第81話 閾値
前倒し一日目。
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進行は、
順調だった。
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「問題ありません」
カイルが
報告する。
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負荷メーターは、
許容範囲内。
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二日目。
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「若干の遅れ、
修正可能です」
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まだ、
いける。
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三日目。
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「……負荷が
上がっています」
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担当者の声が
少しだけ
低い。
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リーネは
数値を見る。
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閾値まで、
あと僅か。
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「修正すれば
吸収できます」
カイルは
即答する。
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速い。
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だが。
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「修正すると、
予備時間は?」
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「……ゼロになります」
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ゼロ。
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沈黙。
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条件は
明確だった。
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負荷が閾値を超えたら、
即中断。
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今は、
まだ超えていない。
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だが。
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「……次の変動で
越えます」
担当者が
小さく言う。
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室内が
静まり返る。
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外部との約束。
短縮期限。
進行中の作業。
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止めれば、
信用は揺らぐ。
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進めば、
余白は消える。
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「……どうしますか」
誰かが
問う。
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最終判断者。
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その言葉が、
胸に重く落ちる。
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怖い。
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だが。
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条件は、
自分で出した。
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「……止めます」
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はっきりと。
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空気が
凍る。
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「今ですか?」
カイルの声が
わずかに揺れる。
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「今」
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「閾値直前です」
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「だから」
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一歩も引かない。
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「越える前に止める」
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沈黙。
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外部担当が
言う。
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「もう少し様子を」
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「条件通りです」
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リーネの声は、
静かだった。
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「越えた後では
遅い」
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会議室に
重い空気が
広がる。
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だが。
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「……了解しました」
上司が
うなずく。
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「中断だ」
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作業が
止まる。
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カイルは
資料を閉じる。
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「……もったいない」
小さく呟く。
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「うん」
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「でも」
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「崩れるより
いい」
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静かな
夜。
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リーネは
一人、
息を吐く。
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怖かった。
間違っているかもしれない
恐怖。
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だが。
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止めなかった場合の
恐怖の方が
大きかった。
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リーネ・アルヴェインは
静かに理解する。
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**強さとは、
進む勇気ではない。**
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**止める責任を、
引き受けることだ。**
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