第50話 通り過ぎる人
世界は、
何事もなかったように
今日を迎えていた。
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港町では、
船が出入りし、
荷が運ばれ、
人が行き交う。
特別な記念日も、
祝祭もない。
だが――
以前より、
少しだけ
静かだった。
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ロイは、
街道を歩いていた。
行き先は、
決めていない。
決めないことを、
決めている。
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「……助かりました」
村人が言う。
「はい」
それだけで、
別れる。
名前も、
礼も、
記録も残らない。
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次の村。
また、
同じような仕事。
同じような別れ。
何も、
積み上がらない。
だが――
何も、
壊れていない。
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一方。
エナは、
ギルドの中で
働いていた。
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「……危険度、
問題なし」
「了解」
淡々としたやり取り。
評価は、
固定。
昇格も、
降格もない。
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安全で、
退屈で、
息ができる場所。
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「……これで
良かったのかな」
エナは、
時々思う。
だが、
後悔ではない。
選んだ、
結果だ。
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一方。
制度は、
それ以上
踏み込まなかった。
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「……問題は?」
「ありません」
「なら、
よし」
それだけ。
理解は、
諦めた。
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一方。
俺とミレイアは、
街道を歩いていた。
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「……終わった?」
ミレイアが聞く。
「はい」
「きれいに?」
「いいえ」
「え?」
「何も、
片付いていません」
彼女は、
少し驚く。
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「でも」
俺は、
続ける。
「壊れる理由も、
なくなりました」
ミレイアは、
しばらく黙り――
小さく笑った。
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「……あなたらしい」
「よく言われます」
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丘の上から、
街道を見る。
人が歩いている。
誰が、
評価されているかは
分からない。
だが、
皆、生きている。
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視界の端に、
最後の表示が浮かぶ。
《観測:終了》
《介入:不要》
《記録:未作成》
(……それでいい)
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通り過ぎる人。
何も残さず、
何も奪わず、
何も証明しない。
だが――
通り過ぎた場所は、
少しだけ
壊れにくくなる。
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世界は、
その理由を
最後まで
理解しなかった。
だが、
理解できなくても
回る。
評価できなくても
生きていける。
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俺たちは、
また歩き出す。
名前も、
役割も、
結論もない。
ただ――
壊れない選択を
手放さずに。
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通り過ぎる人は、
今日も
どこかを
通り過ぎている。
それだけで、
十分だった。
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