第61話 評価の中で、生きる
世界は、
何も変わらなかった。
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朝。
ユリウスは、
いつもと同じ時間に
職場へ向かう。
道も、
空気も、
人の流れも。
昨日と同じだ。
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「……おはようございます」
「おはよう」
挨拶が交わされる。
特別な視線は、
向けられない。
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机の上には、
書類の束。
評価表も、
更新されている。
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「……変化なし」
数値を確認し、
静かに閉じる。
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会議。
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「この件ですが」
部下が
説明を始める。
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ユリウスは、
途中で口を挟まない。
最後まで
聞く。
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「……どう思いますか」
問いは、
自分に
向けられていない。
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「……君は?」
ユリウスは、
部下に
問い返す。
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一瞬の沈黙。
戸惑い。
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「……私は、
こちらが
妥当だと」
「理由は?」
「……リスクが
分散できるので」
ユリウスは、
うなずいた。
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「いい」
それだけ。
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会議は、
滞りなく進む。
誰も、
混乱しない。
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昼。
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「……最近、
変わりましたね」
部下が
ぽつりと
言う。
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「そうか?」
「……はい」
言葉を
探している。
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「前より、
安心します」
ユリウスは、
一瞬
驚いた。
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「……そうか」
それ以上、
聞かない。
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午後。
判断を
一つ
保留にする。
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「明日でいい」
その一言で、
誰も
困らない。
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以前なら、
自分が
即答していた。
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だが、
今日は
違う。
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評価は、
落ちない。
だが、
跳ね上がりもしない。
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「……それでいい」
心の中で
そう言う。
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夕方。
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書類を
整理し、
席を立つ。
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「……もう、
上がるんですか」
「今日は、
ここまでだ」
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誰も、
止めない。
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帰路。
街の灯りが
ゆっくり
点き始める。
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「……息が、
できているな」
ふと、
思う。
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不安が
消えたわけではない。
責任も、
軽くなっていない。
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だが。
押し潰される
感覚は、
ない。
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自室。
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「……評価の中で、
生きている」
そう
言葉にする。
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だが。
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「……評価だけで、
生きてはいない」
静かに、
続ける。
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降りなかった。
逃げなかった。
革命も、
起こしていない。
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ただ。
今日も、
壊れなかった。
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それだけで、
十分だと
思えた。
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ユリウス・フェルナーは、
その夜、
いつも通り
眠りについた。
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世界は、
変わらない。
だが、
自分は、
少しだけ
違う場所に
立っていた。
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