第73話 欲を、認める
中心に立っているのは、
自分ではなかった。
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「この案件、
僕がまとめます」
迷いのない声。
カイル・エストラは、
自然に
前へ出た。
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誰も、
驚かない。
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「頼む」
上司も、
あっさりと
任せる。
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リーネは、
一歩後ろから
その光景を見ていた。
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以前なら。
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あそこに
立っていたのは、
自分だった。
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「……」
胸の奥が、
少しだけ
ざわつく。
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悔しいのか。
寂しいのか。
分からない。
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「リーネさん、
この資料、
確認お願いします」
カイルが
振り向く。
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「……分かった」
受け取る。
役割は、
補助。
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会議は
速い。
判断も
速い。
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「それで行きます」
カイルは
即断する。
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周囲も、
うなずく。
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リーネは、
口を
挟まない。
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問題は
ない。
間違いでも
ない。
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ただ。
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「……速い」
思う。
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昔の
自分のように。
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会議後。
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「どうでした?」
カイルが
聞いてくる。
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「……良かったと思う」
本心だ。
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「ですよね」
迷いがない。
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「スピードが
大事ですから」
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その言葉に、
うなずきかけて。
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止まる。
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スピードは
大事だ。
でも。
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「……全部が?」
小さく、
胸の中で
問いが
浮かぶ。
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夕方。
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机に向かいながら、
思い出す。
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期待されていた頃。
任されていた頃。
中心だった頃。
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「……嬉しかった」
ぽつりと
漏れる。
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重かった。
苦しかった。
でも。
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「……嬉しかった」
それも、
本当だ。
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期待に
応えること。
任されること。
信じられること。
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あれを
否定したくは
ない。
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夜。
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「……私は」
静かな部屋で、
自分に問う。
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「……任されたかった?」
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答えは、
すぐに出る。
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「……うん」
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強くなりたい。
逃げたいわけじゃない。
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ただ。
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「……飲み込まれたくなかった」
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それだけだ。
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期待を
拒絶したかった
わけではない。
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期待に
押し潰される
形が
嫌だった。
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リーネ・アルヴェインは、
その夜、
初めて
はっきりと
認めた。
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**私は、任されたい。**
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でも。
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**任され方は、
選びたい。**
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