第70話 まだ、選んでいない
その言葉は、
誰に
向けたものでも
なかった。
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「……まだ、
選んでいない」
リーネは、
小さく
呟いた。
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机の上には、
進行中の
案件。
整理された
資料。
積み上がった
判断。
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どれも、
自分の
手で
進めてきた。
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なのに。
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「……選んだ
感じが
しない」
不思議だった。
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上司に
言われた。
同僚に
任された。
期待され、
流れに
乗った。
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だが。
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「……私が
決めた、
はずなのに」
胸の奥が、
ざわつく。
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昼。
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「リーネ、
次の
打ち合わせ
お願い」
「……はい」
反射的に
答える。
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その直後。
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「……少し、
待ってください」
声が、
自分の
口から
出た。
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周囲が、
一瞬
止まる。
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「……どうした?」
上司が
尋ねる。
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「……確認して
からで
いいですか」
言葉を
選びながら
続ける。
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「今、
すぐに
決める
必要が
あるのか」
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沈黙。
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「……もちろん」
上司は、
すぐに
うなずいた。
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「急ぎじゃ
ない」
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何事も
なかったように
話は
進む。
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だが。
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リーネの
胸は、
少し
早く
脈打っていた。
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「……言えた」
たった
一言。
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だが。
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「……選んだ
わけじゃ
ない」
それも、
分かっている。
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選んだのは、
「止める」
こと。
進まない、
という
選択。
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夕方。
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「……珍しいな」
同僚が
言う。
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「何が?」
「即答
しなかった
だろ」
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「……少し
考えたかった
だけ」
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「まあ、
いいと思う」
軽い
返事。
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責められない。
評価も
下がらない。
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それが、
余計に
不思議だった。
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夜。
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「……選んで
ない」
もう一度
言う。
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降りた
わけでも
ない。
拒否した
わけでも
ない。
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ただ。
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流れを
一瞬
止めただけ。
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それでも。
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胸の奥に、
わずかな
感覚が
残る。
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「……これが、
私の
意思?」
問いは、
まだ
形を
持たない。
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だが。
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確かに
そこに
あった。
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リーネ・アルヴェインは、
その夜、
初めて
思った。
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**選ぶとは、
進むこと
だけじゃ
ない。**
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立ち止まる
ことも。
待つ
ことも。
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まだ、
選んでいなくても。
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それは、
確かに
「自分の
時間」だった。
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