第94話 国家制度の重さ
会議室の空気は、
先ほどまでとは違っていた。
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議論ではない。
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判断の段階に
近づいている。
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国家制度。
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一度変えれば、
数十年動く。
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戦略補正局長が
資料を閉じる。
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「挑戦層の設計は
理解しました」
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「ですが」
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「国家制度に入れる以上」
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「検証が必要です」
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NEAの官僚たちが
うなずく。
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制度は
理念だけでは
動かない。
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数字。
予測。
影響。
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すべてを
計算する必要がある。
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「想定規模は?」
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数値算出局の
担当官が聞く。
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「国家予算の
何パーセント」
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リーネは
迷わず答える。
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「三パーセント」
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会議室が
ざわめく。
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「少ないですね」
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官僚の一人が言う。
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「国家挑戦枠としては
控えめです」
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リーネは
うなずく。
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「はい」
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「挑戦は」
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「制度の中心では
ありません」
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「余白です」
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レオンが
腕を組む。
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「三パーセントで」
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「国家の未来は
変わると?」
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「変えます」
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静かな声。
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「制度は」
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「割合で動く」
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リーネは
スクリーンを操作する。
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新しい図。
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国家投資構造。
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九十七パーセント。
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既存政策。
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三パーセント。
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挑戦層。
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「この三パーセントが」
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「十年後の
中心産業になる」
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レオンは
スクリーンを見つめる。
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少しだけ
興味深そうに。
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「理屈は
理解できます」
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「だが」
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「政治は
理屈では動かない」
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彼は
机に指を置く。
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「議会は
質問するでしょう」
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「なぜ」
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「国家予算を
失敗に使うのか」
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鋭い問い。
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会議室の
視線が
リーネに集まる。
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リーネは
少しだけ
考えた。
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そして。
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「失敗に
使うのではありません」
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静かに言う。
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「成功を
作るために使う」
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レオンが
小さく笑う。
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「政治家は」
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「成功が
確定しているものを
好む」
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「確率の話は
嫌います」
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リーネは
答える。
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「なら」
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「確率を
見せましょう」
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スクリーンに
新しいグラフ。
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過去二十年の
産業成長。
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大きな成功の
ほとんどが。
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最初は
小さな研究だった。
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「成功産業の
七割は」
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「最初は
採算が取れない」
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会議室の
官僚たちが
黙って見る。
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レオンも
同じだ。
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「国家が
それを支えた」
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「だから」
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「産業が生まれた」
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沈黙。
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戦略補正局長が
静かに言う。
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「つまり」
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「余白は」
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「国家投資の
保険」
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「ええ」
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リーネは
うなずく。
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「未来保険です」
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レオンは
椅子に
深く座る。
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しばらく
何も言わない。
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そして。
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「……いいでしょう」
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静かな声。
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「理屈は
通っている」
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会議室の空気が
わずかに緩む。
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だが。
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レオンは
続けた。
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「しかし」
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その一言で
再び
緊張が戻る。
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「国家制度は」
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「理屈だけでは
決まらない」
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彼は
リーネを見る。
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「議会を
説得してください」
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「政治を
動かせるなら」
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「この制度は
通る」
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短い言葉。
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だが。
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それは
条件だった。
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国家制度は。
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会議室だけでは
決まらない。
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次の舞台は。
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**議会。**
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