第84話 静かな評価
「時間はあるか」
上司に呼ばれたのは、
夕方だった。
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会議室は、
静かだ。
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「今回の件」
上司は
資料を閉じる。
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「よく止めた」
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短い言葉。
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「……ありがとうございます」
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「進める方が、
楽だったはずだ」
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うなずく。
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「批判も、
あった」
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「はい」
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「それでも、
止めた」
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沈黙。
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「決められる人間になったな」
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その言葉は、
重かった。
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誇らしい。
だが。
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胸の奥で、
何かが
わずかに
揺れる。
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「次期候補として
推薦する」
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唐突ではない。
流れとして、
自然だ。
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「……推薦」
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「正式な昇進ではない」
「だが、
道は開く」
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道。
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かつて、
欲しかったもの。
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「即答はいらない」
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上司は
静かに言う。
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「お前は、
考える時間を
持てる人間だ」
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部屋を出る。
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廊下は、
静かだ。
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推薦。
候補。
選ばれる側。
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「……嬉しい」
小さく
呟く。
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本心だ。
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努力が
認められた。
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だが。
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「……また、
選ばれる」
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胸の奥で、
違和感が
広がる。
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選ばれることは、
悪くない。
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でも。
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今の自分は。
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「……自分で
選びたい」
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夜。
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机に向かう。
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昇る道。
広がる可能性。
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だが。
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思い出す。
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焦っていた頃。
速さで
証明しようとした頃。
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今は違う。
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強くなった。
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だからこそ。
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「……選ばれる形で
上がりたくない」
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それは拒絶ではない。
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決意でもない。
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ただ。
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順番の問題だ。
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リーネ・アルヴェインは、
静かに思う。
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**強くなったからこそ、
急がない。**
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明日、
返事をする。
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