第53話 代わりがいる世界
それは、
誰かに言われた言葉ではなかった。
だからこそ、
厄介だった。
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「……この案件ですが」
会議室。
新しい資料が
配られる。
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「担当、
二人体制に
変更します」
上官の声は、
淡々としていた。
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「理由は?」
ユリウスが
尋ねる。
声は、
いつも通り。
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「属人化を
避けるためだ」
「……理解します」
理解は、
できた。
論理としては。
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「副担当は、
こちらで
選定する」
名前が、
読み上げられる。
ユリウスの部下。
優秀だが、
経験は浅い。
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「……私から
説明します」
「いや」
上官は、
首を振る。
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「今後は、
彼を
窓口にする」
空気が、
一瞬止まる。
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「……補佐、
という形ですか」
「そうだ」
補佐。
それは、
降格ではない。
だが――
前進でもない。
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「問題が
あるか?」
「……ありません」
ユリウスは、
即答した。
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部下の方を見る。
戸惑いと、
緊張と、
少しの誇らしさ。
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「……よろしく」
ユリウスは、
そう言った。
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会議後。
廊下で
同僚が言う。
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「……仕方ないよ」
「リスク管理だ」
「お前が
悪いわけじゃない」
慰め。
だが――
それは、
評価ではなかった。
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机に戻る。
資料を、
整理する。
手は、
慣れている。
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「……俺じゃなくても、
いい」
独り言が、
漏れる。
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違う。
正確には――
「俺だけじゃ
なくてもいい」
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それは、
ずっと前から
知っていた事実だ。
だが、
真正面から
突きつけられるのは、
初めてだった。
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部下が、
近づいてくる。
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「……あの」
「何だ?」
「ご指導、
お願いします」
ユリウスは、
一瞬
言葉を失い――
すぐに
うなずいた。
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「もちろんだ」
声は、
優しかった。
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だが、
胸の奥で
何かが
軋む。
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役割は、
残っている。
責任も、
残っている。
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だが。
「唯一性」だけが、
削られていた。
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夜。
評価表を
開く。
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「……数値は、
同じだな」
減っていない。
だが、
増えもしない。
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「……代わりが、
いる」
それは、
否定ではない。
世界の、
自然な仕組みだ。
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だが。
評価で生きてきた者にとって、
それは
静かな恐怖だった。
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壊れてはいない。
だが、
自分の輪郭が
少しだけ
薄くなった。
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誰も、
それを
問題とは
呼ばない。
だから――
誰も、
止めない。
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ユリウス・フェルナーは、
今日も
役割を
果たしていた。
ただし。
世界は、
彼を
「代替可能な正しさ」として
扱い始めていた。
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