第78話 速さの焦り
「……少し、いいですか」
帰り際。
カイルの声は、
いつもより
低かった。
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「うん」
リーネは
立ち止まる。
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廊下には
もう人が少ない。
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「昨日の件」
カイルは
言葉を探す。
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「正しかったと
思います」
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「でも」
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そこで
止まる。
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「でも?」
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「……止められた瞬間、
悔しかったです」
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率直だった。
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「間違っていないと
思っていたから」
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「うん」
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「速さは
強みです」
「迷わないことも」
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「でも、
それだけでは
足りないって
思い始めてる」
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カイルは
視線を落とす。
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「焦ってるのかも
しれません」
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「焦り?」
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「期待されているから」
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その言葉に、
リーネの胸が
わずかに
揺れる。
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「任されてる」
「中心にいる」
「結果を出せる」
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「だから、
止まりたくない」
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昔の自分の
声だった。
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「止まったら、
価値が下がる気がして」
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静かな
告白。
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リーネは
少しだけ
笑う。
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「分かる」
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「……分かりますか」
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「うん」
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一呼吸。
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「でもね」
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「止まることと、
価値は
別だよ」
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カイルは
黙る。
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「止まっても、
消えないものがある」
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「例えば?」
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「信頼」
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即答だった。
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「速い人は
信頼される」
「でも」
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「止められる人は、
もっと
信頼される」
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カイルの目が
わずかに
揺れる。
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「……どうして、
あの時
迷わなかったんですか」
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「迷ったよ」
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即答。
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「すごく」
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「でも」
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「迷ってる時間も
含めて
決断だから」
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カイルは
ゆっくりと
息を吐く。
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「……怖くないんですか」
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「怖いよ」
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「速い方が
楽だと思う時もある」
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「でも」
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「崩れた後の方が、
もっと怖い」
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沈黙。
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「……止めるのは、
勇気ですか」
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「ううん」
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「引き受ける覚悟」
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カイルは
何も言わない。
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だが。
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その目の奥で、
何かが
変わり始めていた。
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去り際。
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「……ありがとうございます」
小さな声。
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リーネは
廊下に残り、
静かに
息を吐く。
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「……私も、
焦ってたな」
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過去の自分を
思い出す。
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速さで
証明しようとしていた。
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今は違う。
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証明ではなく、
支える強さを
選びたい。
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リーネ・アルヴェインは、
静かに思う。
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**強さは、
速さだけではない。**
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**揺れながらでも、
立ち続けることだ。**
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