第47話 名前を持たない集団
最初は、
偶然だと思われた。
---
街道沿いの宿で、
二人の旅人が
同じ話をしていた。
---
「この前の村、
静かだったな」
「ああ。
魔物も、
盗賊もいない」
「冒険者が
いたわけでもない」
言葉が、
そこで止まる。
---
「……でも」
「助かってる」
それだけが、
共通していた。
---
ロイは、
その宿に泊まっていた。
だが、
名乗らない。
仕事も、
請け負ったことを
広めない。
---
「……あんたも、
旅人か?」
宿の主人が聞く。
「はい」
「仕事は?」
「選びます」
それ以上は、
話さなかった。
---
翌朝。
別の旅人が、
宿に入ってくる。
装備は軽い。
動きは慎重。
---
「……見回りを
頼めますか」
宿の主人が言う。
「最近、
夜が不安で」
旅人は、
一瞬考え――
うなずいた。
---
「報酬は?」
「銀貨二枚」
「割に合う」
そのやり取りを、
ロイは聞いていた。
---
夜。
二人は、
同じ時間帯に
外に出た。
---
「……重ならないように
するか」
ロイが言う。
「はい」
旅人は、
短く答えた。
---
名前は、
聞かない。
理由も、
聞かない。
それで、
十分だった。
---
結果。
夜は、
何も起きなかった。
獣も、
人も、
近づかなかった。
---
翌朝。
「助かった」
宿の主人が、
二人に言う。
誰が何をしたかは、
分からない。
だが、
問題は解決している。
---
二人は、
別々の道を
選んだ。
---
「……また」
旅人が言う。
「ええ」
それだけ。
---
一方。
別の町。
似たような話が、
増え始めていた。
---
「名前を
名乗らない人が来た」
「戦わない」
「騒がない」
「何も起こらないまま、
去っていく」
---
「……冒険者?」
「分からない」
「傭兵?」
「違う」
誰も、
分類できない。
---
冒険者ギルド本部。
新しい報告が、
積まれていた。
---
《功績未登録事案:増加》
《依頼外解決:複数》
《関与者:不明》
---
「……またか」
官僚が、
頭を抱える。
「評価できない」
「管理できない」
「だが、
問題は減っている」
厄介だった。
---
一方。
俺とミレイアは、
街道を歩いていた。
---
「……増えてるわね」
ミレイアが言う。
「はい」
「あなたが
作ったわけじゃない」
「はい」
「でも、
確実に
似ている」
俺は、
うなずいた。
---
「名前を
付けていない」
「組織を
作っていない」
「理念も、
掲げていない」
ミレイアは、
少し考える。
---
「……それって」
「集団じゃない?」
「はい」
「でも、
連帯してる」
「はい」
---
視界の端に、
文字が浮かぶ。
《非組織的連携:確認》
《共通思想:未定義》
《拡散速度:低》
(……理想的だ)
---
名前を持たない集団。
それは、
作られたものではない。
誰かが
集めたわけでもない。
ただ――
同じ選択をした者が、
同じ場所を
避けて通っているだけだ。
---
彼らは、
助け合わない。
指示し合わない。
だが、
邪魔もしない。
---
世界は、
それを
集団と呼びたがる。
名前を付けたがる。
だが――
名前を付けた瞬間、
それは
壊れる。
---
ロイは、
今日も
名乗らない。
名乗らない者たちは、
今日も
すれ違う。
それだけで、
十分だった。
世界は、
その“形にならない形”を
どう扱うべきか、
まだ
決められずにいた。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




