやめろ」


だが――

悠人は、煙の中で静かに笑った。


(小細工じゃない、――これは、再現だ)


白煙が、ゆっくりと風に押し流されていく。


やがて視界が開けた、その先で――

十文字は、思わず目を細めた。


そこに立っていたのは、悠人。


――そして。


「……なに?」


同じ姿、同じ装備、同じ立ち姿。


悠人が、三十人以上。


戦場を取り囲むように並ぶその全員が、

実体と見紛うほど精密なホログラムだった。


呼吸の揺れ。

足元に落ちる影。

武器に走る光の反射。


どれ一つとして、違いはない。


《ホログラム投影:三十六体》

《同期率:99.8%》

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