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光が収束し――


新たな戦場が、静かに姿を現した。




悠人は、ゆっくりと顔を上げる。




視界いっぱいに広がるのは、鬱蒼と生い茂る木々と深い茂み。


足元は柔らかな土と落ち葉に覆われ、湿った森の匂いが鼻腔をくすぐった。




(……森林エリア、か)




見通しは悪く、遮蔽物だらけ。


奇襲には、これ以上ない地形だ。




悠人は即座に周囲を見渡し、声を張り上げる。




「おい、美咲! 雫! 大丈夫か!?」




わずかな間を置いて、茂みが揺れた。




「はーい、大丈夫だよー」




気の抜けた声とともに、美咲が木陰から姿を現す。




「着地はちょっと派手だったけど、問題なし!」




反対側では――




葉擦れの音ひとつ立てることなく、雫が姿を現した。




「……無傷よ」




静かな声。


だが、その視線は鋭く、すでに周囲を警戒するように巡らされている。




それを合図に、三人はそれぞれ装備を展開した。




雫の手には、淡く青白い電光を纏った木刀。


内部に仕込まれた発電機構が低く唸り、強力な電流が刃代わりとなって走る。




美咲は一歩後方に下がり、折り畳まれていた弓を展開した。


支援用に特化した構造で、回復・補助系の矢を安全圏から放てる仕様だ。




「ほんと、悠人ってガジェット作る才能あるよね。こんなの、どこで思いついて作るの?」




感心したように、美咲が言う。




悠人は少しだけ胸を張り、得意げに答えた。




「まあな。一応、俺は天才少年だから」




――もっとも。




(実際は、自分の部屋に転がってた設計図の中から、扱えそうなのを組み上げただけなんだけど)




