第51話 壊れない優等生
ユリウス・フェルナーは、
今日も「正しい一日」を過ごしていた。
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「次の案件ですが」
部下の報告に、
即座に視線を上げる。
「問題点は?」
「二点あります」
「一つ目から」
声は落ち着いている。
苛立ちも、
迷いもない。
少なくとも、
外からはそう見えた。
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「……では、その判断で進めよう」
「責任は?」
「私が持つ」
部下は、
ほっとしたように
うなずいた。
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ユリウスは、
その表情を見てから
視線を資料に戻す。
――当然だ。
責任を持つのは、
自分の役目だ。
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昼。
食事は、
簡単なもの。
味は、
覚えていない。
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「ユリウスさん」
声をかけられる。
「昨日の件、
上から
高評価でしたよ」
「そうか」
短く答える。
喜びは、
ほとんどない。
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評価されるのは、
当たり前だ。
評価されない方が、
問題なのだから。
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午後。
別の部署から
応援要請。
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「人が足りない?」
「はい。
判断できる人が
いなくて」
「分かった」
即答だった。
断る理由は、
ない。
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夕方。
部下が、
心配そうに言う。
「……今日は
もう
上がっても……」
「大丈夫だ」
ユリウスは、
笑った。
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「慣れている」
その言葉に、
嘘はなかった。
だが――
本当でもなかった。
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夜。
ようやく
自室に戻る。
椅子に座り、
深く息を吐く。
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「……今日も、
問題なし」
独り言。
それは、
自分への確認だった。
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身体は、
重い。
だが、
痛くはない。
壊れてはいない。
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「……まだ、
大丈夫だ」
そう言いながら、
指先が
わずかに震えていることに
気づく。
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気づいて、
気づかなかったことにする。
それも、
慣れている。
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机の上には、
評価報告書。
数字は、
悪くない。
むしろ、
良い。
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「……降りる理由が、
ないな」
小さく、
呟いた。
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評価がある。
役割がある。
期待されている。
誰も、
代われない。
誰も、
止めない。
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ユリウス・フェルナーは、
今日も
壊れていなかった。
だからこそ――
休む理由も、
なかった。
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その夜。
遠くの街道を、
一人の旅人が
静かに通り過ぎていた。
ユリウスは、
まだ
その存在を
知らない。
だが、
すでに
同じ世界に
立っていた。
壊れていない者同士として。
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