心の中で、そっと付け加える。




悠人は表情を引き締め、二人を見渡した。




「いいか、お前ら」




声を落とし、真剣な眼差しで告げる。




「一応、このバトルステージには生命制御ブレスレットがある。致命傷は防がれるはずだ」




一拍置き、続ける。




「――けど、使ってる武器の威力は、下手すりゃ軍事兵器並みだ。気をつけて使ってくれ」




視線が、雫の木刀と美咲の弓を順に捉える。




雫は肩をすくめ、淡々と言った。




「……本当は、日本刀のほうが手に馴染むんだけどね」




青白い電光が、木刀の周囲で静かに弾ける。




「これ以上のものを使ったら、下手をすれば――殺しちゃうもの」




冗談めいた響きはない。


ただ、事実を述べただけの口調だった。




悠人は一瞬、言葉に詰まり――


それから乾いた笑いを漏らす。




「ははは……だろうな」




額のあたりを指で掻き、軽く息を吐く。




続けて、自身の装備を起動した。


以前から使い慣れているハンドガンとスカウター。


そして、過去の自分の部屋から引っ張り出してきた設計図




《過剰放出型アサルトライフル


 オーバーフロー・アサルト》




エネルギー弾を放射し、チャージショットも可能な代物だ。




――そのときだ。




ざ、と。


不自然なほど重い葉擦れの音が、茂みの奥から響いた。




三人が、同時に身構える。




雫は即座に前へ出て木刀を構え、


美咲は半歩下がって弓を引き絞る。


悠人は視線を細め、気配の正体を探った。




草が押し倒される。




草が押し倒される。


一本、また一本と木々が割れ――




やがて現れたのは、明らかに“人の枠”を超えた巨体。


腕には、異様な存在感を放つガントレット。




踏み出すたび、地面が低く震える。




十文字だ。




悠然と歩み出ながら、腹の底に響く低音で言う。




「どうやら……強者は、強者同士で惹きつけられるらしいな」




その存在感だけで、空気が張り詰める。




悠人は思わず、乾いた笑いを漏らした。




「おいおい……マジかよ」




隣で、雫が小さく鼻を鳴らす。




「さすがね。豪運の持ち主」




その言葉が終わるより早く――




雫の足が、地を蹴った。




一切の躊躇なし。


殺気を隠すこともなく、雷光を纏った木刀を振りかぶる。




「――っ!」




稲妻のような踏み込み。


雫は、容赦なく十文字へと斬りかかった。




木刀を走る電光が、森林の緑を一瞬で白く染める。




「おい、待て雫!」




悠人が叫ぶ。




だが十文字は、微動だにしない。




口元に、わずかな笑みを浮かべたまま。




「いい判断だ」




次の瞬間――


森林エリアは、強者同士の衝突によって、完全な戦場と化した。




♦︎




「――言われた通り、第一フェーズは完了しました」




淡々とそう報告したのは、鈴木だった。




ドーム上層、観客席のさらに奥。


人目につかない暗がりで、ジョイはバトルステージを見下ろしている。




巨大スクリーンには、森林エリアを進む選手たちの姿。


その光景を、舞台を鑑賞する観客のように眺めながら、ジョイは満足そうに口角を吊り上げた。




「ありがとう」




軽い口調とは裏腹に、その目は冷え切っている。




「第一フェーズの内容は、二つ」




指を一本、立てる。




「《生命制御ブレスレット》――全参加者分の効果を、完全に無効化」




次に、もう一本。




「そして、開幕時のランダムリスポーンを操作。


十文字のチームから“十文字だけ”を、悠人のチーム付近へ配置」




楽しげに肩を揺らし、続ける。




「いいだろう?


強者同士が、偶然出会ってしまった――


観客はそう受け取る」




スクリーンの向こうで、何も知らず戦場に立つ選手たち。




「このシナリオがうまく回れば、歓声はもっと大きくなる。


恐怖も、期待も、全部ひっくるめてね」




そして、ジョイは囁くように言った。




「――どちらかが死ねば、尚いい」




笑みが、深くなる。




「その場合、僕が直接手を下す必要もない。


不慮の事故。


競技中のトラブル。


……運営も、観客も、誰も疑わない」




スクリーンの光が、ジョイの瞳を歪めて映した。




「最高のエンターテインメントだ」




ひとしきり満足した後、ジョイは振り返らずに命じる。




「同時進行で、第二フェーズを進めておいてくれ」




「了解しました」




鈴木は短く答え、端末を操作し始めた。




その背中に向けて、ジョイは楽しげに呟く。




「さあ――


どこまで“予定通り”進むかな?」




ドームの歓声は、まだ何も知らず、さらに熱を増していった。




♦︎




葉擦れの音もなく、雫が雷光を纏った木刀を振るう。




「――っ!」




斬撃が十文字に迫る。


だが――




ゴンッ。




木刀が十文字の腕に装備しているガントレットに触れた。その瞬間、衝撃波が腕を伝い、金属音とともに弾かれた。


電流が刀身から迸る――しかし、十文字のガントレットがそれをまるごと吸収してしまう。




悠人の目が大きく見開かれた。




「嘘だろ、あの電流を耐えてる?」




美咲は、驚きと感嘆を混ぜた声で答える。




「《反応増幅ガントレット(リアクター・アーム)》よ。


相手の攻撃エネルギーを吸収して、そのままカウンターに変換する……」




悠人は思わず息を呑んだ。




(これが……陛下直属のボディーガード……)




雫の木刀から迸る電流は、ガントレットへと吸い込まれ、空を裂いて消える。


戦場には、静かだが圧倒的な緊張が満ちていく。




十文字の瞳に、わずかな笑みが浮かんだ。




「良い攻撃だ。次は俺の番だな」




悠人は即座にスカウターを起動する。




数秒後――


十文字の巨体からは想像もできない速度で、雷光を帯びたガントレットが雫へと襲いかかる。




「まずは君からだ」




悠人は咄嗟に判断し、アサルトライフルの引き金を引いた。




弾丸が、攻撃軌道上の木を正確に撃ち抜く。




バキィッ――!




幹が砕け、倒れた巨木が割り込む形で、十文字の一撃を受け止めた。


雷光を帯びた拳が木を叩き砕き、衝撃波が周囲の葉を吹き飛ばす。




十文字は一歩だけ後退し、舌打ちする。




「……流石に、1対3は分が悪いか」




鋭い視線で周囲を一瞥する。


まるで、何かを探るように。




「あいつらどこでリスポーンした?」




低く呟く声には、明確な違和感が滲んでいた。




十文字は低く息を吐き、肩を鳴らす。




「……ルールじゃ、チームごとにリスポーンすると聞いたんだがな」




一瞬だけ、運営席のあるはずの方向へ視線を向ける。


だが、それ以上深追いはしない。




「まあ、いい」




十文字は短くそう言い、低く息を吐いた。




口角が、ゆっくりと吊り上がる。


その笑みには、苛立ちも戸惑いもない。


あるのはただ――戦いを楽しむ者の余裕だけだった。




「一人のほうが……存分に暴れられる」




次の瞬間、十文字の巨体がわずかに沈み込む。




ガントレットが唸りを上げ、内部に蓄積されたエネルギーが再び奔流となって巡り始めた。


金属の表面を走る光が、第二撃の到来を告げる。




――躊躇は、ない。




十文字は、容赦なく。


確実に仕留めるための――第二撃の構えに入っていた。

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